ケーススタディ 監査事務局3

12.05.17
監査事務局を担当していると、トラブルは常に起きる。それも、たくさんどころか、しょっちゅう起きる。もちろん、トラブルと言っても多種多様である。
適合・不適合の判断というか監査基準の解釈の違いなどはトラブルではない。そんなものは簡単に解決できる。私の場合、監査基準はISO規格ではなく、法規制と過去の事故のリスクであったから、もう直球勝負しかない。どこかのISO審査のように、「明確でない」とか「見えません」なんて意味不明の述部でごまかすことはできない。
例えば、この設備は法の届が必要か否か、あるいは廃棄物処理法の解釈などに不明点があれば、即行政に電話して聞けばよい。というか、聞くしかない。質問の相手は市の環境課の場合もあるし、環境省や経産省、あるいは消防庁などに躊躇なく電話した。その結果は監査する側もされる側も、お互いに飲むしかない。もっとも自治体によって見解は多様で、基本的には所在地の指導や解釈に従うことになる。
その意味で、法律に詳しい人よりも、わからないことがあればどこに聞いたらよいかを知っていて、聞くことのできる人の方がはるかに有用である。
法規制について生き字引のような人もいるが、ユニークな問題が起きた時に対応できないことが多い。そんな人より、何も知らないけど調べる力がある方が役に立つ。そして中には行政に電話する勇気(?)もない人がいる。そんな人は会社員を辞めるべきだろう。

自治体によって解釈が違うというのはたくさんある。
ある廃棄物が特管かそうでないかというものがあった。しかもそれはA県からB県に運んでいた。A県では特管だといい、B県では特管ではないという。我々はいったいどうすればいいのか? それについてどう対処したかは国家機密である。 
一言付け加えておくと、私はそんな場合でも即断即決する。
PCB含有機器を使用していると電気事業法の届出だけでなく、PCB特措法の届をしなければならないのだが、自治体によっては電路から外した時点でPCB特措法の届をするようにと言っているところもある。つまり電路につないである場合、PCB特措法で届けるなというわけだ。なぜかは私はわからない。たぶん面倒くさいからだろう。2001年にPCB特措法ができたとき、すぐに報告したかったのだが、某県では行政サイドの準備ができていないので報告を待ってくださいという。それを信じて届けないと罰則があるからそのような冒険はできない(ダジャレである)。相手が受け取らなくても届はしておかねばならない。
PCB油も燃えやすさによって3石とか4石などになり消防法の届がいるはずだが、自治体によっては、PCB油は消防法の届出はいらないというところもある。わけがわからない。
もしISO14001を監査基準にしている内部監査あるいはISO審査であるなら、私がしていた遵法監査よりも、いとたやすいことは間違いない。もしこの論に異議がある方がいらっしゃるなら、大いに議論したいと思う。お申し出があるのを楽しみにしている。

おっと、話がそれた。では本日のお勉強は監査においてどのようなトラブルがあり、どのように対処するかを考える。
../trip.gif 世の中にはマイルを貯めるためかスッチーのレベルが違うせいか、ANA派とかJAL派があり、同じところに出張するとき相棒と一緒の飛行機ということはむしろ少ない。私はANA派である。マイルがたまってもロクなものに交換してくれないJALより、肉や魚に交換してくれるANAを家内が好きなのがその理由だ。
もう何年か前であるが長崎に出張したときのこと、私はANAで相棒はJALで行くという。
相棒といっても水谷豊ではないから、監査のたびに違うのは言うまでもない。
私の便が早いので長崎空港で待っていた。やがてJALも定刻に着いたので、相棒が降りてくるのを待っていた。しかし一向に現れず、とうとう最後の人も通り過ぎてしまった。小さな空港だから迷子になるはずはない。すれ違ったと思ったので相手の携帯に電話した。
「もしもし、どこにいるんですか?」
その答えは驚くべきものであった・・というほどのことはないのですが、
「布団の中だよ、寝坊しっちゃたなあ」という声が・・
まあ、そんなことでうろたえるようでは監査を職業にしていくことはできない。ハハハ 
その後どうしたかは企業秘密である。

山田が出勤すると既に横山と森本は仕事をしていた。最近の若者には珍しく、この二人は始業時刻の1時間前には出社している。
山田はコーヒーを飲みながらパソコンを立ち上げた。夜中にメールがたくさん来ているのは毎度のことだが、100通もあると正直あまりうれしくはない。9時の始業時までにメールを一通り処理したいのだが、それはまず無理なことだった。
私の場合、自宅にくるメールは毎日100通くらいあるが、娘や友人、保険やアマゾンの支払いなど見なければならないメールというものはせいぜい20通くらいだ。残りの80通は、購読しているメルマガとか、買い物したことのある店の広告とか、母校の行事案内など見ても見なくてもよいもので、回答しなければならないものはまずない。
なお、バイアグラの通販やポルノビデオの宣伝など、まったくのジャンクメールはごみ箱直行にセットしてあるから100通には入らない。
ところが会社の場合は、100通くればそのすべてを読んで対応しなければならないのがつらい。
ともかくメールボックスを空にしなければならない。幸い今朝のメールには、特段事故などの報告はない。定期的な業務報告や所在自治体とのコミュニケーションなどの報告が多い。
メールソフトのウィンドウをスクロールして最後まで事件らしきものがないのを見て、山田は安心してコーヒーをすすった。

電話が鳴った。山田がとるまえに森本がとる。
「ハイ、鷽八百環境保護部です。あ、井上課長ですか、森本です。ご無沙汰しております。おかげさまで頑張ってます。・・うわあ、それは大変ですね。先方の電話番号はご存知ですか? ああ、既に連絡済ですか。先方は? 了解しましたか。ではそれで進めてください。どうもわざわざありがとうございます」
森本は電話を切った。
山田
「どうしたの?」
「今日、千葉工場の井上課長が名古屋で監査なのですが、乗っている新幹線が豪雨のために小田原付近で停まっているそうです。それで予定時刻には名古屋に着けないので先方と話をして9時半開始のところを、余裕を見て午後開始に変更したという連絡をいただきました」
山田
「そうか、東京は雨が降っていないのに東海は豪雨か、ともかく調整がついてよかった。さすが井上課長だ」
横山
「山田課長、大手町だってパラパラ降ってますよ。東京もまもなく強い雨が降るそうです」
山田は窓の外を見た。雨脚が見える。先ほど会社に入ったときは降っていなかったのだが。今日行う監査が2件ある。交通機関に大きなトラブルがなければよいがと思いつつまたコーヒーをすすった。
「山田課長、監査に行く途中で事故などで予定通りいかないことってよくあることですか?」
山田
「そりゃたくさんあります。森本さん、飛行機の整備の都合や、その前の運航が遅れたりすると欠航になるのですが、日本の旅客機ではどのくらいの割合だと思いますか?」
「欠航ですか? そういえば羽田のロビーで待っているとき、そんなアナウンスを聞いたことがありますね。どれくらいなんでしょう、見当もつきません」
山田
「なにかで1%を少し超えるというのを見たことがある。これは70回くらい乗ると1回は飛ばないということで、結構確率は高いのですよ。もちろん台風シーズンなどは多いだろうから、平均的に発生するのではないでしょうけど。当社で毎年行う監査は約70件、もちろん飛行機を使わないものもあるでしょうし、往復飛行機というのもあるでしょう。ともかく、年に1回か2回は監査の際に欠航にぶつかると言えるでしょう」
横山
「面白そうな話ですね。そういう時はどうするのですか?」
山田
「条件がいろいろあって複雑ですが、天候による欠航の場合はどの航空会社も飛ばないから、関係部門に連絡して、とりあえず中止して、日程は後日見直しするしかない。もちろん監査の帰りならホテルを確保することですね。ホテルがとれないと空港に泊まる羽目になる。飛行機が飛ばなくても新幹線が動くケースもあるけど、新幹線で行けるところに飛行機で行くことは普通ないだろう。
飛行機の都合による欠航の場合・・・普通の搭乗券であれば他のキャリアに乗り換えるとかできますが、安売りチケットなら運航復旧後に空席がでるまで待つしかない。出張旅費を節減するために安売りチケットを使ってほしいけど、そうなることも考える必要があるね。伊丹とか千歳などの主要な航路ならまだしも、ローカル空港で安売りチケットだとにっちもさっちもいかなくなるおそれがある」
「新幹線が停まるということもありますね」
山田
「そりゃ動いているものはなんでも停まるよ。新幹線が停まったら、在来線に乗り換えることはしないほうが良い。JRは顔である新幹線の復旧を最優先するから、黙って新幹線に乗っている方が良い」
横山
「山田さんはそんな経験あるんですか?」
山田
「出張ばかりの仕事だから、1年に数回はあるよ。まあ新幹線は停まっても30分くらいで動くのが多いけどね。一度2時間弱ということがあった。特急の払い戻しは2時間以上だから連中は頑張って2時間以内に到着させるのが普通だ」
「僕は不可抗力でなく、電車の中で居眠りして乗り過ごしたことがあります。山陽新幹線で岡山で降りるとき、ついつい居眠りしてしまい乗り過ごしてしまいました」
横山
「まあ!それでどうしたの?」
「幸いというか、岡山で乗ってきた人の指定席が僕の座席だったので、僕を起こしてくれたのです」
横山
「それで間に合ったの?」
「次の駅で反対方向に乗り換えて、なんとか数分の遅刻で済みました」
山田
「僕じゃないんだけど、一緒に行った人が降りる駅で降りてこないのよ。どうしたのかと思って携帯をかけると、トイレに行っていて乗り過ごしたということがあった。新幹線は停車駅が少ないから、乗り過ごすととんでもないことになる。笑い話ではないが笑ってしまうよ」
横山
「先日、私がはじめて一人で監査に行ったときは、スマホで目覚ましをかけてましたよ」
山田
「僕もいつも携帯で目覚ましを設定しています。万が一ということがありますからね」
山田は正直こんな話を切り上げてメールの処理をしたいと思ったが、廣井がいつも山田を相手に話してくれたことを思い出した。勉強というか教えるということは、座学ばかりではなく、このように雑談をしながら先輩の失敗や工夫を伝えていくことだと思うのだった。
山田
「本社の人は監査を仕切っているのだから、結果としてうまくいくように、計画を必達するように考えて行動しなければならない。少し前のこと、岩手工場から北海道の子会社の監査に行く予定の人がご家族に不幸があって行けなくなったという連絡があった。状況は会社に連絡するどころではなかったと思う。その方の責任感に頭が下がります」
「そのとき僕も脇から見てました。山田さんがすぐに出張しましたよね」
山田
「そうなんだ、ショウマストゴーオンだ。本当のことを言えば事前勉強もしないでぶっつけ本番の監査はいけないんだけど。どっちみちその会社は初めての監査だったので、誰が行こうと同じと踏んだからね。まあ行けば何とかなるもんだ。
それとは逆だけど、2年くらい前かなあ、茨城県の会社に監査に行ったとき、時間になっても相棒が来ないんだよ。心配になって電話をしたら、向こうが『わざわざお電話ありがとうございます』というんだ。変だなあと思いながら話を聞くとその方のお父上が亡くなって葬儀の手配をしているところだった。相棒は監査のことなどすっかり忘れていて、僕がお見舞いの電話をしたと思ったのさ。いろいろあるものだ」
「うーん、私でしたら、父親の葬式となれば、やはり監査のことなど忘れてしまいます。しかし監査事務局にとっては、それこそ緊急事態ですね」
山田
「同じことが監査を受ける側にも言える。突然行政の立ち入りがあるとかすれば、それが環境に関係ないことでも幹部はそちらの対応をしなければならないからね。まあそういう例で当日というのはなかったけど・・」
横山
「監査に行く人が急病というケースもあるのでしょう?」
山田
「それが一番多いでしょうね。環境保護部で監査員にお願いしている人は年配の方が多いので余計心配です。関越工場の吉田さんをご存じでしょう?」
横山
「嘱託の方ですよね。少し太っていて温厚な方ですよね」
山田
「吉田さんは法律にも詳しくて理想の監査員なんだけど・・」
「何か問題があるのですか?」
山田
「そうなんですよ。吉田さんはぎっくり腰が持病で、毎年1回か2回寝込んでしまう。といって吉田さんの場合、常にバックアップ要員を確保しておくわけにもいかず、確率の問題だなあ」
横山
「出張中に病気になることもあるのですか?」
山田
「そういうこともありますよ。佐為さんという嘱託の人が一昨年九州に出張中、急病になって救急車で運ばれたことがある。奥さんが九州まで行ったりして大変だった。僕も九州の病院まで行ったけどね。あのときは2週間くらい入院していたよ。行く前はなんでもなかったというから、まあこれも確率の問題だなあ」
横山
「まさか行先を間違えたなんてオバカなことはないのでしょう?」
「いくらなんでも、そんな人はいないだろう」
山田
「いや、そうでもないですよ。鷽八百エンジニアリングという会社があるのですが、実は同名でさいたま市と大阪にあるのです。まったく別の会社なのですが同名なのです。
昨年のこと、さいたま市の鷽八百エンジニアリングの監査に行くはずだった人が、大阪と思い込んで当日大阪の鷽八百エンジニアリングを訪問したのです。行ってから気が付いたのですが、もうどうしようもありません」
「法律上は住所が異なれば同名で同じ定款の会社が登記できるそうですが、鷽八百グループ内なら間違いないように、関連会社部が調整すべきじゃないのですか?」
山田
「まあ、設立に当たってはみなさん思い入れがあるだろうからね。我々は注意するしかないよ」
廣井と中野が同時に部屋に入ってきた。時計を見ると9時数分前だ。
山田
「じゃあ、今日もがんばろう」

本日の楽屋裏
「ここに書いた事例は実話か?」というご質問があるでしょう。
そこは企業秘密ということで・・

本日の疑問
私がISOの将来や認証の信頼性をまじめに論じると、とたんにアクセスが少なくなる。このようなケーススタディなんて深刻でないものをちょちょっと書くと、アクセスが増える。それが疑問だ。
私にとっては残念なことだなあ!


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/5/17)
そして中には行政に電話する勇気(?)もない人がいる。

マジすか? 何で?
相談料でもとられると思ってるんですかね?

民百姓とお代官様の構図は、江戸時代と変わらないのでしょう。
公務員は公僕だとは、夏目漱石が言ったとか・・・
しかし、いまだに貴族か植民地の白人のようです。

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/5/17)
来客の多さばっかりは訪問者の興味によるものですから、辛い処ですね。それでも鶏のサイトとは4〜6倍の差はあると思いますよ。
「監査実演」で来客が多い、ということは案外ご訪問各位の正体は審(ry

そして中には行政に電話する勇気(?)もない人がいる。
今日、某行政から「この資料が欲しい」と電話が来たので「テメェコラ!ふざけんな!去年それ付けて出したら『いらない』って送り返してきたじゃねーか!どっちかにしろ!」と・・
おや?喧嘩は嫌いのはずなんだが・・オカシイな・・?

つまり鶏さんがいう、喧嘩が苦手というレベルは我々常人にとっては・・以下略
しかしお客様の数と書く方の労力は無関係か・・・


外資社員様からお便りを頂きました(2012.05.18)
ケーススタディ 監査事務局3 によせて
いつも楽しいお話を有難う御座います。
出張の冒険体験は、酒のツマミになりますが、色々なことがありますね。
私も、旅費節約の為に、国内航空航空券は安売りチケットを使っていますが、時に勝負になります。 JAL,ANAの主要路線は便数が多いので、他社に振り返られないが、同一路線なら変更可能な安売りチケットはお徳です。
念の為に、最終便の予約して、早く終われば乗れるものに変えて帰ります。
たまに、アクシデントがあって、あわててタクシーを使うと、結局 割高になります(笑) 
JALが破綻した時に、チケット屋で買った株主優待券が使えなくなったので、あわてました。
総合してみると、安売りチケットで節約した分と、アクシデントで追加費用を比べると、どうもバランスしているかもしれません。
それでも、節約する気持ちが大事と思うか、ハラハラした分だけ損したと思うか、悩ましいです。

外資社員様 いつもお便りありがとうございます。
安売りチケットにまつわる失敗談、後悔はたくさんあります。そのわりに成功談はないような気がします。
山口県に行ったときのこと。仕事が予定より早く終わりました。一緒に行った人は正規のチケットだったので、速い便に変えて帰ってしまいました。私は安売りチケットで変更できず、宇部空港なんてド田舎に一人で2時間くらいいたことがあります。職員以外、空港にひとっこ一人いないのです。そのときはほんとうにみじめな感じがしました。
どうせ自分のお金じゃないとは思うのですが、出張旅費を考えると・・・貧乏性なのです。
ところで10年前、初めて北海道出張のときのこと。それまでパック旅行でグアムに行ったときしか飛行機に乗ったことがありません。飛行機の切符を買うのにどうするのかわからず・・笑い話のようですが、初めては誰にでもあるものです。
今ではちゃんと買えるようになりました。


ケーススタディの目次にもどる