統合認証

12.12.16
ISOケーススタディシリーズとは

本日は レイシオ様から頂いた下記お便りに基づきまして作文しました。
残念ながら、統合認証はシーズンものにはならず、1回でおしまいかと思います。
ところで「甘い生活」2ndシーズンはどうなんでしょう? いささかマンネリかと・・・



山田の社内用携帯電話が鳴った。
山田
「ハイ、環境保護部の山田です」
森本
「千葉工場の森本です。ご無沙汰しております」
電話の向こうから懐かしい声が聞こえた。森本が去ってどのくらいに経つだろう? 1年半になるか?
山田
「おお、森本さん、これはお久しぶりです。そちらはいかがですか?」
森本
「おかげさまでまじめに働いています。ちょっと相談したいことがあるのですが、お会いしてお話できませんか?」
山田
「いいとも、以前森本さんがしていた仕事は今横山さん横山がしているんだけど、もう彼女は一人前で私が出歩くことは少なくなっているんだ」
森本
「横山さんか、懐かしいなあ、彼女も元気なんでしょう?」
山田
「もちろんさ、前にも増してバリバリ働いているよ。ところでどんなご相談なんでしょう?」
森本
「実はウチの工場長が工業団地の定期会合、まあお酒も入った懇親会なんですが、そこに行って、他の会社で品質と環境の統合認証をした話を聞いて、ウチもそうしたらいいじゃないかと言い出しましてね、その対応を環境は私、品質は品質保証課の寺岡さんに命じられたというわけで、その方向付けを相談したいんです」
山田はなるほどと思った。統合認証なんてのが以前はやったかもしれないが、最近は下火になったようだ。あるいは話題になることもなくなったのかもしれない。森本も大変だなと口の端に笑いを浮かべた。
山田
「今週は会社にいるし、会議の予定もない。今日これから千葉から出てくるのは無理だろうから、明日か明後日の午後一くらいでどうだろう」
森本
「ありがとうございます。それじゃあ明日午後一ということでお願いします。当方は先ほど言いました2名で行きますから」



昼休み、山田が打ち合わせコーナーでコーヒーを飲んでいると、人の気配がした。顔を上げると森本 がいた。山田は立ち上がった。
山田
「おや、お早いじゃないか」
森本
「へへへ、こちらにいたときは大変お世話になりました。
こちらは品質保証の寺岡さん寺岡 です。ISO9001担当をしております」
山田は寺岡と挨拶を交わした。3人は座って話を始めた。
山田
「統合認証なんて最近は下火になったと思っていたが、お宅の工場長はメリットがあると聞いてきたのですか?」
森本
「山田さんに言わせると統合認証は時代遅れですか・・・、千葉工場のある工業団地ではここ1年くらいの間に、統合認証した会社が3つほどありました。少し前に団地内の経営者の定期会合で、工場長がそういったことを聞いてきて、どんなメリットがあるのか、メリットがあるなら統合認証をしたいとお話がありました」
山田
「費用を知りたいなら認証機関に見積もり依頼したらおしまいだろう。どんなことが知りたいの?」
寺岡
「山田課長、千葉工場はまずIS9001の認証範囲とISO14001の認証機関が異なりますし、認証範囲が異なるのですよ。その他、組織なども若干異なっておりまして、そういうことをどうしようかと・・」
森本
「品質の認証範囲には、製品に関わる業務を一貫して含めていますので、本社の営業部門の千葉工場の製品を扱っている人たちと研究所の千葉工場に関わる部門も含めているのです。他方、環境の認証範囲には本社とか研究所などは縁がありませんので入っていません。その反面、千葉工場内に所在している給食業者、構外の体育施設や健保会館なども含めています。そこをまず整理しなければなりません」

ISO9001の
認証範囲
研究所の一部
本社営業
ISO14001の
認証範囲
千葉工場健保会館給食業者など

山田
「統合認証のメリットとか費用を考える前に、統合認証というものを理解しなければなりませんね。いったい統合認証ってなんでしょうか?」
森本
「品質と環境のシステムを統合することでしょう」
山田
「品質のシステムとか環境のシステムというものがあるのですか?」
寺岡
「実を言いまして、私は前からそこんところがおかしいと思っているのですよ。元々千葉工場の仕事の仕組みというのは工場規則に主要なことが決めてあって、細かいことは部とか課のルールで決めているわけです。それはISOなんて現れる何十年も前からそうなっているわけです。そういう文書で決められ実際に動いているものが、千葉工場のシステムだと思うんです。
私はISO9001の認証を1990年代の末に担当しましたが、そのときシステム構築なんてしませんでした。ISO9001規格で『すること』と書いてあることを、工場規則の中から拾い上げて、該当する工場規則の名称と番号、そしてそこで決めていることの概要を品質マニュアルに書いただけです。
つまり品質システムが千葉工場にないといってはおかしいですが、品質だけのシステムがないことは間違いないです。同じように環境のためのシステムもないと思います。会社全体のシステムがひとつある、いやひとつしかないのです。いろいろな規格で認証を受けるとき、そこから規格に該当することを抜き出して対応するマニュアルに書いているだけでしょう。
それにシステム構築っていうなら、無の状態からなにかを作ることですよね。私はなにもしていないというのがほんとうで、元からあるシステムの説明をしただけです」

ISO規格の「shall」は1987年版では「する」、1994年版と2000年版では「すること」、2008年版では「しなければならない」と表現が変わった。2015年版では「するのがあたりまえ」とでもなるのだろうか?

山田
「寺岡さん、おっしゃる通りですよ。そもそも『統合認証』であって、『統合システム』じゃありません」
森本
「はあ? どういうことでしょうか?」
山田
「統合認証というのは品質とか環境と個々に認証するのではなく、まとめて認証するということにすぎない。品質マネジメントシステムとか環境マネジメントシステムが別にあったものをまとめることではない」

私はISO17021規格に大きな疑問がある。
「ISO17021:2011 3.4 注記6 統合審査とは、依頼者が、二つ以上のマネジメントシステム規格の要求事項を単一のマネジメントシステムに統合して適用し、二つ以上の規格に関して審査される場合である」
この文章は病的だ。会社の仕組みを理解している人なら、こんな文章を書くはずがない。正しくは
「統合審査とは、依頼者が、二つ以上のマネジメントシステム規格の要求事項を単一のマネジメントシステムに統合して適用し、同時に審査される場合である」
ではないのだろうか?
だって、そもそもひとつのマネジメントシステムしかないのに「単一のマネジメントシステムに統合」できるはずがない。
英語原文ではこの箇所はどのようになっているのだろう。正しく訳しているのだろうか? 私はISO17021対訳本を買う金がないので英語原文を知らない。対訳本はなんと18,900円もするのだ。年金の出ない定年退職者にはちょっと買えない。


寺岡
「そうです、そうです。千葉工場のシステムといえば、経理から人事から品質から環境その他まで全部ひっくるめた包括的なものが一つしかないと思いますよ」
山田
「寺岡さんのおっしゃる通りです。というかそれは当たり前のことです。そもそもISO9001:2008の序文に『0.4他のマネジメントシステムとの両立性』という項で『既存のマネジメントシステムをこの規格に適応させることも可能である』とあるし、ISO14001:2004の序文でも同文がある。
しかしこの文章もおかしいですよね。本来なら、『これらの要求は既存のマネジメントシステムに盛り込むこと』くらいにしないと正しい言い方ではないと思いますよ
要するにISO規格を作った人たちは、もっと会社の仕組みというのを理解する必要がある。そうでなければマネジメントシステム規格なんて作ってもらっては困るんだよ」
森本
「山田さんは顔に似合わず辛口ですね。いや辛口というよりも上から目線とかタカピーというのでしょうか?」
山田
「アハハハ、だってそれは本当のことだからね。
さて、話を戻すと認証ってなんでしょうか?」
森本
「環境マネジメントシステムなどが、規格適合であることを認証機関に保証してもらうことでしょう」
山田
「正確に言えば保証なんてしない。認証とは審査して規格適合だと判断したときに認証機関のリストに掲載してくれるということにすぎない」
寺岡
「そう言えばISO17021ができるまでは審査登録機関って自称していましたね。『登録する』とはどんなご利益ごりやくがあるのやら・・」
山田
「寺岡さんの気持ちもわかります。ともかく認証とは規格適合であることを認証機関が表明することでしょう。じゃあ、何のために私たちは認証機関に高い金を払って依頼するのでしょうかね?」
寺岡
「それは簡単です。顧客からISO認証しろと言われるからです」
森本
「山田さん、そうなんですか? 環境の場合は顧客から言われてはいませんよね。まあ最近は国土交通省の経営審査事項で加点されるとか聞きますが、当社の製品は関係ないですし・・」
寺岡
「それが私にとって不思議ですね。品質はお客様から認証しろと言われれば、商取引の条件ですから否応なく大金を払って認証するわけです。
環境の場合、顧客から認証しろと言われなくて、なんぜ大金を毎年払って認証しているのでしょう?
森本さんはもう10年もISO担当してきて不思議に思いませんか?」
森本
「うーん、そう言われるとそうですよね。私が入社したときは既にISO14001を認証していて、それが当たり前だとばかり思っていました」
山田
「私も前任者から聞いただけですが、20世紀末期に本社が工場に対してISO14001認証するようにと指示しているそうです。ですから顧客の要求ではありませんが、上部組織の要求として認証したということでしょう。まあ、それが命令なら従うのは当然でしょう」
寺岡
「なるほど、ISO14001を認証した理由がわかりました。
すると山田さん、次の質問ですが、要求する人が認証範囲を決めるわけですよね」
森本
「えー、認証を受ける組織が認証範囲を決めるのじゃないのですか?」
山田
「認証機関に『認証範囲はこれこれでお願いします』というのは組織であることは間違いないけど、その認証範囲が顧客要求を満たしていないとならないわけで、本質的に認証範囲は顧客要求です」
寺岡
「私もそうだと思っていたのですよ。一番初めに千葉工場がISO9001を認証したのは、客先要求があったひとつかふたつの製品だけでしたからね。他の製品は客先要求がないから認証を受けませんでした。なにしろ認証を受けることはコストになりますから。
そして現在、千葉工場のISO9001の範囲に本社の営業部門が入っているのはそう考えないと説明が付きません」
森本
「その件について僕は疑問があるのですが、ISO9001では経営者に千葉工場長を充てています。本社の営業部門の指揮権が千葉工場長にあるとは思えないのです。例えば本社の営業部門の資源を、千葉工場長が手当てすることはできません。でもマニュアルでは『千葉工場長が本社営業が資源を使用できることを確実にする』ことになっています」
寺岡
「いや、私もまったく同じです。山田さんそのへんの不整合はどう考えたらいいのでしょうか?」
山田
「段々と本質的なことになってきましたね」
寺岡
「それって本質的なことなんですか?」
山田
「会社というものは有機的なものであり、どこまでがどうとか分けられるものではありません。また組織の指示系統は一つであるべきですが、情報の伝達系統は網目状になっているのが普通です。そういう形態であれば一か所が破損しても組織はなんとか連絡を取り合って行動をすることができる」
寺岡
「インターネットのようですね」
山田
「まさしく、ネットとは網ですからね。
会社の場合、千葉工場はある程度独立した組織ではありますが完全に独立しているわけではなく、会社という組織の中の一部であり、上位組織から指示を受けて動いているだけでなく、多くの関連する組織から情報を受けまた情報を発信して、千葉工場は毎日業務を行っているわけです」
寺岡
「すると千葉工場というものが独立した組織あるいはシステムと考えることができませんね?」
山田
「おっしゃるとおりです。完全に独立した組織でないものが認証を受けることができるのかとなりますが、ここは各認証機関が独自にルールを作って運用しています。まあ、あまり厳しいことを言えば認証を受ける会社が減ってしまうし、あまりいい加減にすると認定機関が文句を言うというところの折中でしょう。
本来なら当社全体をひとつの組織として認証を受けるというのがあるべき姿なのかもしれません。しかし実際には本社は必要がないからISO9001の認証を受けていませんし、ISO14001も本社のみで認証を受けています」
森本
「当社が一つのシステムであるというなら会社全体を認証範囲として認証を受けるのが正しい姿なのですか?」
山田
「正しいかどうかはなんとも言えないが、要点はお客様から何を要求されているかということでしょう。お客様によっては開発設計について要求する気がない、昔あった設計のないISO9002でも良いと考えているところもあるでしょう」
寺岡
「懐かしい話ですね。私がISO9001を担当したときはまだISO9002もISO9003もありました。
ところで山田さん、それについて私は疑問があるのです。千葉工場には特定のお客様用の製品もあります。そういうものは開発設計もお客様と一緒に行うわけです。しかも製品は客先の認定を受けていますので、仕様変更は客先の了解を得て、というよりも客先の仕様を変えていただかないとできないというものです。そういったときISO規格の製品実現の記述と実際の動きは相当違います。まあマニュアルにうまくつながるように書いていますし、客先は実質があればよいのでマニュアルの記述に文句を言いませんがね」
山田
「正確に言えばそういう性格の製品がISO9001認証を受ける必要があるかどうかということになりますね」
寺岡
「そうですが、お客様からは品質監査などを省力化するためにISO9001認証してくれと言われていますし、適用除外ができるかといえば、製品単位で細かなテーラリングはできないでしょう。まあ認証機関が小回りききませんしね」
山田
「わかりますよ。
ともかく認証範囲はお客様が決める。しかし供給者、つまり当社としては客先要求が異なるだろうしバラバラでもしょうがないので、その最大のものを認証範囲とするしかない。
そのとき客先との情報伝達を考えると本社の営業部門を取り込まないとつじつまが合わなかったというところでしょう」
森本
「本社の営業部門を客先とすれば良かったと思いますが」
寺岡
「以前はそういう形式が多かったのですが、10年くらい前からだめということになりました。真の顧客でなければおかしいというわけです」
山田
「いきさつは私も存じておりますが、どちらにしても形式の話ですからね、あまり意味はなさそうです。いや第三者認証の意味さえあるのかどうか・・」
森本
「すみません、認証範囲のことですが、ISO14001の認証範囲はどのようにして決まったのでしょうか? 先ほどの山田さんのお話ですと、本社の要求ならば千葉工場の考えでどのようにでもできたわけですね?」
山田
「これも前任者から聞いただけなんだけど・・・
当時当社は全拠点ともISO14001の認証をするということを目標にしたそうだ。まあ2000年頃だから、ISO14001認証というものが会社のイメージアップになったわけだ。なんであろうと営業や企業のブランドのために活用するということを否定しちゃいけない。
ISO9001と違い、ISO14001の顧客は地球だなんておかしな論理もあって、環境改善は会社全部で推進すべきという発想だっただろう。だから健保会館も労働組合も、寮も社宅も認証するという方針だったそうだ」
寺岡
「ええ、寮や社宅もですか? それじゃそこに住んでいる人も組織の一員になるのでしょうか?」
山田
「まあ、そこんとこはいろいろ検討した結果、寮や社宅の管理までを認証範囲とするというのが結論で、今はそうなっている。
ともかくみなさんご存知のように審査費用は審査工数の一次関数で、審査工数は組織の人員の関数で、その関数は一次ではなく対数のような形だからひとつひとつの組織を大きくした方が安くなる。そういった妥協の産物が現在のISO14001認証範囲だ。
だから知っているだろうけど、研究所と工場が隣接している場合は、本当は別の事業所なのだが合わせてしまって、なんとか地区なんて名称で経営者を工場長とかにして、同格の研究所長はその下にしてISO14001認証を受けている。ありゃまったくの経費削減で、実際の経営とは無関係だ、アハハハハ」

興味のある方はJABの認証組織検索で調べると、「○○地区」とか「○○グループ」という名称で認証を受けている組織が多々みつかる。みーんな費用削減のためだ。

森本
「なるほどと言いたいですが、それなら全社をひとつの組織として認証を受けたら一番安くなりますし、指揮命令も簡単ですよね」
山田
「まあ、そうかもしれないが、それなりにいろいろ考えがあったのだろう。
当時のことはわからない」
寺岡
「山田さん、いや、今までのお話でいろいろなことがわかりましたよ。統合認証しようとするならば、まず環境と品質のお客様が誰なのかもありますし、そのお客様の要求する認証範囲があわないとなりませんね。我々が勝手にいじるわけにはいかないです」
山田
「そうですね、それぞれ思惑というか認証する理由があって認証しているわけで、それを無視して統合認証を目指すのは筋違いでしょう」
寺岡
「そうすると統合認証とは本社とかない小規模な会社で、しかも品質と環境の顧客要求の範囲が同じという場合一番手っ取り早いですね」
山田
「そりゃそうさ、そのときは品質マニュアルも環境マニュアルも範囲は元から同じはずだよね」
森本
「話がそれてしまいました。
統合認証の時、ISO9001とISO14001の要求事項の内容に違いがあるときはどうするのでしょうか?」
寺岡
「そうそう、文書とか記録とか教育訓練、監査など同様の項目がありますが、すこしずつ文言が違います。そういうのは合わせるしかないですよね?」
山田
「寺岡さん、それじゃさっき寺岡さんがおっしゃったことと矛盾するのではないでしょうか?」
寺岡
「はあ?」
山田
「先ほど寺岡さんは、ISO認証したとき、ISO9001規格で『すること』と書いてあることを、工場規則の中から拾い上げて、マニュアルというものに該当する工場規則の名称と番号、そしてそこで決めていることの概要を書いただけとおっしゃったでしょう」
寺岡
「はあ、そう言いましたが、それが・・
ちょっと待ってくださいよ。森本さん、環境のマニュアルを書いたとき、私と同じことをしたのでしょうかね?」
森本
「マニュアルを最初書いたのは私の前任者なのでそのときどうしたのか・・・
しかしそもそも工場規則に書いてないことはマニュアルに書いてあるはずがありません。つまり品質マニュアルに書いてあることも環境マニュアルに書いてあることも同じ工場規則で決めていることなら、単純に二つの規格に書いてあることを、全部していると書けばすむような気がします」
寺岡
「すると何もしないで統合認証ができるということになります。でも、それって言いかえると統合することによる社内の改善効果はないということになりますね」
山田
「統合認証以前に、認証すると社内の改善効果があるのでしょうか?
さっきの寺岡さんの話に戻れば、そもそも工場規則で定めているものをかき集めてマニュアルが書けたなら、元から千葉工場はISO9001規格を満たしていたことになり、認証するときに改善したことがないということになりますよ」
寺岡
「うーん、なるほどなあ、認証とはそもそもISO規格を満たせという顧客要求であり、元からISO規格を満たしているならば認証することによる改善効果はないということになる。
変だと言えば変な話ですね」
山田
「どうして変なのですか?」
寺岡
「だって認証機関や審査員は、ISO認証の効果をふたつあげていて、ひとつは商取引の条件で、もうひとつは組織の改善効果って言っています」
山田
「本当ですか? 一部の認証機関がそんな宣伝文句を語っているかもしれませんが、IAFもJABも寺岡さんがあげた後者の組織の改善効果ということを正式にはあげていません。
彼らは認証の効果は商取引の際の規格適合確認であるとしています」
寺岡
「へえーそうだったんですか。じゃあ、私のアプローチは正しかったというわけだ。と同時にISO認証はそういうことにすぎないということですね」
森本
「となると統合認証の効果ってなんですか?」
山田
「一番初めに私が言ったように、統合システムとかではなく統合認証だから、品質と環境あるいはその他の審査をバラバラにするよりも一度にした方が良いということ以外何物でもない。そうすれば共通した項目は一度で済むからそれぞれ別に審査するよりも審査工数が少なくなる、つまり審査費用が安くなるということ」
森本
「うちの工場長が他の会社の社長から、統合認証することによって社内の改善ができたと聞いたというのはなんでしょうか?」
山田
「当社はISOなんかが現れる前から工場規則などが整備されていた。しかし中小の会社では社内のシステム・・・それは品質とか環境という意味ではないですよ、経理とか購買とか人事とか総務とかいろいろありますが、そういった会社の仕組みを明文、つまり社内のルールに定めていない会社も多いということです。
そういった会社はISO9001認証しようとすると、ISO9001規格で要求していることを社内でしなければならないので会社の手順書として制定したわけです。
またISO14001認証しようとすると、それに見合った社内の規則がないので、またそれ用の手順書を作ることになります。
そうしますと文書管理、内部監査、その他、ISO規格の中でインフラ的要求項目が二つも三つもできてしまうということがあります。もちろんその原因にはISO規格の文言がばらばらということもあります。
だからそういう会社は統合認証することによって、今まで二重に制定し運用していたロスをなくす改善ができます」
森本
「つまり元から一定水準にある会社は統合認証してもメリットはないということですか?」
山田
「いや改善効果はないだろうが、社外流出費用は削減が期待できるからメリットはあるだろう」
寺岡
「山田さんと話しているだけで、疑問に感じていたことがもうほとんど解消してしまいました。つまるところ認証範囲が違うことが問題だけど、それは顧客要求次第で、そこは検討する必要がある。
いずれにしても千葉工場の場合統合認証の改善効果は期待できないが、レベルの低い会社なら改善効果が期待できるということですね」
山田
「そこんところはまた微妙だね。そもそも社内のシステムを明文化していない会社があったとき・・・・そういうことは中小企業では珍しくないわけだけど・・・・その会社がISO9001認証のために品質関係の文書を整備して、ISO14001認証のために環境関係の文書を整備して、それが二重だからと見直したところで改善になるのだろうか?」
寺岡
「は、よくわかりませんが」
山田
「ISO認証のためにシステムを明文化した文書を整備することが、その会社に貢献するのだろうかということだ」
森本
「山田さんの心は、そういうアプローチではなく、会社の人事や経理やその他全般の仕組みを包括的に明確にして必要な文書を整備する必要があるということでしょうか?」
山田
「そうです。そもそもISO規格とは顧客要求なのだから、経理とか広報とか製品品質に関係がない項目は規格要求にない。だけど品質だけで会社が存在するわけではなく、環境法規制を守っていれば良いわけではない」
寺岡
「山田さん、そういうのって経験ありますよ。環境を第一に考えろというISO14001審査員がいますし、品質第一だという審査員もいます。本当は、そういうものを全部考慮して経営は行われるはずですよね」
森本
「そうしますと個々の審査を受けるよりも、統合審査であれば部分最適全体不適ということは起こりにくいかと思います。品質も環境も平等に見て審査してもらえるのではないでしょうか?」
寺岡
「いや森本君、そうはいかないよ、労働安全衛生、セキュリティ、省エネその他もあるし、実際には経理とか人事とか特許とかISO認証にない項目は多い。そんなことを全部知って審査できる審査員もいない」
山田
「私は思うのですが、しっかりした経営コンサルなどに依頼して、会社のシステムを明確にして、必要最小限の明文化をするようなことをしたほうが、ISO認証よりも会社の改善になるでしょう。言い換えると、ISO認証のためにそのシステムに関係することを文書化したところで、何の意味もないように思います」
寺岡
「何の意味もないわけではないでしょう。少なくても品質については明確になり文書化がされるのですから」
山田
「ISO9001で文書管理と言った時、経理や特許の手順まで考えが及ぶでしょうか。ISOコンサルや審査員の中には、品質とは製品やサービスの品質ではなく、会社の仕事の品質だと語る人もいますが、まあその意気やよしと言いたいけど、どうもISO9001とはずれている。ISOMS規格で会社をよくすることはありえないと思う。まあ効果はゼロではないかもしれないけどね。
ISOMS規格は顧客要求なのだから、そもそもが会社をよくする方法ではない。真に会社をよくしたいなら、本質的に会社をよくする方法をとらないとだめですよ。
ISOで会社をよくするなんて宣伝しているコンサルがいるけど、その方が考えている会社ってなんだろうね? 会社は品質だけではない。そのコンサルは経理とか人事というものを知らないのではないだろうか。人と金がなければ会社は成り立たないし動かないのだから」
寺岡
「変なたとえですが、堤防を築くとき全体に高くしていかなければならないということですね。品質だけとか環境の部分だけ高く積んでもだめだと・・」
山田
「そのとおり、品質が良くても輸出管理でポカミスをすれば会社倒産ということもありますし、環境を一生懸命していてもセクハラで報道されたらそんなこと帳消しになってしまいます。会社経営とは品質だけとか環境だけではないからです」
寺岡
「環境と品質の統合認証についてお話をお聞きしようとしてきましたが、認証の意味からその限界まで教えていただきありがたいような、ますます悩みが増えたような・・」
森本
「とりあえず一度二人で問題点の整理をしてまた考えましょう」

山田
ビール
「寺岡さん、森本さん、あと30分くらいで終業時刻だけど、神田か秋葉あたりで一杯どうですか? もしよろしかったら私は早引けしますよ」
寺岡
「それはぜひ、山田さんのお話をもっとお聞きしたいと思ってました」
森本
「考えたら山田さんも千葉じゃないですか。飲んでから電車で帰るのも楽しいもんじゃありません。いっそ、まっすぐ千葉まで行って向こうで飲みませんか。そうすれば自宅に帰るのは20分もかからないでしょう」
山田
「そりゃアイデアだ。机を片付けるから少し待っていてくれ」

本日はレイシオ様もお便りに従いまして統合認証を題材にしましたが、モチーフは前回の文書のお話に続いて、会社のシステムとはどういうものかということについて書いたつもりです。
「ISO事務局を担当しています」とか、「統合認証で会社の仕組みを見直し改善しよう」なんて話を聞きますと、イジワル爺さんとしてはひとこと言わないといけねえなと思うわけです。
会社の仕組みを理解していてISO認証をしたならば、ISO事務局なんて言葉を思いつくはずがなく、統合認証すると会社の仕組みが変わるとか、改善になるなんて発想をするはずがありません。
ということは統合認証で会社が良くなると語っている人は嘘つきか会社の仕事を知らないのでしょう。
なお、統合認証の考え方については以前、ぶらっくたいがぁ様とメールにて改善効果の有無やメリットデメリットについて意見交換したことを反映しております。ぶらっくたいがぁ様に感謝申し上げます。

うそ800 本日の登場人物の名前の由来
寺岡さんというのは私の内部監査の師匠である。師匠といっても私が教えていただいたわけではない。その方が内部監査をするのを一度見学して、いたく感動したというだけだ。
その方は定年になったときISO審査員になりませんかと誘われたそうだが、そんなのやってられるかといって悠々自適の暮らしをされていると聞く。その意味でも私の師匠であらせられる。
もっとも私は悠々自適ではなく、汲々不如意であります。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/12/16)
はて、感謝されるようないいことを言った記憶はないし、誰か他の人じゃないですか?
ところで統合認証って、大手はけっこうたいへんなんですね。複数のISO規格審査を同時に受けるのとどこが違うのかよくわかりませんが、ウチのような中小企業の場合は、トップマネジメントも認証範囲も対象業務もぜーんぶ同じなんで、ラクでした。中小企業ほどお勧めです。

なにをおっしゃるうさぎさん
たいがぁ様の統合認証に関する考察を拝聴したことを思い出してこの拙文を書きました
現在、私は統合認証以前に認証の価値を顧客要求対応以上に評価していません

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/12/16)
「認証の価値を顧客要求対応以上に評価していません」とおっしゃいますが、以上も以下もヘッタクレもないと思います。それ以外に何かありますかね。ないのが当然で、あると考える方がおかしいと思います。
お花畑の住人なら、「業務改善」とか「社会的貢献」とか言い出しそうですが。

たいがぁ様 毎度ありがとうございます
私もやっとたいがぁ様の境地にたどり着いたということでしょう
ISO認証はもとより、ISO規格は二者間の品質保証協定にすぎないという原点に戻ったということですか
ISOで会社の改善とか語っていたのはオオボケであったということです
まったく失われた20年でしたね



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