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「五反田さん、ちょっと教えていただけますか」
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横山が五反田に話しかけるとは珍しい。まして五反田に教えを乞うとは何事が起きたかと、山田は脇で聞いていて驚いた。なにせ、横山と五反田は天敵のようだったから。とはいえ、五反田はその立場と性格から横山を嫌っている風はない、横山が五反田を嫌っていただけだったようだが・・
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「はい、なんでしょう?」
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「総務の大林さんが新しい廃棄物業者と契約したいので作成した契約書の内容をチェックしてほしいと依頼してきたのです。一応見たのですが、おかしいなあって感じがするの」
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五反田は横山から廃棄物契約書を受け取って中身を斜めにながめた。 「法の要件は満たしているようですが・・・」 | ||
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「私も総務にいて、いろいろな契約書、例えば警備会社や清掃とか宅配便とか電気工事とかいろいろな契約を結びましたし契約書を書きました。でもこの廃棄物の契約書をみると大事な要件が欠落しているように思えます」
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「ああ、おっしゃる意味が分かりました。お金を払うにしても何日締めなのか、いつ支払うのかといったことでしょう?」
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「その通りです。この契約書に限らず、廃棄物の契約書っていうと、単価や委託量は書いてありますが、毎月の発生金額をどう計算するのか、その費用をどのように支払うかを書いてないなんておかしいとしか言いようがありません。いや契約書の要件を満たしていないと思います」
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「おっしゃることはよく分ります。それはいくつかの理由があると思います。 ひとつは、廃棄物処理法で書面での契約を義務付けているので、最低限法律で定めることを契約書にしたということがあるでしょうね。行政が使ってくださいとインターネットにアップしていたり、紙で配布したりしているひな型のほとんど、いや全部かもしれませんが、それには支払方法が書いてありませんね」 | ||
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「そのほかの理由としては何かあるのですか?」
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「普通の企業ですと、継続取引する業者とは自社が決めた定型の取引基本契約書を結んでいるのが普通でしょう。その中に毎月の締め日、支払日、振込する銀行などが書いてあるので、その取引基本契約書と廃棄物契約書のセットで必要項目を満たしているのかもしれません」
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「五反田さんが監査をする場合、そのような事項が記載されていなくてもOKするんですか?」
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「会社の契約書としてはどうかというご質問かもしれませんが、最低限法を守るという観点からは合法と判断しています。というよりも、不適合とする根拠がありません。不法投棄に関わったりして行政の立ち入りを受けても、支払日や振込先が記載されていなくても措置命令は受けませんからね」
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「五反田さんも廃棄物契約書を書いたりしたことがあるでしょうけど、そういったことは契約書に書かなかったのでしょうか?」
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「横山さんも総務屋でしょうけど、私もISOなんてのに関わる前は純粋な総務屋でしたよ。契約書には、毎月25日締めなのか、28日締めなのか、月末にどの銀行に振り込むのか、あるいは翌月に振り込むのか、延滞金をどうするのか、契約が履行できなかった場合の措置などあとでトラブルの起きないように、そりゃびっしり書き込んでおきました。まあ、当方の支払いが遅れるなんてまずありませんがね。支払いの締めや支払日は重要です」
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「それじゃ、今回の契約書にもそういったことを書くべきだと回答した方が良いですね」
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「露骨にそういうよりも『別途、取引基本契約書を取り交わしているのかどうかを確認してください』という方がよろしいでしょう」
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「わかりました。そのように回答します」
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山田 ひょっと目を上げると、斜め向かいの席で岡田 ![]() 山田はまた自分の仕事に熱中した。 ●
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「五反田さん、ちょっと教えていただけますか」
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「はい、なんでしょう?」
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「監査報告書の中に『廃棄物契約書に積み込み地が記載されていない』という不適合がありますが、これは妥当なんでしょうか?」
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「所在地はどこですかね? 横浜市ですか。それじゃ不適合にしておいた方が良いでしょうね。横浜市は積み込み地を契約書に書くように指導しているのです。法律とか条令ということじゃなくて、要綱なのかどうか定かではないのですが、横浜市はそうです。お金や手間暇がかかることじゃないから書いておいた方が良いでしょうね。もちろん契約書に積み込み地を書くと、それ以外では積み込みできないことになりますが。まあ、そういう事態が発生したとき追記すればよいでしょうから、そんな手間じゃないでしょう」
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「わかりました。こういうことは行政の指導に合わせて判断するということでよろしいのですね」
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「おかしいと思うかもしれませんが、目くじら立てることもないでしょう。基本的に、言われた通りしておくということ、監査においてもそういった情報を可能な限り収集して、それを基に判断するべきとしかいいようがありませんね。 お断りしておきますが、私の考えが正しいとか唯一だということはありません。法律に書いてないようなこと、微妙な判断は山田課長やその他の方にも聞いて、横山さんが判断した方が良いでしょう。あるいは判断が付かないものはここのメンバーで議論して統一見解をまとめておいた方が良いかもしれません。まあ、重大なことで判断が微妙なことはめったにないとは思いますが」 | ||
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「大変勉強になりました」
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「廃棄物処理で要綱行政がおかしいとか、法に反した指導をしているなんて裁判を起こしてもなんの得もありません。我々は廃棄物で事業をして飯を食っているわけではなく、単なる排出者ですから、行政が指導する通りしていて問題にならないように努めた方が利口です。長いものに巻かれることは恥じゃありません。特に金のかからないことはね」
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「五反田さん、またまた、ちょっと教えていただけますか」
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「はい、なんでしょう?」
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「建設廃棄物用の契約書ってご存知ですよね?」
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「建設業団体が作った一枚ものですね?」
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「そうです。この監査報告書では、その様式を使った契約書について、『廃棄物契約書の記載が鉛筆であった』という不適合なのですが、その判断は妥当なんでしょうか?」
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「契約書の有効性という点では、鉛筆で有効となっていますね。改ざんされる危険はあっても、そもそも契約というのは口頭でも成り立つのだから鉛筆がだめということはないでしょう。 廃棄物の契約書だからといって鉛筆が無効だという理由はなさそうです」 | ||
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「私も同意です。とすると『廃棄物契約書の記載が鉛筆であった』という不適合は不適合でないと判断すべきですね?」
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「いや、私は違いますね。社内あるいはグループ内の環境監査においては、監査基準は廃棄物処理法他環境に関する法規制だけではないということです」
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「はあ?」
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「会社の規則もありますし、規則になっていなくてもビジネスの常識というものがあると思います。当社の契約書を鉛筆で書いてそれを決裁したならば、不適切な業務の運用として懲戒があっても当然でしょう。ですから監査においてそのような運用は不適合と判断しておかしくないし、見逃しは監査員の問題とされるでしょう」
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「その辺は恣意的な判断になりませんか? 先ほどお聞きした、毎月の〆の期日とか支払日が書いてなくてもOKで、鉛筆書きはNGというのは判断基準が一律的でないように思います」
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「そう言われるとおっしゃる通りです。しかし、監査をするときには常に、自分ならその仕事をどうするか、仕事に責任を持てるだろうかという観点で省みることが必要です。横山さんが鉛筆で契約書を作成するのが当然だと思っているのでなければ、そういうものをリジェクトすべきだと思います。 先ほどの廃棄物の支払いの詳細について記載していないことを問題としても悪いとは言いません。ただ先ほども申しましたが、他の契約書で決めているのかいないのか、口頭などで約束しているかどうか確認すべきでしょうね。契約そのものは口頭でも成立するわけで、書面に書いてないからだめというのは廃棄物処理法を根拠にしているわけですから」 | ||
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「なるほど、おっしゃる通りですね。単に廃棄物処理法を満たすか否かだけでなく、多面的にチェックして判断するということですね」
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「ちょっと話がそれますが・・・私は元々総務屋で、ISOなんてのが現れたので環境監査なんてのに関わってきました。しかし、そんなことから考えたのですが、ISOの内部監査というものを行うという発想がまったくの間違いだったのだろうと思います」
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「はあ、それはどういう意味ですか?」
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「会社は運用が規則通り行われているかどうか、また規則を遵守させるために内部牽制も必要でしょう。しかしそれはいわゆる業務監査で間に合うはずです。品質の内部監査、環境の内部監査、情報セキュリティの、安全衛生の、その他たくさんの内部監査をしようという発想がそもそも間違いですね。ISO規格を読んだ時に、ISO9001でもISO14001でも序文に『既存のマネジメントシステムをこの規格に適応させることも可能』とあります。私はこれは誤訳のような気がする。英文をみると『既存のマネジメントシステムに合わせることも可能』としか読めないのだが・・」
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「五反田さん、それは、監査とはISO規格とか環境から考えるというとらえ方でなく、会社の業務から考えるということですね」
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「それ以外に考えようがありません。ISOのための内部監査なんて教えている研修機関やISO関係の書籍はたくさんありますが、あれはみーんな嘘っぱちです。うそと言って悪ければ、間違いなんですよ。それでいながら、経営に寄与するなんて語っていますよね。まさに盗人猛々しいとしか言えませんね。あるいは無知から来る善意なのかもしれませんが」
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山田はそれを聞きながら、五反田がそのような考えに至った遍歴をぜひとも聞きたいと思った。山田も五反田と全く同じ考えであるが、その考えに至らない人が多すぎだ。どうしてそういう考えに至ることができたのか、それを知ることができれば価値はあると思う。
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「五反田さん。教えてほしいことがあるのですが」
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岡田の声が山田の耳に入った。
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「はい、なんでしょうか?」
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「私は今、廃棄物契約書の勉強をしているのですが、法律を読んでわからないことがあるので教えてください」
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「はあ、私でわかることならばと言いたいですが、岡田さんは廃棄物契約書のお勉強よりも、一刻も早く中野さんのお手伝いができるように、環境展や問い合わせ対応などについて過去の事例などを勉強することが優先するのではないですか?」
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「私だって積極的に法律を読んだりしているのですよ。教えてくれてもいいじゃないですか」
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「うーん、きつい言い方かもしれないけど、法律を読んでわからないというのは読む力が足りないのでしょうね。法令つまり法律、施行令、省規則は読めば理解できて当然、そして条例や要綱も読めばわかります。 そんなことを全部理解しているのは基本のキであって、過去の行政の口頭の指導や判断結果などを知って、初めて実際の仕事ができるってもんです。今、岡田さんが法律を読んでわからないことがあるなら、まず法律を理解できるレベルになることですね」 | ||
岡田は面白くないような顔をして自分の席に戻っていった。 山田は五反田の対応を耳にはさんで、もう自分の出番はなくなったなと思った。 |
短気が服を着て歩いている鶏は法律の条文を読んでいると3行くらいで「分からんわぁぁぁぁ!!」と叫びたくなります。
力量の無さ、ここに極めりですね。
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3行って、まだ主語が終わってませんがな。
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3行って、まだ主語が終わってませんがな だいたい、4行目の半ばあたりで「離縁致す」という気分になります。 これぞまさしく、三行半・・・ |
数日、田舎に墓参に行っておりました。 鶏様と寅さんの掛け合いで終了しているようで・・・ 法律の条文は、もう慣れるしかありません。引退した今でも毎日ネットで官報を見ております。 おっと、勉強というより、単なる惰性でしょう・・・ |
産廃契約書について 14001の解釈などについて、そういう考えもあるのか…といつも勉強させて頂いています。 当社は、中小企業のプラントメーカで、私は品質環境マネジメントの事務局をしています。上司と二人の寂しい部署です。 なので、二人であーだこーだと運用方法について討論しています。 表題の件ですが、当社は工事等もあり、産廃の契約を工事のたび各地で行っています。(工事期間は1週間〜3ヶ月) 契約書の有効期限のおしりを工事完了日、もしくは試運転終了(引渡し)に設定していましたが、マニフェストE票が帰って来る頃には契約期間が切れています。 契約書の有効期限はマニフェストE票返却くらいまで取っておいた方が良いのでしょうか? 法律等には書いてなくて、困っています。ご存知でしたらお教え願えないでしょうか? |
すずき様 お便りありがとうございます。 契約書は委託するよという契約でして、マニフェストが戻ってくるまでの期間を契約していることはないと思います。 E票が戻ってくるのは相当先で、それまで契約していなければならないということはなさそうです。少なくても法律には書いてありません。 |