内部監査研修案内

11.07.31
毎月のように、審査員研修機関や認証機関が主催するISOに関わる研修会や講演会の案内が来る。どこもビジネスは大変なのだろうと、いささか同情する。
1997年頃のこと、ISO9001やISO14001の審査員研修とか内部監査講習会などは満員御礼が続いて、主催会社の受付の仕事は、申し込みを断ることだったと聞いた。今は昔である。
当時、私がJ△○○で環境側面の講習会を受けたときは、会場の後ろに長椅子を置いてそこに座って聴いた。立見席みたいなものだった。それでも受講料は同額だった記憶がある。まあ、どっちにしろ、講義内容は誤解というか間違いで役には立たなかった。いや、役に立たないどころではなく、日本全国に環境側面は点数だというばい菌をまき散らかしている講習会だった。当時はJ△○○流なんて茶道か踊りの流派のように呼ばれていた。その手順でなければ審査がNGになったのである。そのときの講師は今エコアクションの審査員をして老後を楽しく過ごしていると聞く。悪運強く、逃げ切りのようだ。
もちろんJ△○○流の環境側面の決定方式は、J△○○で審査を受けるときトラぶらないという貢献はあったわけだ。それが貢献といえるならだが。企業のリスク管理には貢献しなかったことは間違いない。
今でも点数方式でないと、ネチネチと環境側面を決定した方法があいまいだとか、客観性がないと語る審査員を見かける。
私はうそは書いていない。もし疑問をお持ちの方はお問い合わせをいただければ、いつどこでなんというお名前の審査員であったかを立証できる。まさか、公開はできないけど・・

おっと、年よりは話のとりとめがない。
../coffee.gif 会社に来るダイレクトメールなどほとんど見ずにゴミ箱行きなのだが、たまたま仕事が一段落したときコーヒーを飲みながらA4封筒を開けて中を広げた。
内部監査の改善研修とある。同志ぶらっくたいがぁ様から聞いたのだが、最近内部監査を見直して経営に役立つようにしようという動きが流行しているそうだ。
しかし不思議なこともあるものだ。役に立たない内部監査をなぜしているのかということも疑問だが、内部監査が役に立たないということも不思議だ。どうして役に立たない監査が出来るのかということのほうが難しそうだ。
またまた話がそれてしまう。今は研修機関からダイレクトメールが来た話だった。
さて、内部監査をどのように改善するのだろうと思って上から読んでみた。

こんなことでお困りではありませんか?
  1. 毎年、定期的に内部監査を実施しているが、ここ数年は指摘事項なしが続いている。
  2. 不適合には是正処置の実施を徹底しているが、改善提案についてはまったく実施されていない。
  3. 内部監査員の教育はしているが、必要な力量が身についているとは思えない。
  4. 内部監査手順書は一度も改訂されておらず、内部監査が形骸化している。

まあ、そんなことがあればぜひ受講しましょうという売込みであった。
上記をご覧になって、いかがお思いでしょうか?
「当社はそんなことはない。レベルの低い会社もあるものだ」と感じたかもしれない。
「いやあ、当社もそうなんだよね、でも講習会を受けたって改善するとは思えない」と思われたかもしれない。
「その通りだ、一人くらい派遣してみようか」と考えたかもしれない。
まあ、そりゃ人それぞれってものですから、いろいろあってよろしいのでしょう。しかし私は、こんなことを書いている研修機関では受講する甲斐がないのではないかという感じがいたしました。いえ、感じがするだけですから良く考えると間違っているかもしれません。それにボケの始まった老人のことですので、よく考えても間違えている可能性も大です。
でも、まあどうせこんなウェブサイトをご覧になっているということはおヒマなのでしょうから、ちょっとお付き合いいただきましょう。

私はこんなことでお困りではありませんかという状況がどうして困ることがあるのか理解に困る。ではひとつづつ検討しよう。

  1. 毎年、定期的に内部監査を実施しているが、ここ数年は指摘事項なしが続いている。
    まず、指摘事項とはなんだろう? 指差すという意味ではないようなので、たぶん不適合のことかと推測する。とりあえず不適合という意味で話を進める。
    いちゃもんが付くと困るので、私はISO14001:2004、ISO17021:2011、ISO19011:2006、ISO9001:2008を一応チェックした。指摘の定義はなかった。
    ご存知のように、監査の目的は不適合を出すことではない。エッツ、知らなかったとか、そんなことはないなんていわれても困りますよ。
    ISO9001:2008では「次の事項が満たされているか否かを明確にするために(中略)内部監査を実施しなければならない(8.2.2)」と定めている。決して「満たされていないことを明確にするため」ではない。
    ISO14001:2004では、より肯定的に「計画された取り決め事項に適合しているか」を決定するために行うと書いてある。「計画された取り決め事項に適合していない」ことを決定するためではない。
    私が15年ほど前に審査員研修を受けたとき、講師は「ISO審査とは不適合を確認するためではなく、適合を確認するために行うのだ」と熱く語っていた。その通りだと思う。
    同じことじゃないか、なんて言ってはいけない。あなたが内部監査であろうと、二者監査であろうと、審査であろうと、始まる前から不適合を見つけようと考えているなら、オーディターの資質以前に、人間失格であろうと思う。私は常に問題が起きませんように、しっかりと管理していますようにと神にお祈りしてから監査をしている。本当です。
    不適合が出ると後々面倒だからだろうなんて本当のことを言ってはいけない。 監査報告で「法規制を含む監査基準に適合していることを確認した」と書けることは監査員の夢ではないのだろうか?
    それとも、自分の会社が不適合があったほうがうれしいのだろうか?
    もっとも私が不適合を見つけないことはほとんどない。だが不適合があったほうが良いわけではないことは自明である。
    この文章を書いた人は、「不適合があるにもかかわらず、見つけることが出来なくて指摘事項なしが続いているので困っている」のであろうか。だが、それではこの文章は論理的ではない。そう語る人が不適合が存在していることを見つけているなら、わざわざ内部監査でそれを見つける必要はないではないか?
    結局のところ、よくわからない。

  2. 不適合には是正処置の実施を徹底しているが、改善提案についてはまったく実施されていない。
    監査を行うには、はじめに監査基準を監査側が説明し、被監査側がそれに同意しないとはじめることは出来ない。もっとも所見報告書に不適合を書くときは根拠を明記しなければならず(ISO19011 6.5.5)、根拠がない不適合はありえない。
    適合とはなにかに合っていることであり、不適合とはなにかに合わないことだ。不適合とするにはそのなにかを提示しなければそもそも不適合ではない。そのなにかこそ、監査基準である。
    もっとも存在するISO審査の所見報告書に根拠がないものは相当割合存在することは保証する。J○△の所見報告書の不適合にはほとんど根拠が記載されている。ちゃんとしている認証機関もあることは申し添える。

    さて、「監査の目的で規定している場合」は改善提案を書くことは監査側の勝手であるとISO19011にも書いてある。(6.5.6c)しかしそれは不適合ではないのだから、是正義務はないことも言うまでもない。
    ということを踏まえて考えれば、「改善提案を実施すべきである」あるいは「改善提案は実施しなければならない」ということには論理的につながらない。であれば「改善提案についてはまったく実施していない」ことが問題で困ることなのであろうか?
    そんなしなくても良いような改善提案を探したり、していないとぼやくなら、しっかりと点検してシステムの適否を判定すべきだろう。もし現状がどこかおかしいのだが、何がおかしいか判断できないというなら、監査員の力量がないだけのことだ。それを困りなさい。

  3. 内部監査員の教育はしているが、必要な力量が身についているとは思えない。
    内部監査員教育というものは規格要求事項ではない。そもそも、教育訓練は「必要な力量が不足している場合に、その必要な力量に到達することができるようにすること(ISO9001:2008 6.2.2b)」である。
    必要な力量が不足しているかどうかわからない(思えない)のであれば、教育以前の話ではないか。そして、教育訓練はやれば良いというものではなく、有効性を評価しなければならない。「必要な力量が身についているとは思えない」とひとごとのようなことを言って困った困ったなどと、困った振りをしているあなたこそ、ご自身の力量がないことを暴露しているのではないか?
    この場合は内部監査ではなく、教育訓練が不適合であろう
    システムが悪いのかしら 

  4. 内部監査手順書は一度も改訂されておらず、内部監査が形骸化している。
    駄文を連ねてもしょうがない。ここではいくつかの疑問を羅列するだけにしよう。
    • 内部監査手順書を改訂しないと、内部監査が形骸化するのだろうか?
      監査手順書が形骸化することと、内部監査が形骸化することは同値なのだろうか?
    • 内部監査の形骸化とは、内部監査の仕組みが陳腐化することなのだろうか?
      改善を進めるべきなのは、手順書ではなく、監査プログラムや実践的ノウハウではないのだろうか?
    • 内部監査手順書も見直しは必要だろうが、改訂しなければならないのだろうか?
    • 内部監査が形骸化することは悪いことなのだろうか?
      私の分家のブログに書いたのでご一読あれ
たった32文字にこれだけ突っ込みどころがあるのも不思議だ。この内部監査員講習会を開催する機関は、教育する前にもう少し勉強したほうが良いと思う。

本日の自慢話
この駄文は4000文字、原稿用紙にして12枚くらいになる。
原稿用紙は400字詰めだが、文字を書かない空白があるからそのくらいになる
これを正味1時間で書いた。ぼけたとは言わせない。



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