鶴田課長 |
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「お宅でも産業廃棄物を出していると思いますが、契約書とかマニフェストとかありますか?」
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「当社から出る産廃といいますと、製品の梱包材ですね。段ボールはとても安いのですが売れます。しかし内装のパッキンなどやポリ袋、PPバンドなどは一般ごみでは出せないので産廃業者に出しています。オフィス什器はほとんど新規購入の時に下取りしてもらっています。OA機器は今まではリースでしたので廃棄の問題は心配なかったのですが、これからは買い取りの方が金額的にメリットがあるようで、そうなるとパソコンリサイクルに載せるようになりますね」 五反田はその他、エアコンの設置や更新時の処理について質問したが、鶴田の応答がまっとうだったので、大丈夫かなという心証であった。 藤本は別の机で契約書とマニフェストをチェックしている。 | |
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「藤本さん、私の方のヒアリングは終わりましたが、藤本さんのチェックの進捗はいかがですか?」
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「もうほとんど終わりました。あと5分くらいです。1件変なものがありました。後で相談しましょう」 ●
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「私は廃棄物の契約書、マニフェスト、定期報告などをチェックしました。その結果、マニフェストの記載漏れが数枚ありましたが、それについては大きな問題ではないと思います。 1件、契約なしで交付しているマニフェストがありました。これは重大な問題なので、いきさつを教えていただけませんか」 鶴田は藤本の差し出したマニフェストを受け取ってながめた。 |
「ああ、これはですね、昨年の夏に暖房用のボイラーを更新したのですよ。ここは寒いのでエアコンだけでは暖房できないので、灯油ボイラーで暖房しています。ボイラーそのものはリース品でして、寿命が来たので更新しました。そのとき工事業者が廃棄物処理をしたのでマニフェストだけ受け取ってくださいというのでこちらが保管していたのです」 藤本と五反田が顔を見合わせた。鶴田は法律を全然理解していないようだ。 二人はしげしげとマニフェストを眺める。 |
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「なんだこりゃ、この伝票では御社が排出していることになりますよ」
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「このマニフェスト伝票を見ますと、御社が産廃を排出していることになりますが、御社ではブロイラー工事店と、また五味処理株と産廃契約していますか?」
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「はあ? なんのことでしょうか?」
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「契約はしていないのですか、そうですか。そうしますとこれは処理委託契約なしで産廃処理を委託したという違反になります」
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「そのほかに、そのブロイラーと五味処理は産廃の許可を受けているのでしょうか?」
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藤本は携帯しているノートパソコンで産廃業者検索をする。 「やや! 五味処理(株)は許可業者だけど、ブロイラーは収集運搬の許可はないよ」 |
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五反田はパソコンを覗き込んでから 「鶴田課長さん、ちょっと問題がありそうですが、この廃棄物の経過を教えてくれませんか?」 |
鶴田課長は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして説明を始めた。 「暖房用のボイラーは固定資産税の関係でリースでした。今回寿命が来て更新しましたが、これもリースです。ボイラーと設備一式は軍鶏(しゃも)ボイラ(株)という会社から購入というか取引して、リース契約は軍鶏の紹介で銭下馬(ぜひげば)クレジットというところと契約しました。今回も同じクレジット会社です。 当社の相手は軍鶏ボイラ(株)ですが、実際の撤去は設置工事はその下請のブロイラー工事店というところが来て行いました。そのとき撤去したボイラーは廃棄物として処理しなければならないのでマニフェストを交付する。それを受け取ってほしいということでした」 ![]() | |
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「いやはや、これは大問題になってしまう。既にだいぶ月日が経っているので後追いで契約書を取り交わすこともできないし、そもそもブロイラー工事店が産廃の許可がないのだから・・ いや小規模な工事廃棄物なら許可なくても運搬できるようになったのは2011年4月からだから、そこは合法なのだろうか?」 |
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「下請が建設廃棄物運搬云々は、元請の廃棄物である時だよ。この場合はお客様である秋田鷽の廃棄物としているから、その考えは通用しない」
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「そうか、その考えはだめか。じゃ、藤本さん、これはどうしたものでしょうかねえ?」
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「五反田さん、そんな心配することではないと思うよ。 鶴田課長さん、軍鶏ボイラの担当者を教えてください」 鶴田は一旦自分の机に行って名刺を持ってきた。 |
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藤本はそれをみて携帯電話をプッシュした。 「軍鶏ボイラさんですか。はじめてお電話いたします鷽機械工業の藤本と申します。ええと、秋田鷽販売をご担当の宇佐美様をお願いしたいのですが。おお、宇佐美様でしたか、失礼いたしました。 あのですね、昨年夏に秋田鷽のボイラーを交換していただいたのですが、覚えてらっしゃいますか? ああ、それはよかった。それでですね、そのとき古いボイラーはどのように処理されたのでしょうか?」 電話口の向こうでなにやら話をしている。 |
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「分りました。それじゃ、銭下馬クレジットさんのご担当者のお名前を教えていただけますか? ハイハイ、分りました。ありがとうございます」 藤本が電話を切ると、五反田と鶴田が心配そうに寄ってきた。 |
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「話がおかしいんだが、軍鶏の担当者はここから撤去した古いボイラーは形の上では銭下馬クレジット社に返却し、銭下馬が廃棄物業者に委託したという。それで契約とかマニフェストについては何も知らないという。運搬は面倒だから工事を頼んだブロイラーに直接廃棄物業者に運ばせたという。どうも訳の分からない話だ。 ちょっと待ってくださいね。銭下馬に電話をしてみますから」 |
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藤本はまた携帯電話をプッシュする。 「銭下馬クレジットさんですか。はじめてお電話いたします鷽機械工業の藤本と申します。リースのご担当者をお願いしたいのですが。ハイ、秋田県の秋田鷽販売という会社とのリース契約について・・そうです・・」 「お世話になっております。秋田鷽販売のリースの件でお問い合わせいたしております。私は秋田鷽販売の親会社の藤本と申します。昨年夏に御社とリース契約していたボイラーを更新したことをご存じと思います。ハイハイ、そうです。そのとき古いボイラーの処理をどうされたのか確認したいのですが。と言いますのは、現在弊社の監査を行っているのですが、秋田鷽がそのボイラーのマニフェストを交付しているのです。しかし廃棄物業者と契約した形跡がなく・・ はあ? ああ、そうですか、御社の財産ですよね、ハイハイ、そうですか、すみませんが売買契約のコピーをいただけますか。そうですか、すみませんね。ハイ、私は鷽八百機械工業の環境保護部、藤本と申します。は役職ですか、担当部長を拝命しております。ありがとうございました」 電話を切ると、藤本は二人の方を向いてにっこりした。 |
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「世の中で解決できない問題はない。今回は問題でさえなかったよ。鶴田課長さん、すみませんが、私宛にFAXがくるはずなのでそれを拾ってきてくれませんか」 鶴田は部屋を出て行った。 |
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「藤本さん、どんな魔法を使ったんですか?」
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「元々、単純な間違いなんだ。法律を知らないとこんなことも起きるというだけだ」
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「ありがとうございます。うーん、金千円也か、ゼロ円ではないというところか。 ええと、単純な間違いがあっただけです。法違反はありません。 元々、御社がリースしていたボイラーの所有権は銭下馬クレジット社にあります。リースとはそういうものですから。ボイラーを更新しましたが、リース契約の上では、以前のボイラーはリースアップしたということで、当然旧品は銭下馬クレジットに返却になります。 設置工事や撤去工事は銭下馬が軍鶏ボイラに発注し、軍鶏ボイラがブロイラーに下請したということです。でも取り外しても所有権が銭下馬にあることは変わりません。 旧品は銭下馬に返すのが筋道ですが、銭下馬としても再リースできるわけはなく、運賃をかけずに処分することを考えました。この近くにある五味処理(株)という廃棄物業者に産廃ではなく金属屑として売却することにしたのです。そして軍鶏ボイラに五味処理まで運搬して引き渡すよう指示しました。軍鶏はそれも下請のブロイラーに頼んだわけです。 それで済めば何の問題もなかったのですが、ブロイラーは軍鶏の下請で工事するときはいつも軍鶏からマニフェストを交付するように言われていたんですね。今回は軍鶏から何も言われていなかったのですが、交付しないと違反になるということが頭にあり、また軍鶏の名前で書くわけにもいかず、鷽秋田の名前を書いたというのが真相のようです」 |
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「そうすると、ブロイラーが必要のないマニフェストを書いて、こちらに渡したので契約書がないのでおかしいとなったわけですか?」
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「そうです。銭下馬としては廃棄物ではないから契約書もマニフェストも不要です。ボタンのかけ違いというよりも、法律を知らない人同士でおかしな事態になってしまったということです」
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「私には内容がよく分りませんが、法違反はないということでよろしいんですね」
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「鶴田課長さん、法違反はありません。しかし原因の対策はこれからですよ。鶴田課長さんが、よく分らないということ自体が問題なんです。ブロイラーの間違いとはいえ、お宅さんがブロイラーからマニフェストを渡された時点で、これはおかしいと指摘しなければいけません。それに、法律を知らなくても赤の他人に自社の名前を帳票に書かれたら問題だと考えないとおかしいじゃないですか」
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「はあ、じゃあ、どうすればいいのでしょうか?」
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「環境の法規制といっても、御社が関わるのは廃棄物とフロン関係くらいでしょう。それらについての手順をよく理解するしかありませんね」
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「今後、鷽八百社が主催して環境法規制の説明会を行いますから、ぜひご参加ください。そうしていただければ大丈夫ですよ」
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翌日、山田は戻ってきた藤本と五反田から報告を聞いた。
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「藤本さん、さすがですね。クレジット会社にまで問い合わせして確認したとは。 工場から派遣された普通の監査員なら、契約せずに処理委託した大問題だと監査報告書に書いて監査部をあわてさせるのが相場です」 | |
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「いやいや、自分で納得できなかっただけですよ。どこかおかしいのだけど、どこでおかしいのかわからないと自分の気持ちが治まりません。それだけですよ」
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「藤本さんのアプローチというか、進め方に感服しました。今後いろいろとご指導をお願いします」
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「五反田さんには悪いけど、出張は基本的に一人で行ってもらう。同じ成果を出すのに二人もかけたら部門費がパンクしてしまう」 | |
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二人が席に戻るのを見計らって、横山が山田の席に来た。 「山田さん、いつになったら私を使ってくれるんですか!」 山田は文句を言う横山を見て、こいつはストーカーじゃねえかのと心の中で思った。 |
「そううまい具合に、横山さんのためにトラブルが発生することはありませんよ。それに、もし横山さんの手におえないときはどうするのですか?」
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「私が処理できない問題なんてないです」
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「分りました。次回トラブルが起きたら横山さんに担当してもらいます」
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まだ生きている鶏です。かろうじてですが。 本家のコメントです。先日は重ね重ねお世話になりました。 自分で確信のあることでも、「違います!」と言い切られると「え?間違ってたか?」と疑心暗鬼になるものです。助かりました。 それにしても今回のネタはまるで青木雄二の「ナニワ金融道」のようでしたねw リアルなネタはホントに勉強になります。 |
鶏さん 毎度ありがとうございます いえね、トラブルこそ我ビジネス、驚いちゃいけません。 引退した今は、トラブルが起きようがない。 嗚呼、天は我を忘れたか・・・老人はただ老いるのみ
ナニワ金融道・・・ようし、わしはナニワISO道じゃあ・・・受けませんか
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