ケーススタディ 力量5

12.06.09
劇中では、あっというまに3月となりました。森本と横山が環境保護部に異動になって早1年でございます。
森本と横山の研修も終わり、今日は最終課題の発表日である。二人の教育の仕上げは、具体的に当社グループの工場で調査を行い、ISO14001のEMSの問題点と改善策について報告することだ。
山田は二人の発表の場として、来客用の50人ほど入る会議室をとって晴れ舞台を用意した。そして二人がISO14001に基づくEMSの有効性の調査に協力してもらった、九州工場の環境管理課の辻井課長と関越工場の内山課長を招待した。そのほかに森本がいた千葉工場の井上課長も来ている。ISO9001を担当している品質保証部と、情報セキュリティや労働安全などのマネジメントシステムに関係している総務部などにも声をかけたところ、そういったISOのマネジメントシステムに関わっている部門から、参考になるかと期待して10名ほど顔を出している。その他に発表会の話を聞いて、事業部の課長クラスが数人興味半分で顔を出している。廣井と中野を含めると、都合20名を超える聴講者が集まった。


廣井
定刻になり環境保護部長である廣井が挨拶をする。
「環境保護部に異動してきた2名の教育の一環として『ISO14001のEMSの問題点と改善策について』というテーマで、実際に当社の工場において調査検討をしてもらいました。
ご存じのように当社のすべての工場は1990年代末にISO14001認証しました。それから10数年経過しました。ISO認証によって、工場の環境管理、それは公害防止だけでなく設計開発、営業、資材調達など全方位についてですが、はたしてどのくらいの効果が出ているのか、出ていないのかは重大な関心ごとです。ISO14001認証維持の費用は安くはありません。直接的な出費としては毎年の審査費用として1工場当たり100万以上かかっており、本社を含めれば鷽八百単体でも1300万くらい支出しています。しかしそれだけでなく、内部費用として担当者の人件費、ISO対応の書類や行事などにそれ以上にかかっています。端的な例として審査に対応するだけでも、そのロス時間は1工場の1回の審査で200時間位になると推定します。
1000人規模の製造業であれば審査工数は6人工(3人2日)くらいが普通であろう。審査員一人に常時3人対応しているとすると、6人×8h×3人=144hとなる。オープニングとクロージングに拘束される人数を考慮するとロス時間は200時間以上になるだろう。
もっともその時間をロスと言えるかどうかは、アウトプットしだいだろうけれど・・
果たしてISO認証による投資対効果はあるのかということは、誰もが関心のあるところだと思います。この疑問について森本と横山が、九州工場と関越工場の協力を得て調査を行いました結果の報告を行います。私自身も報告内容を知らないが、きっと面白くためになるものと期待しています」


山田
山田が司会である。
「発表時間は一人20分、質疑は二人の発表が終わってからとします。では横山さんからお願いします」
鷽八百社のシンボルマーク ISO14001のEMSの問題点
と改善策について

内部監査と順守評価の有効性
についての調査報告




環境保護部 横山怜奈
横山でーす
聴講者です おもしろそうだと聞きましたので 居眠りしなければよいが わしが廣井部長である 居眠りしなければよいが 10か月教えたんだからしっかり頼むぞ
遠くから来たんだ役に立てばよいが 次は僕だ、心配だなあ 遠くから来たんだ役に立てばよいが お、かわいい子だ ISOだ?犬に食わせろ 中野課長です


横山
「与えられた『ISO14001のEMSの問題点と改善策について』というテーマは非常に広範囲にわたるものです。私は環境遵法に限定して、ISO14001に基づくEMSが工場の遵法に有効に機能しているかという切り口から検討しました。
方法としては、毎年環境保護部が行っている環境監査において検出されている『法に関わる不適合』がISOの順守評価、内部監査、及びISO審査において検出されているのかどうかについて、過去6年間の記録をチェックしました。当社の工場は6つあり隔年で実施していますので、この6年間に18回監査が行なわれており、その結果、法に関わる不適合は合計35件発見されています。
工場の自主的な点検である順守評価と内部監査において、その前兆なりシステムの問題なりが検出されていたものは3件と判断しました。それ以前を含めてISO審査において問題あるいは問題発生の可能性が提起されていたものは皆無でした。また環境保護部の監査を受ける前に、自主的に検出して是正していたものは2件でした。これらから当社のISOの仕組みは遵法の効果を発揮していないと考えます。
次に九州工場にお願いして、過去3回の環境保護部の監査で検出された法に関わる不適合に関して、それ以前に行われた順守評価と内部監査の実施結果を現地にて確認しました。
まず内部監査において法順守に関してどのようなことを見ているかについて調べました。お断りしておきますが、ISO規格では内部監査で法順守を調べることは必須要件ではありません(annex A 5.5 参考1)。しかし法規制を把握する仕組みとその運用、順守評価の仕組みとその運用をチェックすることは規格要求事項ですから必須項目です。細かく言えばいろいろありますが、九州工場の内部監査ではその仕組みを規格との適合を点検していますが、そのアウトプットから法把握が有効かどうかを見ていません。つまり法規制を把握する仕組み、担当や手順や記録を形式上は点検していますが、具体的な法改正を取り上げて、それに対応した状況や、順守評価の方法や項目への反映状況を見ていません。
もうひとつ問題は、内部監査のチェックリストといいますか、質問の計画がISO規格項番そのままであること、質問がYES/NOのクローズドクエスチョンであること、更に実際の監査においても業務が生きて動いているかを見ているのではなく、文書記録の有無の点検がメインとなっていることでした。
順守評価も同じです。順守評価では九州工場が法を守っていることを見ていません。各部門に『遵法が大丈夫か?』というアンケートを送り、その回答をまとめているだけです。具体的に九州工場が関わる法規制と測定値や行政報告と比較参照をしていないのです。
ここで問題といいますか、ISO規格の解釈になりますが、ISO規格が求めている『順守評価』とはなにかということです。ISO規格の4.5.2の順守評価という項目では、『法的要求事項の順守を定期的に評価するための手順を確立し、実施し、維持すること』となっています。それは文字通り、会社が関わる環境法規制を守っているかを評価する仕組みを作って、点検しなさいということだろうと思いますが、仕組みを作ってはいるが点検していない、あるいは仕組みはあるものの法の順守を点検する仕掛けになっていないということでしょう。このような仕組みと運用であるため、工場内のPDCAにおいて遵法の確認が行われておらず、環境保護部の環境監査で法に関わる問題が指摘されたということです。ここで問題ですが、内部監査の場合は遵法確認は規格要求ではないという言い訳はあるでしょうけれど、順守評価において遵法を確認していない仕組みあるいは運用は完璧に規格不適合であることになります。
そしてISO審査の問題ですが、当社の工場の場合、ISO14001認証後10数年経過しており、その間の10数回のISO審査でこれが問題とされたことは全工場において一度もありません。つまり合計100回くらい行われているISO審査で問題とされたことが一度もないのです。
だから、当社のISOの仕組みが遵法に有効でなかったということは事実ですが、それだけでなくISO審査も当社のEMSがISO規格適合を判定するのに有効でなかったということが言えると思います。いや正しく言えば有効でなかったと言えるのではなく、ISO審査は順守評価が規格不適合であるということを検出できなかったのです。ISO審査で規格不適合を検出していないことは、審査が適正に行われていない、手抜きかISO審査員の力量不足ということが言えます。
私の調査の結論は、当社のISO14001のEMSが有効に機能していないということ、及びISO審査は有効でない、無用であるということです。ゆえにISO認証は環境法順守において効果がありません。詳細は私の社内技術報告書EMS-45001を見ていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました」
山田
「横山さん、ありがとうございました。ご質問は次の森本さんの発表後に合わせてお願いします。では森本さん、お願いします」
森本
「森本です。私は横山さんとは違ったアプローチを行いました。まずその前提として、私の自己紹介というか経歴を説明させてもらいます。私は昨年の3月まで10年近く千葉工場のISO担当者でした。私はISO審査員研修を受けて審査員補の登録もしていましたし、ISO14001規格は十分に理解しているつもりでした。では千葉工場はISO規格を体現した環境マネジメントシステムを備えて環境経営を行っていたかといえば、そうではありませんでした。しかし千葉工場にいるとき、自分がISO担当者でありながら、私はそれに気が付きませんでした。ISOのEMSに問題があると認識していなかったのです。
ここに千葉工場の井上課長もいらっしゃいますので誤解のないように説明いたします。今私が述べましたのは、千葉工場が遵法やリスク管理が不十分であったということとは違います。ISO14001の認証を受けているEMSに基づいて動いていなかったということです。ISO審査の時に見せている文書や記録と、実際の工場の管理運営は違っていた、俗にいうダブルスタンダードであったということです。
そのおかしな状況の原因を探れば、最初にISO認証したときの仕組みが、工場の真の環境管理のためではなく審査に合格することを目的としていたこと、そしてそれ以降10年以上営々とうそをついてきたということだと思います。私が入社したとき、既に現行の仕組みがありそれでISO認証を受けていました。責任転嫁するつもりはありませんが、私が入社したときは既にダブルスタンダードだったのです。私はISOのEMSとは、それが当たり前だと思っていたわけです。そしてそれ以降、私がその形だけのEMSをお守りしてきたのです。実質的なEMSはもちろん会社規則と職制で動いていたわけです。
きっかけはともかくそれがおかしいと気が付くと、なぜ私がそれを問題と認識しなかったのかということを考えました。それは単純なのですが、担当者つまり私がISO規格を理解していなかったからだというのがその結論でした。ではそれは自分が担当していた千葉工場以外に一般化できるのかということが、今回の私が調査したことです。
では本論に入ります。
まず当社の全工場6拠点と関連会社でISO14001認証している52社にアンケートを行いました。質問内容はISO規格をどのくらい正しく理解しているかという観点から設定しました。
アンケートの個々の質問事項は省きますが、ふたつだけ例をあげます。2004年にISO14001規格が改定になりました。ISO14001は企業に、環境改善の活動を行うことを求めていて、その環境改善の計画表を作ることも定めてあります。2004年改定でISO規格の中で、その計画表の名称が『環境マネジメントプログラム』から『実施計画』に名称が変わりました。アンケートでは、それまで会社の内部の計画表の名称を『環境マネジメントプログラム』としていたのを、ISO規格が改定されたのを受けで『実施計画』に名称を変更したかどうかを問い合わせしました。その結果、名称を変更した事業所はなんと、全体の8割以上になりました。残りの2割は名称を変更する必要がないと判断したところもありますが、もともと『環境マネジメントプログラム』という名称の物を作らずに、従来からの設備投資計画や新製品開発計画などをそのままISO14001規格でいうところの『環境マネジメントプログラム』に相当するものであると審査で説明していた事業所でした。
もうひとつは会社の文書番号あるいは文書名称を規格改定に合わせて変更したかどうかです。やはり2004年改定では規格要求の項目が一つ削除となり、一つ追加されました。そのため規格の番号がずれ、また一部項番のタイトルが変更になりました。それを受けて社内文書を変更したか否かを問いました。これによる改定も実に過半数の事業所で行っていました。実を言いまして私も千葉工場にいたときに、この規格改定に合わせた社内文書の改定を行っていました。
これは当社だけの問題ではないようです。『日経エコロジー』という雑誌の2012年1月号で『ISO14001事務局 10年目の本音』という記事で、会社の文書番号をISO規格の番号に合わせていて、2004年の規格改定で番号がずれてしまって困ったというバカみたいな話が載っていました。今の私はその発想をまったくおかしなことだと思いますが、1年前ならそれに同感したことは間違いありません。
現在ISO14001規格は、2015年を目標に改定作業が進められています。当社のかなり多くの事業所ではこの改定の方向を気にしており、認証機関が開催している規格改定状況の説明会に大金を払って聴講しているのが実態です。そして改定時には、すばやく社内の文書や記録を改定規格に合わせて名称変更や新規に作成して対応しようしているのです。
このような話を聞いて皆さんはどうお考えになるでしょうか。一体全体、会社はISO認証のために存在しているのか、ISO認証が会社のために存在しているのか。まずそれを再確認すべきでしょう。いや、そんなこと考えるまでもありません。すべての企業は定款を実行するために存在しています。私はISO規格のために存在している企業を寡聞にして知りません。そうしますと、ISO事務局そのものが会社に貢献しない無駄な仕事をしているのではないか、いやISO事務局の存在そのものが無駄だという疑問を持たないでしょうか。
だいぶ話がそれましたが、みなさん、いかに当社の大半の工場のISO担当者がISO規格を理解せず、ISO審査でトラぶらないこと、審査がしゃんしゃんと進むことに価値を置いているかということをご理解いただけたと思います。誤解を恐れずに言えば、ISO14001の意図である遵法と汚染の予防を実現するよりも、審査で不適合を出されないことを目的としているとしか思えないのです。
前述しましたように工場のEMSがISO向けと実際のものの乖離があることですが、アンケート調査では、なぜそうなるのかについても調査しました。割合などを数値では表示できませんが、定性的ですが次のような回答が得られました。
  • ISO審査において審査員とトラブルを避けるため
  • 担当者がISO規格を知らず外部の講習などを鵜呑みにして今に至る
  • そもそもISOの仕組みが現実のものであるという認識がない
  • 現実の環境管理は別であるとあきらめて、ISO用EMSは税金と認識している
関越工場のアンケート回答に『従来はISO審査員に言われるままに会社の文書や記録などを変えてきたが、2005年に全面的に改めて、ISOのための文書記録を一掃して、元々の会社の規則によって審査を受けるという改革をした』という報告をみて、今回関越工場を選びヒアリングしました。以下はそのヒアリングのサマリーです。
関越工場ではISOのための仕組みという考えを完全に否定しました。そしてISO以前から存在し、現実の環境管理の仕組みでISO認証を受けることを決定しました。その理由は、会社はISOのために無駄なことをする必要がないという理屈でした。 そのきっかけというのも面白いと言っては失礼なのですが、こんなことがあったそうです。
ある年の審査で、審査員A氏がある事項について不適合をだし、その変更を指示したそうです。関越工場はそれを受け入れて工場の規則を改定しました。その翌年別の審査員B氏がその方法はまずいとして不適合を出し改定方法を指示したのです。更にその翌年また別の審査員C氏が同じ件について不適合を出し、改善策として提示したのが元々関越工場で行っていた方法だったということです。
この話はよく聞くことで都市伝説と考えている人も多いことだろう。だが私は実際にあった事例を複数知っている。もっとも私はその会社の人間ではないから黙っていた。もし私が当事者ならただではおかなかった。
このばかばかしい出来事があってから、関越工場は審査員に指摘されてもそのまま受け入れずに議論するようになり、更にそもそも昔からある工場のルールをそのまま審査で見せて、改定するのではなく審査員を説得すべきだと考えたのです。そしてそれ以降実際に行ってきたということです。
例をあげますと、環境側面の特定と著しい環境側面の決定とは、ISO14001認証の最大のハードルです。環境側面のおかげで日本のISOコンサルは飯を食っていけるのではないかと思えるほどです。関越工場ではそれまで重大性・量・影響する期間などを点数化して計算していたのは日本の多くの企業と同じでした。それをまったくリセットして、新設備導入時、新化学物質導入時の安全衛生や該当法規制の調査と対策を行うことを著しい環境側面の決定であると位置づけました。
法規制の把握も従来は毎年法改正をリストアップして加除修正していたのを止めた。そして法改正があるときに行政や本社からの通知を基に対応することをISO規格の法規制の把握と対応に当てたのです。それは考えたというよりも、過去からしていることをそのまま示したということです。そのほかの要求事項についても同様の考え方で見直したのです。
仕組みを見直した後の最初のISO審査では相当もめたと聞きますが、結果としてそれで規格適合であると説明して審査員は了解しています。
この結果、金額的には把握していませんが、関越工場は不要な文書、記録を大幅に削減し、ISOのための社内行事といいますか、手間暇を大きく低減しています。なおISO審査もそれまでの大勢が出席していたものから、経営者、管理責任者、数人の関係者に限定し大幅削減をしています。
関越工場の考え方とそのアプローチは素晴らしいと思うのですが、なぜそれを当社あるいは当社グループ内に広めなかったのかと残念に思います。
ただ、関越工場のアプローチを調べるとまた新たな疑問がわきあがってきます。それはなぜそうまでしてISO認証をしなければならないのかということです。これについてはこれから別途発表します」

山田

「森本さんと横山さんは、それぞれの調査にとどまらず、二人の調査結果を合わせて当社グループのISO認証についての改善提案をまとめてくれました。次にその発表をしていただきます」

横山
「現状の当社のISO認証にはいろいろな問題があります。端的に言えばお金をかけている割に遵法や汚染の予防つまりリスク管理の効果がないということです。その原因として
 ・ISO認証する目的がはっきりしていない
 ・目的がはっきりしていないから、ISO認証の効果を評価していない
ことであろうと思います。問題対策のためには、ISO14001認証の目的を明確にすることが必要です。たとえ話ですが、単にISO認証することが入札などのためであれば、徹底的に軽いダブルスタンダードにすることが会社のためになると思います。誤解を恐れずに言えば、ダブルスタンダードが悪いという理屈もないはずです。
真に遵法と汚染の予防のためであれば、現行のISO審査が役に立っていないわけですから、認証を止めてしまう。そして当社が独自にEMSを改善し見直していくという方法が費用対効果という観点で最良の選択となると考えます。ではそれについては森本から報告します」

森本
「以上から、今後の当社グループのISO14001認証に対する対応は次のような選択肢があると思います。
  1. ダブルスタンダードであろうと、現状の認証方法を維持する。
  2. 現実のEMSに合わせて本音と建前のない完全一体のものに見直す
  3. 現在工場ごとに認証しているのを全社一体で認証する統合審査に変更して費用削減を図る。それを機会に表裏のないEMSに見直す。
  4. 認証を止めて自己宣言に移行する
  5. ISO以外の認証に切り替える
  6. 当社はISO14001を超えているので、もう認証しない旨公表する
どれもメリットデメリットがあります。しかし現在の景気は深刻で業界付き合いのためとか、環境経営度の点数を良くしようというような不純なといいますか、経営に貢献しないようなぬるま湯的発想が許される状況ではありません。冒頭に廣井部長からお話がありましたように、当社が認証機関に支払う金額は毎年1300万にもなり、これに認証のための社内工数、費用を含めれば億の費用が掛かっていると思われます。一億利益を出すためには、認証効果によって売り上げが30億くらい増加しなければならないわけです。もちろん、認証を継続するか否かは、単純な費用対効果で判断できるものではなく、経営レベルでの判断と考えます。
ただ我々の考えは、現行のISO審査の効果がないことを踏まえると、外部の審査を受ける意味はないこと、当社内について考えるとダブルスタンダードの事業所は無駄をしていることから、前述した6番目の当社はISO14001を超えているのでもう認証しない旨を公表することが最良の選択と結論しました。以上です」

廣井
「森本君、横山さん、どうもありがとう。正直言って私が予想していたよりはるかに考えてくれた。ISO9001の認証は減る一方で既にピークであった2006年に比べて16%減少、ISO14001はピークであった2009年に比べて5%減となっている(2012/6/1時点)。世の中の姿勢も、以前のようにISO認証していなければ買わないよという時代ではない。とはいえ、今回の報告ではISOに基づくEMSが効果を出しているのではないだろうかという疑問も解消されていない。いずれにしても今後1・2年で認証を止めるかということを決断することになるだろう。ただ今日の報告は定性的すぎる。当社の6工場も認証機関は3つあるし、審査員によるバラツキもあるだろう。本当はバラツキがあっては困るのだがね。もっと実態調査の範囲も精度も向上しなければ経営判断はできない。来年度はぜひともそういう観点での検討を進めてもらいたい」

それ以降、聴講者からたくさんの質疑、意見交換が続いた。
山田はこれで森本、横山の教育が一段落したこと、そして森本には積極性が、横山には環境管理の基礎知識が身についたと思った。



山田
環境保護部に戻ってから山田は廣井に話しかけた。
「二人の教育も一段落しましたので、これで任務完了ということでよろしいでしょうか?」
廣井
「任務完了なんて定年退職するまでありえないだろう。山田君が教育者として優れていることが分かったので新しい任務を命じる」
 山田山田は冗談はやめてくれという顔をした。
廣井
「そういう顔をするもんじゃない。
開発部の藤本部長が、今月の人事異動で部長解任になる。まあお歳も55歳なので役職を離れることはおかしくはないのだが、実は藤本さんは以前からISOの審査員になりたいと希望を出していて、人事部は業界が設立した認証機関とか当社が株主になっている認証機関をあたっていたんだ。そしたらEMSの審査員なら採用しても良いというところがあってね。但し審査員補登録していて、環境監査の経験者、環境法規制や企業の環境管理などある程度理解していることが条件なんだ。当たり前と言えば当たり前だけどね。それで藤本さんを今年の10月までの半年で、その条件を満たすように教育訓練をしてほしい」

山田
山田はギョエーとなった。
「私の本務は当社グループの環境監査と環境法関連の指導などでして・・」
廣井
「環境監査と環境法の指導といえば、藤本さんの教育そのものじゃないか。それに森本ももう一人前になったようだし、山田君も暇になって退屈だろう」

ということで力量シリーズはまだまだ続く懸念が・・・

本日の釈明
私はISO認証組織をかなりの数見てきたが、「ISOのため」に何事かしているというところが9割という感じを持っている。もちろんその中には、完璧に実体がなくバーチャルなところもあるし、実質的なEMSとISO用EMSが異なるダブルスタンダードもあるし、実質のEMSを審査で見せているが一部書類をISO審査のために作っているところも含める。
ISO審査のための書類など一切なくて会社の仕事をそのまま見せて『さあ、どうだ?』というところは1割ないと思う。
もちろんこれは認証を受ける組織の責任ばかりではない。そういうことに誘導してきた認証機関と審査員、そしてそのような指導をしてきたコンサルタント(社内の指導者を含む)に責任の過半があると私は断言する。
なにせ私は世の中のISO14001審査員の9割以上より、認証制度と関わってきた期間は長いのだ。いや経験だけでない。審査で議論をしたことは数あるが、私が間違っていたことは記憶になく、議論というより指導であったような気がする。
バーチャルでダブスタな仕組みが有効でないのは言うまでもない。有効でないものを無駄という。
ISO規格が有効でないのではなく、ISO規格に沿ったシステムが動いていないのだから実効性がないのは当然だ。ではISO規格に沿ったシステムが動いているなら実効性があるのかといえば、それは私の知る限り立証されていない。
誤解はないと思うが、ISO14001の規格要求が理想のものであるとか、最終形であるということはまったくない。もしISO14001が至高のEMSであるなら2004年改定や2015年改定が存在するはずがない。
ISO関係者がまじめに考えるべきことは、現行の規格を改定しようとか、QMSやEMSのISO規格を整合化しようとか、認定認証制度の信頼性を上げようということではない。
今、ISO関係者が考えるべきことは、ここまで形骸化した認証組織の実態を実のあるものにすることであり、そのアウトプットマターズが企業の業績を改善し活性化を図っているという実質的な効果を出して見せることだ。
規格の改定など、それが実現してからゆっくり考えればよいのだ。
2015年を目指しているというISO9001、ISO14001規格改定は、果たしてそういう効果を目指しているのだろうか? ISO丸が沈没しつつあるとき、一生懸命に船の甲板の掃除をしているようにしか私には見えない。ISO-TC委員も認定機関もその他の関係者も、船が沈みつつあるのを見て見ぬふりをしているのだろうか?

多少の自慢
この駄文は10,000字以上で原稿用紙に換算すると30枚になります。これを書くのに要した時間は・・・実は、あっという間ですわ



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012.06.09)
いや〜・・・彼らのような部下であって欲しい・・・(羨望

名古屋鶏様
いえいえ、私がそのように恵まれていたわけではありません。
私の願望ですよ・・・_| ̄|○


外資社員様からお便りを頂きました(2012.06.11)
ケーススタディ 力量5によせて
おばQさま、二人ともポイントを捉えて優秀な発表ですね。
但し、聴衆の中でも、ISO認証が重要と考える人はいるでしょう。
これから、そうした人の思い込みや信念も変えてゆく必要がありますよね。
まだまだ、必要な作業は多いのだと思います。

そんな中で、是非 検討して頂きたいのは、購買部門との連携です。
大手では、新規取引先の登録では、様々な調査があります。
その中で、ISO認証に関する質問表を頂くことが多いですよ。
質問で多いのは「現在 ISO認証を取得済か?」ですが、Noと書くと「いつ取得予定か?」と続けざまに回答が必要です。
こういう場合、過去認証を取得したが、自己認証に切り替えた場合の応え方は想定されていないのですね。
環境部門が自己認証、GP内は本社関連部門で第二社認証になるのは、GP企業の統制の面でも良いことと思います。ならば、ぜひ購買部門の取引先向けの資料も見直して頂きたいと思います。

外資社員様 いつもご指導ありがとうございます。
十二分にご存じとは思いますが、私が書きたいといいますか、伝えたいことは、横山や森本や山田のやりとりの中から、今のISO解釈や運用の間違いを指摘することでありまして、発表が良いとか彼らが優秀か否かはどうでも良いことです。といいますか、私が批判しようとしている人がこの駄文を読んで、自分のことかと思ってくれればいいなと思います。もちろん名古屋鶏様とかぶらっくたいがぁ様は、その皮肉を十二分に理解して悪乗りしているわけです。
外資社員様のご提案ありました、購買部門と認証の関わりについては、来週でも駄文をひねってみます。なにしろ、毎日が日曜日ですし、このような文を叩くのは2時間もあれば十分です。お待ちください。
ところで、GP企業 って何の略でしょうか?


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