ケーススタディ オフィス省エネ

12.02.25
もうこのケーススタディシリーズを1年以上も書いていない。後編にあたる超入門シリーズも大震災以降、新規コンテンツがない。だから、すっかりお忘れの方も多いだろう。実を言って書いていた私も忘れていた。
では、本日は初心に帰り、ケーススタディをもう一度
いや、実は本日のネタには理由があるのですよ、当ててください。バレバレかな?

東日本大震災からもう1年になる。大震災は、東北地方や北海道の人だけでなく、日本中に被害と影響を与えた。
鷽八百社も例外ではない。岩手の工場では人的な被害はなかったが、工場建屋などにかなりの破損があった。震源地から遠く離れた千葉工場も埋立地にあり、浦安ほどではないが、液状化が起きた。現在の工作機械は基礎が水平でないと加工精度がでない。また配管類はどんな異常が起きたか分からない。実際に下水などの地下配管はそうとうダメージを受けた。そんなわけで、機械や設備の全面点検とその結果の補修も大変だった。
これからの水濁法改正で、薬品や排水処理などの地下配管に厳しい規制が行われることになる。産業界では費用の点で反対意見が多いが、長期的に見ればそれは産業界にとって大きな利益になるだろうと思う。まず土壌汚染のリスクが少なくなることは大きいと私は思う。もっとも、そう思うのは私がお金を出すわけでないからかもしれないが
もちろん社員とその家族も被害を受けた人は多かった。ご両親、ご親戚には亡くなった方、行方不明になった方も多数いた。更にお子さんの進学、就職などへの影響も考えれば、その被害ははかりしれない。
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環境保護部も地震からの1年、大変忙しい日々だった。
まず最初は、地震による危険物汚染や化学物質の紛失状況の把握と、次にそれらの発生予防があり、その後、大量の廃棄物の処理、機械再稼動にあたって種々設備の修理や更新に伴う行政届出などが山積だった。今もって放射能を帯びた廃棄物を工場の敷地内に保管している工場もある。これはいったいどうすればいいのだろうか?
まさにそういったことを、速やかに決定して実施することが政府の役目であろう。
ありがちだが、PCBを40年も放置していたように、放射性の廃棄物をこれから40年保管しろというのだろうか?

民主党とは、みんなが困っていることを、らないふりして、うゆうとおくでたた寝する人々なのだろうか?

そして夏には省エネが至上命令で、工場では自家発電の導入とか生産ラインの2シフトの導入など環境部門に関わることは延々と続いた。
鷽八百社では、エネルギー管理を環境保護部ではなく生産管理部が担当している。とはいえエネルギー管理と省エネは環境と密接な関係があり、特に廣井は公害や環境施設関係に詳しいので、自家発電を設置するときの、電気事業法、騒音規制、大気汚染、消防法関係の手続きなど生産管理部と一緒に動いていた。
また、オフィスでの省エネについては、OA機器の管理などは鷽八百社独自でできるが、照明や空調はビル管理会社と他のテナントと共同で進めなければならない。それで環境保護部と総務が、会社の代表としてビルの省エネプロジェクトに参加していた。

山田はビル省エネのメンバーである。総務の大林と二人で鷽八百社の代表として2011年4月から会議や具体的運用やキャンペーンを担当していた。本日はビル省エネプロジェクトの定例の会議である。
会議はビル管理会社で行われる。ビル管理会社は鷽八百社が所在するビルではなく、歩いて数分のところの別のビルにある。このあたりのオフィス街一帯は財閥系の地所会社が保有していて、その子会社がそれらビルの管理を行っているのだ。
二人はまだ寒い歩道を歩いていった。
「地震のときはこの歩道もかなりでこぼこになりましたね」と山田が話しかけた。
「地震直後は総務のメンバーは手分けして、大手町近辺から東京駅あたりまでの道路の状況を調べたのですよ。社員に安全な通路を指示するためでした。私も地震直後、このあたりのビル街を相当歩きました」
大林は50ちょっと前の女性である。
「そうでしたか、私も昼休みに散歩しているのですが、大手町より丸の内や有楽町のほうがひどかったみたいですね。歩道そのものよりも、歩道とビルの段差ができたところもあるようです」 「東京フォーラムや帝国劇場あたりがひどかったですね。皇居沿いの歩道にビルの外壁が落ちていたところもありましたね。もし歩いている人の上に落ちたら大変なことになりました」
山田の昼休みの散歩コースは、大手町から行幸通りを横切り皇居のお堀沿いに丸の内署に南に向かい、折り返して戻るというパターンが多い。もちろん丸の内署まで行くのはけっこうな距離であり、普通は時計を見て途中で折り返すのだ。もし地震がお昼休みに起きて、お堀側でなく反対側の歩道を歩いていたら、危なかったと心の中で思った。
そんなことを話しているうちにビル管理会社があるビルに着いた。

事務所の一角のパーテーションで仕切られた殺風景な打ち合わせ場に、プロジェクトメンバーが三々五々集まってきた。
メンバーはビル管理会社の丸山課長、門田、警備会社の黒田、店子である鷽八百社の大林と山田、白鷺証券の山岡、ハゲタカファンドの横山、地下の食堂街代表の佐藤である。
丸山課長は顔ぶれを見て、「ハゲタカの横山さんと警備の黒田さんは、今日は欠席とのことです。じゃあ、これでそろいましたので始めましょう」と口を切った。
../2009/meeting.gif 「本日の議題は、4月からの省エネ施策の検討です。昨年は15%削減という至上命令がありました。今年の目標値はまだ不明です。今日は、今年実施するアイデアの提案を頂き、次回それを議論しようと考えています」門田がつないだ。
「ご時勢ですから省エネしないなんて、口が裂けてもいえないのは分かります。しかし金額が書いてない手形がないように、目標がない省エネはないでしょう」早速白鷺の山岡が発言する。
「私どもも皆様以上に情報があるわけではありません。この冬の九電や関電の状況から見て、昨年夏と同様と思います。正直なことを言いまして、我々は大手町に所在しておりますので、政府が出す目標を上回った目標を公表しないとまずいかと思っております」
丸山は分かってくれよという感じでそういう。
まさか大手町に本社がある会社は、日本の一流企業だということもあるまい。まして我々が世間に対して範をたれるというか、エエカッコすることもあるまいと山田は思った。
「まず昨年の施策と効果の確認をしませんか」大林が話を戻した。
「昨年は照明を蛍光灯からLEDに変えたでしょう。それで半分くらいになったと聞きました。照明が3割なら、その半分は15%ですから、もうこれ以上の対策をしなくても良いということにならないのですか」佐藤が即質問した。飲食店や商店はへたな省エネは営業の足を引っ張るので心配だ。
「ハイ、ビルの消費電力は3割が空調、3割が照明、残りは皆様がコンセントから使用されている電気になります。LED化によって半減といいましても、昨年はオフィス居室のみLED化を行いまして、通路やトイレの共用施設は居室に比べて使用電力量が少ないという理由で行っておらず、店舗については佐藤様などのご意見でLED化を行っておりません。そういったわけで照明による省エネは全体の15%ではなく約1割の削減にとどまっております。昨年夏は空調の温度を上げたこと、お昼休みの消灯、エレベーターの間引き運転などで15%をなんとか達成したということです」門田がメモを読み上げた。
「ちょっと待ってくれ、するとなんだ、せっかくLED化して省エネした照明を昼休みに消して、従来の照明機器を昼休みも点灯しているってわけだ」白鷺の山岡が不満そうに言う。
「それじゃ共用施設の照明を消すか、LED化をすべきじゃないですか」
「いや、共用施設の消灯はビル管理や労働安全衛生法からちょっと問題なんです。LED化はもちろん今後計画的にしていきたいと考えています。ただし電力量としてはオフィス居室に比べて少なくLED化による削減量は少ないのですよ」
「ウチじゃ、空調温度が上がったので電気屋からUSBの扇風機を買ってくるわ、昼休みは暗いからと電気スタンドを買ってくるわで、そんなことではたして本当に省エネになったのかねえ?」山岡が言う。
../nude2.gif 「クールビズももう完全に徹底しましたから、これ以上するならビキニかマイクロビキニしかありませんね」と大林は年の割には体に自信がありそうだ。
「お昼の一斉消灯は止めてほしいですね」山田も参戦した。
「そうは言っても、一斉消灯はどの会社もビルもしていることで」丸山がひたいの汗を拭きながら言う。暑がりなのか、話がもくろんだ方向から外れてきたせいなのか
「ピーク電力を下げるなら、むしろ各社の昼休みをずらしたらどうですか」山田は日ごろ思っていることを言う。
「そうしていただけると我々食堂街にとってもいいですね、混雑も平均化されますし、商売にも影響はありませんし」佐藤も賛成する。
「当社では既になしくずしに昼休みは11時から13時過ぎまでばらばらですね」山岡が言う。「なにしろお昼を食べるのが行列で時間ばかり食っちゃいますから、会社も黙認です。まあ会社としては売上の数字を出してもらえればいいわけで、」
「照明は目に見えるからやりだまに上げられますが、実際にはパソコンとか電気製品の無駄使いが多いのではないですか」山田がいつも感じていることを言う。
「OA機器といってもその9割はパソコンでしょう。お昼休みに仕事をすること自体問題ですから、休憩時間はパソコンを切るということを躾ければ、昼休みの一斉消灯よりは苦情もなく、電力削減効果はあると思いますよ。コンセントからの電力が4割とおっしゃいましたから、その半分減ったとして、20%になります。これは昼休みの消灯効果より大きい」
「山田さん、証券会社では常時動きを監視していなければなりませんので、それはちょっと」
「いや山岡さん、労働基準法などで休憩時間はとらなければなりませんから、御社でも建前上は交代で監視していることになっているはずです。シフトから外れている人のパソコンは切ってもいいはずですよ」大林が口を挟む
「ビル全体の空調温度や消灯についてですが、今年の目標を出す前に、まず各職場のUSB扇風機とか個別照明の状況を把握してからにしませんか。例えば、ピーク対策ならお昼休みは空調をとめても照明したほうがよいのか、あるいは昼休み完全に消灯するのではなく照度をオフィス基準ではなく廊下の基準にするとか、もっときめ細かい運用ができないものなのか。LEDにしたのですから照度コントロールはかなりできるはずですよね」
山田がそういうと、山岡もうなずいた。
「山田さんに賛成です。私もUSB扇風機には疑問があります。ビル管理会社の方針として照明と空調を見直すから個人の照明や扇風機は禁止とかいう運用をしてもらいたいですわ」
「いっそのこと勤務時間を変えるということまでできればいいのですがね」大林も流れに任せてとりとめのない話題に移った。
「サマータイムとか?在宅勤務とかですか」丸山があきれたように言う。
「いや、そこまでいかなくても我々レベルでもできることはたくさんあると思いますよ。外部とあまり関係ない部門では勤務時間を1時間繰り上げるとか繰り下げるとか、あるいは部門によって休日を金土と日月にするとか」
「ともかく目的がピーク電力を下げるなら単純に昼休み消灯ってのは芸がないですよね」山田が話題を引き戻した。
「丸山課長、ここはひとつ、当ビルではお昼休みの消灯をしないで同じ効果を出しましたという路線で行きませんかね」
「いや、これは政府も言っていることですから」と丸山
「丸山さんもおっしゃったでしょ。我々は大手町に所在しているので、政府が出す目標を上回る目標を示したいって。それなら我々こそが政府が思いつかないような発想をして、目的を果たせばいいんですよ」山田はそう言い切った。

本日の課題
オフィスにおける、省エネ策をあげて、その効果を論じよ
技術的にまた社会的に実現性があり、実効があるものであること

本日の独り言
実を言って、私はビルの省エネプロジェクトに参加させてもらえない。アイデア豊富な私に声をかけてほしいのだが。

蛇足
最近、某認証機関の幹部から、そこの社長がこの「うそ800」を見ていると聞いた。もちろんその方は、私が「うそ800」の主宰者であるということを知らない。
社長さんがどう思っているのかをお聞きしたら、笑っているとのこと。感心しているのか、ばかばかしいと思っているのか、どちらかは分からなかった。



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012.02.26)
現場を見てないので、お題の解決策はピンと来ませんが。
反対に、これはAUTOという事例を。
・LED照明
電力半分、照度も半分若しくはそれ以下というのを省エネと呼べるかどうか。FHFの方が遙かに安くて率がいいですし。
・サマータイム(又は勤務時間シフト)
ピークタイムに就業していれば何も変わりません。それどころか始業と終業が伸びるので結果としてエネルギー総量は増加します・エアコンの輪番停止1時間のうちで5分だけ止めるなどですが、再スタートした途端に室温を挽回しようとしてMAX運転に入るため逆効果に
・(単純な)業務の効率化
時間当たりの使用量が増えるワケですから、ピーク電力が上がります
・こまめな消灯
蛍光灯の場合、点灯開始時に大きな電力を消費します。
一般に10〜15分未満は逆効果とされています。

最近、某認証機関の幹部から、そこの社長がこの「うそ800」を見ていると聞いた。
最近、背後からつけられているような気配が・・・・
((((;゚Д゚))))

鶏様 毎度ありがとうございます。
2011年の規制は電力量を削減ではありません。ピークを下げることでもないのです。9時から20時までの1時間幅の電力量を指定された値を超えてはならないのです。通常は10時から12時、13時から15時くらいがピークです。昼休みは下がります。
この場合は時間幅の電力量を規制値以下にすることが目的となります。昔、10モードで燃費が最小になるようにした車がありました。10モードは良いけど、普通に走ると燃費が良くないって、それと同じことが起きたわけです。
社員を三つに分けて、昼休みを分ければピークはブロードになります。ちゃんと効果はあるのです。
LEDだから照度が半分ということはありません。それは実証されてます。もっともLEDに更新した費用は回収できません。反則金を払ったほうが安いでしょう。そうはできないのが日本、
また始業と就業が伸びるとご心配ですが、時間当たりの電力量が減ればとりあえずの規制には適合します。
要するに「上に政策あれば、下に対策あり」という、某共産主義国と同じです。
真の省エネを考えるのはまた別ということで


外資社員様からお便りを頂きました(2012.2.27)
佐為さま いつも楽しい話題を、有難うございます。
しかし、このようなアイディア・マンに省エネ仕事をさせないとは、何と勿体ない事か。
まさに脾肉の嘆ですね。
省エネと言いますが、実際には 外部から購入する電力消費量の削減ですよね。
経営から見れば、エネルギー=費用です。
本当に消費エネルギーを問題にするならば、導入の為のエネルギー、費用対効果も問題にするべきです。
また、省エネ施策の導入により、業務効率が下がったり、仕事量が減るなら無意味ですが、
その辺りのバランスは、どうも多くの会社ではムニャムニャな感じがします。

とある大会社と省エネについて話しました。 どこも、罰金と、それを追徴された時の会社のイメージダウンを気にしていました。
そこで、某会社では、外部から発電機を買って設置しました。この事は、ネタにもお書きになっていますよね。
省エネという枠を超えて、外部からの電力供給を削減せよというならば これが正解です。
エネルギーの帳簿の貸借をどうするかの評価基準は、明確になっていませんから。
代替エネルギーを推進する政府にしても、太陽光パネルを作る為の膨大な電力は問題にしないのですから、発電燃料を買う事も問題にできないでしょう。
それは、LED電球の場合も、白熱球を作るエネルギーとLED電球に必要なインバータや付属回路を作り廃棄するまでのエネルギーは問題にしないと同じです。
それを費用として企業が支払うから問題無しならば、自家発電の費用も同じように考えれば足ります。
CO2の量で考えよとの評価方法はありますが、そういう事例で、太陽光発電やLED電球導入時のCO2を客観的に論じたものは少ないようです。
埋め立ててしまうなら廃棄エネルギーは少ないですが、基板、電子部品、ガラス部分、など分解・分別の費用まで考えると難しい気がします。
もちろん、そこまでの徹底したリサイクルと廃棄を、生産した企業が保障するならば優等生ですが、購入する側は中国製だろうが安ければ選びますよね。
突き詰めれば、多少は金を使ってでも、(外部からの)エネルギーが減れば問題無しだけれど、露わにには言ってはいけないのが一般的ではありませんか?
もちろん、それと同時に「無駄な電気は使わないよう気を付ける」のは、まったく賛成です。
但し、それだけで15%削減ができるならば、裏返せば、今までは それだけ無駄をしていたという事ですよね。(笑)
とある会社では、震災後のある期間、定時退社を徹底していたら、電力消費25%削減に成功したそうです。
もし、それで仕事が回るならば、経営者は その点に気付くべきですね。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
昨年の原発停止以降の規制といいますか動きは、省エネというべきかどうかは疑問ですが・・
従来から夏は電力消費のピーク時に供給が問題となっていました。原発が動いていたときは供給電力総量は消費といいますか要求量以上あったのです。むしろ定常的に運転する原発の電気を使わせるために、夜間電力を安くして、エコアイスとかオール電化とかを推進していたわけです。
今時点は電力総量の問題もありますが、一番の問題はやはりピーク時どうするかということです。
東電の電気予報などをご覧になると一目瞭然ですが、12時頃は1割程度消費電力が減ります。問題にしている電力量は数%のところですから、この昼休みを前後に振り分ければそうとう影響があるわけです。
目的が、消費電力総量を下げることであれば、早出をしたり残業をしても意味がなく、あるいは通常以上の電力量になるかもしれません。少なくても昨年はそういう要求ではなく、最大時のデマンドを下げろということでした。
罰金と言うのか制裁金というのか定かではありませんが、たったの百万円ですから、現金で考えれば自家発電を入れたり、照明のLED化などせずに払った方が簡単で安いですよね。まあ、メンツもあるでしょうし、日本的ムラ社会ですから仕方ありません。
話は変わって、外資社員様がおっしゃるように「節電だ!」と叫んだだけでアットいうまに15%も下がるのでしたら今までがなんだったのかとなります。
電気ばかりではありません。従来のダラダラと、集中力を出した場合の仕事の密度が違うでしょう。
なぜいつもできないのか?と経営者ならずとも思わなければなりません。
ちなみに私は以前はだらだらと残業して、土曜日も出ておりました。60を超えてからは残業はしない、遅くても定時後30分で帰ることにしております。それでアウトプットが下がったかと言えば、変わっていないように思います。いや、人並み以上とうぬぼれています。
以前の上司は、朝は始業時に来て、帰りは定時に帰ってました。それでも仕事はちゃんとしていましたね。プロサラリーマンはそうであれねばと思います。


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