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「あ、おはようございます、川田取締役」
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「おはよう。今日は | |||||||
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「は、」
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安斉は言葉が出ない。大国主機械の品質監査とはいったいなんだろうか? そんな話があったのだろうか? なにか手違いでもあったか、それとも自分が健忘症になったのだろうか?
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「先週金曜日の定時少し前に、大国主機械に納めた部品のサビ問題対応として、今日臨時に品質監査に来るという連絡が入った。それで君にもメールを転送していたのだが」
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安斉は全身から冷や汗がでた。頭が真っ白になる。
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「すみません、金曜日は定時前に退社させていただきまして、そのメールはまだ見ておりません」
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川田はそれを聞いて唖然とした。だがなんとか落ち着こうとしているのがわかる。
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「じゃ、あのメールを見ておらず、部下になにも指示していなかったのか?」
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「はい、さようです」
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「技術や営業などは昨日も一昨日も出勤して準備していたのだが、君の部門は誰も出ていないので大丈夫なのだろうと思っていたが、うーん・・・ 監査は午後からの予定だ。メールを見てもらうとわかるが、今回の問題であるサビの件だけでなく、技術や製造その他全般について聞き取りをするとあった。君のところは工程管理と、そうだ計測器管理があったなあ」 | |||||||
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「工程管理と計測器管理ですか」
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安斉は川田の言葉を繰り返したものの、それには何の意味もない単なるあいづちだった。
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「おれは午前中幹部会議なので、それに出なきゃいかん。まだ3時間以上ある。今からでもできるだけの準備をしておいてくれ」
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川田はそう言って立ち去った。安斉は茫然自失であったが、川田の心中はそれどころではなかった。 安斉はパソコンを立ち上げるとメールを読んだ。親切にも大国主機械では監査項目を送ってきていた。ざっと見て、安斉に関わるのは、工程管理、金型の管理、作業指示の方法、教育訓練状況、計測器管理、関係記録の確認とある。 安斉は製造係長 ![]() ![]() | ||||||||
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「大変申し訳ないが緊急事態が起きた。今日、大手のお客様である大国主機械の品質監査が予定されているのを伝えるのを忘れてしまった。急であるけど、これからその監査の予定を説明するので、今からできることだけでも対応してほしい」
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「お客様の品質監査というのは今まで何度も受けていますが、製造まで対象となるのは珍しいですね。たぶんこちらには来ないんじゃないですかねえ」
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「そう期待したいが、聞かれたときに備えておかないと・・ まず工程管理とあるが・・」 | |||||||
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「工程管理って、ウチじゃないですね。行程管理は鈴田課長の担当ですが・・・」
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「うーん、先方の監査計画書をみると工程管理の項目では、設計されたものを製造工程に入るときどのような検討をしているか、それをどのように展開し実施しているかと書いてある」
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「当社では行程管理というと生産日程を立てたり、部品材料を保管してラインに供給したりすることだけど、今課長のおっしゃったことはちょっと違うようですね」
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「うーん、ここでいう行程管理は、工程設計と生産準備の意味のようだ」
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「課長、悩んでいても仕方がありません。とりあえず先方が書いていることへの対応を考えましょう。どんなことを準備すればいいのでしょう?」
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「まず図面をみて、どのような工程、つまりブランク、穴開け、折り曲げをどんな順序でどの機械でするか、それから外注にメッキや塗装を依頼するなどを決めることだろうなあ。さてどう説明するかだが・・」
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「まあ、この会社では作っているものはほとんどが決まりきったものですから、あまり考えなくても加工順序や使用する機械は決まります」
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「製造係長、新しいものを作るとき、加工工程を検討した記録、つまり例えば打ち合わせの議事録とかないだろうか?」
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「そりゃ新部品を製造するときは、私と現場のリーダーが打ち合わせをしています。そのときの議事録といっても、特段きれいにまとめてはいませんが、打ち合わせ結果をノートに書いています。そしてそれを基にして手を打っています」
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「よし、嘘をついてもしょうがないし、変に資料を作る時間もない。とりあえず今日はそれを示してあるがままに説明してくれないか。製造係長、すまないがそのノートを昼前に、そうだなあ11時半にもう一度集まろう。そのとき持ってきてくれませんか。 その次は金型の管理だけど、これはどうしているのかな?」 | |||||||
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「金型にはお客様からの貸与品と、こちらで作ってもお客様の資産のもの、そして当社の資産のものがあります。ほとんどが固定資産になりますから、棚卸もちゃんとしていますし、お客様の物は向こうから定期的に確認に来ています」
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「わかった。現品の管理はどうしているの?」
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「新規制作した金型には番号をつけて、金型保管庫に置きます。そして加工のつどそれを現場に持ってきて取り付け、取り外すとそこに戻すということになっています」
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「金型を取り違えるというようなことはないのだろうか?」
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「金型に部品の品名と品番を刻印していますから間違いはないと思います。それに検査では図面を見て測定しますから、仮に金型を間違えても気が付きますから間違ったものが出荷されることはありません」
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「錆びたり、破損したりするようなことはないのかい?」
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「普通はないですが、そう言えば以前もう生産しないだろうと思って工場の下屋に置いて錆びついたことはありましたね。あのときはまいりましたねえ」
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「じゃあそれについてはうまいこと説明してくれ。 次は作業指示だが・・・」 | |||||||
かなりというかとんでもなく泥縄式ではありますが、安斉課長は先方の監査計画書を見て、対応する記録や業務をみつくろっていました。こんなんで大丈夫でしょうか? その頃、技術でも営業でも倉庫でも、みな一生懸命に監査の準備をしていました。 ●
● ● 昼過ぎにワゴン車で、大国主機械の3人の監査員がやって来た。
来社した監査員たちは大蛇機工の社長以下と挨拶を交わした後、すぐに監査に入った。池村社長は今回の品質問題についてご説明したいと申し出たのだが、監査責任者である寺岡部長が、「我々は監査に来たので」とそれを断った。 3人は分担して監査に入った。安斉課長のところに来たのは一番若い、30そこそこに見える千葉氏である。 安斉は製造課の打ち合わせ場に案内した。事務所のひと隅をホワイトボードとつい立で仕切っただけだ。もっともどの会社でも製造現場の打ち合わせ場とはそんなものだ。 | ||||||||
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「どうもむさ苦しいところで恐縮です。私どもは製造を担当しております。私が課長の安斉、こちらは製造係長、計測器係長です。この3名で監査を受けたいと思います」
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「私は千葉と申します。よろしくお願いします。
基本的に私が質問しますので、それに回答していただければうれしいです。では始めます」
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安斉は千葉が若いのを見て、組みしやすい相手と思った。それはとんだ見込み違いだったのだが・・・
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「客先から図面を受け取ってから、生産に入るまでのことをお聞きします。製造課ではまずどんなことをするのでしょうか?」
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「製造係長のところで、図面をみてどのような方法で作るかを検討します。基本的には社内で加工するのが原則ですが、精度や大きさの点から社内で作れない場合もあります。そういったときは大きなプレスを持つ協力工場に出すかどうかを考えます」
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「なるほど、社内で作ることになった場合は、次にどんなことをするのでしょうか?」
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「加工手順を決めます。当社で作るものはプレス部品に決まっていますから、まったく新しい製法というのはありません。しかしまず金型を作るか、数が少ないときはタレパンとプレスブレーキで作るかを考えます。お宅様の物でしたら数が多いですから、考えるまでもなく金型を作ります。金型といっても一つの製品を作るのに数回のプレス加工をしますので、曲げや穴あけをどのように分割してどのような順序で行うか検討します」
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「なるほど、その時の検討記録というものはありますか?」
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安斉は製造係長に身振りであれを出してくれという。
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「ええとですね、立派なものではないのですが図面をみて、どんなふうに作るか、工程に分解するかを検討したときの記録です」
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製造係長は大学ノートを開いて見せる。 千葉はそれを手に取ってながめる。日時と出席者、そして品名と品番が書いてあり、加工する順序や検討事項などが汚い字で書いてある。 次に製造係長が製品の図面を取り出した。そこには赤とか青の色鉛筆で穴や折り曲げの部分に色を染めている。 | ||||||||
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「これがその検討で使った図面です。そのノートに第一工程ってあるところに『赤』ってあるでしょう。この図面で赤く染めているところを第一工程で加工するという意味です」
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「なるほど、第二行程は青ですね。ここで図面通りの形に加工する順序を検討したのはわかりますが、寸法精度とか平面度などが確保できることも検討したのでしょうか?」
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「うーん、私たちは形を作るための工程を考えますが、精度などを気にしたことはありません」
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安斉は一瞬ギョットして、すぐに言葉を補った。
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「係長の発言で心配されたかもしれませんが、我々のプレス機械であるなら、通常の図面公差は十分確保できますので、そんなに気にしていないということです」
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「わかりました。次に進みますが、ここで加工手順を決めた後は、次にどのようなことをするのでしょう?」
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「工程に分解すると金型の設計になります。こちらで決めた工程ごとの金型を技術課で設計して金型メーカーに発注します。実際には技術や金型メーカーとはいろいろと協議をして当初考えた工程が変わることもあります。 次に製造内部への指示ですが、実際に現場で物を作るときのプレス工程ごとの図面なり指示書を作ればよいのでしょうけど、人手もないのでそこまでできません。それで加工手順を一枚の紙に書きまして、それと部品の図面を合わせて作業者に渡して仕事をさせています」 | |||||||
製造係長が加工手順を書いた紙を差し出す。千葉がそれを手に取ってみる。
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「この加工手順を書いたものは、係長なり課長なりが内容を確認して承認しているのでしょうか?」
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「今まで製造係長の私が全部作成していたから、そんなことを考えたこともなかったが・・」
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「なるほどわかりました。 図面変更とか、お宅の事情で加工方法や使用する機械を変更することはありますよね?」 | |||||||
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「はあ?」
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「そのときはこの書類を修正するのでしょう?」
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「ああ、そういうことですか、もちろん図面改定や能率を上げるために使用するプレスを変えたりすればこの用紙に書いてある加工工程や使用設備を修正します」
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「この書類を拝見しますと品名と図面番号はあるのですが、日付も改定を示す記号もないようです。そうすると、もし改定されたとすると、改定前と改定後の図面があることになりますが、どれが最新のものかということがどのようにしてわかるのでしょうか?」
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「うーん、そう言われるとわかりませんねえ。今までは新しくすると、私が現場に行って古いのと差し替えてましたので、特段問題はなかったです。でも確かに新旧二つあったとき、どちらが新しいかはそれを見ただけではわかりません。図面のように改定記号とかを付けた方が間違いないでしょうね」
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「話は変わります。工程ごとの形を書いた図面なり絵があれば、例えばブランク抜き、穴あけ、折り曲げというふうに工程ごとの図面があればわかりやすく、加工順序が前後することはないと思います。しかし全体の工程を文章で書いたこの資料だけで、工程ごとの形を示した絵がないと、誤って加工順序が前後することはないのでしょうか?」
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「加工順序には基本パターンがありますから、慣れた作業者なら間違えることはまずありません」
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「なるほど、そうですか。 ところで先月納入して頂いた部品ですが、今までと違い穴あけがプレスでなくボール盤加工でした。あれはどうしてでしょうか?」 | |||||||
製造係長と安斉は顔を見合わせた。ふたりともしっかりと思い当たることがあったからだ。
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「正直に話しますが、あれはブランクの後に曲げをして、その次にプレスで穴あけしています。穴ピッチの精度を出すために曲げてから穴あけをしているのです。更に御社では全く同じ形状で一か所だけ曲げ方向が違う二種の部品がありますので、その曲げを最後に行っているのです。 実を申しまして、先月納入のものは曲げ加工の後に穴あけをせずに最終の曲げをしてしまいました。曲げてからでは穴あけのプレスにかけることができず、ボール盤で追加加工したといういきさつがありました」 | |||||||
安斉は説明していて、脇の下に冷や汗が流れるのを感じた。
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「そうしますと、加工の順序を間違えることはあるわけですね。弊社の図面では穴を打ヌキと指定していませんから、例の部品は不良ではありませんでした。ともかく現実には先ほどのお話のように加工順序を間違えることがないということもないようですから、作業指示方法を改善する必要がありませんか?」
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「その件については十分反省しまして、今は穴加工をせずに最終曲げをしないように最終工程のプレス金型にワークの穴の部分にピンを立てましてフールプルーフ化を計りました」
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「それはいいことです。しかしすべての金型をフールプルーフ化したわけでもないでしょうし、今後そういった配慮が漏れることがないとも言えません。指示文書として間違いが起きにくいように改善を図るべきでしょうね」
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安斉は千葉氏が言うのはもっともだと思う。
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「新部品の加工方法を検討するとき、各工程でどの寸法をどんな計測器で測定するのかを決めているのでしょうか? 測定頻度もありますよね」
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「そりゃ加工した部分の寸法をノギスとかハイトゲージとかマイクロで測定します」
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「どの工程でどの寸法を測るのかはわかるのですか?」
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「加工した部分ですよ」
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「プレス加工ですから、一工程で加工する箇所はたくさんありますね。全部の寸法を測定するのは無理ではないでしょうか。全部測定しているのですか?」
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「そう言われると全部ではないですね。だいたい数か所の寸法を測って、あとはバリとか歪を目視で確認しているだけです」
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「どの箇所を測定するかは決めているのでしょうか?」
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「特に指定はしていません。まあ常識的になるべく離れた4点くらいの位置寸法と主要な穴の大きさを測定している程度です」
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「測定頻度、つまり何個に一回チェックしているのでしょうか?」
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「まあ金型ですから、一つ測って大丈夫なら全部大丈夫ですよ」
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「初品を測れとはこの資料のどこに書いてありますか?」
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「書いてはいません。まあ常識でしょう」
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「初品チェックをすればワンロットは変わりはないですか?」
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「大丈夫ですよ」
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「でもプレスブレーキやタレパンのときは、金型と違いますから、全寸法を測定しないといけませんね」
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「プレスブレーキでは加工する寸法は測っています。プレスブレーキは加工箇所が少ないですから」
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「タレパンはどうですか?」
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「新しいプログラムで最初に加工したときは、初品を検査に持っていって三次元で全寸法を測定しています」
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「プログラムの管理はどうしていますか?」
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「自動プロで作って、そのデータを転送しています」
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「現場でプログラムを修正することもあるでしょう?」
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「いやあ、していません」
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「たくさん加工があるとき、穴の一つでも変更があったら、プログラムを一から作り直すのですか?」
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「まあ、確かにそれくらいですとタレパンのモニターで直接プログラムを修正しますね」
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当時そんなことをしていたような記憶があるが定かではない。最近では現場で修正はしないかもしれない。
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「そんな場合、そのプログラムの適否は誰が確認していますか?」
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「プログラムで品質を保証していないと思います。最終検査がありますから」
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「初めて加工するときは初品を寸法チェックするでしょうけど、二回目以降の生産時はいつ三次元で測定するのでしょうか、生産ロットの初めですか、それともロットが完了してからでしょうか?」
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「ロットが完了してからです」
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「もしプログラムに問題があったり、セットにミスがあったりすると、ロット全部が不良になりますね。それは問題ではありませんか?」
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製造課長と安斉は顔を見合わせた。つい最近のこと、図面変更があったのに間違えて古いプログラムでワンロット全部を加工したことがあったのだ。
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「まあ、ないとは言えませんが、今までは大丈夫だったということです」
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「校正に付いて教えてください。ノギスの校正手順はありますか?」
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「はい、これです」
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「おたくのノギスはバーニャ式ですか、デジタルですか?」
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「15センチと30センチでは両方あります。60センチのものとピッチノギスはバーニャ式です」
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この物語は21世紀ではなく、1990年頃のお話であることを思い出してください。
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「この手順書によりますと、お宅ではデジタルノギスも精度は±0.05としていますね」
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「確かにデジタルノギスは15センチなら±0.02、30センチでも±0.03なんて仕様になっています。でもデジタルだからって精度が高いわけじゃないんです。いずれにしてもノギスですから使用していると本体にガタがきちゃいますので、アッベの原理ってやつで。数年使うことを考えると判定基準を±0.05にしないと実際的ではないです」
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「そうでしょうねえ。実際の精度はどれくらいなのか、校正記録を見せてもらえますか」
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「私どもではノギスの場合、校正記録に数値は書いておらず、合否判定だけ記録しています。そうですねえ、私の記憶では0.05までは狂いませんけど、悪いものは0.03くらいは違いますね。0.05を超えることはありません。まあだから0.05にしているわけですけど」
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「なるほど。ところで弊社のプレス部品には公差が0.05以下というのは結構ありますが、現場での確認にしても測定器がその精度ではまずいのではないですか?」
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「ですから検査は三次元でしているわけです。ノギスは現場の確認用ですよ」
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「プレスブレーキで加工すれば一個一個のばらつきがあると思いますが、そういったものは三次元で抜取検査をしているのでしょうか?」
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「そこを言われると弱いんだよなあ・・・」
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千葉氏は重箱の隅をつついているわけでもなく、悪いところを見つけようとしているわけではないことは良く分る。しかし当たり前の管理をしているかと聞かれるたびに、自分の部門の欠点があぶりだされ、安斉はいたたまれない思いである。 まだ30分も経っていなのに安斉はグッタリ疲れて、腕組みをして目をつぶってしまった。とてもあと2時間も対応する気力はなかった。 ●
クロージングとなった。大蛇側は社長以下、課長まで出席している。
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「本日は午後一杯、弊方の監査にご対応いただきありがとうございました。まずお断りしておきますが、今回は御社の製品にサビが多数発生しましたので、管理状況を拝見したわけです。 品質監査を行うには監査を行う根拠と監査基準が必要です。実を申しまして、御社と弊社では品質保証協定も工作仕様も取り交わしておりません。ですから納入された品物が製品図面通りであれば、御社がどのような製造方法であろうと、計測器の管理をどうしていようと口をはさむことはできません。ですから今回発見したことについていけないとか、改善せよと要求する理論的根拠はありません。 しかしながらお互いに今後とも取引を継続していきたいと考えているわけで、今回の監査といいますか調査といいますか、その結果、改善をすべきであろうと考えたことを提示しますので、その対応については御社でお考えいただき、その結果を報告していただくということをお願いしたいと思います。それについてご了解いただきたいと思います」 | ||||||||
池村社長と星山専務がなにやら話をして社長が回答した。
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「寺岡部長、ご提案を承知いたします」
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「ありがとうございます。ではまず製造課から説明させていただきます。千葉から行います」
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千葉氏が立ち上がりA4数枚をとじたものを出席者に配った後中央に立った。
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「では製造課でヒアリングした結果、改善が必要と判断したことを申し上げます。 まず新規部品の製造開始時における、工程設計が不十分と考えます。現在は図面に基づいて加工手順や加工機械を検討していることの説明を受けました。しかしそれだけでなく、加工寸法や精度の検証、工程内検査の方法や頻度、使用計測器などについても検討することが必要です。特に製品寸法を保証する観点で、バラツキを含めて測定器や頻度が検討されていないように考えます。 次に文書管理です。製造課内で指示文書として使われているものが、承認と発行管理の仕組みがありません。またその文書の版管理がされていません。過去、それにまつわる問題はなかったという説明を受けましたが、潜在的な問題はあると考えます。文書管理のルールを決める必要があると考えます。 なお、これについては道山課長が営業部門において客先からの文書の管理における問題、寺井監査責任者が設計検証などの記録についての管理について問題提起しますので、それらを合わせて改善策をご検討していただきたいと考えます。 次に、計測器の校正について・・・・」 | |||||||
千葉氏が製造課について改善事項をあげただけで10数項目に及んだ。 製造課について話が終わってから、池村社長が安斉課長に声をかけた。 | ||||||||
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「安斉課長、千葉さんからいろいろなご提案を頂いたが、それを受けての君の意見、考えを聞きたいが・・」
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そう言われて安斉課長は立ち上がったものの、声がでなかった。 しばし黙って立っていたが | ||||||||
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「はい、本日はいろいろとご教示いただきましてありがとうございました」
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安斉はボソボソとそう言って座った。 その後も、各部門について非常に多くのコメントがあった。あとで各部門の監査記録を集めると、A4で30数ページになった。 ●
大国主機械のメンバーが彼らの車で帰るのを見送ってから、また一同は会議室に戻った。● ● みな疲れ切った風情で、しばし黙ってお茶を飲んでいた。 星山専務が苦虫をかみつぶしたような顔でボソリと言う。 | ||||||||
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「しょっぱなから安斉君が立ち往生してしまったのには参ったね」
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池村社長は部屋を出るところだったが、それを聞いて立ち止まり皮肉っぽく言った。
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「弁慶の立ち往生というが・・・今ではそれを単ににっちもさっちもいかないという意味に使われているけど、元々は弁慶は義経を守るぞと、死んでも立っていたということだろうねえ、 安斉課長の立ち往生はどうなんだ」 | |||||||
川田が安斉の方を見ると、安斉は机の上に突っ伏していた。
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なるほど。つまり、安斉氏がこの危機を乗り切ったときに「そうか!この経験をレストランにも活かせれば・・」という展開につながる・・・のかな?
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鶏様 その前にレストランが倒産するほうに1万クレジット
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おばQさま 怒涛の連載、快進撃で、濃い内容を楽しみつつ読んでいながら、感想を書くのが追い付きません。 計測管理のお話は、私の本業とも近いので他人事とも思えませんでした。 ISO17025ではトレーサビリティーと不確かさの管理が重要なのですが、現場では校正で使えない期間&費用と精度の担保とのバランスが重要ですね。 お書きになっている事は実務経験がなければ書けない事で参考になりました。 大蛇機工へ出向した川田氏のお話は、まさに禍福は糾える縄の如しなのか、それとも実力無しの限界を示すものなのか、なまなましくも、サラリーマンのお話としては読み応えのある内容です。 品質管理面で言えば、まず新しい職場でつかむべきは、職場の工程能力と思います。 それをカミサンのレストランへの支援で蔑ろにしたツケは、すぐにそれを把握して対策をした佐田氏と明確な対比です。 多くの企業では兼業を禁止しておりますので、一般社員が家の仕事を手伝うのと違い、管理職の兼業はご法度な気もします。 地方の工場では、現地の社員には農繁期への配慮も当然なので、この辺りは、企業風土も関係するかもしれません。 ISOもダブスタがあるように、労働契約もダブスタがあるのでしょうか。 私は、日本の労働契約(就業規則を含む)の建前契約と、労働実態との乖離に、非常に興味があり本旨と関係ない点で興味をもっています(笑) |
外資社員様 毎度ありがとうございます。計測器管理は私は佐田君のように元々ど素人でしたし、もう25年も前のことですので、実を言ってほとんど忘れてしまいました。外資社員様のようなプロからご指摘を受けると緊張します。 私が過去に勤めていた会社では、他の会社に雇われるのは禁止でしたが、自分が経営するのはまったく問題なしでした。それで飲み屋を経営したり、商店を営んだりしている人は珍しくありませんでした。どういう理屈なのかわかりませんが、事実です。 もっとも現場の人には暮らしのために運転代行とか飲み屋でアルバイトなんてのはいましたね。まあ人生いろいろでしょう。 なかには見つかって・・以下略 |
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