マネジメントシステム物語22 ISO9001現れる

13.12.25
マネジメントシステム物語とは

クシナダ機械の横山が大蛇おろち機工にやってきた。先日横山氏から、ISO9001について相談したいという電話があり、佐田は了解したのだ。
横山の話では、1992年に欧州統合になり、そのときのEU域内の商品移動にISO9001認証が義務になるらしいという。欧州に輸出しているクシナダ社ではISO9001認証のためのプロジェクトを作って活動中で、調達先の品質監査をしている横山は、品質保証に詳しいだろうとその主要メンバーに選ばれたという。
このときまでは佐田はISO9001なんてものに、特に興味もなく異国の規格という認識しかなかった。

横山
「こんにちは、佐田さん。この前の監査ではお世話になりました。あの後、五十嵐課長が、佐田さんのような人に会ったのは初めてだと言ってましたよ」
佐田
「私のような人とはどういう意味でしょうか?」
横山
「五十嵐課長も私も、ウチと品質保証協定を結んだところに品質監査に行くのが仕事です。年に30社は行きますかねえ〜。どこにいっても紋切型というか金太郎飴といいますか、全く同じなんです」
佐田
「全く同じと言いますと、何が同じなんでしょうか?」
横山
「例えば私どもの品質保証協定書には『製品の各種検査において、検査前及び検査完了、並びに良品及び不良品の状態は、製品への表示、ラベル、検査記録、置き場所、またはその他の手段によって識別すること』と書いてあるのですが、どこの品質保証マニュアルにも『製品の各種検査において、検査前及び検査完了、並びに良品及び不良品の状態は、製品への表示、ラベル、検査記録、置き場所、またはその他の手段によって識別する』って書いてあるのです。最後の『すること』が『する』になっているだけですよ。アハハハハ」
佐田
「なるほど、でもそういう記述でよしとしている御社にも責任があるのではないでしょうか?」
横山
「そう言われるとそうなんですが・・・・それでOKとしないと、OKになるところがありませんよ。
オット、お宅は違いましたが」
佐田
「まあ根本のところとして品質保証という意味が分かっているのかということ、そして品質保証協定書に書かれている文章の意味をしっかりと理解しているか、更には自分の会社の実態を把握しているかということになるでしょうね」
横山
「まさしくおっしゃる通りです。実は今回お邪魔したのは今佐田さんがおっしゃったように、ウチがISO規格を理解していないと思うからなのです。規格の文章を理解せずにはどうしようもありませんからね」
佐田
「ええと、それじゃ本題に入りましょうか。うちの秘密兵器を用意していましたから」
横山
「秘密兵器ってなんですか?」
佐田は電話して菅野さんを呼んだ。総務課長に菅野さんを貸してくれと頼んでいたのだ。
菅野さんがコーヒーをもって会議室に入ってきた。
菅野
コーヒーコーヒーコーヒー
佐田
「横山さん、こちらはウチの秘密兵器菅野さんです。菅野さん、こちらはクシナダの横山さん」
菅野
「横山さんには先日の監査のときにお会いしましたね。お話する機会はありませんでしたが」
横山
「ああ、五十嵐課長が内部監査などの回答された女性がすごい人だったと言ってました。あなたでしたね」
佐田
「菅野さんは英語が得意なんです。横山さんに来てもらったのは、ISO規格というのは英語とフランス語が基本で、それ以外の原語に訳されたもので疑義があれば英語を読むというのが原則と聞いたからです。JIS訳されたものを読んで考えても意味がないからです」
横山
「へえー、そうなんですか?」
佐田
「そいじゃ、まず横山さんのほうの状況と、お困りのことをお話していただけますか」
横山
「基本的なことですが、ISO9001って、私どもが作っていた品質保証協定書といささか趣が違います」
佐田
「趣が違うとおっしゃいますと?」
横山
「私たちが作っていた協定書には、要求事項として部品入着から始まって加工工程から出荷まで、必要なことというか心配なことは漏れなく盛り込んでいるわけです。それに比べてISO規格の要求事項はあちこちつまみ食いしたような感じで、すべてを網羅していないように思うのです。つまりISO規格の要求事項は、必要条件ではあるけれど十分条件ではないようなのです」
佐田
「私は日本語のJIS規格しか見たことがないのですが、確かに要求事項の項目だけをみると、確かに少ないように思いますね。もっとも項目として挙がっていない要求事項が他の項目の中にあるのかもしれません。あまり詳しく読んでいなので・・」
横山
「それにそれぞれの要求事項もあいまいな気がするのです。例えば計測器の校正間隔ですが『規定の間隔で又は使用前に』校正しろと書いてあるだけで、規定の間隔をいくらにしろとも、どのようにして決めろともありません。あれってどう読むのでしょうか?」
菅野
「規定の間隔って、原文はどんな表現でしょうか?」
横山が『品質保証の国際規格』という本を取り出して菅野に渡した。和文・英文が対訳になっている。
品質保証の国際規格
◇ISO規格の対訳と解説◇
増補改訂版
監修 久米 均
日本規格協会
横山
「ええと、4.11のどこかでしたね」
菅野
「prescribed intervalsですね、これは単に定めたということですから、お宅が決めればいいんじゃないでしょうか?」
横山
「ご存じと思いますが、当社の協定書では『個々の計測器の精度の変動や使用環境に応じて、検査精度を確保できることを確認して校正間隔を定めること』としているのです。ISO規格ではそういった要求が書いてありません」
菅野
「なるほど、どこまで厳密に考えるかということですか・・・
ああでも、この本にはISO9004という規格が載っていますね。そちらの測定及び試験装置の管理の中で、ええと、『再校正の頻度・・・の手順に関する文書化された証拠』とありますね。これは校正頻度まあ間隔と同じでしょうけど、頻度の元の言葉はfrequencyなんですか、それを決めた証拠を・・・羅列された項目の前のパラグラフをみると『次の要素を含めることが望ましい』とありますから、横山さんのおっしゃるクシナダさんの品質保証協定書と意味は同じじゃないでしょうか?」
横山
「え、そんなのありました? さすが秘密兵器、英語が堪能ですね」
菅野
「それ日本語で書いてありますよ」
横山
「えっそうですか、なるほど、でもISO9004は要求事項ではなく指針ですよね」
佐田
「要求事項ではないけれど参考にはなるでしょうね。それにISO9001の序文では『契約の特殊性に応じて修正が必要な場合』云々とありますし、それについてはISO9000を見ろとある。
つまりISO9001規格に書いてあるだけでは実運用するには足りないこととか、場合によっては規格文言を修正する必要があると、初めから断っているように思えます。
うーん、しかしつまみ食いでしか読んでいませんが、先ほどの横山さんの話とはまた違いますが、ISO9001は、単独では完結しないのではないでしょうか。引用規格というところでISO9000とISO8402を見ろとありますね。ISO9004はないようだが・・
しかし読むと『修正』原語はtailoringとありますが、とにかく規格そのままじゃなくて実際に合わせて使えということを書いてますね」

注:1987年版ISO9001は明確に二者監査のためのものであったようだ。だから実際の取引に合わせては、規格をそのままでなく「修正」して使えということをくどいほど書いている。
第三者認証がメインとなった1994年版からは、傲慢な書き方になったように思う。

横山
「確かに、でも世界中でどんな業種にもつかえる品質保証規格なんて、そもそもありえないように思いますね」
佐田
「言いかえれば規格で明言していないことは、お宅というかISO認証する企業が自分で決定すればよいということでしょう」
横山
「ちょっと待ってください。それっておかしくないですか?」
菅野
「おかしいと言いますと?」
横山
「だってISO認証すると品質監査を省くって当社の顧客企業が言っているわけです。欧州に輸出するにもISO認証していることっていう要求ですよね。ISO認証する企業によって、その要求水準が異なるなら、それっておかしいと思いませんか?」
佐田
「だからそれじゃ困るという場合は、規格要求に追加するとか、修正をしろと言うことなのでしょうねえ」
横山
「今まで要求事項がはっきりしていた監査基準で品質監査をしていた者としては釈然としないなあ」
佐田
「おっしゃることは分ります。ISO認証していますという企業がこれからどんどん出てくるでしょうけど、そのレベルは多種多様、ピンからキリまであるということでしょうか。
確かにISO認証といっても会社によってレベルが違うなら、安心して取引をするための情報としては役に立たないように思いますね」
横山
「話を戻しますと、さっきの校正間隔のように、規格の文章から具体的な数値や基準が読めない所が多いのです。それでそのへんを佐田さんに聞こうとしていたのですよ」
菅野
「英語の文章は日本的な奥ゆかしさはありませんから、書いてあることのみを実行すればよいように思います。裏を読むとか行間を読むということはまったくありません」
横山
「そうしますとおかしいなあと思うことも多々あるのですよ」
菅野
「どのようなことでしょうか?」
横山
「たとえば『教育訓練』ですが、『教育訓練を明確にする手順を確立して・・・実施しろ』とあります。当社の品質保証協定書では、『必要な力量要件を定め、不足している場合はそれを満たすように教育訓練をすること』としています。ウチの方がまっとうだと思いますよ」
菅野は横山が指摘した項番をながめた。
菅野
「確かに、このISO規格は未完成というか完成度が低いようですね。
・・・あれええ、でも英語原文と日本語訳が違うじゃありませんか。英語の文章を読んでみてください」
横山
「おお、確かに、ニーズという語がありますね。日本語訳では『教育訓練を明確にする手順』となっていますが、英文を読むと『教育訓練のニーズを明確にする手順』ですよね。そうするとウチの品質保証協定書と同じ意味になる」
注:これは明確な誤訳だった。1994年版になったとき、ここは英語原文には変更がなかったが、JIS規格にそっと「ニーズ」という語が挿入された。しかし、なぜ「ニーズ」なのだろう。「必要性」とかした方が日本語訳として良かったと思うが?

横山が来た目的を達成したのかどうかは定かではなかったが、半日そんなふうなことを議論していた。
横山は不明なところを解明したわけでなくても、多少なりとも不安が解消されたのか、あるいは方法論だけでもつかんだ気がしたのか、満足した顔をして帰っていった。
横山が去った後、
菅野
「佐田さん、私はISO9001というものに興味を持ちました。あの対訳本を買ってもらえませんか」
佐田
「いくらなのでしょう?」
菅野
「定価が1万3千円とありました」
佐田
「だいぶ高いですね。薄い本なのに日本規格協会が儲けているでしょう。まあ、いいんじゃないですか。その代りちょっとお願いがあるのです」

注:当時はインターネットもアマゾンもなく、日本規格協会の本を買うときは、規格協会に電話して住所氏名を言って本と請求書を送ってもらったものだ。田舎の本屋に頼んだらいつになるか分らない。
菅野
「まあ、なんでしょ?」
佐田
「さっき、ISO9001をパラパラとながめたのですが、気になるセンテンスがありました。購買データという項番に『その製品に適用される品質システムの規格の名称、番号及び版』とあったのです」
菅野
「あ、私も気がつきました。それって本当は時限爆弾というかとんでもない要求事項になりそうです」
佐田
「私もそう思います。クシナダ機械が欧州に輸出するためにISO9001を認証しなければならないとなると、クシナダは下請やメーカーに発注するとき図面仕様を満たすだけでなく、ISO9001を認証せよという条件を付けなければならないということになるかもしれません」
菅野
「佐田さん、それだけじゃなくて当社がそれを受けたとき、ウチが鋼板メーカーに対してISO9001認証を求めなければならないという可能性もありますね」

EU 輸出 EUへ輸出
する企業
認証要求 下請
部品メーカー
認証要求 下請
部品メーカー
  輸出   認証要求   認証要求  


佐田
「うえ、そこまでいくのか! まるで玉突き事故だ。まだ始まったばかりだからどうなるかわからないけど、これは注意しておかないといけないなあ。
話を戻すと、菅野さんに頼みたかったのはウチがISO9001認証するためには、現状の文書や記録体系ではどんな不足があるのか、大丈夫なのかを調べてほしかったのです」
菅野
「私も同じことを考えてました。またまたとんでもないことになりそうですね」


ここは組合事務所である。星山専務と伊東委員長が深刻な顔で話をしている。誰にも聞かれたくない話は会議室ではなく、組合事務所でするのが星山と伊東の習慣だ。
星山専務
「というわけだ。伊東よ、これは重大深刻な問題だ」
伊東
「うーん、素戔嗚すさのお電子がタイに工場を作ったことは数年前に聞いたが、これからどんどん海外進出が加速していくのだろうなあ。これも時代の流れだからしょうがないんだよ」
星山専務
「だけどウチまで行かなくてはならないとは思いもよらなかった」
伊東
「こんなことは逆らってもしかたがないし、波に乗らないとどうしようもない。親会社から声がかかったことは、ありがたいと思わなくちゃならないよ。もし声がかからないなら、いずれウチの仕事がなくなって消滅してもいいと思っているってことだろう。親が海外に行ってしまって、ウチの仕事がなくなってはオシマイだ」
星山専務
「そんなことにはならんだろう。素戔嗚の仕事はウチの負荷の半分しかない」
伊東
「海外進出しているのは素戔嗚だけじゃないぞ。白兎だって大国主だってタイに工場を作って、ウチで作った部品をタイに送っているのを知っているだろう。そのうち向こうで部品調達をするようになるだろう。他の客先でも、タイに進出するところはあるんじゃないかなあ〜」
星山専務
「時代にあわせなくちゃならないか。それじゃともかく、ウチがタイに工場を作るということに協力してくれるのだな」
伊東
「するもしないも、それしかないだろう」
星山専務
「従業員の雇用はどうなる?」
伊東
「星山、そんなに深刻になることもない。今の話を聞くと最初はせいぜい10人規模の工場を作る程度だろう。ここの仕事が全部タイに行くわけじゃない。当面はこちらの仕事は減らないで、向こうの分だけ増加するわけだ。それにさ、なにをするにも2年とか3年の時間がかかるわけで、それだけの時間があれば従業員を減らすにしても、新規事業を始めるにも対応する時間は十分あるだろう」
星山専務
「わかった。それじゃ社長にはそういう方向で話をしておく。では次の論点だが、向こうの責任者は誰がいいと思う」
伊東
「それは嫌な質問だな。分りきったことを俺に言わせるのかよ」
星山専務
「俺は伊東しかいないと思っている」
伊東
「俺もそう思ったよ。現場を指導できて、ある程度経営的なことがわかるとなると俺しかいないだろう」
星山専務
「そうすると新たな問題として、組合の後継者はいるのか?」
伊東
「おれも委員長を15年もしているから、もう辞めてもいいだろう。そんなことはどうにでもなるよ、心配するな」
星山専務
「わかった、それはお任せする。では工場立ち上げのための事前調査などを計画しなければならないな」
伊東
「おいおい、大事なことだがスケジュール的にはどうなのだろう?」
星山専務
「素戔嗚の要求は、1年後に生産立ち上げだ」
伊東
「一年後か・・・それは急な話だな。ということは半年先には形にしておかないとならんな。
星山よ、今俺が考えたことだが、とりあえず俺が行って工場を立ち上げたとして、年齢からいって数年したら武田と交代したい。そのときまでこちらで武田の後任を育てていることが必要だ。
そのときはお前も俺も引退間近で第一線じゃないだろう」
星山専務
「武田の後任を育てるのはもちろんだが、そのときでも俺たちが引退するわけにはいかないだろう。
当分は向こうの工場は、この会社の一工場という位置づけだが、ゆくゆくは別会社にしなければならない。そのとき、お前は向こうの社長で、おれもこちらの社長を勤めていなければならないだろうなあ」
伊東
「ちょっと待て、武田は2・3年で古巣に戻るかもしれないぞ。こちらで課長が勤まれば素戔嗚に戻っても課長は勤まるだろう。奴がいなくなることを心配しなくちゃならない」
星山専務
「素戔嗚で課長になるには、係長になる試験、課長になる試験があり、更には年功や横並びのいろいろなしがらみがあるから、おそらく武田は素戔嗚に帰っても課長にはなれないよ。佐田だって課長になれなかったんだ。だから武田はこちらに残ったほうが、本人のためにも良いのじゃないかなあ。わしは武田にはこちらに骨を埋めてほしいと思っている。
しかし佐田はある程度こちらの仕組みが安定したら、素戔嗚に帰ってもらおうと思っている。あと半年くらいでどうかと考えているのだが」
伊東
「星山よ、おまえは佐田の知識やノウハウを簡単に吸収できると思っているかもしれないが、あいつはそんな薄っぺらじゃないよ。将来、武田に製造をみさせるなら、佐田には生産管理全般を担当させるべきだ」
星山専務
「そういうニュアンスではないのだ。わしは佐田に品質保証という分野でもっと頑張ってほしいと思っている。そのためにはこの会社は奴には小さすぎるから、古巣に戻るなり世の中に出るなり広い世界で頑張ってほしいと思うのだよ」
伊東
「そのことだが、今ウチは会社の仕組みを文書化しようとしている途上だが、その効果は十分にあると思っている。そこでだが、外国では、タイも欧米人とおなじ感覚と聞いている。日本のように口頭で弟子に教える文化ではなく、書き物で指示し、明記されたことはするけど書いてないことはしないそうだ」
星山専務
「はあ? なんのことだ」
伊東
「つまり向こうに工場を作るときには、設備だけでなく、文書体系も一緒に作らなければならないと思うのだ」
星山専務
「つまり佐田を連れて行くということか?」
伊東
「いや、そうじゃない。菅野さんを連れて行きたい」
星山専務
「うえー、それは菅野さん次第だなあ。だけどそれはちょっと・・・旦那さんも子供さんもいるし・・・」


武田が製造課長になってから、始業前は現場事務所で係長に指示したり、書類の片づけなどをしており、佐田や星山専務と話をすることはめったになくなった。それでほとんど毎朝、星山専務と佐田が話をしている。話といっても雑談ではなく、会社の問題点、改善策などである。話題はそのときそのときであるが。
佐田
「専務、ちょっとお話があるのですよ」
星山専務
「何かいい話か?」
佐田
「昨日、クシナダの横山さんが来たことは報告しましたね」
星山専務
「聞いた聞いた。なんでも新しい品質管理の国際規格ができて、それに対応する方法を佐田さんに相談に来たということだったな」
佐田
「品質管理ではなく品質保証の規格で、ISO9001規格というのです。欧州のEC統合についてはご存じと思いますが、1993年つまり来年、より統合の度合いを強めてEUという形になるのです」
ヨーロッパ統合の歴史を簡単にまとめると次のようになる。
名称発足年初期の加盟国目的
EEC
欧州経済共同体
1958年 西ドイツ、ベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダの6ヵ国 アメリカ、ソ連に対抗できる経済圏の確立をめざして関税の統一、資本・労働力移動の自由化、農業政策の共通化などを目指した
EC
欧州共同体
1967年 西ドイツ、ベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、英国、アイルランド、デンマーク、ギリシャ、スペイン、ポルトガルの12ヵ国 国境のない単一市場をつくることを目的とし、商品取引の自由化のほか労働力取引の自由化を図った。
EU
欧州連合
1993年 ECに同じ。但し西ドイツから統一ドイツに変わった。 国境のない単一市場をつくることを目的とし、商品取引の自由化だけでなく労働力取引の自由化や通貨の統一を図った。ユーロが実現したのは1998年。

星山専務
「うん、新聞でそんなのを読んだ覚えがある。いまに国境がなくなって、世の中どんどんグローバル競争が激しくなるなあ」
佐田
「おっしゃる通りです。ところがヨーロッパといっても、均質じゃありません。先進工業国から途上国まであるわけです。各国の賃金は大きな格差がありまして、安い賃金の国で作った製品が高い賃金の国に関税もなく無制限に入ってきたら、ドイツなど賃金が高い国が困ることは明白ですね。だから市場の自由化と言いながら自国が損になる無制限な商品移動の自由は困ると先進国は考えました。それで、国境を越えて流通するためには一定品質であることを条件にしたのです。その条件とはISO9000sの認証を受けている工場で製造されたものに限るというのです。
当然、欧州圏外から欧州諸国に輸出しているメーカーに対しても、ISO9000s認証を要求することになります。そうでなくちゃ、説明が付きませんからね。クシナダさんは欧州に輸出していますが、ISO9001を来年までに認証しなければ輸出できなくなるのです」
星山専務
「なるほど、それでクシナダは必死なのだな。我々がクシナダの仕事を取ろうとして頑張ったのと同じわけだ」
佐田
「そうです。それに関してひとつ気がかりがあるのですが・・」
星山専務
「なんだ?」
佐田
「ISO規格を読むと、認証を受けた企業は、その企業が部品調達している会社、つまり下請とか部品メーカーに対してISO認証を要求しなければならないように読めるのです」
星山専務
「なんだって! そりゃ、ねずみ講なんてのと同じだな」
注:ねずみ講の老舗というか大御所である「天下一家の会事件」は1980年頃のこと、あのときは日本中が大騒ぎになった。1990年頃、まだその記憶は新しかった。
佐田
「専務さんが子供の頃に、不幸の手紙なんてのが流行ったそうですね」
星山専務
「不幸の手紙じゃなくて、幸福の手紙じゃなかったかなあ〜、名前はともかく不幸をもたらしたことに変わりはない」
佐田
「私は、ねずみ講よりも、不幸の手紙の方がISO認証に近いように思います。といいますのは単に行為の義務が伝播していくだけで、親と子の物質的相互関係はないからです」
星山専務
「幸福の手紙と同じく、甘い言葉で我々を締め上げ、お金を使わせるか・・・・」
佐田
「まあそんなたぐいでしょう。ともかく、どこまで認証が必要かは、クシナダが調査中とのことです。へたをするとウチもISO9001認証をしなければならないことになります」
星山専務
「ISO認証しなければクシナダと商売できないというわけか」
佐田
「とりあえず欧州向け以外はその心配はありません。
しかし面白いことというか、驚くことがあるのです。もしウチがISO9001を認証すれば、ウチはクシナダの品質監査を受けなくても済むらしいのです。もちろん品質保証マニュアルを提出することもないのです」
星山専務
「ほう、それはどういう理屈なのだろう?」
佐田
「国際ルールの品質保証規格を満たしているなら、そこと取引する企業がわざわざ品質監査に行くまでもないということです。だってそうでなければISO9001認証の価値がないことになりますよね」
星山専務
「なるほど、一旦ISO認証をすれば、以降はどの会社の品質監査を受けなくても済むのか。それはすごいことだなあ〜
佐田さんや、思いついたことがある」
佐田
「なんでしょう?」
星山専務
「ウチが要求されていなくてもISO9001を認証すれば、当社の品質はすばらしいといって宣伝もできるし、新しいお客さんのところに売り込みに行けるんじゃないか!」
佐田
「専務、正確に言えばISO認証とは品質保証の仕組みが適正であるということで、品質が良いということではありませんよ」
星山専務
「分っている。しかし世の中はそんな違いはわからんよ。佐田さんよ、そのISOナンチャラ規格を認証する方法、費用などを・・・そうだなあ、2週間くらいで調べてくれんか」
佐田
「わかりました。でも専務、専務が乗り気になったのはなにか裏があるんでしょう?」
星山専務
「まあな」
星山はその理由は説明しなかった。
数日後、横山横山から佐田に電話があった。
クシナダがISO審査を受ける日取りが決まったという。なんとそれは10か月も先の日付であった。というのは、現在ISOの認証機関は外国の認証機関だけで、ロイドとビューローベリタスの大手の他にいくつかあるが、どこも超多忙で審査日程を入れてもらうのが非常に難しいという。急ぐ場合は、日本事務所ではなく、外国の認証機関に直接依頼することになるという。
横山はどの審査機関に頼んだかは言わなかった。話から推察すると審査機関の選定も非常に難しいことのように聞こえた。横山は10か月も先の審査の正式契約を締結して、更に審査費用の手付として何十万も支払ったというようなことを言っていた。
電話を切った後、佐田は専務のご要望に応えるには、一度審査機関というところを訪問して情報収集しなければならないと思った。


数日後、佐田と菅野がコーヒーを飲みながら打ち合わせをしている。
佐田
「菅野さんがみて、ウチがISO認証をするには何が不足とかわかりましたか?」
菅野
「製造部門とか製品保管などについては、クシナダ対応で整備したことで間に合うのではないかしら」
佐田
「私もそんなことを思いました」
菅野
「でも設計、営業、資材調達に関しては、ほとんど手順が見える化されていませんし、ましてや文書化されていません。営業課長が規定を作るなんて言ってましたが、ほとんど進んでいませんしねえ〜」
佐田
「菅野さんの意見に同意ですが・・・さて、それを整備するとしてどれくらい時間がかかりますかね?」
菅野
「私はクシナダ対応よりも簡単だと思います。というのは製造関係で具体的な形が誰にでも見えるようになりました。営業でも資材でもそれをみて、どんなものを作ればよいというのが一目瞭然です。
ただ私をもう一度品質保証部門で使ってくれるかどうかがありますね。営業に製造の規定を見て作れといっても形になりそうありません」
佐田
「設計で規定が10本、営業で3本、資材調達で3本というところでしょうか。まあ一人がかかりきりでふた月か・・」
菅野
「佐田さんはあっという間に見積もれるのですね」
佐田
「いや、あてずっぽですよ。菅野さんが規定を16本作るとしてどれくらいかかりますか?」
菅野
「仕事の流れをヒアリングするのに5日、規定を16本書くのに20日、その部門との読み合わせに5日、修正に10日、都合40日、休日がありますから丸二月、あっ佐田さんと同じになりましたね」
そこに星山専務が現れた。
星山専務
「やあ、さっそくISO認証対応の検討をしてくれているのか?」
佐田
「まだ始まったばかりです。近々認証機関に行って、いろいろと聞いてきたいと思っております」
星山専務
「出張か、ウチは中小企業だから費用削減をしてくれよ」
佐田
「存じております」
星山専務
「あのなあ、行ったついでに、タイに工場があった場合、タイでも審査できるのか、その工場とこちらを合わせて認証するのはどうするのかといったことも聞いて来てくれ」
佐田
「わかりました。余計なことは伺いませんが、基本的な条件だけを確認します。
こちらの工場の審査は審査をいつ頃に予定しているのでしょうか?
タイの工場はいつ頃でしょうか? そこは従業員何名くらいでしょうか?」
星山専務
「ここは審査が1年後、タイは1年半後、従業員は30名としてくれ」
佐田
「わかりました。問題が一つあります」
星山専務
「なんだ?」
佐田
「聞くところによりますと、認証機関が少なく今はEU対応でものすごく忙しいらしく、審査予定をとるのがとても大変だそうです。クシナダはやっとのことで10か月先に審査をしてもらうようになったそうです」
星山専務
「なんだって! 今依頼して10か月先とは・・・
うーん、それじゃあとりあえず1年先で仮発注というか仮に申し込んでおいてくれ」
佐田
「私も状況が分りませんので、とりあえず情報収集に努めます」

うそ800 本日の妄想
人間はまったく嘘というか想像を書くことはできないものだと思います。
経験や伝聞、そんなものをマージしたり分割したり、裏から見たり、ということだけのようです。いかに想像力というものに希少価値があるかというでしょう



外資社員様からお便りを頂きました(2013.12.27)
いつも興味深い読み物を有難うございます。
社内の品質改善から、ついにISO9000の登場で、過去の歴史を振り返る読み物になるのではと楽しみにしております。

後知恵なら誰でも名将なのでしょうが、やはりISO認証の導入で日本の会社の品質管理活動が大きく影響を受けた気がします。
当時は、私は設計側の人間で、直接の当事者ではありませんでしたが、社内にISO事務局が出来て 全部門に対してこれからやるべきことについて、大々的なオリエンテーションがあった事を記憶しています。
その時の、「何やら大変な事が始まるのか?」という不安は、社内の不労部門の人を活性化させたISO運動で、色々な仕来りやら、更なるルールを生んで、随分とやるべきことが増えた事だけは良く憶えています。

話しは転じますが、ある比較文化論の人が 「日本では外来のものを取り入れる時に、それが権威となり、不可侵の存在となる。
不可侵に祀り上げる人々は、宗教の神官の如く、周囲にあがめたてる事を強要するが、自身は本音では信じていない」と言っておりました。
考えてみると、明治維新で出来上がった「大日本帝国憲法」「大元帥閣下」は、正にそのような存在で、御当人が天皇機関説は正しいと言おうが、周囲は不敬罪で断じました。
これは戦後も続いていて、毛沢東語録を掲げて礼賛していた人やら、『インターナショナル』を歌って世界革命を礼賛した人々も、左右の方向は異なれど、似たような不可侵スタンスが居たように思えます。
不磨の大典:欽定憲法を奉じる考えは、皮肉にも戦後憲法改正 断固反対の人々に受け継がれています。
本来は、憲法も、社会体制も、道具であり、手段ですから、状況により、手を入れて変化するのが自然だと思います。
なぜ、それに手をいれないかと言えば、外来のもので 自分達の文化や社会に根差したものではないという点も理由かもしれません。

さて、ISOに戻ると、これを道具と考えれば、常々 仰るように 社内の現状に合わせて、組み込む、アレンジするのが当然だと思います。
但し、それが、とても大変なものになってしまったのは、やはり権威として利用したい人がいたのかと感じるのです。
物事を権威として崇めるのは、考えを停止する点では、実は楽な道なのですね。
一方で、自社の仕組みを分解し再度 把握して、ISOの観点で翻訳しなおしたり、見直すことは地道な努力が必要にも思えます。
人は面倒な事を嫌いますが、それを継続しているのが、佐田氏の凄い所だろうというのが、結局は結論となりました(笑)
どうぞ良いお年をお迎えください。 外資社員

外資社員様 今年一年多くのコメント、ご指導を頂きありがとうございました。
おっしゃる通りと思います。人は自分が偉くなりたいので、自分が情報を持っていればそれを有効活用し、他人に渡さないように努める、その結果、自分が神官になるのでしょうか?
しかし、不労部門の人を活性化には笑ってしまいました。
話は変わりますが、私の場合、この対訳本がなく、高校を出てから20数年たっていましたが英和辞典を引っ張り出して英文の規格を訳してそれで仕事をしていました。今考えると恐ろしい!
あんなことめくら蛇でなければできませんね。上司も何を考えていたのか、考えていなかったのかもしれません。
まあ、そんなことで心臓が強くなったようです。
来年も駄文を紡ぎますので、お付き合い願います。



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