マネジメントシステム物語7 鈴田、頑張る

13.11.10
マネジメントシステム物語とは

鈴田は川田取締役から、製品の混入と保管中の劣化問題の再発防止を指示された。いや、指示されるまでもなく、これを解決できなくては、この会社にいられないと自覚していた。
問題解決のためには、その問題がなにかをはっきりさせなければならない。最近いろいろトラブルが起きているが、いったい何が問題なのだろう。そしてその原因は何なのだろう?
 ワカランワカラン ワカラン
鈴田課長
鈴田は1970年代初めに高校を出て入社してから、在庫管理、払い出し、出荷指示などのコンピューターシステムを担当してきた。もちろん自分がプログラムを組むなんてことはできない。鈴田がしてきたことは、利用者の希望をとりまとめ、ソフトウェアを開発する部門に伝達することでしかなかった。
ともかくそういう仕事では、まず使用部門にヒアリングして、現状はどのような仕組みで動いているのか、そしてコンピューターシステムにどんなことを期待しているのかを確認する。もちろん世の中にはそういったソフトウェアは既にあるわけで、そういうことも調べて、新しいシステムはどうあるべきか、どんなことをさせるかということを考えてきた。具体的な手法は時代と共に変遷はあったが、まあ大筋としてはそんなところだ。

そんなことを踏まえて、今回の一連の問題は一体何かを振り返る。
まず情報伝達の問題がある。
ひとつ、保管場所の問題が前任者から後任者への引継ぎの際に伝わっていない。
ひとつ、部品名が同じでも内容が変わったことが後工程に伝わっていない。おっと自分自身がうっかりして、部品の変更連絡が来たのを止めてしまったのだ。 そういったことが起きたのは、連絡するルールがはっきりしていないということがある。仕事の引継ぎをするときの実施事項を決めておくことも必要かもしれない。部品名称だけでなくロット表示もするとか、変更があれば部品名称や部品番号の後ろになにか記号を付けるようにしたい。
だが鈴田は、自分が会社の状況に考慮しなかったことが問題であるとは思わなかった。川田にも「この会社の状況や自分の置かれた立場を考えて、その制約条件での最善策を考えてもらいたい」言われたのであるが、それを理解できなかったようだ。
それにこのように物が変わっても品番を変えないことは、過去にもあったはずだ。「加工が変わったが部品名が同じだから注意せよ」という通知を受けたときに、鈴田が手間を惜しまず、部下を集めてどうしたらよいだろうと相談すれば、従来そのようなことが起きた場合の対処法を聞き出すことができただろうし、うまい方法がなくても話し合いをすることによってメンバーが情報を共有することができ、それにより混入を予防できたかもしれない。
連絡が不徹底ということに備えて、情報ルートは単線ではなく、複線にすることも必要かもしれない。あるいはデータ送信になぞらえれば、パリティチェックをするとか、受信したデータを発信元に返信してエラーがないか照合するとか、そこまでしなくても開封確認を返信するとか、そんな手法が使えないだろうか。
鈴田の考えはどうしても大がかりな方向になってしまう。
カイゼンをするとき、まずは手軽なこと、お金をかけないこと、今すぐできることから始めるべきだろう。

また部品にはどのような表示をすると決めてもいない。鈴田がこの会社に来たとき、払い出し伝票が使われていたので、現品にはそれを添付するルールになっていると思っていた。ところが事件後に聞いてみるとそのようなルールはなく、そもそも払い出し伝票というものは公式な伝票ではなく現場の人が分りやすいようにと考えて作ったという。改善と言えば改善だが、越権行為ともいえる。

サビの問題はどうだろうか? 適正な保管環境でなかったということが原因だ。
だが、その前にそもそも仕事の手順を定めたルールがなかったということがある。つまり部品を保管するにはこういう条件、こういう環境で保管するとか決めてなかった。基本を決めておけば、それから逸脱することがあれば作業者は気が付くだろう。いくら置くところがなかったとはいえ、置いてはいけないと決めておけば置く場所がありませんと言ってくるだろう。
ちょっと待てよ、部品保管のルールを決めるためには、部品を保管する技術基準といっては大げさかもしれないが、その条件がはっきりしていなければならない。
倉庫係が、ここは湿気が多いから部品を置かないようにしようというのは単なる思い付きにすぎない。この部品の保管条件はこれこれで、ここはその条件を満たさないから置いてはいけないという理屈でなければならないはずだ。
それには部品の保管基準を決めていなければならない。もちろん部品ごとに保管基準が違っても、共通な条件を決めてもよいだろう。
あるいは倉庫係が現実の保管環境を調べて技術課に示して、その保管条件で問題が起きないように製品なり梱包なりを対応してもらうという方法もあるだろう。

鈴田は半日考えていたが、一人で考えてもらちが明かないと気がついて、
倉庫係長倉庫係長 と日程計画係長日程計画係長 と相談することにした。
鈴田は二人を集めた。
鈴田課長
「早速だけど、このところ現品管理に関する問題が多くてさ。何とかしなければと考えているんだ」
日程計画係長
「鈴田課長、そんなに気にすることありませんよ。あなたが来る前だって問題はたくさん起きていたんだから」
鈴田課長
「え、本当?」
倉庫係長
「私は今の仕事に就いたのは、課長より遅いので良く分らないが・・・」
日程計画係長
「まあ自慢にはならないけど、現品違いとか似た部品が混入とか員数不足なんてのはよくありますね。お客さんの方でもある程度覚悟しているようで、員数不足くらいでは文句を言わず、不足分を送れと言ってきておしまいですよ」
鈴田課長
「いかんなあ。今までそういったことにどんな対策をしてきたのだろう?」
倉庫係長
「現品違いはなぜおきるのかといえば、ウチで作っているものがみな似たような形だからですよ」
鈴田課長
「おいおい、そんなの理由になるのかい?」
倉庫係長
「いや、言い訳とか責任逃れってわけじゃないですよ。私は最近まで現場にいたんで良く分る。たとえば白兎電気さんからいただいている部品は、ほんの一部加工が違うだけであとは同じ。部品をふたつ並べても違いが分からない。寸法を測って図面と参照して、やっとどちらかの部品かわかるというもの」
鈴田課長
「なるほどなあ〜、でもだからって間違えていいものではないよね。ちゃんと識別管理をしなければ。そのためには、物と伝票は一緒に保管、移動するということを徹底しなくちゃならないね」
日程計画係長
「今回は部品名が同じだったのですから、防ぎようがありませんでした」
倉庫係長
「伝票もそうだけど、物を置くところを考えないとだめです」
鈴田課長
「というと?」
倉庫係長
「今はお客様も品名も関係なく、製造課から完成品を受け取ると順繰りに置いていっている。だから同じ製品でもあちこち何か所にも置いている。
客先向け、そして同じ製品をまとめて置けば管理が楽になるんだが・・」

A
B
C
B
A
B
B

矢印
A
B
B
A
B
B
C

日程計画係長
「それはそうなんだが、なにしろ場所がないからね。そういう置き方をするにはもっと広い場所がないとどうにもならない」
倉庫係長
「日程計画をもっと平準化すれば在庫を減らせるんじゃないか。今は生産の段取り替えを最小にしているようで、出荷に合わせて製造しているようにはみえない、そのために在庫が増えて・・・先日のサビ問題だって、生産して二月も保管しておくなんておかしいよ。日程計画を工夫すればそんなに長期間、保管することはなかったはずだ」
日程計画係長
「あんただって製造にいたんだからわかるだろう。ウチは段取り替えが下手なんだ。それでモデルチェンジすると時間がかかるから、製造課からなるべくロットサイズを大きくして段取り替えを少なくしてほしいと言われている。我々は他の部門の尻拭いをしているようなもんだよ」
鈴田はそれを聞いて本当だろうかと思う。もしそれが本当なら資材のトラブルは、製造技術がないためということになる。
鈴田課長
「日程計画係長、今の話だけど、生産ロットはどのようにして決めているの?」
日程計画係長
「確かに注文に合わせて作っているわけじゃないです。製造課から最低ロットサイズというのを提示されているのです。製造部門は段取り時間を最小にしたいので、あまりロットを小さくされると嫌なんです。それで注文数量が最低ロットサイズより小さい場合は、最低ロットサイズの数を作ってしまうことにしています」
鈴田課長
え、ちょっと待ってよ。そんなことをしたら材料購入も加工も完成品も、いやそもそも売れるかどうかわからないものを作っているということか。そして常に在庫を持つことになる。置く場所もなくなるわけだ。
それにもし次回注文が来なければ、完成品在庫はすべて廃却か。もちろん棚残を減らすことが至上命題というわけではないだろうけど、生産能率と棚残つまりお金が眠っているのと天秤にかけてどうなのだろう?
日程計画係長はこの仕事は長いでしょうから、社長がその辺をどう考えているのか知っていますか?」
日程計画係長
「この方式は、今の社長の前からですけど・・・しょうがないと思っているんじゃないですかね。ただ私がこんなことを言うのもなんですが、表面に現れた問題のモグラ叩きをするだけじゃだめだと思いますね」
鈴田はもっと議論したいとも思ったが、話題が発散してもしょうがない。当面の課題に戻した。
鈴田課長
「員数不足はどうして起きるんだろう?」
日程計画係長
「製造課から引き渡されるとき、一箱に入っている数がマチマチで同じ数入っているわけじゃない。どうして一箱100個とか切りのいい数にしないのかねえ。現在は出荷の時に数えているんだ」
倉庫係長
「そりゃ段ボール箱もプラスチックコンテナも種々あるから製造で個数を一定に入れることも難しい。入れる方の身になってくださいよ」
日程計画係長
「確かにウチの工場の中の運搬には、さまざまな大きさの段ボール箱やコンテナなどを使っているからね。それに段ボール箱も痛んでいるのが多くて・・・課長、できたらこのへんで一挙に全部新しいコンテナにしてしまうということはできないかね? マテハン用の箱を統一して入れる数も統一すればわかりやすくなると思うが」
鈴田課長
「うーん、考えてみるよ。ただ箱を入れ替えれば員数誤差がなくなるのかい?」
倉庫係長
「箱がきれいで統一されていれば、それだけで入れる人も扱う人も意識が高まると思いますがね」
鈴田は箱さえ見直せば良くなると考えられては困るなと思い、話題を変えた。
鈴田課長
「ところで北側の壁際は湿気が多いというけど、壁の補修はできないの?」
日程計画係長
「壁際、壁際といいますが、本当は壁が悪いんじゃないのですよ」
鈴田課長
「はあ、じゃあ何が悪いの?」
日程計画係長
「この工場ができる前、このあたりは田んぼでして、特に倉庫の北側は体が潜ってしまうほどの湿田だったそうです。今でも地面が湿めっているのです。だから壁を補修するのではなく、床を改善しないとダメなんです。実際問題としてそれはできないでしょう」
鈴田課長
「なるほどなあ〜、ともかく今は、そこには何も置いてないよね? ならいい。
ええとその場所を、今後ずっと物を置くのは禁止にしたいけど問題ないかな?」
日程計画係長
「問題の場所はだいたい100平米になります。そこを全然使わないようにすると、回転させるのがちょっと大変ですね。テンポラリーの保管なら良いことにしませんか?」
倉庫係長
「倉庫ばかり攻めるのではなく、製品をポリシートでパックするとか、保護手段も考えるべきじゃないか。今は段ボール箱にプレス加工したものをそのまま入れて保管しているが、その改善も必要だよ」
鈴田課長
「ちょっとちょっと、とにかくあの場所は当面保管禁止にしよう。川田取締役からも指示されている。そうだ、あの場所をパレット置き場にしてしまおう」
倉庫係長
「あの場所全部が埋まるほどウチにはパレットがありませんよ」
鈴田課長
「わかった分った。とにかく今日にでも、あそこをテープか何かで囲ってしまい使用禁止の表示をしてくれ。今日以降、あそこに製品を置いたら倉庫係長の責任だ」

鈴田は打ち合わせを終えてひとりコーヒーを飲む。
いろいろ参考になる話は聞けたが結局、前進はせず具体的対策はなかった。ただ、しなければならないことがいくつかあることが分った。
ひとつ、識別表示だ。品物がなにであるかを表示すること。それを正式にルール化しなければならない。
ひとつ、工場内のマテハンと出荷時の箱をなんとか改善が必要だ。
ひとつ、倉庫の保管場所や方法をルール化しなければならない。
ひとつ、製品を保護する方法、あるいは保管条件を決めて劣化を防止する検討が必要だ。
そこまで考えて、鈴田は自分には荷が重いなあと思う。自分自身は生産日程計画などのシステム開発を担当してきたが、そもそも日程計画を作る仕事をしたことがない。また工場のマテハンの改善などを考えたこともない。
  注:マテハンとはマテリアルハンドリングの略で敷地内の半製品の移動をいう。
とにかく現物に添付する伝票に関するルールを正式に決めることが第一だ。川田取締役が伝票のルールは俺が作るなんて言っていたけれどどうなったのだろう?
まあいい、それは取締役にお任せするとしよう。おれは例の問題の場所には保管しないことを確実にすること、それから構内のマテハン用、出荷時の通い箱の改善をする、保管の方法、保管条件を決めることを期限までにする、それだけはしっかりせねばならない。鈴田はそう決心した。



鈴田は久しぶりに土曜日に出勤した。片道100数十キロあるので休日にわざわざ会社に来たくはない。しかし平日は事務処理とか連絡でつぶれてしまうので、今日は懸案事項を片付けようと一大決心をしたのだ。
昨日、現場スタッフの伊東氏に打ち合わせをしたいので出てきてほしいと頼んだ。実を言って、伊東は組合委員長で、出向した直後、吸い殻拾いを昼休みにしようと川田が言い出した時に猛反対されたいきさつがあった。それで鈴田は恐る恐る話を持って行ったのだが、意外にも伊東は快く了解してくれた。
鈴田は倉庫係長にも出勤を指示していた。
今日は三人で、マテハンと通箱、そして保管環境について議論して、結論まではともかく方向だけでも決めたいと思っていた。

鈴田が事務所に入ると、川田がコーヒーを飲んでいる。
鈴田課長
「あれ、取締役もご出勤ですか?」
川田取締役
「おれは毎週、土曜日、日曜日は会社に来ているよ。先週は払い出し伝票の規則を考えていた。あんなものを一つ作るのも、なかなか難しいものだと思い知らされたよ」
鈴田は、川田が毎週出勤していたとは知らなかった。そして今の川田の言葉は、おれも毎週来ないといけないという意味なのかなあと嫌な予感がした。
時間になると倉庫係長と伊東と鈴田の三人は会議室に集まった。
倉庫係長 伊東鈴田課長
倉庫係長伊東鈴田課長
鈴田課長
「休日出勤していただいてありがとうございます。今日は二つのテーマについて議論したいと思います。ひとつはマテハン用と出荷用の箱についてです。もうひとつは倉庫の保管条件についてです。
まず箱の話ですが、現在構内のマテハンも出荷用も段ボール箱とかプラスチックの箱とかいろいろとあります。私としては現状が最善とも思えず、改善を考えたいのですが」
伊東
「鈴田課長のおっしゃることは良く分ります。実を言いまして、現在の方法は、もう何年か前になりますが、当時の部長が付加価値を生まない箱は徹底的に安くしろと言いだしまして、始まったのです。
恥ずかしい話ですが段ボール回収業者から程度のいいものを買っているのですよ。私の知るかぎり、地元の農協でも、他の会社でも、一回使った箱を製品出荷に使用しているところはありません」
鈴田課長
「安くすることはいいことだと思いますが、丈夫さとか大きさの統一などから考えてどうなんでしょう」
伊東
「もちろどんな箱でも再利用しているわけではありません。この近くに大手の工場がありまして、そこから大量の使用済み段ボール箱が出ますので、似たような大きさの程度の良い物をこちらに回してもらうように、段ボール回収業者に頼んでいるのです」
鈴田課長
「なるほど、皆さんの現状についての意見とか改善提案などをお聞きしたのですが?」
倉庫係長
「現状ではいくつか問題がある。再利用の段ボールでは破損しているものもあるし、弱いので使用中につぶれたりもする。だから新品を使うか、プラスチック箱にしたいね。それと今は箱のサイズがマチマチで、一箱に入る数が一定しない。これらも問題だなあ」
伊東
「現在は出荷のときは程度のいいダンボールに入れてますが、そりゃくたびれていますし、破けているのもあります。やはり見た目もあるでしょうねえ。
いっそのこと製品の箱を通い箱にして、中で使うのも出荷も同じプラスチックの箱に統一してしまうというのもありますね。もちろんそれにはお客様と話をしなければなりませんが」
倉庫係長
「製品を通い箱にすると、ものすごい数が必要になりそうだ。特に当社は在庫期間が長いから社内でも結構な数が必要になる」
鈴田課長
「確かに在庫が多すぎますね。箱の問題じゃなくて経営から考えても、もっと在庫を減らして回転を速くしないとなりませんね」
伊東
「在庫が多いのは、製造ロットサイズが出荷数よりも大きくしているからですね」
倉庫係長
「私は今まで製造にいましたが、段取り替えをできる人は限られていて、作る立場としてはとにかくロットサイズを大きくしてモデルチェンジを少なくしたいですよ」
鈴田課長
「常識から考えると、注文を頂いた数だけ生産するのが当たり前と思いますが、そうしない理由はなにかあるのでしょうか?」
倉庫係長
「出荷対応で生産すれば、段取り替えは今の3倍発生して、出荷に間に合わないんじゃない」
鈴田課長
「でもこちらの都合で生産しているわけじゃない。お客様から注文を頂いたから作っているわけで・・・
どうして段取り替えの時間を短縮できないのですか?」
倉庫係長
「段取り替えに時間がかかるのは、技能だけでの問題でもないと思います。金型がどこにあるかなんていちいち探さないと分りませんし、どのプレスを使うのかとかまでは詳細日程がないので、製造係長が都度決めているということもあります」
伊東
「いろいろあるけど、まず技能の問題がある。これもモデルチェンジを数多くすれば習熟するだろうけど苦手意識のために型の交換とか段取り替えを少なくしようとしているから、ますます苦手になる。
金型の置場もそのときそのとき違うことも問題だが、それと金型の保管場所がプレスから遠いので運ぶのも大変だ。
また一つの部品を作るのに何工程もあるときは、連続して加工するようにしたいのだが、そのようにプレスの計画を組むのも面倒だといろいろ事情がある。
だから今の状態なのだがね。しかし何を言っても言い訳になってしまうね」
鈴田課長
「伊藤さんは現場スタッフですから、対策案もお持ちでしょう?」
伊東
「技能云々はおれの責任だろうなあ。金型の置場は工場レイアウトを見直す必要がある。レイアウトは10年も前から変わっていない。現在の製品サイズ、生産数量、モデルチェンジ回数などを考えて見直しをすべきだろうなあ」
鈴田課長
「それは安斉課長の職務だと思いますね」
伊東
「おれも安斉課長が来たときに申し上げたのだけど、どうなっているのだろう?」
倉庫係長
「そんな話をされているのですか? 私は安斉課長がそんなことをしようと言ったのを聞いたことがありません」
鈴田課長
「日程計画は私の仕事ですが、プレスの計画とはどうすればいいのでしょう?」
伊東
「いやいや、生産管理課は生産と出荷の大きな日程しか決めてないんだよ。個々のプレスで何を加工するかは製造係長が決めている。正直言って、プレスの能力は同じじゃないし、配置も自由にできるわけではない。だからどのプレスにどの加工を割り振るかは、難しい方程式を解くようなものになる。そして実際は製造係長が頭の中で考えて決めている」
鈴田課長
「伊藤さんは方程式とおっしゃいましたが、なにか一般的な解法がありそうですね。どのプレスでどの加工をするかの計画を生産管理課で決めてもいいのでしょうか?」
伊東
「お宅で決めてくれたらその方がいいだろう。製造課としては手間が省ける。しかし何度も言うけどプレスの能力は一台一台違うし、何工程も連続して加工するためには配置も考慮しなければならないし、難しいだろうなあ」
鈴田課長
「うーん、でもそれは回転率をあげ在庫を減らし損益改善に直結する重大なことですね」
話し合いはあっちに行ったりこっちに来たり、さまよったが、結局、構内用、出荷用の箱については、それぞれ宿題を決めて次回また議論することにした。モデルチェンジについては安斉課長に考えてもらう。そしてプレスの日程計画については次回製造係長にも参加してもらい議論することにする。
保管条件に付いては、伊東は過去数年間の倉庫の温湿度の測定記録を持っていた。鈴田はそのデータをもらって、倉庫の実際の保管環境をまとめることにした。
ただ伊東はそういうことに関わらず、完成品は梱包箱毎ポリ袋でパックして、サビ防止、劣化防止を図るべきだという。
伊東
「だってさ、お客様が当社からの部品を使おうとしたとき、製品と一緒にコガネムシの死骸が出てきたら心証を悪くするでしょうね。だからもっと製品保護に配慮すべきだよ」
鈴田もそうだと思う。

4時過ぎ、みんな疲れたから終わろうという雰囲気になったとき、川田が現れた。
川田取締役
「いやあ、おつかれさん、朝から議論していたようだが、今日の成果は何だろう?」
鈴田課長
「成果までは至っていませんが・・・
ひとつは構内マテハン用と出荷用の箱の話です。製品の劣化防止、員数管理、識別などを考えると、なにか対策が必要という結論になりました。
もうひとつは製造の際の詳細な日程計画を立てるべきだということになりました。それによってロットを小さくして棚残を減らすことができそうです。レイアウトの見直しまで波及するかもしれません。
最後は、倉庫の保管基準を明確にして、設計はそれに耐えることを保証して、倉庫係はその基準を守ることが必要と思います」
川田取締役
「なるほど、問題はいろいろあるが、いずれも対症療法ではなく、基礎的なことをしっかりとしていくことだろうなあ」
伊東
「川田取締役、今日は生産管理課の改善でしたが、各部門ごと、そして部門に渡る改善を議論するべきですね。その結果も大事ですが、その過程によってコミュニケーションが図れますし、また新しい改善テーマに気付くこともあるでしょう」
川田取締役
「おっしゃるとおりだ、なにか仕掛けを考えるよ。社長にも話しておこう」
伊東
「この会社で一番不足していたのは、そういうことだと思いますね」

うそ800 本日のまとめ
今回は鈴田課長がんばりましたが、これで改善が進んでいくのでしょうか?
あまり期待しないで次回を待て!




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