グリーン調達におけるISO14001

11.11.03
グリーン調達とは、なんだろうか?
まず、日本の法令でグリーン調達を定義したものはない。

グリーン購入ネットワークによると
「購入の必要性を十分に考慮し、品質や価格だけでなく環境のことを考え、環境負荷ができるだけ小さい製品やサービスを、環境負荷の低減に努める事業者から優先して購入することです」とある。
なるほど、調達する製品やサービスの環境負荷だけでなく、その製造者や販売者が環境負荷低減に勤めているところから買うことなのか。だが考えてみると、製品ではなくオフィス省エネに勤めている販売店から買っても、あまりオフィス省エネを考えていない販売店から買ってもそれがいかほど意味があるのかよくわからない。
別にこれが真理でも正義でもなかろう。ほかを当たってみよう。

ウィキペディアによると
「グリーン購入とは、製品やサービスを購入する前に必要性を熟考し、環境負荷ができるだけ小さいものを優先して購入することである。消費者の観点でグリーン購入といい、生産者の観点ではグリーン調達という」
企業でグリーン調達に関わっている者としては、ちょっとこの説明には同意しがたい。一般的に企業においては、グリーン調達とは製品に関わる原材料や役務について使い、グリーン購入とは生産財以外のもの、例えば文房具やオフィス什器の購入に使う。でもまあ、大騒ぎするほどのことではない。

weblio辞書によると、
「環境への影響が少ない製品を優先的に購入すること。平成13年4月の「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」の施行により、官公庁でのグリーン調達が実施されるようになった。それに伴い、民間企業でも積極的に取り組むようになった。最近ではISO14001取得を取引条件にする会社も出始めている。現在は環境報告書を作成しているような環境問題に取り組んでいる組織と取引を行う場合は、ISO14001取得が有利に扱われる場合が多い」
おお!ここではISO14001という言葉が出てきたぞ。さて、グリーン調達ではISO14001が有利に取り扱われるのだろうか。

事実か否かはともかく上記解説によれば、グリーン調達あるいはグリーン購入とは、製品やサービスの環境負荷が少ないものを選択し購入することである。そして評価項目の中にISO14001認証があるということは、ISO14001認証することは製品やサービスの環境負荷を低減することと同義なのであろうか?
ISO14001の意図は遵法と汚染の予防(ISO14001序文)である。「汚染の予防」とは、汚染物質や廃棄物の排出の削減ばかりでなく、製品やサービスにおける資源の効率的使用、代替化、リサイクルなども含める(同 定義3.18)とある。それゆえISO認証している企業の製品サービスは環境負荷が少ないのだろうか?
いや、ISO14001はすべての活動分野で同時に進める必要はない(同 定義3.2)と語っている。改善のテーマである環境目的の選定は経営者の専決事項であり(同 4.6)、製品やサービスの環境負荷低減をとりあげなくても良い。もちろん製品やサービスの環境負荷低減を取り上げている企業は多いであろうが、それは必須要件ではない。そしてまた現実はISO認証している企業の製品サービスの環境負荷が低いとは限らない。
あるいは環境負荷低減の観点ではなく、ISO14001認証している企業であれば、事故も環境法違反も少なく、調達の三要素であるデリバリーが安心だという考えかもあるだろう。
いろいろな考えによって、グリーン調達にISO14001認証を盛り込んでいると推察する。

そして多くの企業は顧客のグリーン調達の圧力というか流れに沿って、ISO14001認証に向かっているのだろうか?
ちまたでは不幸の手紙とかISOドミノとか呼ばれているが、ISO認証企業は、自分の幸福を分け与えようするのか、あるいは地獄に堕ちる道連れを増やそうとしているのか、ISO14001に限らずISO9001も同様だが、調達先にISOを認証しろと圧力をかけるのが普通だ。もちろん根拠なくそんなことを語っているわけではない。私も圧力を受けているほうだし、同時にまた不幸の手紙を転送している悪人でもある。
多くの企業はISO14001がグリーン調達の条件となっている、買ってもらうにはISO認証しなければならないと考えていると推察する。私自身もそう思っていた。
 だが、それは事実だろうか?

語る前に、事実を把握しなければならない。
googleで「グリーン+基準」で検索して、グリーン認定基準、グリーン調達基準、あるいは類似のものを探した。上位350件まで調べた結果、は下記の通りであった。(2011年10月時点)
「年」は購入仕様書に記載されていた版の制定・改定年である。

greenchoutatu.jpg
このグラフのデータを取るのに秋の夜長を数晩費やしたことを白状する

どの会社でもこういった購入仕様は数年ごとに書き直すだろうし、その時点で旧版はウェブから削除するだろう。だから過去のグリーン調達基準書は現時点では把握できないし、そこでISO14001認証の要求があったのかどうかは今となっては分からない。しかしないものねだりをしてもしょうがない。とりあえず手に入った情報から考えてみる。
単純にISO14001認証を求めている企業は多くはないことがわかる。
../bride2.gif なにごとも具体的にならなければ、真面目に考えないというか漠然とした考えしか浮かばない。
結婚する気がなければ、結婚相手はきれいな人  で、背が高く、しゃれた会話ができる人がいいとは誰でも思う。
しかし、実際に結婚しようかとなると、自分の乏しい稼ぎで家計をやりくりできる人でないと困るし、しゃれた会話より心落ち着く会話ができたほうが良いし、きれいな顔立ちよりも健康な人がよく、背の高さなど切れた蛍光灯を交換するときしか役に立たない。

10年も前、これからはグリーン調達の時代だよねとええかっこしいの人が思ったのだろう。どんな条件をつけようか、そりゃかっこいいのがいいね、そうだISO14001認証も盛り込もうぜ。
ISO14001認証が項目にあるのは、その程度のことではなかったのだろうか? どっちみち、グリーン購入ゴッコだから真剣なことではない。

その後、欧州のRoHS規制が始まり、REACHなんてのも現れた。もうグリーン調達は遊びではなく、事業継続の最重要課題のひとつとなった。購入先に化学物質管理を要求するのと、マネジメントシステム構築を要求するのを天秤にかければ、いや、かけるまでもなくそのプライオリティは明らかである。
「とりあえず化学物質管理が必要だ」ということになる。それも、ばくぜんと化学物質管理システムを求めるのではなく、具体的に、物が違えば棚を分けろ、表示をしっかりしろ、トレースできるようにこのようなラベルを貼れ、バーコードで管理しろということが要求事項となる。
もちろんなにごとも継続して運用するにはシステムが必要になる(ISO14001序文)。環境マネジメントシステムというものはそういうこと全体の基盤である。しかし緊急時において包括的な基盤整備を求めるよりも、即物的な目の前のことを求めるのはやむをえない。ともかくも、目の前の管理をしっかりさせることが最重要課題であることはいうまでもない。ということでISO認証要求が減ってきたのではないだろうか。
とすると、今後はどうなるかというと、ふたつのことが考えられる。
ひとつは、即物的な管理が安定したら、それを継続して運用するためにISOあるいは他のEMS認証を求めることになること、
あるいはISO認証がなくても実際には困らないし、システムを要求して費用アップになっては困るから、もうISO認証はとりあげなくなること
しかし、グラフを良く見てほしい。ISO認証の要求だけでなく、他のEMS認証要求も減っているし、それだけでなくEMSを構築せよという要求までもが激減である。EMSについての要求の合計は過去80%ないし100%で推移していたのが、2010年からは大幅減少となっている。もう理念だけではすまず、目の前の現実対応が優先しているのだろうか。

なお、ちょっと異なる観点から・・・
ISO14001ではないが、ISO9001を商取引において必須条件とすることは法に違反しないかというノーアクションレターが公正取引委員会に対して過去にあった。(2003/12/21)
質問
下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)の適用を受ける取引において,下請事業者に対し、購入者が以下の行為(以下「本件行為」という。)を行うことは,下請法上問題ないか。
(1) 品質マネジメントシステム(ISO9001:2000)構築の認証(以下「本件認証」という。)を下請事業者が現在取得していない場合,3年以内に取得するよう要請すること
(2) 上記(1)の要請に応じない場合,以後の取引を停止する旨通知すること

結論
購入者が納入業者(下請事業者を含む)に対し,その趣旨を十分説明した上で必要な範囲内で本件認証の取得を要請すること自体は,直ちに下請法及び独占禁止法上の問題となるものではないが,要請を行うに当たっては,上記2(3)及び(5)記載の点に留意して,下請法上の買いたたき及び独占禁止法上の優越的地位の濫用の観点から問題となることのないように実施する必要がある。

ISO認証してくれと要求することはその理由を述べないと独禁法違反の恐れがあるが、化学物質管理をしっかりしろということは製品仕様そのものであり、合法であることはまぎれることはない。
一般の企業が下請法から独禁法まで考えてグリーン調達をしているとは思えない。しかし、化学物質管理については製品仕様そのものであり、まったく合法的に要求できるし、実施させなければ欠陥品になってしまう。
あれば良いというISOと、なければならないというものを比較すれば、当面は必要最小限を求めるのではないだろうか?

2008年はじめに再生紙の古紙配合比の偽装が発覚した。グラフで2008年版のグリーン調達基準においてISO認証要求ががた減りしている。これはその影響を受けたのかもしれない。その後の版では、少し要求割合が回復してきている。これから2008年前後に制定されたグリーン調達基準書の改定があるだろうから、ISO14001認証の要求がどうなるのか、私にも予想がつかない。ISO認証に対する企業の評価をウオッチしていきたい。

本日の注記
私の論を正当化するために、あちこちにISO14001規格条項を入れてみましたが、煩わしいものですね 



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