有益な環境側面は不滅である

12.01.31
同僚が机を整理して、いらない書類などをゴミ箱に捨てている。机の上に彼が1年ほど前に、某ISO認証機関で審査員研修機関も行っているところの講習会に行ったときの資料があった。私はそれを見て手に取った。パラパラとめくると面白い図を見つけた。またしても有益な環境側面についてであったが、これはまた体系的(!)で論理的(?)な構成をしている。

私がそれをながめていると、同僚はあげるよという。それじゃともらった。
「この図をどんなふうに説明したんだい?」と聞いた。
「環境側面には有益と有害があるというんだが、どうもその区分けが論理的でないようだ。不法投棄が有害な環境影響という理屈はないだろう?」という。
「そんな論理じゃ、法違反が存在することを是認するようなものじゃないか」と同僚は続けた。
私はそれとは観点が違うが、まったくそれはおかしいと思う。確かに、不法投棄は有害なこともあろうが、それを有害な環境影響というなら、大気汚染で洗濯回数が増えて洗剤の消費量が増えたり、自動車が給油のためにガソリンスタンドに出入りすることによる渋滞も有害な環境影響なのだろう。

有益な環境側面

見ているだけではもったいない。これから駄文をひねることにする。
気がつくことがたくさんあるが、まず、電力の使用とか廃棄物の排出が環境側面であることは間違いないだろうが、重油の漏洩が環境側面なのだろうか? ここはちょっと考えなければならない。
環境側面の定義は「環境と相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの要素」とされている。
重油の漏洩は、組織の活動や製品やサービスなのだろうか? どうもそうとは思えない。製品とはいえないだろうし、サービスというならその組織はテロ組織に違いない。じゃあ活動かといえば、少なくても主たる目的ではなく、活動の失敗による結果だろうと思う。
誤解される方はいないと思うが、ISOでいうサービスとは役務(えきむ)のことであり、ものでなく、仕事を提供することである。例えば床屋さんとか、廃棄物収集運搬業のようなものだ。
重油漏洩という業を請け負うのはテロリストくらいしか思い浮かばない。
まあ、こんなことをおかしいと思うようでは次に進めない。

有益な環境側面で有害化学物質の使用とある。これはいわゆる有益な環境側面論であっても、日本語がつじつまが合わないように思う。単なるミスか、それとも元々確固たる考えがないのか、私には分からない。
3R化組織の構築とある。3R化組織というものが、はたしていかなるものなのか? 私には全然わからない。しかし、どうも側面というよりもプロジェクトのような気がする。環境側面の定義には、プロジェクト活動は含まれないように思える。それとも含むのだろうか? もうだんだん真面目に考えられなくなってきた。

ここまで来て絶対におかしいと思うことがひとつある。
環境側面(原因)とあり、環境影響(結果)とあることだ。確かに側面は原因だろうし、影響はその結果なのだろう。しかし、その逆、原因すべてが環境側面ではなく、結果はすべて環境影響ではないといえるのではないか?

つまり、重油が漏洩すると、土壌汚染や水質汚濁が起きる、じゃあ、重油漏洩が環境側面で、土壌汚染と水質汚濁が環境影響だよね、そういう発想なのだろう。
オイオイ、環境側面というものはそういうものだったのかい?

調達距離の短縮というのが環境側面で、地産地消意識の向上となると、原因と結果といえるのかどうかも、なんともいえない。
フットプリントが叫ばれている時代だから調達距離が短い方がよいだろうし、地産地消が悪いこととは思わないが、これは環境側面と環境影響以前に、原因と結果なのか、理解に苦しむ。地産地消意識が向上した結果、調達距離が短くなったと考えると、地産地消意識が環境側面で調達距離が環境影響になるのか?
人間万事塞翁が馬とか、北京のチョウというように、結果のすべては原因となり輪廻を構成するわけで、すべてが環境側面というのだろうか?
それは間違いとしか言いようがない。

もう、バカバカしくて、この認証機関を訴えてやりたくなる。まさに害をなす有害な環境側面ならぬ、有害な認証機関であり有害な研修機関である。しかも高い講習会の費用をとるのだから、息子を装った振り込め詐欺ならぬ、ISO研修機関を装った振り込め詐欺ではないか!

どうもこの図を書いた人、実際には一人の人がこの図を書いたのではなく、この認証機関の総意で作ったものだろうから、この認証機関の考えは、単純に原因は側面、結果は影響と考えていることは間違いない。初心者にはそれでいいんだという割り切りなのかもしれないが、認証機関の講習会に行って自分の会社のEMSを構築しようとか、審査員になりたいという人に、そういういいかげんなことを教えるのは良くないと思う。もちろん、割りきりではなく、その認証機関の方々が、みなそういう間違えた考えをしているという可能性もなきにしもあらずである。

しかし、このようなテキストを使っているのだから、研修機関を承認するCEARなどはしっかりみていないのだろうか? それとも研修機関をチェックする人たちも、この図が正しいと思っているのだろうか?
研修機関を審査する人をなんというのだろうか?
認証審査員でも認定審査員でもないから、承認審査員とでもいうのだろうか?
私もわからない。

おっと、もっと大きなおかしな点がある。
有益な側面からは、有益な影響だけ、有害な側面からは有害な影響だけが生じるのだろうか?
だれか、この審査員研修機関アンド認証機関に行って、教えてこい! 怒

なお、この認証機関は日本○○協会という。ISO関係には日本○○協会という機関が複数あるが、だいたいどこか想像がつくでしょう。

本日の言葉
有益な環境側面は不滅である
かって読売巨人軍は永遠に不滅と語った選手がいた。
しかし今は見る影もない。
有益な側面こそ、そうなってほしい。

お断り、
お断りしておくが、私は有益な環境側面があると語ることを禁じるとか処罰せよという気はさらさらない。日本国憲法は言論の自由を保障しており、私もそれを享受していることは明白な事実である。もし権威に疑問を呈したら捕縛するとか、認定機関の鼎(かなえ)の軽重を問う者は断罪するなどと言われたら、私は過去に書いたものだけで数回以上の極刑に値するだろう。

まず、ここで語っている有益な側面とは、一般的な側面という言葉を意味しているのではない。例えば、「消費税の増税における、有益な側面と有害の側面」とか、「ゆとり教育にだって有益な側面はあった」というような使い方に目くじらを立てているわけではない。
このウェブでは、ISOについて語っているのであって、私はISO14001で定義する「環境側面」において、有益な側面はないことを主張していることを明確にしておく。
そして、更に、「有益な側面がある」と主張しても、私はそれをもって非難したりはしない。大学の講義の中で、「環境において有益な側面を考えたほうが、企業にとっては有益であろう」と語ることは自由である。その場合、側面という言葉の定義も定かでないので、おかしいと問題提起する根拠はない。
あるいは、ISO認証を指導しているコンサルタントが、「環境側面は有害だけでなく有益についても、広く考えるべきですよ」と語ることも許す。ISOの世界ではその論理は間違っているのだが、法に違反しないことはもちろんだし、悪いことだと断罪することもない。
しかし、コンサルとの契約書に「ISO規格について教育すること」あるいは「規格適合の仕組みを作ること」と記載してあるなら、契約違反に問われる可能性はある。そのコンサルタントが、無知であろうと、勘違いであろうと、契約不履行は依頼者の期待を裏切り、損失を与える。

しかし、ときと場合をわきまえてほしい。ISO審査の場において、「有益な側面がないので不適合である」とか「特定された環境側面が有益か有害か区別されていないので、要改善が必要です」などという報告書を見ると、頭に血が上る。かようなものは断固として許すことができない。
なぜならそれはISO17021に反しているし、審査契約にも反しているからだ。
まさか審査契約書に、「審査に当たって審査員はISO規格に基づかず、個人の主観によって審査を行います」なんて書いてある認証機関はないだろう。
もっともそんな認証機関があるならば、登録証には「○○における環境マネジメントシステムは、△△の審査の結果ISO14001規格に適合しており、△△に登録されていることを証する」とは書かず、「○○における環境マネジメントシステムは、△△の審査の結果審査員の主観通りであり、△△に登録されていることを証する」と書くのであろう。

更なるお断りであるが、私は有益な側面を信じる審査員や、その雇用者である認証機関に多年にわたり苦しめられてきた。そしていまだ過去形でなく現在進行形なのである。願わくは未来形でないことを、アーメン

ゆえに、有益な側面は有害なのだ。



外資社員様からお便りを頂きました(2012.02.01)
佐為さま まったく本旨と違う点は判っていながら、突っ込ませて下さい。

二酸化炭素排出(原因) と、地球温暖化(結果) も、びっくり資料としてのご紹介ですよね。
こういう原因―>結果の関係が、微妙なものを、認証審査や監査で提示された場合は、どのように反応されますか?
先日、とある企業を訪問した時に、環境担当者が 高価な 太陽電池発電設備を紹介してくれて「地球温暖化防止」「代替エネルギーの推進」という社内目標への施策だと言われて、困ってしまいました。
私は、人間が出来ていないので、納得できない場合には 表情に出てしまいます。
案の定、同行者からは、「ああいう時は、素直にうなづく事」と叱られました。

環境対策の効果という点では、判断が難しい事が多いですよね。
例として、鉛フリー半田は、鉛を無くす(法規では従事者の定期検診等も必要)という点では効果がありますが、その導入により高温半田となり消費電力が増え、不良率が上がれば、資源エネルギーの点ではデメリットがあります。
つまり、価値の観点をどこにおくかで、効果の判断が変わってしまいます。
そういう事に対して、ISO140000認証では、効果の有無については、立ち入って判断するのでしょうか?
それとも、それは会社が判断するべきものとして、効果の有無は脇に置き審査対象外としてそのマネジメントシステムが機能できるかで判断するのでしょうか。
ぜひ 教えていただければと思います。

外資社員様、毎度ありがとうございます。
論点が多々ありますが、順々にいきます。
まず、因果関係が微妙なものを審査で提示された場合ですが、お考えそのまま対応すれば良いのではないかと思います。というか、私の勤め先ではあるがままの対応をしております。
当社で以前、活動目標を地球温暖化防止としておりましたが、社長がそれを見て「それはおかしい」と指摘しました。その心は、外資社員様がおっしゃるとおり、因果関係が怪しいことがひとつ、それに一企業が地球温暖化防止なんて言ったら、身の程知らずで笑われるとのこと。確かにそのとおりです。議論した結果、省エネの推進に変更しました。
それとは別ですが、ISO審査で審査員が地球温暖化についての考えを質問したことがありました。そのとき、省エネ担当が「それは審査と関係あるのですか」と返して、審査員が質問を取り下げました。それがまっとうな対応かと思います。
その2、私は、考えが顔に出るのではなく、そのまま口からでます。某社を訪問したとき、太陽光発電をつけたという話が出たので、それはエネルギーの何パーセントくらいまかなうのですかと聞きましたら、1%とか2%とのこと。私が「お互いに大変ですね」と言うと、相手も苦笑い、
その3、私は鉛の危険性というのもよくわかりません。小学生の頃、砂に文字とか模様を書いて、缶詰の空き缶に鉛を入れてたき火で溶かして流し込んで遊んだことを思い出します。鋳物ゴッコですね。一説によると、日本の某社が鉛を使わない半田があるので安全だと言ったことにより、欧州で鉛規制が始まったとか、本当かどうかわかりませんが、ありがちです。
フロンを使わないエアコンや冷蔵庫が環境に良いといわれていますが、中西準子先生がフロンの代わりに炭化水素を使う方式は効率が悪く、それによる消費エネルギー増加によって、漏洩したフロンによる温暖化よりも温暖化が進むのではないかと論じています。
  俗な言葉で言えば、ワケワカンネーという感じですね。
その4、ISO14001はどうなのかについては、ISO14001規格の序文にははっきりと、「この規格の全体的なねらいは,社会経済的ニーズとバランスをとりながら環境保全及び汚染の予防を支えることである」と示しています。
我々は現実社会で環境ばかりではなく多様な要求や規制を満たすよう、あるいは最適解を得るべく努力するのみであります。
いや、単に私はガンコなのでしょう。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012.02.04)
私も人間ができていないので、同じく顔に出るどころか「はあ? 何で?」と口に出すやもしれません。自戒、自戒。。
ところで、その環境担当者殿がいう「地球温暖化防止」というのは、もしかすると環境関連の法規制対応という意味かもしれません。
工場立地法では、敷地における生産施設の面積が制限を受けますが、太陽光発電設備の面積分は「環境施設」扱いとなるので、実質的に制限を超えて増床ができます。屋上に芝生を植えた場合も、「緑地」扱いになって生産設備面積から差っ引けますが、そんなことをしても何の価値も生みません。
同じカネをかけるのなら、太陽光発電設備がいいだろうという計算が働いたのかもしれません。

たいがぁ様 まいどありがとうございます。
工場立地法は日本から製造業出て行け法とも言われています(実は私が言っただけです)
この法律を満たしている企業は少ないでしょう。ほとんどか、何十年も前の経過措置によっていると思います。
まあ、日本と言う国家はマゾなのか、国を悪くしよう、国際競争力を弱くしようという意志が働いているようです。
某人気女優の仕分けも、国際競争力を大幅に阻害しました。アホな人たちはそんなことも知らないのでしょう。
困ったものです。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012.02.05)
ウチの工場は田園地帯にありますので、周囲は緑でイッパイです。
なんで敷地内の緑地率がどうたらとか、イチャモンをつけられなければならないのか理解できません。

たいがぁ様、まいどありがとうございます。
一般論としては、環境整備という意味なんでしょうけど、現実問題としては、はたしてどのような意義というか効果があるのかは理解できませんね。
都市計画法なんてできる前からある工場のところ番地は、工業地域とか準工業地域として既得権があるわけだし、例外を認めないといったら工場は出て行ってしまうでしょうし、そうなれば自治体も税金が入らなくなるし・・
世の中建前と本音を使い分けないとうまくいきませんよね
まあ、たとえれば20世紀はじめのアメリカの禁酒法みたいなものなのでしょうか?
真に近隣への環境配慮なら、太陽光パネルをつけても関係ないし、屋上緑化をしても火災などのとき避難できるとも思えないし・・
話は飛びますが、屋上緑化というとセダムとか乾燥に強く、あまり緑とはいえないようなものが多いようです。ナンダカナーという感じですね。
もっと意味のあることをしないと無意味ですね・・トートロジーか?


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