ISO規格の立ち位置

13.01.30
今日は少し真面目に考える。
というと、いつもは真面目に考えていないのかと言われそうだが・・・
うーん、実際のところ、どうだろうか? 私が真面目というか真剣にこのうそ800を書いていないというのは事実だ。正直って、この「うそ800」は私にとって重大なことではなく、息抜きだ。私が真剣になるのは大金とか命がかかっているときだけです。

2013年の今、ISO9001やISO14001の改定作業が進められていて、パブリックコメントなども行われている。今後どのように改定されるのか、あるいは今までとあまり変わらないのか、私は情報がないのでわからない。しかし認証とかマネジメントシステム規格としてどうあるべきか、どうあってはいけないかというようなことは常々考えている。
今日はそんなことを書く。

「マネジメントシステム規格」とはなんだろうか?
ISO9000、ISO9001、ISO14001などを見た限りでは、それを定義していない。理屈からいって自分より上位のもの、いや自分自身をも定義できるはずがないか?
ありてあるものとなれば、絶対神そのものだ
日本の標準の元締め工業標準調査会では
「MSS(Management System Standard)とは、品質マネジメントシステム規格であるISO 9000ファミリーや 環境マネジメントシステム規格であるISO 14000シリーズに代表される、『組織が方針及び目標を定め、その目標を達成するためのシステム』に関する規格です。」
としている。
ではこれについて少し考えてみよう。
まず、「規格(standard)」とはISOでは要求とか仕様を定めたものである。そうでないのはガイドライン、ガイダンスとかガイドなどと表記されます。ご参考にというニュアンスでしょう。
「マネジメントシステム」をISO9000:2005では「定義3.2.1 方針及び目標を定め、その目標を達成するためのシステム」と定義している。工業標準調査会の説明では、これをそのままと規格を合わせているようだ。
しかし、疑問がある。工業標準調査会の記述ではマネジメントシステムをISO9001やISO14001で記述したものと同等なものとしており、マネジメントシステムを矮小化していると思える。
お断り、
工業標準調査会のウェブサイトの説明は「システム」であり、「マネジメントシステム」ではない。これもまた意味が深いのかもしれない。あるいは単なる間違いか省略なのだろうか?

ISO9000:2005では品質マネジメントシステムとは「定義3.2.3 品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム」であり、
ISO14001:2004では環境マネジメントシステムとは「定義3.8 組織のマネジメントシステムの一部で、環境方針を策定し、実施し、環境側面を管理するために用いられるもの」である。
このふたつから演繹すれば前出の工業標準調査会の説明は正しくなく、「MSS(Management System Standard)とは、品質マネジメントシステム規格であるISO 9000ファミリーや 環境マネジメントシステム規格であるISO 14000シリーズに代表される、全体的なマネジメントシステムの一部で特定の分野における『組織が方針及び目標を定め、その目標を達成するためのシステム』に関する規格です。」とするのが正しいように思う。
ご理解いただきたいが、「マネジメントシステム」と「○○マネジメントシステム」ではフェーズ、ランク、カースト、身分、階級が違うのである。

さて、次に取り掛かります。
マネジメントシステム規格はたくさんありますが、その用途はなんでしょうか?
マネジメントシステム規格の先輩であるISO14001では、その用途を
 a) 環境マネジメントシステムを実施し、維持し及び改善する
 b) 表明した環境方針との適合を保証する
 c) その適合を他社に示す
 d) 外部組織による環境マネジメントシステムの審査登録を求める
 e) この規格との適合を自己決定し、自己宣言する

ことに使えるとしています。(1996年版 適用範囲)

ISO9001の方がISO14001より古いとおっしゃるかもしれませんが、ISO9001:1987の表題は「品質システム-設計・開発、製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル」でありまして、マネジメントシステムではありません。ここは大きな違いです。
とはいえ、ISO9001:1987についても考えてみましょう。
その「1.1規定範囲」では次のように述べています。
この規格は、製品を設計し、供給する供給者の能力を立証することが、購入者と供給者の間の契約で必要とされる場合に用いる品質システムの要求事項を規定する。

じゃあ、その後、数たびも改定がありましたが、今はどうなのかとなりますと・・・
ISO14001:2004は1996年版とあまり変わりません。
 1)自己決定し,自己宣言する。
 2)適合について,組織に対して利害関係をもつ人又はグループ,例えば顧客などによる確認を求める。
 3)自己宣言について組織外部の人文はグループによる確認を求める。
 4)外部機関による環境マネジメントシステムの認証/登録を求める。


ISO9001:2008年版は1987年版とは大きく異なります。
「1.1」一般で
この規格は,次の二つの事項に該当する組織に対して,品質マネジメントシステムに関する要求事項について規定する。
a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品を一貫して提供する能力をもつことを実証する必要がある場合
b) 品質マネジメントシステムの継続的改善のプロセスを含むシステムの効果的な適用,並びに顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項への適合の保証を通して,顧客満足の向上を目指す場合


つまりマネジメントシステム規格の目的というか存在意義は、外部への説明と内部での活動のベースラインになるだろうということのようです。つまり偉大なる飯塚先生がのたまわった「外部へ信頼性を提供する」ことと「改善のツールとなる」ことは規格にあったわけです。
もっともIAFは認証の意味を前者に限定しています。後者を認証で保証することは不可能だと考えたのでしょう。それもそうですね。

さて、これからが本題です。
前振りが長いとおっしゃいますか? でも、これくらい認識をすり合わせておかないと次の論に進めないのです。
一粒で二度おいしいとか、一石二鳥という言葉もあります。しかしながら二兎を追うものは一兎も得ずとか、虻蜂取らずとか、欲の熊鷹股裂くるともいいます。現在のマネジメントシステム規格が掲げている二つの目的は同時に達成可能なのでしょうか?

まず理屈から考えてみましょう。
ある分野に関するマネジメントシステム規格とは、その分野におけるマネジメントシステムが具備すべき一定水準というものを記述しているらしいです。
その水準を満たしていれば世間相場ではないでしょうけど、ISO相場で決めているレベルにあると社外に自慢して良いらしいです。自分が自慢しても笑われるだけかもしれませんが、認証機関が代わりに自慢してくれるのが認証制度です。もしあなたが悪いことやそれほど立派でないことが分かっても、認証機関が代わりに笑われてくれるので安心です。
そのときは認証機関は騙されたといって、企業が悪いと責任を転嫁するのですか!
それは踏んだり蹴ったりですね 笑

現実はともかくそういう発想はおかしくない。世の中にはそういう仕組みは多くみられます。マンションの設計偽装問題で有名になりましたが、建築設計を審査するものもあります。
会社の格付けをする商売もあります。公認会計士は企業の決算が適正か、粉飾でないかをチェックして社会に宣言します。環境報告書の検証なんて商売もあります。借金の保証人になってくれる信用保証協会というのもあります。

品質の場合は品質保証と言いますが、それ以外であってもみな何らかの「質」を対外的に裏書するわけですから品質保証システムと言えるでしょう。
品質保証とは品質を保証することではなく、プロセスが一定基準であると説明することです。これ忘れないように。
会社の外部に品質保証をすることを外部品質保証と言います。
それに対して内部品質保証という言葉もあります。社長や品質担当役員といっても、実際に設計や製造している現場とは遠いです。現場でしっかりと規則を守り仕事をしているかを調べてそういった偉い人に報告することを内部品質保証と言います。
内部品質保証と外部品質保証は、相手が違いますが、同等のプロセスとアウトプットで満たされるでしょう。
ISO審査の依頼者は企業の経営者であるとISO17021:2011では定義していますが、依頼者が顧客であろうと一般社会であろうと、審査のプロセスと結論は同じです。報告書の宛先が変わるだけです。

じゃあ、マネジメントシステム規格の二番目の目的である「改善のツールとなる」ことは間違いないのでしょうか?
規格が求めている水準以下の組織は、規格要求事項と現状を比較してそれを満たすように改善を図ることができます。またその水準を満たさないと認証されません。
しかしそのレベルに達した場合・・・建前上は認証されたすべての組織はそのレベルを満たしているわけで・・・それは改善のベースラインにはなっても改善のためのいかなる情報もツールも提供しません。
ISO9001やISO14001で述べている「顧客満足の向上」のためのツールにもなりそうありません。規格では継続的改善をしろと書いてあるだけで、継続的改善の手法は書いてないのです。書けるはずもないでしょうけど
内部監査であろうと、外部の審査であろうと、auditで得られた情報が改善の必要性を示すとか改善策の情報になるかといえば、なることもあるだろうけど、改善のために必要十分な情報ではないでしょう。いずれにしてもその情報を分析し活用するのは経営者であって、監査員じゃありません。ISO9001がはやり始めた1992年頃、内部監査というものがものすごい手法のように考えた人もいました。ISO認証機関や審査員はそういう思想を広めようとしましたし(証拠あり)。
でも、そりゃ間違い、間違いと言っては気を悪くするなら勘違いでしょう。
そもそも第三者審査では「改善の機会」なり「気づき」なりを提示できるとありますが、提示しなければならないとはありません。
ということはどういうこと?

組織のレベル目的
外部へ信頼性を提供する改善のツールとなる
要求事項以上認証を得る
保証を宣言できる
ならない
要求事項未満認証を得られない
保証を宣言できない
要求事項レベルまで改善できる

つまりマネジメントシステム規格の機能は、企業が規格要求以上の時は前者の外部へ信頼性を提供する働きがあり、規格要求以下である時は後者の改善のツールとなることあるというのが正しいようなのです。
ご異議ありそうですね?
いや、「審査において審査員が語る気づきによって、企業は向上していくことができる」という反論を予想します。
それはありそうですが、ありえません。
なぜなら審査員に求められている力量にはそのようなものはありません。審査員は当該のマネジメントシステム規格と審査のルールを知り、それに基づいて審査する力量を要求されていますが、審査した企業を指導する力量は求められていません。もちろん保有している人がいるかもしれないけれど、それは審査員の必要要件ではないのです。
もしマネジメントシステム規格の要求事項を満たした企業が改善しようとするなら、審査に頼るより専門のコンサルタントに依頼した方が直接的で効果的なのは間違いありません。そしていずれにしても審査員がマネジメントシステム規格の範疇を越えた気づきを示すことはなさそうです。
QMSの審査員が損金の処理を教えてくれるとか、EMSの審査員が知的財産権の取り扱いを教えてくれるとか、労働安全の審査員が下請法を・・・以下略

では、結論に入ります。
今、2015年を目標にQMSもEMSもISO規格の見直しが進められています。私が、どんなものになるかわからないというのは冒頭に書いた通りです。
しかしどうなるかはわかりませんが、どうなった場合はどうなるかというのは予想できます。
まず、規格と称して中身がrequirementでは品質保証の役割はしっかりと果すでしょう。しかし改善のツールとしては役に立たないでしょう。
品質保証と書きましたが、品質だけでなく環境管理の保証であっても「質」の保証ですから品質保証と書いてもおかしくありません。先ほど述べたとおりです。
ありえないですが、もし規格ではなくガイドラインになれば、助動詞がshallでなくshouldですから、品質保証の役割を果たしません。

つまり結論は、マネジメントシステム規格は「外部へ信頼性を提供する」ことと「改善のツールとなる」の両方を兼ねることはできません。マネジメントシステム規格は「外部へ信頼性を提供する」ことができるだけです。
だからもし次回改定の担当者(TC委員)が論理的であるなら、マネジメントシステム規格は「外部へ信頼性を提供する」ことに徹すべきであり、「改善のツールとなる」ことは4番目に託するのが正解です。
4番目とはISO9004とISO14004のことです。
もっともISO14004やISO9004が改善のツールになるかといえば、ならないような気がする。
もし役に立ったとおっしゃる方がいらっしゃったら、証拠を基にその因果を説明してください。
最低条件を示すとともに、改善策を示すなんてしろものが、論理的に考えてつくれるはずがないと私は思う。

最低条件を示すものである場合、ISO9001もISO14001も「外部へ信頼性を提供する」ことができるだけですから、その認証を受けようとする企業は、その必要性があるところだけとなります。
その数は何件になるでしょうか?
なんて考えるまでもありません。ISO9001は輸出関連が2,000と建設関係が10,000で合計12,000くらい、ISO14001は廃棄物業が2,000、建設関係が8,000、その他、観光とか学校などでやはり合計12,000くらいでしょう。業界の売り上げは、1件70万として、合計170億弱というところでしょうか。
ビジネス規模として小さいとご心配ですか?
それはしょうがありません。いらないという人に無理に食べさせても、吐き出してしまいます。
でも、お気づきになりましたか?
そうです、もうひとつの目的、企業の改善のためのコンサルというビジネスが考えられるし、それには一定水準になればおしまいということがありません。審査でルールに抵触するのではないかと心配で、小声でとか壁に向かって話すのではなく、堂々と大声で改善策を指導したらフラストレーションがなくてすっきりするのではないでしょうか。
企業も品質向上、納期短縮、コスト削減なら大歓迎です。
良かったですね〜♪ (パレアナ)
もちろん改善提案が浮かんでこないなら、困ったですね。

うそ800 本日の心境
こんなことを書くようになったら、いよいよ私はISOとおさらばか、卒業かと思われるかもしれない。仕事でISOを離れて早8か月、亡くなった人なら俗世間に諦めがつく初七日も過ぎたという時期でしょうか。もうそろそろISOにこだわることもなさそうです。

うそ800 本日のいいわけ
本日の文章は、いつもよりチョッピリ真剣に考えたのです。




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