ケーススタディ 非製造業に関わる法規制 10.06.26

鷽八百社環境保護部に勤める山田の日常は、工場や営業拠点の環境遵法と省エネや廃棄物削減などパフォーマンス改善の指導である。もちろん指導だけでなく強制的に指示することもある。どんなカテゴリーであっても管理部門の仕事はつまるところ統制と指導である。
山田は環境法規制についてはまだ初心者ではあるが、20年近く営業を担当してきたので営業の仕事の内容は知っている。そして今勉強中の環境法、特に廃棄物処理法とかリサイクル法などを知るにつれ、過去の自分の仕事を思い出してはいやはや危ないことをしていたとヒヤリとするのである。
山田は神に誓ってというと大時代的だが、悪いことをしても利益を上げようとか、私利私欲を・・なんて考えて行動したことはない。しかし法を知らないで危ないことをしていたと気がついたことは多々ある。
たとえば、お客様に製品を納めて何年も経った後に、もう使い物にならないから引き取ってよなんて言われて「次回購入するときはよろしく」なんて愛想良く持ち帰ったこともある。100個販売して代金は全部もらったものの、50個納入したら売れ行きが悪いから残分は納入しなくてよいからそっちで処分してなんていわれて処理したこともある。修理を頼まれて現品を引き取り見積りを出したところ高いから止めた、そっちで捨ててくれなんてのはよくあることだ。そんなことをあげるときりも限りもない。
廃棄物処理法を見ると今まで自分がしていた処置はグレーどころか真っ黒に近いように思える。確かにそんなことは法律的にはいけないことなのだろうけど、じゃあ実際の営業活動を進める上ではどうすりゃいいのか?と悩んでしまう。今、山田は営業部門に対して廃棄物に関する法規制の周知とその対応方法を教える立場なのであり、完璧に法を守りかつ営業活動に支障のない方法はどうあるべきかを示さなくてはならない。
廣井は工場の環境管理の出身であり、営業の仕事における環境遵法はあまり考えたことがないという。昔、環境管理といえば工場の公害防止とか事故を防ぐということが主点であり、営業とかオフィスにおける環境問題なんてあまり話題にもならなかったのだ。

山田はコーヒーカップを持って事務所の窓から雨にけむる大手町の町並みを眺めながら、今まで環境法規制なんて思いもよらなかったこと、よくもまあ問題がおきなかったものだなどとぼんやりと考えていた。もちろん営業だから売買契約は日常していたわけで、仕事を進める上では下請法とか印紙税法、あるいは独禁法などは教えられていたし日常細心の注意を払っていた。しかし・・環境法規制までは気にしたことはなかったのが事実だ。

../coffee.gif 「どうしたんだ、テレビドラマの主人公にでもなったつもりか?」
驚いて山田が振り返ると中野が湯気の立つコーヒーカップを持って隣に立っていた。
「ハハハ、トレンディドラマで絵になるのは、隣のビルを見下ろす高層ビルでないとだめですよ。ここはたったの5階で見えるのは隣のビルの窓ばかりですから・・」
「まーそうだけど、家賃を考えてみろよ。ここだって坪家賃が月3万円と聞いたよ。一人当たり4坪として一人分の占めているスペースで月12万だ。都内では無理だけど千葉や埼玉に行けば十分家族が住むマンションが借りられる。」
「えー、そんなにするんですか! じゃあ丸の内なんてもっと高いんでしょうね?」
「もちろん家賃は場所だけで決まるわけじゃない、ビルが新しいか、何階かなどによって違うのはもちろんだ。でも家賃が高ければ同じラーメンでも神田と丸ビルじゃ値段が違っても当然だよ。」
「丸ビルといえば、テナントも多いでしょうけど、ああいったところのテナントからの廃棄物はどう処理しているのでしょうか?」
「山田君は最近廃棄物にとりつかれているようだね、知り合いがあのあたりのビルを管理しているところで働いているんだが、そいつに聞いたところでは完璧に法規制に則ったルールを定めてテナントに徹底しているそうだ。さすが旧財閥系というところかな。」
「環境法規制というと工場とか公害というイメージが強いのですが、廃棄物などはオフィスとか営業とか、そういう部門も関わりますからね」
「そうなんだよ、ビル管理もそうだし、君が今改善を検討している営業もそうだ。しかしほかにもあるよ。建設工事といってもいわゆる建設工事ばかりではない。LAN配線も建設工事だし、機械設置も建設工事だ。そういう廃棄物の処理となると建設廃棄物といってもだいぶというかぜんぜんイメージが違う。」
建設工事とは建設業法別表第一で定めるものである。
「この前、営業の担当者から問い合わせを受けたのですが、客先から下取りした機器コントロール用のパソコンを運ぶとき『産業廃棄物運搬車』の表示が必要かというのです。運搬する車は営業用の乗用車ですよ。法律を杓子定規に読むと表示しなければならないのでしょうけど、常識的にはどうでしょうかね〜」
「山田君はどう答えたのかい?」
「考えました。東京都の環境局や環境省に問い合わせることでもないと思いました。と言いますのは、一旦回答があればそれに従うしかありません。もし回答が杓子定規であると困りますので問い合わせしないほうがよいと思いました。結局第三者が見て客観的に廃棄物か否かということで判断すべきだと思いました。壊れても汚れてもいないきれいなパソコン、ワークステーションというべきかもしれませんが、それを車で運んでいるのを見て産廃だと思う人がいるか? それを不法投棄する恐れがあるかもしれないと思うか?ということが論点だと思います。廃棄物か否かの判断基準はいろいろ論じられていますが、現行の法では一律的に決まりませんので総合的に判断するしかありません。我々の場合、客先から持ち帰ってから廃棄するか否かが決定され、廃棄するときは転用を防ぐために使えないようにわざわざ壊します。その時点で法的に廃棄物になると共に、客観的にみて廃棄物になると考えました。」
「うーん、いろいろと面倒くさいものだね。」
「廃棄物ばかりじゃありません。今度からオフィスでも省エネが義務ですからね。今までは大家の責任と割り切れましたが、これからはビルのテナントも省エネ義務があります。」
「山田君、俺はおかしいと思うんだよ。日本のエネルギー消費は1970年つまりオイルショックのときの75%増しだ。だけど製造業におけるエネルギー消費は変わっていない。増加分は民生だよ。家庭で使うエネルギーが増えているのに製造業をいじめるのは日本の産業を弱くするだけのこと。まったくどうしようもないねえ〜」

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環境省より

「まあ、中野さん、消費が増えたから日本経済が伸びたわけですし・・」
「ともかく非製造業における環境遵法をいかに担保するか、それが重大事だね。当社では山田君にそれを期待しているよ。」
山田もそれが自分のなすべきことだと理解していた。

本日の課題
あなたの会社のオフィスや営業拠点の法規制を十分認識していますか?
私は不十分であるほうに1000円賭けましょう。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(10.06.27)
修理を頼まれて現品を引き取り見積りを出したところ高いから止めた、そっちで捨ててくれなんてのはよくあることだ。

これは社内でも議論したことがあります。
で、結論としては法違反ではないということになりました。以下、その考え方です。おばQ様の判定はアウト? セーフ?

まず、「修理を頼まれて現品を引き取り」した時点で顧客はその所有権を放棄していないので、廃棄物の収集運搬にはあたらない。
その後、顧客は製品の価値以上に修理費がかかるから不要という合理的判断を示したわけだが、これは単に所有権を放棄しただけ。
たしかに「捨ててくれ」と言ったかもしれないが、それは顧客の願望であって弊社がそれを引き受けたわけじゃない。要らないというからもらっただけ、つまり所有権が顧客から弊社に移転しただけ。
自社のものとなった製品を適正に産廃として処理すれば、法的にはなんら問題はない。
ちょっと苦しいところもありますが、これでも法違反となれば1円出してでも買い取るしかないですね。

毎度ありがとうございます。おっしゃることわかります。
正直言いまして、現時点グレーです。
確かに数年前まではそういう解釈が大手を振って通用していましたが、最近は自粛傾向です。
リース会社など従来は所有権放棄の紙を送っておしまいなんてことはザラにありましたが、最近は引き取って自社の廃棄物として処理しています。
いずれにしても法律に明記してなく、環境省から明確な解釈も出ていない。弁護士がなんと言おうと最終的には責任は取らない。ということで私は安全サイドでいきます。


Hamino様からお便りを頂きました(10.11.30)
事務所から排出される産業廃棄物について
はじめまして。
関連サイトを含めて30人程規模の会社で幸か不幸か環境管理責任者を務めているもので御座います。
このたび、事務所でパソコン及びサーバー関連の入れ替えを行う事となり、それらの廃棄を廃棄物業者様にお願いして行う事となりました。
そこで質問なのですが、廃棄物の処理及び清掃に関する法令をみますと、『事業者は、その産業廃棄物が運搬される間、環境省令で定める技術上の基準(以下「産業廃棄物保管基準」という。)に従い、生活環境の保全上支障のないようにこれを保管しなければならない。』とあります。しかしながら、私ども狭い事務所ゆえ保管基準に適するスペースなどが確保できそうにありません。この場合、法令違反となりますでしょうか?それとも何かしらの適応外事項がありお咎め無しとなりますでしょうか?ご助言頂けましたら幸いで御座います。ある意味お楽しみの外部審査が迫っていますのでそれまでにすっきりしたいと思っていますのでよろしくお願いします。(所轄行政に確認すればいいじゃん。と言われてしまいそうですが(笑))

Hamino様 お便りありがとうございます。
私は法律で明記されていることは、そのとおり実行します。しかしはっきり書いてないこと、どうとも読めることもあります。
そういうときは常識で考えます。実際に行政の担当官と話し合えば、不法投棄とか悪事を働いた場合以外は、罪にしようとか、悪さしているんじゃないかなんて私たちを疑っているわけはありません。
彼らの願いは問題が起きないことです。
廃棄物を保管しなければならない場合、何をしなければならないかといいますと、実は法律に書いてあります。
腐ったり、変質したりするものは、近所迷惑にならないようにせよということです。
パソコンが一月あるいは1年で腐ったり、有害物質を出すとは思えませんから通常の環境でよいでしょう。
また「産業廃棄物保管場」という看板を付けなければならないとか心配することもないでしょう。普通、工場でめっき液などを装置から抜き出してドラム缶などに保管する場合は産業廃棄物の看板をつけます。しかし、設備から直接廃棄物業者が抜き取る場合、装置の中のめっき液は廃棄物処理業者が来るまで廃棄物ではないと解釈しています。つまり設備に入っている時点では正常な副資材と考えています。
要するに、第三者が客観的に見て、おかしくなければ事務所に置こうと、使わずに机の上に置いておいても全然問題はないでしょう。
もちろんレストランなどで余った食材や食べ残しを廃棄物業者が取りに来るまでは廃棄物ではないという解釈は誰が考えても通用しません。
まあ、そんなところでしょう。


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