ケーススタディ リース品

12.07.26
ISOケーススタディシリーズとは

五反田と藤本の二人が秋田の関連会社の監査に出かけた。環境に関する法律は五反田の方が詳しいと思われるが、環境保護部の監査には藤本の方が何度も参加しているので、二人が行けば相乗効果があるだろうと山田は思った。
まあ、二人とも大人なんだから経験と知識と才覚でやって行けるだろう。
ということで今日は山田一人静かに仕事をしている。



鶴田課長

鶴田課長

藤本と五反田が訪問したのは、秋田鷽販売という従業員50名程度の販売会社である。街の中心から4キロくらい離れた工業団地にオフィスがあった。販売会社だから工業団地にある必要はないだろうと思ったが、お客様が工業団地に多いのでそこに本社を置いたという。
駐車場からは遠くに街が見下ろせた。街は水田に囲まれて雄大な景色が楽しめる。冬は冬で素晴らしい眺めだろう。
監査の初めに社長と業務担当の取締役が顔を出したが、実際の監査の相手をしてくれるのは総務課長の 鶴田ひとりである。
会社の事業内容は販売が主で、工事のたぐいはしていない。車は20台くらいで法規制は関わらない。だから関係する法規制と言えば、廃棄物とエアコンのフロン関係くらいしかない。工業団地だから騒音規制はかからないし、団地で下水システムを備えているので浄化槽もない。
藤本と五反田は楽勝というか問題ないだろうと安心した。

五反田
「お宅でも産業廃棄物を出していると思いますが、契約書とかマニフェストとかありますか?」
鶴田課長
「当社から出る産廃といいますと、製品の梱包材ですね。段ボールはとても安いのですが売れます。しかし内装のパッキンなどやポリ袋、PPバンドなどは一般ごみでは出せないので産廃業者に出しています。オフィス什器はほとんど新規購入の時に下取りしてもらっています。OA機器は今まではリースでしたので廃棄の問題は心配なかったのですが、これからは買い取りの方が金額的にメリットがあるようで、そうなるとパソコンリサイクルに載せるようになりますね」

五反田はその他、エアコンの設置や更新時の処理について質問したが、鶴田の応答がまっとうだったので、大丈夫かなという心証であった。
藤本は別の机で契約書とマニフェストをチェックしている。
五反田
「藤本さん、私の方のヒアリングは終わりましたが、藤本さんのチェックの進捗はいかがですか?」
藤本
「もうほとんど終わりました。あと5分くらいです。1件変なものがありました。後で相談しましょう」


藤本
「私は廃棄物の契約書、マニフェスト、定期報告などをチェックしました。その結果、マニフェストの記載漏れが数枚ありましたが、それについては大きな問題ではないと思います。
1件、契約なしで交付しているマニフェストがありました。これは重大な問題なので、いきさつを教えていただけませんか」
鶴田は藤本の差し出したマニフェストを受け取ってながめた。
鶴田課長
「ああ、これはですね、昨年の夏に暖房用のボイラーを更新したのですよ。ここは寒いのでエアコンだけでは暖房できないので、灯油ボイラーで暖房しています。ボイラーそのものはリース品でして、寿命が来たので更新しました。そのとき工事業者が廃棄物処理をしたのでマニフェストだけ受け取ってくださいというのでこちらが保管していたのです」

藤本と五反田が顔を見合わせた。鶴田は法律を全然理解していないようだ。
二人はしげしげとマニフェストを眺める。

産業廃棄物管理票(マニフェスト)
交付年月日 20YY/MM/DD交付番号20000143541整理番号交付者 
排出者 秋田鷽販売

排出事業所 秋田鷽販売

■ 産業廃棄物
廃プラ
金属屑
ガラス屑


□ 特管産業廃棄物数量   荷姿 バラ
産業廃棄物の名称 ボイラー
有害物など  処分方法
備考通信欄
中間処理産業廃棄物 *******************
最終処分の場所 契約書に同じ
運搬受託者 ブロイラー工事店
運搬先の事業所 五味処理(株)
処分受託者 五味処理(株)
積み替え又は保管 *******
運搬担当者ブロイラー林運搬終了日 yy/mm/dd有価物収集量
処分担当者五味 本間処分終了日 yy/mm/dd最終処分終了日 yy/mm/dd
最終処分を行った場所 ○県○町○番地照合確認



五反田
「なんだこりゃ、この伝票では御社が排出していることになりますよ」
藤本
「このマニフェスト伝票を見ますと、御社が産廃を排出していることになりますが、御社ではブロイラー工事店と、また五味処理株と産廃契約していますか?」
鶴田課長
「はあ? なんのことでしょうか?」
藤本
「契約はしていないのですか、そうですか。そうしますとこれは処理委託契約なしで産廃処理を委託したという違反になります」
五反田
「そのほかに、そのブロイラーと五味処理は産廃の許可を受けているのでしょうか?」

藤本
藤本は携帯しているノートパソコンで産廃業者検索をする。
「やや! 五味処理(株)は許可業者だけど、ブロイラーは収集運搬の許可はないよ」

五反田
五反田はパソコンを覗き込んでから
「鶴田課長さん、ちょっと問題がありそうですが、この廃棄物の経過を教えてくれませんか?」

鶴田課長
鶴田課長は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして説明を始めた。
「暖房用のボイラーは固定資産税の関係でリースでした。今回寿命が来て更新しましたが、これもリースです。ボイラーと設備一式は軍鶏(しゃも)ボイラ(株)という会社から購入というか取引して、リース契約は軍鶏の紹介で銭下馬(ぜひげば)クレジットというところと契約しました。今回も同じクレジット会社です。
当社の相手は軍鶏ボイラ(株)ですが、実際の撤去は設置工事はその下請のブロイラー工事店というところが来て行いました。そのとき撤去したボイラーは廃棄物として処理しなければならないのでマニフェストを交付する。それを受け取ってほしいということでした」
リースの関係図
五反田
「いやはや、これは大問題になってしまう。既にだいぶ月日が経っているので後追いで契約書を取り交わすこともできないし、そもそもブロイラー工事店が産廃の許可がないのだから・・
いや小規模な工事廃棄物なら許可なくても運搬できるようになったのは2011年4月からだから、そこは合法なのだろうか?」
藤本
「下請が建設廃棄物運搬云々は、元請の廃棄物である時だよ。この場合はお客様である秋田鷽の廃棄物としているから、その考えは通用しない」
五反田
「そうか、その考えはだめか。じゃ、藤本さん、これはどうしたものでしょうかねえ?」
藤本
「五反田さん、そんな心配することではないと思うよ。
鶴田課長さん、軍鶏ボイラの担当者を教えてください」

鶴田は一旦自分の机に行って名刺を持ってきた。

藤本
藤本はそれをみて携帯電話をプッシュした。
「軍鶏ボイラさんですか。はじめてお電話いたします鷽機械工業の藤本と申します。ええと、秋田鷽販売をご担当の宇佐美様をお願いしたいのですが。おお、宇佐美様でしたか、失礼いたしました。
あのですね、昨年夏に秋田鷽のボイラーを交換していただいたのですが、覚えてらっしゃいますか? ああ、それはよかった。それでですね、そのとき古いボイラーはどのように処理されたのでしょうか?」
電話口の向こうでなにやら話をしている。
藤本
「分りました。それじゃ、銭下馬クレジットさんのご担当者のお名前を教えていただけますか?
 ハイハイ、分りました。ありがとうございます」
藤本が電話を切ると、五反田と鶴田が心配そうに寄ってきた。
藤本
「話がおかしいんだが、軍鶏の担当者はここから撤去した古いボイラーは形の上では銭下馬クレジット社に返却し、銭下馬が廃棄物業者に委託したという。それで契約とかマニフェストについては何も知らないという。運搬は面倒だから工事を頼んだブロイラーに直接廃棄物業者に運ばせたという。どうも訳の分からない話だ。
ちょっと待ってくださいね。銭下馬に電話をしてみますから」

藤本
藤本はまた携帯電話をプッシュする。
「銭下馬クレジットさんですか。はじめてお電話いたします鷽機械工業の藤本と申します。リースのご担当者をお願いしたいのですが。ハイ、秋田県の秋田鷽販売という会社とのリース契約について・・そうです・・」
「お世話になっております。秋田鷽販売のリースの件でお問い合わせいたしております。私は秋田鷽販売の親会社の藤本と申します。昨年夏に御社とリース契約していたボイラーを更新したことをご存じと思います。ハイハイ、そうです。そのとき古いボイラーの処理をどうされたのか確認したいのですが。と言いますのは、現在弊社の監査を行っているのですが、秋田鷽がそのボイラーのマニフェストを交付しているのです。しかし廃棄物業者と契約した形跡がなく・・
はあ? ああ、そうですか、御社の財産ですよね、ハイハイ、そうですか、すみませんが売買契約のコピーをいただけますか。そうですか、すみませんね。ハイ、私は鷽八百機械工業の環境保護部、藤本と申します。は役職ですか、担当部長を拝命しております。ありがとうございました」

電話を切ると、藤本は二人の方を向いてにっこりした。
藤本
「世の中で解決できない問題はない。今回は問題でさえなかったよ。鶴田課長さん、すみませんが、私宛にFAXがくるはずなのでそれを拾ってきてくれませんか」
鶴田は部屋を出て行った。
五反田
「藤本さん、どんな魔法を使ったんですか?」
藤本
「元々、単純な間違いなんだ。法律を知らないとこんなことも起きるというだけだ」
 鶴田課長鶴田が紙を持って登場。

藤本
「ありがとうございます。うーん、金千円也か、ゼロ円ではないというところか。
ええと、単純な間違いがあっただけです。法違反はありません。
元々、御社がリースしていたボイラーの所有権は銭下馬クレジット社にあります。リースとはそういうものですから。ボイラーを更新しましたが、リース契約の上では、以前のボイラーはリースアップしたということで、当然旧品は銭下馬クレジットに返却になります。
設置工事や撤去工事は銭下馬が軍鶏ボイラに発注し、軍鶏ボイラがブロイラーに下請したということです。でも取り外しても所有権が銭下馬にあることは変わりません。
旧品は銭下馬に返すのが筋道ですが、銭下馬としても再リースできるわけはなく、運賃をかけずに処分することを考えました。この近くにある五味処理(株)という廃棄物業者に産廃ではなく金属屑として売却することにしたのです。そして軍鶏ボイラに五味処理まで運搬して引き渡すよう指示しました。軍鶏はそれも下請のブロイラーに頼んだわけです。
それで済めば何の問題もなかったのですが、ブロイラーは軍鶏の下請で工事するときはいつも軍鶏からマニフェストを交付するように言われていたんですね。今回は軍鶏から何も言われていなかったのですが、交付しないと違反になるということが頭にあり、また軍鶏の名前で書くわけにもいかず、鷽秋田の名前を書いたというのが真相のようです」
五反田
「そうすると、ブロイラーが必要のないマニフェストを書いて、こちらに渡したので契約書がないのでおかしいとなったわけですか?」
藤本
「そうです。銭下馬としては廃棄物ではないから契約書もマニフェストも不要です。ボタンのかけ違いというよりも、法律を知らない人同士でおかしな事態になってしまったということです」
鶴田課長
「私には内容がよく分りませんが、法違反はないということでよろしいんですね」
藤本
「鶴田課長さん、法違反はありません。しかし原因の対策はこれからですよ。鶴田課長さんが、よく分らないということ自体が問題なんです。ブロイラーの間違いとはいえ、お宅さんがブロイラーからマニフェストを渡された時点で、これはおかしいと指摘しなければいけません。それに、法律を知らなくても赤の他人に自社の名前を帳票に書かれたら問題だと考えないとおかしいじゃないですか」
鶴田課長
「はあ、じゃあ、どうすればいいのでしょうか?」
五反田
「環境の法規制といっても、御社が関わるのは廃棄物とフロン関係くらいでしょう。それらについての手順をよく理解するしかありませんね」
藤本
「今後、鷽八百社が主催して環境法規制の説明会を行いますから、ぜひご参加ください。そうしていただければ大丈夫ですよ」



翌日、山田は戻ってきた藤本と五反田から報告を聞いた。
山田
「藤本さん、さすがですね。クレジット会社にまで問い合わせして確認したとは。
工場から派遣された普通の監査員なら、契約せずに処理委託した大問題だと監査報告書に書いて監査部をあわてさせるのが相場です」
藤本
「いやいや、自分で納得できなかっただけですよ。どこかおかしいのだけど、どこでおかしいのかわからないと自分の気持ちが治まりません。それだけですよ」
五反田
「藤本さんのアプローチというか、進め方に感服しました。今後いろいろとご指導をお願いします」
山田
「五反田さんには悪いけど、出張は基本的に一人で行ってもらう。同じ成果を出すのに二人もかけたら部門費がパンクしてしまう」


横山
二人が席に戻るのを見計らって、横山が山田の席に来た。
「山田さん、いつになったら私を使ってくれるんですか!」
山田は文句を言う横山を見て、こいつはストーカーじゃねえかのと心の中で思った。
山田
「そううまい具合に、横山さんのためにトラブルが発生することはありませんよ。それに、もし横山さんの手におえないときはどうするのですか?」
横山
「私が処理できない問題なんてないです」
山田
「分りました。次回トラブルが起きたら横山さんに担当してもらいます」

うそ800 本日のきっかけ
昨日、名古屋鶏さんから産廃についての質問をいただいた。それはたいして難しいことではなかったが、過去を思い返すとつまらないことで悩んでいる人が多かったことを思いだした。それでそんな事例をマイルドに脚色して書いた。書くのはあっという間で、1時間もかからなかった。私は仕事が早いのはもちろん、駄文を書くのも超速いのだ。
おっと、その鶏さんからの質問と本日の内容は関係ない。

うそ800 本日の予告編
スノーホワイトじゃなかった、横山姫のご活躍を乞うご期待


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/7/24)
まだ生きている鶏です。かろうじてですが。
本家のコメントです。先日は重ね重ねお世話になりました。
自分で確信のあることでも、「違います!」と言い切られると「え?間違ってたか?」と疑心暗鬼になるものです。助かりました。
それにしても今回のネタはまるで青木雄二の「ナニワ金融道」のようでしたねw リアルなネタはホントに勉強になります。

鶏さん 毎度ありがとうございます
いえね、トラブルこそ我ビジネス、驚いちゃいけません。
引退した今は、トラブルが起きようがない。
嗚呼、天は我を忘れたか・・・老人はただ老いるのみ
ナニワ金融道・・・ようし、わしはナニワISO道じゃあ・・・受けませんか


ケーススタディの目次にもどる