「はい、環境保護部です。ハイハイ、そうですか、もちろんです。こちらから伺いましょうか? あ、そうですか、ではお待ちしております」 横山は電話を切ると、山田のところに来た。 | |
「山田さん、宣伝部が、展示物やデスプレイをお台場の倉庫会社に保管しているんですけど、不要になったので捨てたい。それで相談したいとのことです」
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「電話の話が聞こえてしまったのだけど、横山さんが対応するようだよね」
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「まあ、私が対応してよろしいんですか♥」 | |
「だってそう決めちゃったんだろう。私は顔を出せないが、横山さん一人で大丈夫か」
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山田は藤本の席を見て、今日は関連会社の監査で出張だったことを思い出した。五反田は山田の隣の席で、非製造業の教育の募集のこまごまをしている。
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「五反田さん、今から1時間位お付き合いしてもらっていいかな?」
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「ハイ、なんでしょうか?」
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「宣伝部が廃棄物の相談にくるそうだ。横山さんが対応するが、同席してほしい。もし横山さんがわからないことがあればアドバイスしてほしい。つまり指導教官だよ」
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「了解しました。横山さん、場所はどこですか?」
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「打ち合わせコーナーで、今からです」
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ちょうどそのとき、宣伝部の人が現れた。 三人は打ち合わせコーナーに座った。 | |
「武本と言います。このたびはよろしくお願いします」
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「先ほど電話を受けた横山です。こちらは五反田さんです。展示物を捨てたいとのことですが」
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「そうなんですよ。1年前の展示会で使ったモデルなんです。それは当社製品を10倍くらいに拡大して作ったものなんです。捨てたいのはそのモデルと展示台なんです。展示会終了時はもったいなくてまた別の機会で使うだろうって保管していたんですけどね。製品もモデルチェンジになって、今では使うあてがありません。倉庫の整理をするように言われているので、これを機会にと思いました」
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「特段難しいことはないと思います。まず委託する業者の選定をしなければなりませんが、ここの総務部が契約している廃棄物業者に依頼したら良いと思います。そうすれば業者の調査もしなくても良いし、本社所在地の大手町もお台場倉庫も行政区としては同じですから、廃棄物の契約書締結する手間も省けます。いっそのこと、廃棄物の処理を総務部にお願いしてしまえば、業者を呼んで引き渡してくれるでしょうしマニフェスト交付も総務部がしてくれると思いますよ。
なんでしたら私が口をきいてあげましょうか」 横山がしゃべるのを聞いていた武本は横山をさえぎった。 | |
「横山さん、実を言ってそういう基本的なことはわかっているのです。相談したかったのは、展示台などの所有権がどうなのかわからないのですよ。それでどうしたらいいか教えてほしかったのですが」
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「はあ? どういうことですか?」
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「展示会を行うとき、当社はいくつかの広告代理店に提案を依頼し、それらの広告代理店が展示の案を持ってきます。各社のプレゼンをみて、その中から選んだ広告代理店と契約します。そして広告代理店がイベントに展示するものを制作にかかります。もちろん実際には広告代理店ではなく、下請け、孫請け、その彦請けに流れて制作されるのです。 そして展示会が終わると、普通は製作に関わった、下請、孫請けが展示物を持ち帰り、別のイベントでパーツを再活用するか、あるいは廃棄物として捨てているようです。そのへんはよくわかりません」 横山はそんな仕事をしたことがないので、黙って聞いていた。 | |
「今回の物は、そのイベントの時に私たちが再活用するということで当社が持ってきたんですが、そのとき広告代理店からも、その下請からもなんも所有権について言われませんでした。そして今廃棄しようとしているんです。 これってどうしたらいいのでしょう? こちらの一存で廃棄しても問題ないのでしょうか?」 | |
「へえー・・・」
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横山も声が出ないというか、相手の要望に応えるすべがないようだ。 若干の沈黙ののち、五反田が声を出した。 | |
「脇から口を挟んで恐縮ですが、そもそも広告代理店との契約はどうなっているのですか?」
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「契約がどうなっているのかとおっしゃいますと?」
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「宣伝部が発注している内容ですよ。非常に基本的なことですが、展示物を作る契約なのか、展示をする役務提供の契約なのかですね」
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「そんなこと考えたこともないです。ただ過去から当社は物を受け取ってはいないです。イベントが終わればお金を払っておしまいです」
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「そうですか、とすると、発注は物品ではなく、イベントの運営というかイベントそのもののサービスを発注していたのではないですか? 発注金額は結構になると思いますので、もし物を購入したとすれば固定資産になるのではないですか? たぶんお宅ではイベントで作成したものを固定資産にはしていないでしょう」 五反田が話すのを、横山は嬉しくないような顔をして聞いている。 | |
「そう言われると、固定資産など考えたことありませんね。じゃあ、展示の設営とコンパニオンの調達や運営、そして撤去まで一式のサービスを委託していたということになりますね」
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「そういうことは珍しくもなんでもないのですよ。そうすると、今倉庫にある物は宣伝部の資産じゃなくて、広告代理店の持ち物になるのかもしれません」
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「となると、当社の資産ではないのだから、当方の一存では捨てられませんね。広告代理店に確認しなければ」
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「実は廃棄物の処理責任は所有者ではなく占有者なのです。今、現実に宣伝部が占有しているといえるでしょうから、宣伝部が決定して廃棄しても、廃棄物処理法的には違法とは言えません。 ただ、財産という観点からみて、広告代理店の資産とすれば、財産権の侵害になってしまいます。あとで広告代理店から返せと言われたり、捨ててしまったことを責められる可能性はあります。 一年前に当社が持ち帰ったときも、所有権は広告代理店にあるけど、客先である当社がまた別のイベントで使うならしょうがないと向こうが思っただけかもしれません。所有権は放棄しないつもりだったかもしれません。 それに役務提供の契約ならば、ひとつのイベントの契約ですから、作成したものを別のイベントで使うことが契約に違反していた可能性もあります。一度そこを確認しておいた方が良いですね。それは廃棄物処理法ということではなく、民事の契約関係です」 | |
「五反田さん、おっしゃるとおりですね。早速広告代理店と話し合ってみます」
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「それと今後むやみに展示物を持ち帰るのはどうかと思いますよ。発注者は立場が強いから先方は何も言わないかもしれませんが、サービスの契約であったとき、先方の所有物であれば持ち帰るのはいけません。 対外的には契約関係もありますし、社内的には固定資産の登録もあるでしょう」 | |
「固定資産の件ですが、もし向こうが所有権を放棄したとして、へたすると当社が固定資産登録が漏れていたということになってしまいますね。しかし今更固定資産にして、すぐさま廃棄というのもばかばかしいですね」
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「それよりもなによりも、経理は対応してくれないと思います」
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「そうなると広告代理店が引き取ってくれないと困ります」
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「虫のよい話かもしれませんが、一番は広告代理店で引き取ってもらえばありがたいですね。それなら廃棄物処理法にも、固定資産の問題もないですから」
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「いや五反田さん、ためになりました。話がつかないときは、また相談に乗ってくださいね」
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武本は帰って行った。
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「五反田さん、私は不満です」
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「はあ、なんでしょうか?」
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「私だって固定資産のことくらい知ってますよ。私が主担当なのだから、五反田さんは黙っていて私に任せてくれればよかったでしょう」
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「資産処理の話になって横山さんが黙ってしまいましたので、助け舟を出したつもりだったのですが、まずかったですか?」
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「私は武本さんが廃棄物処理法の話できたと思ったのに、話の方向が変わったのでどうなるのかと思っただけよ」
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山田が給茶機に来てコーヒーを注いでいると、二人がもめているので打ち合わせコーナーに顔を出した。
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「お二人さん、どうしたの?」
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「今回の依頼の担当は私だと思っていたのに、五反田さんが主導権をとってお話を進めたからですよ」
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「まあ、先方のご相談内容が廃棄物処理というよりも、資産処理のことでしたので、ちょっと口を挟んでしまいました。申し訳ありません」
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「資産処理の問題なら、初めからそういえばいいのに、調子狂っちゃうわ」
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「皆さんの声が大きいので事務所中に聞こえたよ。だから、いきさつは大体はわかっている。 横山さん、環境問題というものは単独で存在しないし、環境法規制というものも存在しません。会社でも社会でも問題が起きた時、それが環境とか品質とか安全とかその他の一つのカテゴリーにくくれるわけはなく、さまざまなカテゴリーに関わっています。いや、そういう発想自体が間違いで、すべての問題はいろいろなことに関わるから、さまざまな観点から考えなければならないということでしょう。 先日HTML社を訪問したとき横山さんだって、審査報告書を外為法や刑法とか民法の観点から問題を提起したじゃないですか。それと同じですよ。まず現状をよく聞いて、問題は何か、いや相手が相談したいことはなにかを把握しないといけませんよ。 それに一人で何でもできるわけではないのだから、五反田さんのアドバイスに感謝しなければね」 | |
横山はブスっとしていたが、山田の話はかなり効いたようだ。 五反田はと見ればこのおっさんニコニコしている。年の功なのか、横山よりはうわてだ。 ●
数日後、山田は廣井と中野に、横山の扱いをどうするか相談した。
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「横山さんも最近張り切って監査に行きたいとか、問題があったら自分が担当するとか積極的なんですが。まだまだいろいろな意味で一人前ではありません。本人の意思を尊重すれば、そういった方面の知識やノウハウを私が指導しても良いのですが、中野さんのグループにいるわけで、私が直接というわけにもいきません。今後、どうしたらよいでしょうかね?」
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「私の方は環境広報や問い合わせも増えており、私ひとりでは仕事が回らない。一人前でなくても、アシスタントが一人いないと困るね。もっとも横山さんはあまり広報や環境コミュニケーションは好みではないようだが」
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「五反田は来年は元の会社に戻るのは決まっているし、藤本さんもどうなるかわからない。それで横山を山田グループに異動させよう。そして新人を中野グループに入れることにする。 今年入社で新人研修が終わって開発部に配属された子 がいるんだが、今回の開発部の組織改編で余っちゃって引き取ってもらえないかという話があるんだ。中野君、どうかなあ? 大学でコミュニケーションを専攻していたという。もっとも俺は、大学のコミュニケーション学部って、何を学んでいるのか分らんがね」 | |
「廣井さん、否応ありませんよ」
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「そうか、じゃあ、来月付けでその子を中野君のところで引き取って、同時に横山を山田グループに異動させよう。実際的には1名プラスになるから、当面引継ぎとして新人、岡田マリってんだが、その子が仕事を覚えるまで横山を中野グループ兼務にしよう。 山田君は来年度以降は、横山とふたりだけの体制で仕事を進めるように考えておくこと」 |
リクエストに応えて頂き恐縮です。我々の職場で良く言われるのが「環境管理課は、あらゆる事を知らないと何も出来ない部署だ」というものです。 もっともバーチャルな点数計算とかなら・・・ |
名古屋鶏様 まいどありがとうございます。 どんな仕事でも、その分野だけ知っていれば間に合うってことはないでしょう。 特にISO審査員とちゃんちゃんばらばらしている人は、審査員以上にJAB基準類を読み込み、彼ら以上に大局的に見て判断せねば・・ すると、審査員に来てもらわなくても間に合うか? |