「中小企業のためのISO9000」

2013.08.07
著 者出版社ISBN初版定価巻数
ISO編
久米均・中條武志 訳
日本規格協会45424016421997.03.10発行時新品
2700
全1巻

同名の本は規格改訂のたびにでているが、これは1997年発行のオリジナルある。
古い本だが内容は古くなってはいない。この本のスタンスは、その辺に転がっているISO解説本とは違う。「どの会社も元々品質システムを持っている、そしてISO規格が規定する活動の多くを既に実施しているはずだ」とある。「しかしその品質システムを対外的に示すときには文書化が必要だ」と続く。
そんなこと当たり前のことで、私が「うそ800」で何度も語っていることだが、それを理解していない人が多いのも事実だ。ともかくこの本はそういう基本的なことから解き始めている。

責任・権限については次のように解説している。
責任とは「実施を期待されていること」、権限とは「行ってもよいと許可されていること」としている。
原文はどうなのかわからないが、このへんはちょっと私の理解とはニュアンスが違う。私は責任とは「実施しなければならないこと」であり、権限とは「決裁しなければならないこと」だと考えている。要するに可能ではなく義務であろうと考えている。原文のニュアンスはどうなのだろう。でもまあ許容範囲か?

品質マニュアルは規格要求に対応する文書記録までの道筋を示せばよく、具体的なことをマニュアルに書いてなくてもよいとある。それに全く同感である、というよりもそれは規格の文章そのままなのである。
だがそうすると過去、何千件何万件も出されたであろう「規格では○○することとありますが、マニュアルに○○すると書いてありません」という不適合は、この文章に照らせばどうなのであろうか?
JABは過去20年間さかのぼって認証機関の誤った審査を是正指導しなければならない。もちろん、そんなことしないだろうけどね。
だが、この本の翻訳者である久米先生も今はJABの理事長となった。
であれば己が翻訳した本と、現実が異なっていれば是正をしてくれるのだろうか?
生暖かく見守りたい。

手順書については担当者のレベルにあわせることをくりかえし述べている。仕事ができない人がいるなら文書を作ることではなく訓練することだと、これもきわめて当たり前のことをいう。だが当たり前のことをしていないところは多いだろう。
その原因は訓練の意味を理解していないためだろう

検査の項では、レストランで給仕長あるいはシェフがお客様にお味はいかがと確認するたとえ話がある。そして検査とは終わってしまってからでなく、進行中に監視してフィードバックできることがよいと書いてある。これはすばらしい具体例だと思う。

記録については「目的のない紙の山に埋もれるな」とある。当たり前だが、この当たり前のことが当たり前に行われてはいない会社が多いだろう。そしてその理由は、審査員が紙の山を望むからなのだが。

この本を読むとISO9001なんて非常に平易で、常識そのもののように思える。私は実際にそうだと思っている。
今改定が進められている2015年版がどうなるのかわからないが、いずれにしてもまた解釈がどうこうという話になって、地に足がつかない議論が沸き起こるのだろう。もっとも、そうならないと規格解説講演に人が集まらないとか、解説本が売れないから、それで飯を食っている人は困るわけだ。
もっと平易に、ISO9000とは会社の品質についての仕組みを明確にして外部に説明すること、そして不足があればその不足を補い会社をより良くすることだという基本に帰るべきだろうね。
それに認証の意義というか、認証にできることできないことをはっきりさせて、会社を良くすることが目的なら、認証でなくコンサルをしますよという道も拓かないといけないのではないだろうか?
ISO認証してもなにも良くならないと言われて「認証というものは・・」と言い訳することもないだろう。まあ、そのときはコンサル能力の有無が重大問題になるけれど・・

遅くなったが、この本のタイトル「中小企業のためのISO9000」とあるが、別に中小企業向けではなく、ISO9000に関わる全ての人のための本である。
それと「ISO9000」とあるが、これは誤植や簡略で9000としているのではない。当時はISO9000という規格は「品質管理及び品質保証の規格-選択及び使用の指針」というもので、ISO9001を読む前に、まず読むべき規格であったのだ。
現在もISO9000という規格は存在するが内容もタイトルも変わって「品質マネジメントシステム-基本及び用語」となっている。

ISO9001のみならず、第三者認証の有効性を立証できず、信頼性が低下しており、ISO離れが進んでいる今、ISO関係者、審査側も審査を受ける側も、この本を読んで基本から考えなおすべきだろう。
2015年改定が話題になっているが、改訂案などを読むよりも流行に流されずこの本を読んだ方がよさそうだ。品質マネジメントシステムの原点を理解してその基本を守ることが、真の品質経営につながると思うのだが。

最後の疑問であるが・・・・
2015年改定で新版「中小企業のためのISO9000」あるいは「中小企業のためのISO9001」が発行されると思う。どんなものか今から楽しみである。半分皮肉だけど・・

うそ800 本日のまとめ
16年も前の本だが内容は決して古くないし、これを越える本はみたことがない。
アマゾンで調べると中古品が9円で出ていた。まだ読んだことのない人は買って読むべし。
おっと読んだという方は、ぜひともこの本に書いてあることを実践してほしい。日本中の審査員とコンサルと企業担当者がこの本の趣旨に則っていたなら、今のような惨状はなかったはずだよ。

うそ800 本日の謎
10数年も前に、このようにISO9000を平易に解説した本が存在していたのに、ずっとおかしな審査が行われ、認証の価値が少しもあがらないのはどうしてなのだろうか?

いらないものは捨てなさい
いらないものは捨てなさい
うそ800 本日の蛇足
家内が、いらない本は捨てなさい! と怒鳴るので本棚を片付けていた。コミックの類、柳内たくみの「ゲート」などをもったいないけどしょうがないと思いつつごみ袋に入れた。この本を手に取って、さてどうしようかと思ったが、やはりとっておくことにした。
私も物持ちがいいというか貧乏人なのだ。


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