ケーススタディ 横山係長

13.10.06
ISOケーススタディシリーズとは

ここは岩手工場である。盛岡から車で1時間弱とだいぶ市街地から離れたところにある。
横山 横山がここに赴任したのがお正月明けで、横山は根雪というものをそのとき始めて見た。生まれ育った大宮でも職場があった東京でも、雪は降っても数日たてば融けてしまう。ところがここでは気温が低いから、降った雪は春まで融けない。こちらに来てから知ったが、岩手は本州で一番寒いところだそうだ。青森や新潟よりも寒いという。
気温だけでなく、思いがけないことはいろいろあった。はじめ横山は電車通勤しようと思っていたが、ここには電車がない。路線バスは走っているが、なんと1時間に1本しかない。それは地方では当たり前の間隔(感覚?)だが、大宮で生まれ育った横山にとっては信じられないことだ。当然のことながら従業員のほとんどは車通勤である。工場からさほど遠くない人にはバイクとか自転車通勤もわずかにいるが、冬は雪が降るので車で通う。
横山は運転免許をもっておらず、取りたいと思っても着任したのは真冬であり、自動車学校に行くには春まで待つしかない。それに免許取りたての初心者で雪道を走る勇気もない。そんなわけで春になった今もバスで通勤している。
環境係といっても環境管理だけではなく、植栽とか施設管理とか電気もボイラーも担当している。そして冬の期間は雪かきもある。雪が降ると全員早出して雪かきをするのだ。もちろん横山も早出する。雪が降るとバスも遅れて動きがとれない。それで三月までは早出や残業のときは、同じ方向の人に乗せてもらっていた。やっと4月になったが、この地では4月半ばまで雪が降るので安心できない。早いところ免許を取って中古でもなんでも車を買おうと思う。職場の人に買うなら4WDにしろと言われたが、4WDというのも横山にとって初めて聞く言葉だった。

そうそう、4月1日付けで横山は、前任者古田係長の後を継いで環境係長となった。
工場は本社とは違う。頭を使うだけでは仕事は進まず、文字通り手足を動かさないとならない。たとえば雪かきひとつとっても、部下に「雪かきして来い」と言えば済むわけではない。係長も雪かきする人数に入っているのだ。もちろん工場のメインストリートとか駐車場はフォークリフトで除雪するが、狭い通路とか軒先などこまかいところは、シャベルで手作業である。もっとも横山は体育会系で体を動かすのが苦手ではなく、そういった仕事を楽しんでいる。

今日は月曜日で、上司である上野課長、前任者の古田と毎週定例の打ち合わせである。
古田
「今年の寒さは例年並みでしたが、円安で燃料代が予想を超えて大変でしたねえ。4月も暖房をしますので予算は大丈夫でしょうか」
上野課長
「しなくちゃならないものはしょうがない。ただ工場内を歩いていて気になるんだが、蒸気配管のロスが多いんじゃないか。断熱材がとれちゃっているところが、あちこちあるようだ。特にエルボは問題だぞ」
エルボとはひじのこと。パイプなどが直角に曲がっている部分をいいます。そういう部分はガラスファイバーなどの断熱材をつけるのが難しい(めんどくさい)ので付けないところが多いのです。
横山係長上野課長古田
横山係長上野課長古田
古田
「はい、私も気が付いておりまして、ボイラー室の大山に点検させているのですが・・」
上野課長
「口で言っても、していないならだめだろう」
横山
「それじゃ今日の午後でも私が見て回りましょう」
古田はギョットしたような顔をする。
古田
「横山係長、係長が担当者をないがしろにして動いては、担当者が困りますよ」
横山
「もちろん担当の大山さんも古田さんも一緒ですよ」
古田はあまりうれしくないような顔をした。
上野課長
「それじゃ、大至急やってくれ。
それから法律で定められている前年度の報告や届出の件だが、昨年度の実績はどうなっているのか?」
横山
「ほとんどは6月末が報告期限です。エネルギーは本社が集計します。もちろん工場からも報告しなければなりませんが、本社から来る資料をそのまま出せば済みます。廃棄物、化学物質はすべて情報システムで行っていますので、それらは自動的に報告書まで作成できます。PCBなど実物を点検して報告書を作成するものもありますので、そうですねえ、4月末までには書類はまとまると思います。
課長の確認と工場長の決裁を頂く時間は十分に取れます」
古田
「役員の異動による届け出もありますが」
横山
「正式には6月の株主総会で役員が交代が決まりますから、まだ先のことですね」
上野課長
「わかった、それでいい。横山係長、進捗を定期的に報告してくれ。週報に記載してくれればいい。 それから排水処理施設のことだが、今年度に更新する件は承認されたものの、具体的な実施計画の策定や業者の選定などはどうなっているんだ?」
古田
「来月になってから始めようと考えておりました」
横山
「長期にわたると思いますので、早めに検討を開始しないといけませんね。古田さん、すぐに業者を当たりましょう。今から始めても秋までかかってしまいます。霜が降りる前に完了しなくては」
盛岡では10月半ばになると霜が降りる。つまり無霜期間はたった半年しかない。
古田
「横山係長、そう急がなくても」
上野課長
「いやできる限り早く進めてほしい。それから夏の省エネ計画の策定も頼むよ。今年はどうなるかわからないが、大震災以降、グループ全体で省エネを進めているからね。まったくここは冬は寒く、夏は暑いんだから」



横山は課長とのミーティングが終わると、すぐに古田と大山を集めた。
横山
「えーと、突然ですが、これから構内の蒸気配管の点検をしたいと思います」
古田
「課長に言われたからって、なにもすぐにしなくても・・・」
横山
「まあまあ、今日は特に緊急を要することもありませんから、思い立ったが吉日ということで・・ 大山さん、デジカメと工場レイアウト図、レーザーポインタ、懐中電灯がほしいです。そんなところでよろしいかしら?」
大山
「用意します。ところでレーザーポインタってパワーポイントのときつかうものですよね、何に使うのですか?」
横山
「遠くに何か見つけた時に、他の人に示すのに便利ですよ。明るいところだから強力なのがいいなあ」
大山
「双眼鏡も用意しましょう」
古田
「まあ、大した問題はないだろうけど」
大山
「それじゃ準備しますので、15分後にボイラー室で集合ということにしましょう。ヘルメット着用をお願いします。それから手袋、防寒着、長靴を忘れないでください」


ボイラー室に三人は集合した。
古田
「さて行きましょうか」
横山
「ちょっと待って。まずここから点検を始めましょう」
大山
「えっと、何か問題ですか?」
バルブ
横山
「ちょっと気になったのですが、蒸気配管の各系統ごとに元栓のバルブがあるでしょう。あそこは断熱していないけど、あれでいいの?」
大山
「まあ、昔からそうだったというしかありませんねえ。断熱材で囲んだほうが良いことは間違いないです。それにああいったところからの放射熱で、この部屋が必要もないのにむやみに暑くなっているのは事実ですね」
横山
「じゃあ、あそこの写真を撮ってメモして頂戴。
それとボイラーまわりでは問題はないのかしら?」
古田
「今回は蒸気配管の点検でボイラーの点検ではないのだが・・」
古田はブツブツ言いながら横山の後をついていく。
横山はピットの中の配管をながめていて、ギョットして立ち止まった。
横山
「ちょっと、ちょっと、検知器のフロートのチェーンがグレーチングにひっかかっているわ。これじゃ漏洩検知にならないわ」

こんなことでは困ります

こんな絵を描くのに30分もかかってしまいました。トホホ
グレーチングとは、金属で格子に組んだもので軽くて風通しが良いので、排水路のふたとか非常階段などに使われる。下が見えるので高いところだと私のような高所恐怖症の人は苦手である。

大山
「あれえ、まずいなあ、冬になる前にボイラーの自主点検を業者に依頼したのですが、そのとき配管を点検したあと、グレーチングを戻したときにひっかかってしまったのでしょう。本来ならグレーチングに開けた穴のところにチェーンを通すのですが・・」
横山
「大山さん、とりあえずここの写真を撮ってメモしておいて、ボイラー点検後のチェックリストに漏洩検知の確認があるのかどうか後でみましょう。それと日常点検はどうしているのかしら。もし点検項目になかったなら追加しなくちゃならないし、あればあったで問題だわ」
大山はまず警報装置のスイッチを切った。それから古田と大山が二人してヨイショヨイショとグレーチングを持ち上げて、フロートと検知部をつないでいるチェーンの位置を調整した。終わると二人は汗をかいている。
大山が警報の電源スイッチをオンしたのを見てから
横山
「大山さん、守衛所に電話してボイラー室の漏洩検知器のテストをすると言ってちょうだい」
一瞬大山はギョットした顔をしたものの、すぐに携帯で守衛所に電話する。
大山
「守衛所ですか。ボイラーの大山です。ちょっとボイラー室の漏洩検知の警報テストをしますので・・はい、今すぐに実施します。警報が鳴ったらすぐに切りますから」
大山がそういうのを聞いて、横山は無造作にフロートを揺らした。警報がボイラー室に鳴り響く。
電話から警報が鳴りましたというのが聞こえた。大山はそれに応えて
大山
「あ、警報が鳴りましたね。正常を確認しました。警報を切ります」
横山はフロートから手をはなし、大山は警報装置をリセットした。
横山
「警報は直ったからよしとして、さっきのバルブの断熱は書いたわよね?」
大山
「書きました」
大山は仏頂面で応えた。
横山はそれからしばらくボイラー室をながめてから外へ出た。
工場の通路の中央に立って向こう側を見通す。
横山
「実を言って私も前から気になっていたんですけど、構内通路に立って左右の蒸気配管をみると、断熱材がないだけでなくあちこち蒸気が漏れているのが見えるでしょう。課長が気にするのも当然だわ。それと断熱材もとれたのではなくはじめからついてないところもあるようね」
大山も古田もあまりうれしくない顔をしている。
横山
「大山さん、あの蒸気の出ているところ、写真をとって」
蒸気が目に見えるはずがない。目に見えるのは湯気である。横山は白い湯気が温泉のように景気よく出ているところを指さした。
1時間半ほどかけて巡回を終えた。
横山
「大山さん、写真とレイアウト図と状況を簡単にまとめて頂戴。明日の昼までにできるかしら。明日の午後に三人で集まって対策を考えて、来週の課長とのミーティングで概要と対策案を報告したいわ」
古田と大山はヤレヤレという顔をした。



4月も半ばを過ぎるとポカポカと暖かい日が続いた。
横山が見ているのは、排水処理担当の小川から出てきた排水処理施設の更新計画書だ。
突然、火災報知機のブザーが鳴った。横山は飛び上がりロッカーの上においてある自分の名入りのヘルメットをかぶり、警備室に電話をする。
横山
「環境課の横山です。火報はどこ? 第2工場の北側通路ですね、了解
全員出動」
目の前の環境課のメンバーに声をかけた。
横山の意気込みに反して、みなポカンとして横山を見ている。
横山はとりあえずそれをほうっておいて一人駆け出した。

火報の発生場所に着くと、既にガードマンが二人駆けつけていた。自衛消防隊はまだのようだ。
ガードマン
「警報が鳴った報知機はここです」
横山を見て、ガードマンが通路の天井を指さす。ここは機械もなければ品物もない単なる工場内の通路だ。
ガードマン
「特に煙も火の気もみえませんねえ〜、隣の報知機は鳴っていませんので、少なくてもここを中心に15m以内になにかあったか、もしくはこの報知器の異常ですね」
現場の監督らしきものが走ってきた。
監督
「すみません。先ほどの警報が鳴ってから私どものところに来ている業者の人が、このあたりでタバコを吸っていたと言ってきました。そちらの指導は私の方でいたしますので、とりあえず火災ではなかったということでご了解ください」
ガードマンは業者の指導をしっかりしてくださいと言って去ろうとした。横山はガードマンを引き留めた。
横山
「すみませんが、火報が鳴って既に7・8分経つと思いますが、自衛消防隊はまだ来ないのですか?」
ガードマン
「そうですねえ、遅いですねえ。おや来たようです」
ガードマンが指さす方をみると、車輪がついた大きな消火器を引っ張って、防火服を着た10人ばかりが走ってきた。
横山はそれをみてため息をついた。環境課だけでなく、自衛消防隊もたるんでいるようだ。


横山は自部署に戻ると、全員を自席の前に集めた。
横山係長
古田大山小川谷田
古田
前係長
大山
ボイラー担当
小川
排水処理担当
谷田
電気担当

横山
「この部門の名前は環境係ですけど、その仕事は植栽の管理から施設管理までしているのです。火報が鳴った場合、庶務担当以外は全員ヘルメットを着用して、非常用工具を持って現場に駆けつけること。
今日の火報は、たまたま所定の場所以外でタバコを吸っていたということで火事ではありませんでしたが、万が一、本当の火災だったらどうしますか。このルールは今から即実施です」
谷田
「あのう、まずガードマンもいるわけですし、火災に備えて自衛消防隊もいるわけです。ルールでは自衛消防隊から出動要請があって私たちが行くことにしています。何も知らずに我々が行っても、できることって限られていると思いますが」
横山
「火災が起きたとき、電気やガスの担当がいなくちゃ対応できないでしょう。それに今の機械は消化液をかけたらパーというのも多いから、そういったものに対する消火の指示もしなくちゃならないでしょう」
古田
「横山係長、どうでしょうか、我々が駆けつけても邪魔になるだけではないかと思いますが」
横山
「古田さん、アドバイスありがとうございます。でもとりあえずこの方法でやってみましょう。 繰り返しますが、本日ただいま今から、火報が鳴った場合、即駆けつけること。みんな若くて元気そうだから、現場に2分以内に到着することを目標としましょう」
大山大山 がウヘーという顔をした。



火報騒動から数日経った。横山は小川と排水処理施設の更新計画書を前にして打ち合わせをしている。
横山
「小川さんの計画をみると、仕様は従来のまま更新するようね。一旦更新すると10年以上使うことになるわけですから、これで将来に向かって大丈夫なの?」
小川
「現在の規制対応としては十分だと思います」
横山
「窒素の規制が今年(2013)厳しくなったでしょう。あの規制値は平成30年までとあるけど、他の項目も今後厳しくなることはあっても緩くなることはないわ。この工場の排水には関係ないと思うけど、亜鉛もリンも厳しくなる一方だから、そのへんをどう考慮しているのか教えてほしい」
小川
「計画案では将来規制が強化されることまでは考えていません。でもどうなんでしょうかねえ〜、正直言って先のことは分らないというのが本当ですね」
横山
「私もわからないわ。でも最低限、当社が該当する項目の規制の変化について現在わかる範囲でまとめて、だからこの設備の使用期間はこれで大丈夫だということを言えるような資料を付けてほしいわ。そういうものがないと投資計画が許可されないわよ」
小川
「わかりました。入手できる公表されている情報だけでよろしいですか?」
横山
「あのね、自分だけで考えることはないのよ。それに誰にだってわからないことってあるわけよ。こういうときは本社を使えばいいの。本社ではそういう情報を集めているから、当工場でこういう投資をする予定だけど、今後の法規制をどう考えているかと問い合わせてよ。ある意味、そういうことをしていれば後で言い訳にもなるわけだし」
小川
「わかりました」
そのとき火災報知器が鳴った。
小川が守衛へ電話をする。
小川
「ハイ、第4工場柱4S3ですね、了解しました。
第4工場、柱4S3火災発生」
小川が大声で部屋中に叫ぶ。
みな一斉に立ち上がる。
横山を先頭にヘルメットをかぶってぞろぞろと走り出す。先日、非常時の持ち物を確認したが、それぞれ掛矢かけや、とかバールとか電気回路図など決められたものを持っている。
掛矢とは大きな木槌きづちのことです。赤穂浪士の吉良邸への討ち入りのとき裏門を壊すのに使われたという。表門からは梯子をかけて侵入した。なぜ表門を壊さなかったかというと、大きくて壊すのが大変だったのと、そこから外に逃げられるのを防ぐためという。

今回は、横山一行のほうがガードマンよりも早く現地に着いた。
横山
「火報が鳴ったのはどこ?」
谷田
「柱4S3番、ここですが・・・」
見回しても火の気はない。
現場の監督が走ってきた。
監督
「すみません、検査装置の電子回路の修理をしていて半田ごてを使っていまして、そのフラックスの煙を検知したようです」
横山
「因果関係は確かですか?」
監督
「火報を聞いて、作業を止めましたら、すぐに警報が停まりましたから確かだと思います」
ガードマン ガードマンがやってきた。
監督はガードマンにも同じことを説明した。それから担当者を呼んで皆の前で半田付作業をやらせた。まもなくまた警報が鳴り、作業をやめると止まった。
谷田
「ここで継続的に半田付作業をするなら検知機を交換した方が良いですね。煙ではなく光検知などに・・」
そんな話をしていると、自衛消防隊が到着した。環境係が既に到着しているのを見て、クソッという顔をする。
横山
「では撤退します」
古田
「わざわざ出向くまでもなかったですねえ〜」
古田がそういうと意外にも谷田が
谷田
「いや古田係長、問題でなくて良かったです。ほんとうであればなおのこと我々が駆けつける意味があると思います」
古田は谷田の言葉を聞いていささか驚いて
古田
「おれはもう係長じゃないから、横山係長の指示で動かないと」
とブツブツ言う。



1週間ほど過ぎた昼休み直前にまた火報が鳴った。
横山が声を出す前に、大山が守衛所に問い合わせた。
大山
「事務所棟、1階ですね。了解です」
それを聞いて全員が道具を持って走る。
事務所は工場の入り口にあり、工場の奥にある環境課からは200メートルはあるだろう。走りながら雪道なら大変だなあと横山は思った。
事務所棟に入ると焦げたにおいがして、何人もの人がワアワアと騒いでいる。
横山たちが駆け込んできたのを見てひとりが寄ってきて言う。
?
「コンセントから煙が出ました」
みると確かに壁のあたりに薄い煙がただよっている。炎は見えない。
横山
「谷田さん、元を切ってちょうだい」
谷田
「事務所のメインを落しますからそれまで待ってください」
谷田は一旦廊下に出てすぐに部屋の照明もパソコンモニターも消えた。谷田が入ってきた。
谷田
「電源OFFしました」
小川と大山が消火器を持って発煙場所に恐る恐る近づいて、なにやらごそごそしている。
小川
「ブレーカーのまわりが黒くなっているだけですね。周囲は変色していません。大電流が流れてもなぜかブレーカーが落ちなかったみたいです」
そこの担当者が頭をかきながら
?
「実は業者が新しい機械を持ってきてデモしていたんだよ。25Aというので、大丈夫と思ったんだが」
谷田
「ここは家庭用と同じく15Aですから、ちょっとそれはオーバーですね。しかしブレーカーが落ちなかったのは問題だなあ。それは調べないと。とりあえず点検して他に異常がなければ、すぐに復帰します」
そのとき自衛消防隊が到着した。横山一派をみて、また先を越されたという顔をする。
横山
「それじゃ谷田さんは電気屋さんを呼んで点検をお願いします。じゃあ撤退します」
事務所に戻ってしばらくすると、総務課長が横山のところにやって来た。
総務課長
「横山係長、張り切ってますねえ」
横山
「ハイ、なんでしょうか?」
総務課長
「実は自衛消防隊から苦情が来たのですよ。火報が鳴ったとき、お宅は職場から直行しますが、自衛消防隊は現場で働いているわけです。それで火報が鳴って消防詰所まで駆けつけて、消火器を引っ張っていくとお宅より遅くなるわけです。つまり・・」
横山
「私たちが早すぎると言われてもねえ、こういうことは拙速を尊びましょう」
総務課長
「そうですねえ〜、連中には次回は負けるなと言っておきましょう」
総務課長も何とも言いようがない。
そこへ谷田が戻ってきた。
谷田
「報告します。点検しましたところ、こげたブレーカー以外の機器には異常はありませんでした。それでブレーカーを交換してすべて復帰しました。
聞取りしましたら原因はですね、今日デモに来た業者が、本来なら電源をしっかり取らなくてはならない機器だったのですが、その電源コードを一般のコンセントから取るように改造して普通のコンセントにつないでいたこと、更にブレーカーが落ちないように何か細工したらしいのです。厳しく言っておきましたから」
横山
「お疲れ様、でもさ、厳しく言った程度でいいの?」
総務課長
「あ、それじゃ私の方から資材部門に警告状を出しておきます。業者には資材から文書で通知してもらいましょう」

次の朝、横山が会社に来ると、皆の目つきが少しは横山を尊敬するようになったような気がした。

一般の工場では火報なんてどのくらいの頻度で鳴るのだろう。私が20年前にいた工場では、十日とおかに一度は警報が鳴った。私は計器管理とか品質保証などを担当していたが、同じ部門だったので私も一兵卒として駆けつけた。
もっともその9割9分は誤報というか火事ではなく、感度が良すぎるとか外来者が禁煙区域でタバコを吸っていたなんてことだった。もちろん何度かは実際のこともあった。
なお、ここに書いた事故の状況や原因があいまいとかうそっぽいと思われる方、あいすみません、あまり真に迫っていると私の過去の経験と思われるといささかヤバイので適当に考えました。

うそ800 本日のまとめ
この調子なら、横山係長は何とかやって行けるだろう。
むしろ、あまり周りをひっかき回さないように注意が必要かもしれない。



ななし様からお便りを頂きました(2013.10.07)
この係にはこのメンバーしかいないのですか?
廃棄物担当は必要ないのですか?

コメントありがとうございます。
もちろん、廃棄物担当、植栽担当、建屋担当、化学物質などなどいるのですが、とりあえず物語に必要な部分のみということでご了解願います。
お芝居ですから・・
おっと、この工場にはISO担当もISO事務局もありません。それは本来業務に溶け込んでいますので・・



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