コミュニケーションの誤解 2010.11.07
線路は続くよという歌がある。メロディはひとつでも歌詞はいろいろあるらしい。私が知っている歌詞は次のようなものだ。
 線路はつづくよ どこまでも 野をこえ 山こえ 谷こえて〜
 はるかな町まで ぼくたちの たのしい旅の夢 つないでる〜
線路は続くよ どこまでも

この歌を聞いて私がISOを思い浮かべるのは、やはりISO中毒だからだろうか?
 誤解は続くよ どこまでも 方針こえ 側面こえ 目的こえて〜
 はるかなヨンテンロクまで 審査員たちの とんでもない誤解 つないでる〜

まさにISO担当者の仕事は、審査員の誤解を解く行為である。もっとも企業側の多く(事務局などと自称している)も誤解の中につかっていて、自分が五階にいるのか六階にいるのか分からないようである。嘆かわしいことだ。
おっと、もちろんコンサルの多くも同様である。

ということで本日は、コミュニケーションの誤解を再考する。以前も書いたことがあるが、何度書いても効果はない。
もっとも、こんなけちなウェブサイトに書けば、日本のISOに対して効果があると思うのも誤解であろうが・・

線路は続くよという冒頭の歌は元々は楽しい汽車の旅ではなく、アメリカ横断鉄道の線路を敷く、つらい仕事の労働歌だったそうです。翻訳って怖いですね〜
コミュニケーションも翻訳された時に誤解があったのでしょうか?
そもそもコミュニケーションてなんでしょうか? と国語辞典を引いてもだめです。英英辞典を引いてみましょう。
The exchange of thoughts, messages, or information, as by speech, signals, writing, or behavior.(American Heritage Dictionary of the English Language)
話すこと・信号・文章、あるいはしぐさによって、考え・メッセージ、あるいは情報を交換すること。
一般的に日本語でコミュニケーションというと、その意味ではないようです。
どんな風に違うかというと、一方的に伝えることと思われているようです。マスコミとはマスコミュニケーションの略だそうです。しかしマスコミはただ一方的に電波でガセネタを送りつけるだけで、我々視聴者が意見や情報を交換することはできません。
言われたとおりにしろわしは偉いんじゃ
ガミガミガミ
あれをしろ、これをしろ
やったか?できたか?終わったか?
話にならないよくそオヤジめ
ISO14001規格の翻訳においてはどうでしょうか?
「4.2 環境方針」では、環境方針をコミュニケートすることを求めていますが、日本語訳は「周知しなさい」とあります。これでは一方的に伝えるという意味です。情報を交換することを意味していません。まあ、方針なら上位から下位に流れるだけでも良いことにしましょう。
「4.4.1 資源、役割、責任及び権限」でも、役割、責任及び権限をコミュニケートすることを求めていますが、日本語訳は「周知しなさい」とあります。「お前は○○をしろ、いいか申し伝えたぞ」というわけです。まあ企業はゲゼルシャフトですから、これも良いことにしましょうか?
でも「4.4.3 コミュニケーション」では、ちょっとというか大いに意味が変?という感じになる。
更に極めつけは「4.4.6 運用管理」のc項で、コミュニケーションは「物品やサービスの著しい環境側面に関して・・略・・手順及び要求事項を伝達する」と訳されています。
現実を考えるとこれって大いに変な気がします。

!あなたは変な気がしないですか?
具体例を考えてみましょう。あなたは廃棄物、それも特別管理産業廃棄物を業者に委託することになりました。
JIS規格の日本語の通りですと、
「オイ、これは特別管理産業廃棄物で危険だからな、廃棄物の扱い方を書いた手順を渡すぞよ。これに基づいて事故や怪我のないようにしてくれよ」
とまあ、こんなふうに一方的に通告すれば合格ってわけですか・・・
現実にそんな仕事をしていたら、表立って業者に怒られることはないでしょうけど、影で笑われてバカにされ、尊敬など得られないでしょう。
もちろんあなたはそんなアホなことはしません。
事前の打ち合わせで、
「これは硫酸でpHが2なんです。金属イオンなど毒は特別ありません。お宅で処理することできますか?」
なんて持ち出すと
「ダイジョウブ、ダイジョウブ、じゃあ専用のタンクローリーで来るわ。汲み取る時こぼしたりすると大変だからちゃんと考えておくよ」
てなことで一件落着です。
頼むぞ目的はこうじゃ
こうしたいんじゃが
こんな方法がありますよ
それは良い、それで頼む
ガンバリマス承知しました

ひとりで考えても大したアイデアが出るわけがありません。そんなアイデアを一方的に伝えても大した成果が出るとは思えません。
一方的に要求するだけでなく、ひとつのことを実行するために関係者の知識や意思を交換すれば、よりよい解がみつかるでしょう。昔から、三人寄れば文殊の知恵なんていいます。
コミュニケーションとは考えや情報を一方的に伝えることじゃないです。双方向性の交換であり、それによってお互いに妥協点を探ったり、より良い方法にいたる手段であるのです。

前回の駄文でもとりあげましたが、「外部コミュニケーションとは環境パフォーマンスを広報することである」と主張する方が今でもいます。それは環境報告書を発行することで満たされるのだそうです。
私には、どうもそうは思えませんねえ〜
これは全然そうじゃねーだろうという婉曲話法ですよ 
それじゃあ単なる広報発表であって、コミュニケーションじゃないようです。環境報告書を出すのが悪いとは言いませんが、環境報告書をだせばいいってもんじゃないですよ。日常の仕事でコミュニケーションをとらねばならないことはたくさんあるでしょう。
「オイ、当社は再生紙を使うことに決めたから、再生紙を納入しろよ」
そんなご無体な 
再生紙の方が環境負荷が高いかもしれませんし、森林認証を得た材料で作られた紙もあります。メーカーさんと話し合えばよりより解があるかもしれません。
「近隣の皆さん、当社で事故がおきました。申し訳ないですが直ちに避難してください」
そんなことにならないと良いですが、不可抗力の事故が起きるかもしれません。そんな事態に備えて常日頃からリスクコミュニケーションを行っておけばよかったですね。

エコアクション21について、多くの場合、環境報告書だけがとりあげられていて、環境報告書を発行すればエコアクション21のコミュニケーションは満たされるなんて考えている人もいる。それは間違いだ。
エコアクション21 ガイドラインにはちゃんと次のようにある。
「8.環境コミュニケーションの実施」
(略)環境目標及び環境活動計画の進捗状況等のエコアクション21に関する情報を従業員に提供するとともに、従業員からの意見を受け付ける等、双方向に情報をやりとりします。
(中略)
「環境に関する苦情や要望を処理し、地域住民や利害関係者との双方向の環境コミュニケーションを実施する手順を定める。」

ちゃんと双方向の情報交換であることを明記している。
エコアクションのほうがISO規格を展開していて、JIS訳された方がISO規格と遠いのはなぜだろうか?

さあ、皆さんごいっしょに!
コミュニケーションとは双方向の情報交換、簡単に言えば話し合い

しかし世の中にはコミュニケーションは情報伝達だって信じ込んでいる審査員、企業が多すぎ
そんな方は、コミュニケーションを拒否しているのかしら
じゃあ、その存在が規格不適合ってことで・・・

本日の謎
ISO14001規格が制定されて早15年、いまだこのような誤解が存在し、それどころかそんな審査が行われているのはなぜだろうか?


ISO14001の目次にもどる