環境法の参考書

12.01.29
環境管理においては、たくさんといっていいほど、さまざまな法規制が関わる。環境法規制といっても水質とか騒音などいわゆる環境関係だけではなく、消防法や安全衛生関係も関わるし、残飯をコンポストにして売るならば肥料業法、廃棄物業者と契約すれば印紙税法などなどと、きりも限りもない。
昔、役務の契約は下請法の対象外であったが、現在は対象である。かっては廃棄物収集運搬業者との契約書に、「マニフェストE票が戻ってから運送費用を支払う」と書いているのが多かった。最近ではそういう文言をみかけない。今ではああいった条項は下請法違反になるのだろうか? 確信はないが違法になるような気がする。
もちろん環境管理に限らず、どんな仕事でも法律の知識は必要だ。物を買う購買部門なら、下請法や印紙税法とか、取引契約に関わる法律を知る必要がある。営業でも役務があれば建設業法なども関わるし、独禁法も外為法もある。総務のお仕事でも、安全衛生とか労働関係の法律に関わる。しかし、環境ほどは法律で定める届け、報告、その他有資格者などの規制はないのではないだろうか。まあ、私の独断と偏見である。

ともかく、環境に関わる仕事に就けば、法律を知らなければ仕事にならない。基本的なことだけであれば、法律の原文を読まなくても、行政が作った各種パンフレットを見るだけでなんとかなる。しかし、より細かい内容を知るには法律そのものを読まねばならず、法律を読むには、それなりの基礎知識が必要ということになる。
たとえば、容器包装リサイクル法で、BtoBであっても帳簿作成義務があることを、どこで定めているかを知るには、法律を読む力がないとたどりつけない。インターネットのQ&Aでは、今でも「BtoBでも容器包装リサイクル法の帳簿を作らなければならないのでしょうか?」なんて質問を見かける。
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あるいは劇物の販売者が容器に劇物と表示することはすぐに見つかるが、劇物の使用者がその容器に劇物と表示する義務が、どこに書いてあるかを、見つけられる人はあまりいないのではないだろうか?

実際のところ、製造現場などで仕事をしていた人が、環境管理業務に異動になったとき、環境の法律を読めるようになるには、相当勉強しなければならない。それはかなりハードルが高いと言わざるを得ない。
私自身、現場の作業者から監督者になり、更にその後品質保証に移り、最後に現在の環境管理の仕事に流れ着いたが、法律なんてからっきしであった。
しかし、家族を養うには仕事を果たさねばならず、そのためには法律の読み方を覚えなければならず、またそれ以前に、法律の仕組み、構成や改正の手順やその読み方についても勉強しなければならなかった。
ISO14001の認証をうけたりすると、官報を購読する会社も多いが、その官報を読めるようになるにも、相当勉強しなければならない。
もっとも、多くの会社では官報を購読するだけで、その内容をチェックせずとも安心しているようだ。それでは困るのだが・・

では本日は、そんな超初心者が、どうしたらなんとか法律を読めるようになるかということを説明する。
法律を学ぼうとはりきって分厚い「ロースクール環境法」なんて読み始めても、環境管理には全然役に立たないことを保証する。この本は、大学などで、それまでもそしてそれ以降も現実の環境管理に携わらない人が読むためのものだろう。
でももう少し、軽いものならよいのかと、「環境法入門」などを読んでもだめです。この本は、前記「ロースクール環境法」と似たようなもので、環境に目覚めた一般市民がちょっと環境の法律の知識を得ようとかと読む程度のもので、環境管理をしている人には無縁です。レベルが高いとか低いとかではなく、内容が全然方向違いなのです。
まったくの初心者が環境法を理解するためには、環境法について勉強するのではなく、法律の仕組みとか制定改正の実態を知らないとならないのです。いやもっと具体的に言えば、法律の読み方を勉強する必要があるのです。
それじゃと、「現代法学入門」とか「新法学概論」なんて開いてもだめ、そのような本を読んでも、目の前の環境管理には役に立たない。そんなんじゃないんですよ。法哲学とか法理論というわけのわからない、いやそのような高尚なものは環境管理には不要です。
もっと初歩的で具体的なことなんです。即物的に、法規制値を探せることとか、届出の義務を調べることが必要十分なことなのです。
おっと、ISOとタイトルについているからと、「環境法クイックガイド」とか「新・よくわかるISO環境法」というものも役に立たない。ああいった本は、環境法のリストに過ぎない。仕事で環境法規制を調べようとする人は、結局そういう解説書ではなく法律原文を読めなくてはならない。

行政書士の試験科目に「基礎法学」というものがある。そういうほんとうに基礎的なものを知らなければ法律を読むレデイネスが整わないのだ。じゃあ、「基礎法学」のテキストを勉強すればよいのかとなるが、私は行政書士の試験を受けたことも勉強したこともないが、一般に出ている行政書士の基礎法学のテキストだけでは足りない。チョウ初心者は条、項、号の関係とか、「第何条の2」と「第何条第2項」との違いも分からないのだから。
「マネジメントシステム進化論」という本に、法律の読み方のホンのさわりが書いてある。及びと並びの違いとか、法律の文章に(かっこ)があれば、まずかっこの部分を全部ないものとして読んでみて、より詳細を知るためにかっこを外側からはずしていけとかある。そう、まさにそういった基礎的なことを知る必要があるのだ。とはいえ、この本は薦めない。法律の読み方についての記述は数ページしかなく、全然情報が足りない。それだけのために、この本を買うのはお金の無駄だ。
この著者(複数)が、法律の構成とか読み方を熟知していて、これだけしか書かなかったのか、あるいはこれだけしか知らなかったのかは定かではない。しかし出し惜しみするような情報ではないから、たぶんこれだけしか知らなかったのだろう。
なお、進化論といいながら、内容は特段取り上げるようなことは書いてない。

ながながと書いてきたが、私が推薦する本を以下にあげる。
お勧めする本
書名出版社ISBN出版年の例定価
法令解釈の常識日本評論社4-535-00405-62003/5/101200
法令用語の常識日本評論社4-535-00404-82005/8/301200
法令読解の基礎知識学陽書房978-4-313-16137-52009/5/202200
法律を読む技術・学ぶ技術ダイヤモンド社978-4-478-00069-42007/5/291700

どの本がいいとか、悪いとかということはない。全部を読むべきだ。この4冊で十分かと問われると、確信はないが、十分間に合うだろうという気がする。これだけ読めば、文字解釈とか論理解釈についての基本的なこと、「当分の間」とはどういう意味なのか、「第2条の2の2」とはどういうことかとか、特別法と一般法の関係、複数の法律の優先など、初歩的、基本的なことを知ることができる。
もちろん、これらの本だけでは知るべき用語は足りない。特に環境関連ではそれなりの用語が多くある。ただ、この4冊を理解して日常的に法律を読んでいると、知らない用語もなんとなく想像がつくようになる。すべてを本に記述することとか、学ぶことは困難であり、想像力も慣れも必要だ。
もしあなたが環境管理を命じられたばかりで、法律なんて関わったことがないなら、上記4冊は絶対に読むべし。
私は読んだのかって? もちろん、そしてここで薦めなかった本としてあげた本も全部読んだし、ここに書いてない環境法についての本をたくさん読んだ。今考えるとだいぶお金の無駄使いをしたと後悔している。その分、酒を飲めばよかったと心底思う。

本日の懸念
私が薦めない本を読んだから、お勧めする本が良く理解できるようになったという見方もある。
それは皆さんが検証してほしい。



お勧めしない本
書名出版社ISBN出版年の例定価
ロースクール環境法成文堂978-4-7923-32272006/6/104000
環境法入門日経文庫978-4-532-11142-72000/4/31000
現代法学入門有斐閣双書4-641-11256-82006/2/101200
新法学概論青林書院4-417-00911-21995/3/312700
法哲学有斐閣アルマ4-641-12148-62005/3/302100
ISO環境法クイックガイド2011第一法規978-4-474-02672-82011/03/103990
マネジメントシステム進化論オーム社42742076252009/92835
新・よくわかるISO環境法ダイヤモンド社978-44780153392011/4/82415
すぐ役に立つISO環境法東洋経済新報社97844925567192010/82940
環境保護制度の基礎法律文化社4-589-02769-02004/9/302300

法律の専門家から見れば、初歩的な本ばかりでしょう。でも工場で環境管理をしている者が、環境法を理解するために、これだけでなくもっとたくさんの本を自腹で買って、読んだということはやりすぎという気もします。

2012.05.15追加
書名出版社ISBN出版年の例定価
条文の読み方有斐閣4641125546 2012/3/10840
本屋で立ち読みしていたら見つけた。一通りのことは書いてある。しかしその厚さ(薄さ)と内容が少ないことを考えると、840円という金額は決して安くない。むしろべらぼうに高いと思える。もし興味があるなら、本屋で立ち読みすれば間に合う。実際に私はこの本を30分で立ち読みしてしまった。その程度の本である。
この本を買うなら、「法令解釈の常識」あるいは「法律を読む技術・学ぶ技術」の方が絶対にお買い得だ。保証する。





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