マネジメントシステム物語21 教育・訓練

13.12.22
マネジメントシステム物語とは

クシナダの品質監査を受けてから、ふた月が過ぎた。おかげ様でクシナダからも仕事がとれ、また一時は品質が悪いから発注しないと言った白兎電気からも継続して仕事がくるようになった。もう仕事がなくなるのではという心配はない。いや最近の品質向上のおかげか、あるいは納期も守るようになったせいか、仕事量は以前に比べて増加している。とはいえ負荷的には常に残業20%くらいあるのが妥当なところだろう。営業担当の星山専務も、事業継続の危機を乗り越えホットしている。最近は社長も品質不良でお客様のところに頭を下げに行くこともなくなった。
星山は以前から朝会社に出勤するのは好きだったが、今は毎朝遠足に行くような気分で家を出ている。こんなふうになったのはどうしてだろうかと星山は常々思う。佐田たちが来て改善をしたからだろうか。あるいは自分たちの努力が実を結んだからだろうか。間違っても川田たち三人のおかげということはあるまい。佐田と武田の功績という可能性が大きいが、あの二人がそれほどの仕事をしたとも思えない。あるいは以前佐田が言った従業員の意識改革によるものなのだろうか?いつもそこまで考えるのだが、そこからは考えが進まないのだ。

会社に着いたのは始業の1時間も前だが、既に武田と佐田は会社にいてコーヒーを飲みながら話をしている。武田が製造課長になってから、朝ここにいるのは珍しい。話に熱が入っているのをみると、雑談ではなさそうだ。
星山は挨拶をして、二人の脇を通り役員室に入り席にバッグを置くと、また戻ってきてコーヒーを注ぐ。そしてカップを持ったまま、二人のそばに行った。
星山専務
「朝から熱の入った議論をしているが、何を語っているんだ?」
武田
「大激論をしていたように見えたかもしれませんが、意見が対立しているわけではありません」
佐田
「私たちが来てもうすぐ半年になりますが、成果を出せたのかどうかを話していました」
星山専務
「そりゃ出ているだろう。品質、納期、コスト、三つの観点とも改善されていると私は感じているよ」
佐田
「感覚的にはそうかもしれません。しかし数字でそう言えますか? 私たちが来る前に比べて違いがあると言えるでしょうか?」
佐田 星山 武田
佐田 星山専務 武田
星山専務
「品質で言えば、そうだなあ〜、個々の品目の不良率や手直し時間というのはわからないが、材料廃却金額や客先からの苦情は減っているように思う。この場では分らないが、そういったものは経理の数字とか営業の記録を見ればわかるよ」
佐田
「専務、この会社が毎月私たち二人の人件費としていくらか私は知っています。たいへんな費用をかけているのですから、改善があるのは当たり前です。論じなければならないのは、お宅が支払った費用の何倍回収したか、儲けたかということじゃないですか。今武田君と私は、その効果を出せたかどうかということを話していたのです」
川田取締役はそのとき出社してきた。川田もこのところ出社時間が早くなった。川田は三人に挨拶して役員室に入っていった。
星山専務
「そこまで厳密に考える必要があるのか?」
佐田
「経営はすべてお金に帰結しますよね、いやお金がスタートというべきでしょうか。
話を戻しますが、武田君と私の意見はまだ十分じゃないということでした」
星山専務
「もちろんお二人には、これからも期待するよ。企業では使ったお金は回収しなければならない」
佐田
「期待に添うように頑張ります。でも多くの会社では長期的に利益になることよりも目先にとらわれていますね」
星山専務
「たとえば?」
佐田
「私は中小の会社に行くのは日課でした。下請けや調達先に行って、作業改善や品質改善を指導するのです。そのとき感じたのはそういった会社でのお金の使い方でした」
星山専務
「お金の使い方とは?」
佐田
「はっきりいって中小企業、特に従業員が30人以下くらいになると、従業員の質が高いとは言えません。社長と幹部数人はまず確かな人ですが、現場で働く人になると出入りも激しく熟練していないケースが多いです。そういった会社は、金があれば、いや金がなくても、自治体などの支援を受けて機械設備に金をかけます。いまどきNC機械なんて安いですから、設備をそろえるのは簡単です。そういったものがあれば高精度の加工ができるとか、作業能率が上がると思っているのです。
しかし人に投資するところはめったにありません。本当は人に投資すべきなんです」
星山専務
「確かになあ、従業員に教育したり資格を取らせたりしても、移動が激しいから投資してもパーになってしまうことが多い。それはウチも同じだよ」
佐田
「私たちがここでした品質向上や作業改善が、単に私たちが指示して実施させたり自らしたことによるものであれば、それは虚しいと思いますし、私たちがいなくなれば基に戻ってしまうでしょう。人の育成をして、技能とか、考え方とかを教え伝えないと、私たちがここに来た甲斐はないですよね」
星山専務
「いやはや佐田さんは経営者レベルだね。今までそんなことを考えたこともなかったよ」
佐田
「専務、はっきり申し上げておきますが、この会社で私がいらなくなったとき、それは私が無能である場合も、無能でなくても私がいなくてもやって行けるとなったときは、一刻も早く私を素戔嗚すさのおに返してください。私がここにいるだけで大変な費用が掛かっているのです」
星山専務
「おっしゃるとおりだ。覚えておくよ」
始業15分前の予鈴が鳴った。
武田
「おっと時間だ、失礼します」
武田は部屋を出ていった。
役員室の部屋のドアはいつも開けているので、川田は佐田たちの話が聞こえていた。川田は佐田の言葉を聞いて、いかに自分が甘いというかいいかげんであったかを思い知らされた。佐田は成果を出すのは当たり前で、自分の人件費対成果を考えて、その比率が大きくなければ出向した意味がないと考えているのだ。
それに対して川田は具体的な方法も指標も考えずに、すぐさま大きな成果を出してやると高をくくって乗り込んできた。それに、成果をだしたら故郷に錦を飾るというか、すぐに素戔嗚に戻って本社に行こうなんて考えていた。甘いというか夢みたいなことだったと今は思う。
そして成果も出していないのに今もまだ出向を継続しているのだ。佐田の考えなら一刻も早く立ち去るべきとなる。
星山専務
「佐田さんのいう、従業員の教育とはどういうイメージなのだろう?」
佐田
「大手は階層ごとの社員教育をするところが多いです。しかしその内容が仕事に役に立つのかと言えば、効果があるようには思えません。大手は終身雇用か、そうでなくても長年勤める人が多いから、直接仕事につながらないことを教育しても、いつかそれが役に立つと思えば教育するコストが惜しくはないのかもしれません。
中小はそういった直接的でないというか仕事に密着していない教育ではすぐには効果がありませんし、見返りがあるまでその人が勤めているかどうかもわかりません。私の知るかぎりでは、実際に仕事をしている機械や作業の技能検定を受験させるところが多いようです。でもそれも効果があるのかと言えばどうでしょう」
星山専務
「じゃあ佐田さんはどういうことをするべきだと思うのかね? ウチのような場合は」
佐田
「今している仕事を教えることだと思います」
星山専務
「今している仕事?」
佐田
「非常に簡単なことですが、今している仕事が、なんのためにするのか、どういう手順でするのか、ルールを守らないとどんな問題が起きるのか、そういうことを教えるのです。
責任権限なんてよく言いますが、責任と権限は明確に異なる概念です。責任はトップも今日入社した人も全員が負っており、責任を全うしなければならないという意識を持たせなければなりません。
意識づけとは精神論ではありません。一人一人に、あなたの仕事はどんな意義があるのか、どのようにしなければいけないのか、常により良い仕事をしようと励まなければならないといったことを、日々、上司や先輩がしっかりと教えることが意識づけであり、最大の教育だと思います。
それは品質や能率の改善だけでなく、事故や怪我の予防にもなるのです」
星山専務
「そしてその次に、現状では不十分だと続くのだろうね」
佐田
「そうは言いませんが、しっかりとそういったことを教えれば、もっと品質も効率も上がるでしょう。そしてそういう教育は従業員の定着を向上すると思います」
星山専務
「そううまく行くのかな」
佐田
「少なくても余分な費用は掛かりません」
星山専務
「具体的にはどうすればよいのかね?」
佐田
「クシナダ対応で会社の手順書や作業指示書を作りましたよね。これからはあれを教えることなのです」
星山専務
「あれを教える?」
佐田
「間接部門、つまり製造現場でない総務とか経理などの意味ですが、そういう人にはその人がしている仕事を定めた規定を読ませたり、規定を配ったりして、仕事の目的や手順を覚えさせるのです」
伊東
「規定をコピーして配っても良いのか?」
突然、伊東の声がしたので星山と佐田はびっくりして振り向いた。
星山専務
「また、お前か?」
伊東
「またお前かとはひどいなあ〜、俺は今れっきとした改革プロジェクトの一員だ。つまり職場はここだ。それにもう始業のベルは鳴ったよ」
佐田

「正規配布でなければよいのです。教育用に配るのは『参考用』とか『写』のハンコを押しておけばよいですね」
伊東
「ああ、そうだったな」
佐田
「そして製造現場では作業指示書をしっかりと周知することですね。具体的には毎日仕事を与えるとき、リーダーや先輩が、その作業を書いた作業指示書を見せて、それを読みながらというか、さし示しながら、どのように仕事をするのかを教えるのです」
伊東
「だけど作業指示書の中には、内容がないものとか、ベテランが見たら噴飯ものもあるぞ! あんなものを教えてもしょうがない」
佐田
「そういうものがあるなら、なおのこと指示書を使った教育を行い、その過程で作業指示書の不備を見つけることができて改善になるじゃないですか。ますますやる甲斐がありますね」
伊東
「おまえはブレないというか、そのポジティブ思考には呆れるよ」
星山専務
「なるほど、教育とは座学とか難しいことということではなく、仕事を教えることなのか」
佐田
「だって会社で教育する目的は、ちゃんとした仕事をしてほしいからじゃないですか」
日本の企業やISO審査員には、教育とは環境を保全するため、世界を救うためにするものだという信仰を持っている人が多い。アフリカゾウを救え! マングローブを救え! シロクマを救え!と社内教育で教える意味はなんだろうか?
シロクマを救えと教える前に、そのわけを教えてほしい。
金持ち企業はマングローブ植林をしたり、貧乏企業はトンボを救う活動をしたりしているが、大丈夫か?
それをしちゃいかんとは言わないが、その前にすることがあるだろう!?
伊東
「思い出したが、武田君、おっと武田課長と言わなくちゃいかんな。彼はタレパンのプログラムを改善するのが得意技だが、早いところあのノウハウを教えてもらわないといけないな」
星山専務
「伊東、そうだ武田課長のそういったテクニックを教えることを計画してくれないか。タレパンの操作をしているのが3人いたな。あいつらが対象だ」
伊東
「わかった。すぐに武田課長と相談するよ」
佐田
「あのう、話の腰を折って悪いのですが・・」
伊東
「何か問題があるのか?」
佐田
「教育とはなんでもやればいいってものではないのです」
星山専務
「うーん?」
伊東
「教育をしてはいけないこともあるというのか?」
佐田
「会社における教育とは学校とは違うのです。学校の教育の目的は、定められた知識を生徒に与えることです。しかし会社ではまず従業員一人一人に対して会社が、まあ現実には上司でしょうけど、上司がこの人はこうなってほしいと期待するものがあるはずですよね。その期待するところと、その人の現状に差があるときに、その差を埋めることが教育の目的なのです」
星山専務
「言っていることは分るよ。それと今の話はどうつながるの?」
佐田
「私は細かい状況はわかりませんが、今、タレパンを操作している人が3人いるのですね。そして武田課長や製造係長は、タレパンの作業能率向上を図りたいと思っているでしょう。しかしあの職場でプログラムを改善する能力を向上させるのが、いま必要なものか重要なのか、どうでしょうか」
伊東
「おまえの話はいつも長ったらしいんだよなあ〜」
佐田
「すみません。前提を明確にしようとすると話が長くなってしまいます。
製造課にはタレパンに関らず改善しなければならないことはたくさんあるでしょう。その課題には実行する優先順位があるはずです。なにもかもは一度にはできませんから。
優先順序を決めるには、必要性や重要性を考慮しなければなりません」
星山専務
「つまり課長や係長が、プログラム改善を最優先しているかどうか、そしてそれを誰に期待しているかを諮らずにはできないということか?」
佐田
「そうです。タレパンに関して私が見る限りでは、材料のセットとかプログラムを呼び出してスタートさせるという定型的な作業ができる人が足りないように思えます。ですから残業や日常の生産をもう少し融通が利くようにするには、タレパンの基本的な操作ができる人を、あと数名養成することが最優先課題のように見えます」
伊東
「だけどプログラムをいじればすぐに10%も短縮できるのを、しなくても良いということはないだろう」
佐田
「もちろん改善は必要です。ただ武田君がいまそれを教育しようと考えているかといえば、武田君はそういった作業は当面自分がする気でいて、もっと別なことが喫緊の課題と思っているのではないかと・・おっと、決して出し惜しみということではありませんよ」
伊東
「なるほど、佐田君の言いたいことは分かった。教育は単にレベルアップのためではなく、会社が必要に迫られていることを必要な人に対して行うということだな」
星山専務
「わかった。教育とは思い付きじゃなくて、長期的というか全体的な、まずあるべき姿をはっきりさせて、それと現状の違いを把握して、その差を補うということなのだ。そのあるべき姿を考えるのが我々管理者ということになる」
佐田
「そのとおりです。でも専務の仕事はそうじゃありません。経営層が考えることは当社の事業をどうするかです。新分野への進出や海外生産などの長期的計画もあるでしょう。そういったことを経営者が考えて管理者に周知徹底させることが必要です。長期的に不要になる技術技能であれば、わざわざ養成することはありません」
星山専務
「社長やわしが長期的計画を考えても、管理者がそれを理解して展開してくれるとは限らないぞ」
佐田
「そういう管理者を育成するのは経営者の責任ですよ」
川田は役員室のドアのところで佐田の話を聞いていた。素戔嗚すさのおにいたとき川田が部長、佐田が係長だった。しかしあれは間違いで本当は佐田が上司、川田が部下でなくてはならなかったようだ。川田はそう思った。


数日後の午後である。製造課の事務所で武田課長、製造係長に星山専務が話している。
製造係長 星山 武田
製造係長 星山専務 武田
星山専務
「当社の品質が最近改善してきたという声をお客様から聞くようになった。正直うれしいことだ」
製造係長
「いや、そんな話を聞くとうれしいねえ
先日、白兎電気でよその会社から入った部品が不良だったとき、ウチの不良だって思い込んだと聞いても、しょうがねーなって思っちゃいましたよ。なにしろ以前から当社の品質は悪いってのが定評でしたからねえ」
星山専務
「それでますます品質向上と生産性向上のために、ふたりに教育計画を考えてもらいたい」
武田
「教育計画ですか? 私どもでは、日々OJTなどで必要な教育をしているつもりです」
星山専務
「現状で十分というのか?」
武田
「係長、スキルマップがあったよね」
製造係長
「ハイハイ、持ってくるね」
係長は一旦部屋を出てすぐに戻ってきた。手に模造紙を丸めたものを持っている。
テーブルにそれを広げる。

氏名





















































安藤忠雄     
加藤大輔       
真田幸村     
丹下左膳      
中村主水    
橋下 徹   
松下幸之助      
矢代英太   
楽天寅鈴     
和田秀樹  
            
星山専務
「以前から作っていたものじゃないのか?」
製造係長
「ああ、これはそうでした」
係長はそう言いながらもう一枚を広げた。それは各人の行が3つになっている

氏名 時期





















































安藤忠雄現状    
将来   
今年           
加藤大輔現状       
将来  
今年         
真田幸村現状     
将来   
今年          
丹下左膳現状      
将来 
今年         

製造係長
「従来ですと、スキルマップを作っても、あんたはこうだと言ってオシマイでしょう。それで課長と相談して、現状と将来と今年の目標の三行にしてみました。
もちろんそれだけじゃありません。将来と今年の目標は本人と課長と私の三人で話し合いして決めたのです。これを現場に貼っておきますので、本人も自分が言い出した目標は達成しなくちゃ恥ずかしいでしょう。もちろん作れば終わりではなく、三月に一度三人で、進捗や希望の変化などの話し合いをしています。まあ30分くらいですがね」
武田
「上記の今年の目標については、各自一人一人について、育成方法を考えて、計画表を作っています」
武田は一人のものを広げた。

氏 名:加藤 大輔計 画実 績
プレスブレーキ4〜6月 段取りなど習いながら操作。
8月に一人でできるようになる。

4/20より実習開始
図面解読 JISB0001、JISB0024、JISB0025、JISB0026、JISZ8114、JISZ8310
上記について毎週係長が時間をとって解説(丹下と一緒に講習を行う)
4/15実施
5/17実施
フォークリフト8月〜9月 定時後に構内で練習。
秋に技能講習を受講する。



星山は自分が余計なことを言わずとも、この二人はどんどんと改善を進めていることが分った。
星山専務
「いや、私がお願いしようとしていたことは、既に二人が進めているようだ。余計なことを言ってすまなかった。これでいい、しっかり頼むぞ」

星山は武田がしっかりやっていると感じたが、他の部門はどうなのかとまた心配する。
星山は役員室に戻らず、営業と総務の部屋に寄った。
星山 営業課長
星山専務 営業課長
星山専務
「営業課長、お前んとこには営業マンは何人いるんだ」
営業課長
「専務、冗談言わないでくださいよ。営業課は私含めて3人だけじゃないですか。営業マンを増やしてドンドン仕事を取りますか?」
星山専務
「お前は部下に対してどんな教育をしているんだ?」
営業課長
「今までお客様の電話応対の言葉使いとか、メモのとりかた、見積もり方法、社内の伝票処理なんてのを必要な都度教えてきました。ところで先日クシナダの品質監査で、現場が規定というのを作っているのを見ましてね、これはいいなと思いました。
今までは気が付いたことを口頭で説明してたんですが、毎回同じようなことを話しても忘れちゃいますよね。いや聞いた方だけでなく話した私もなにを教えたか忘れてしまいます。
規則とかルールというと、めんどくさいとか縛られるのが嫌だという気もしますが、仕事の仕方を書き物にするというのは、やはりちゃんとした仕事をするもとですからね。
というわけで今営業の仕事を文書にしようと考え中です。クシナダのときは総務の菅野さんが規定の原案を作ったと聞いたので、菅野さんに私の書きたいことを説明して案を作ってもらっているところです。菅野さんが総務に戻ってしまってちょっとやりにくいのですが」
星山専務
「そうか規定を作っているのか。そうすると出来上がった暁には、その規定で教育をするというわけか?」
営業課長
「いやわざわざ教育をすることは考えてません。ヒマがあったら読め、分らなかったらそれを見ろというだけでいいのではないかと思います。だって読んだだけでわからなければ、そんなものは教科書じゃないでしょう」
星山専務
「なるほど、そういう方法が教育だということなのだな」
営業課長
「まあうちの二人は高卒ですがしっかりしていますから、方法を書いたものがあれば、それを見て定型的なことなら処理できるでしょう。どちらにしても営業の判断、値段交渉といったものは文字では書けませんし、専務に出てもらって戦略価格とか当社の状況を見て判断してもらわなければならないところもありますしね」
星山専務
「ということは規定に書けるのは、定型的な仕事の手順や書類の作り方だけというわけか?」
営業課長
「そりゃそうですよ、仕事量が少ないときは限界利益が確保できればということもありますし、負荷がオーバーならいくら儲かる仕事でも断るしかありません。とはいえ、過去からの付き合いがあれば無理をしても取るとか、他を紹介するということもあり、そういうのを数字とかで判断基準は書けませんよ」
星山専務
「なるほどなあ、じゃあ営業の規定ができたらぜひ見せてくれ」
営業課長
「専務しっかりしてくださいよ。会社のルールは、専務が承認しなくちゃならないんですよ」

星山は次に総務課に行く。
星山専務
「総務課長、お前んとこの教育ってどんなことをしているんだ?」
総務課長
「教育ですか、、、何かを教えるというよりも、学ぶ場というか機会を作ってやるということでしょうね」
星山専務
「なんだ? その学ぶ場を作ってやるとは?」
総務課長
「先日のクシナダの品質監査のときのことです。菅野さんが文書管理の規定の下書きを作ってくれました。私と和田さん がそれを読みまして、文書管理とはなにかということについて話し合ったのです。その結果、菅野さんにはいろいろと修正をしてもらいました。そんなことをしていたので和田さんと私は同じ理解をしていたわけです。そして品質監査を受けるとき、和田さんがぜひ自分が対応したいというのです。驚きというよりも感動しましたね。ですから総務の対応は全部和田さんにしてもらいました。
教育ってなにかといえば、人を伸ばすことですよね。そのためには会社での教育とは、教えることではなく、その人が学ぶことができる機会を与えることじゃないかと思うのです。それだけでどんどんと力をつけてくれますよ」
星山は教育といっても部門により、課長によりいろいろな考えがあるものだと思う。どれがいいのかということも一概に言えないだろう。仕事にもよるし、対象者のレベルや意欲によっても違うだろう。だけど現状とあるべき姿をはっきりさせて、その差分を教えるあるいは学ばせるということは間違いないようだ。
上長がそれを認識し、本人に自覚させ実行させること、それが大事だなと思う。



数日後、伊東が星山専務に話しかけてきた。
伊東
「星山よ、ちょっと相談があるのだが」
星山専務
「なんだお前らしくない。借金でもしたいのか? 専務なんて言っても、賃金なんてお前と変わらんよ」
伊東
「お金じゃないんだが・・・実を言って昨夜市内の労働組合の会合があったんだけど、そのとき口がすべてしまってさ、武田君がタレパンのプログラムを改善したことを話したんだよ」
星山専務
「それで?」
伊東
「うちの所属している協議会はプレス屋とか成型屋とか旋盤の中小企業ばかりだろう。それを聞いて武田君に講演会をしてもらえないかと言われたんだ」
星山専務
「生産性向上を労働組合がするわけか・・おかしいと言えばおかしな話だ」
伊東
「まあ、それはともかく、武田君のノウハウをよそに知らせても良いのかと・・・
社内で相談して回答すると言っておいた」
星山専務
「それでどう回答するかということか・・・」
伊東
「すまん、お前に借りは作りたくないのだが・・」
星山専務
「別にこんなこと、借り貸しではないよ。俺の意見は、まず武田課長の判断を尊重する。彼が外に話しても良いというなら講演してもらおう。その代り他社の情報というかテクニックも教えてもらうという条件付きだな」
伊東
「わかった。ありがとう、武田君に相談してみるよ」

武田は伊東の話を聞いて即答した。
武田
「かまいませんよ。教育訓練とか作業改善なんて秘密にしてもしょうがないでしょう。今に、いや既に外国の追い上げが激しいのですから、国内の中小企業は連帯して技術技能を向上していかないと」



ある日、佐田にクシナダの横山から電話があった。
クシナダの監査からもう2ヶ月が経つ。なにごとかあったのだろうか?
佐田
「やあ、横山さん、お久しぶりです。弊社に何か問題がありましたか?」
横山
「いえ、そうじゃありません。今度ウチでISO9001の認証をすることになったのです」
佐田もISO9001という言葉を聞いたことがあった。素戔嗚の品質保証課にいたときだ。野矢課長が課内の会議で、ISO9001という品質保証の規格が数年前に作られたが、イギリス以外に広まらなかった。しかし1992年に欧州統合になり、そのときのEU域内の商品移動にISO9001認証が義務になるらしいという。
佐田はそのときISOとはどんなものかと野矢課長に聞いたが、課長も良く知らなかった。調べてみるとイギリス軍の品質保証規格を基にしたものらしい。そのときは日本では会社ごとに品質保証要求を決めていたのでどこもISOなんて相手にしなかった。佐田は会社によって望むところが違うのだから、品質保証要求事項の国際規格なんてものができるとは思えなかった。
横山
「ISO9001規格はJISZ9901という名前で去年、1991年に翻訳されています。薄っぺらい規格で文字数は少ないのですが、どう解釈するのか分らない所が多くて・・まだ研修会とかコンサルをしているところもないようなのです。
それで佐田さんのお顔が浮かんだのですよ」
佐田
「横山さん、申し訳ないが私はISO9001というものにタッチしたことはありません」
横山
「いや、佐田さんなら規格を読んだだけでわかると思いますよ。一度御社を訪問してお話をお聞きしたいのですが」
クシナダは大蛇のビジネスにそう大きな割合を占めているわけではないが、こういったことに対応しておくのも何かと良いだろう。後で星山専務の了解を取ればよいだろう。
佐田
「わかりました。横山さんのご希望はいつ頃がよいのでしょうか?」

うそ800 本日の思い出
1980年を少し過ぎた頃のこと、私は得意だったNCフライスの加工時間を短くするプログラムを作る方法を中小企業相手に講演したことがある。いや何社かに指導にも行った。単純にプログラム上で加工移動を少なくするだけでなく、切粉の流れを良くしたり、加工後のスピンドル停止時間などを工夫すると相当の時間短縮ができる。
現在なら陳腐化して価値のない話だろうけど、当時自分が考えて試行して実績を出した方法だったから思いがある。私が口だけ男ではないという証拠になりませんか。



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2013/12/22)
その前にすることがあるだろう!?

マザーテレサは「インドの貧民を救うよりも、困っている隣人に手を差し伸べるべきです」と語りました。
鶏はシロクマやツバルよりも来年度から爆上げする電気代の対策に頭が痛いデス。

名古屋鶏様 まさしく!
過去といってもつい最近、縄文時代は今よりももっともっと暖かく、関東平野は海だった時代がありました。
大阪だって枚方市とか東大阪市は河内湾という海だったのですよ。古事記の時代までですからたった1700年くらい前のことです。
あのとき、シロクマさんはどうしていたのでしょう(遠い目)
まさかシロクマが進化したのは弥生時代以降なんて(笑)
いや、それほど進化が早いなら、温暖化に対応してくれるはず
まさかシロクマが進化して色が変わるのがイヤなんては言わないのでしょう?



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