審査員物語6 出向者に会う

14.11.17
審査員物語とは

昨日のこと、当社から3年ほど前にナガスネ環境認証機構に出向した人が、上司との打合せで来ると旧友の氷川が教えてくれたので、三木はその方の用が済んだらお会いしたいとお願いした。そして三木は昨夜、質問したいことをいろいろ考えてまとめておいた。
午後一に来て上司との面談をしてその後というので、三木は自席で氷川から連絡が来るのを待っていた。
3時前に氷川から電話があった。打ち合わせが終わったから三木と話せるという。ただ環境管理部ではさしさわりがあるのでロビーで会おうとのことだ。
三木はいそいそとロビーに出かけた。岸本はその姿を見ていた。

ロビーに行くと氷川とその出向者が既に座って待っていた。
三木
「始めまして、三木と申します」
その男、宮下は席から立ち上がりもせずにポケットから名刺を出して三木に渡す。礼儀知らずなのか、自分がえらいと思っているのか、 宮下 三木は宮下の態度を見ていささか驚いた。こんな調子で審査員というものがやっていけるのだろうか。
差し出された名刺をみると、肩書は「審査部 参事」となっている。参事とはいかなる職階なのか、偉いのかそうでないのか三木には見当もつかない。
名前の下に「CEAR登録主任環境審査員」とあり、かたわらに登録番号らしいものが書いてある。
氷川が立ち上がった。
氷川
「じゃあ、俺は仕事に戻るから、宮下さんにいろいろと教えてもらえよ。宮下さんもこれから会社に戻らなくてはならないので1時間くらいならというお話だ」
そう言うと氷川は去ってしまった。
三木
「お聞き及びと思いますが、私は先月まで関東支社で営業を担当しておりました。このたびナガスネに審査員として出向を命じられまして、ただいま出向に備えて営業本部で勉強中です。とはいえ、だれも指導してくれませんので自習しているありさまです」
宮下審査員
「氷川さんからお聞きしましたよ。環境管理部がへそを曲げて、そのとばっちりを受けたようで大変ですね。」
三木
「まったく途方に暮れてしまいました。今はあちこちつてを頼んでISOとはなにか、審査とは何かということを調べている状況です。宮下さんも氷川君の紹介でお会いできました。地獄で仏という思いです」
宮下審査員
「まず自己紹介をしておきましょう。私は元々工場の環境課長でした。ISO14001が始まった1996年当時53歳で、本社の方から審査員にならないかと言われまして、ぜひとお願いしました。あれから6年になります。まだ出向者の立場なので定期的にこちらに来ています。私は環境管理部所属で出向した形になっていますので、毎年自己申告とか異動希望などの面接と、業務報告に来るのです。まあ自己申告とか上長面接なんて形だけですけどね。いずれにしてもあと1年で私も定年になるので、そうしましたらナガスネの子会社で採用してくれることになっているのです」
三木
「ほう!そうすると60歳以降も働けるのですか?」
宮下審査員
「まあいつまでもってわけにはいきません。今のところ63までは保証すると言われています。それ以降は契約審査員、つまり仕事があるときだけ依頼を受けて手間賃仕事というわけです」
三木
「それはいいですね。契約審査員となると70過ぎまで働けると聞いてます。
私は認証機関に出向しろと言われましたが、仮に関連会社に出向しても60で定年、そのあと役員になっても嘱託になっても63くらいまででしょう」
宮下審査員
「実を言いまして、今時点は70過ぎまで働いている人は大勢いますが、段々と審査員も飽和してきているので、そうもいかなくなるでしょうね」
三木
「ええと、将来のことはあとでとして、目の前のことをいろいろとお聞きしたいのですが、よろしいですか」
宮下審査員
「どうぞ、どうぞ、」
三木
「まず人事とナガスネの話し合いで、出向までに公害防止管理者水質1種、大気1種に合格が条件になっていますが、こういったものは必須なのでしょうか?」
宮下審査員
「大気と水質の両方を、しかも1種を持っている審査員は3割もいないでしょう。でもまあ受け入れる側としてはそれくらい期待したいというのも無理からぬことでしょう。
あの、変な話ですがね、能力って言葉がありますよね。審査員には能力が必要なのはもちろんですが、実際に審査する能力を評価するには審査をさせてみなければなりません。採用する人の能力をどのような指標で測るのかとなりますと、もう不可能ですよ。ですから代用特性として、環境関連の資格とか過去の業務経験とかでみるしかないのですね」
注:
このお話は2002年の出来事、当時ISO14001は1996年版であり「力量」という言葉はなく、規格では「能力」という語がつかわれていた。
三木
「なるほど、よく分ります。ちなみに宮下様は・・・」
宮下審査員
「私は環境課長になる前は環境管理というよりも電気設備とか省エネが担当でしたので、公害防止管理者の資格はなにも持っていません。その代りエネルギー管理士の電気というのを持っています。これもけっこう難しい試験ですよ。
でも審査をする上では知識として公害防止管理者という資格はあったほうがいいですね。特に水質とか騒音振動は・・ただ今はボイラーを持っている会社は少なくなっています。それで大気の資格はあまり関係ないですね。
それから私の持っているエネルギー管理士は、環境問題とはあまり結びつきませんからねえ〜」
三木
「なるほど、となりますと単に出向受け入れの条件だけでなく審査員をする上で必須のものだと・・」
宮下審査員
「そう考えた方がいいですね。もちろんその他にいくつかあるといいですね。簡単なものとして、危険物と特管産廃の資格を取っておいたらいかがですか」
三木は佐田がその二つを取っておけと言っていたことを思い出した。
三木はそれをメモする。
三木
「審査員の研修コースというのはあちこちで行っているようですが、ナガスネに出向するならナガスネの講習を受けることが良いのでしょうか?」
宮下審査員
「ああ、もちろんです。認証機関によって考えが違いますから。ナガスネの審査員として働くならナガスネの研修会を受ける必要があります」
佐田も同じことを言っていた。
三木
「認証機関によって考えが違うとおっしゃいましたが、ISO審査というのはどこでも同じなのでしょう?」
宮下審査員
「ああ、もちろん審査はISO14001に則って行われます。ですから基準は同じです。但しですね・・」
三木
「但し・・・?」
宮下審査員
「ISO規格というのは難解なんですよ。いや人によって読み方が違うというのでしょうか。私も最近やっとわかってきたかなというところですね」
三木
「宮下さんは6年も審査員をされているというのにそのようなことがあるのですか?」
宮下審査員
「三木さんもISO規格はお読みになっているでしょう。規格ではなにをしろと書いてあります。ところが具体的にどうすれば良いのかというのは書いてない。例えば目的を決めろ、目標を決めろとありますね?」
三木
「ハイ、目的も目標も定義が書いてありますが、なかなかその違いというか関係を理解できません」
宮下審査員
「そうでしょう、そうでしょう。三木さん、大事なことですがISO規格は英語が基本なのです。ですから日本語の規格を一生懸命読んでもだめなんです。分らないときは英文を読むんですよ。
そこでですね、「目的」とか「目標」とありますが、ISO14001にある「目的」というのが普通我々が日本語でいう目標で、決して目的じゃありません。そして「目標」というのは日本語でいうなら経過途中点なんです」
三木
「はあ?」
宮下審査員
「例えば「目的」を年度の目標としますと、「目標」は四半期ごとの目標というイメージでしょうか」
三木
「ああ、わかりました。そう教えられると今まで疑問だったことが解消しました」
宮下審査員
「そう説明するのは誤っていないと思います。しかし「目的」は年度の目標とは限りません。あるものが3年計画なら目的は3年後でしょうし、目標は毎年あるいは毎月のものが考えられるかもしれません。それは管理をどれくらい密にするかによって決まりますね」
三木はよく分る。営業の売上などは年度目標で示されるし、代理店の拡大などは数年スパンの計画になる。
宮下審査員
「他方例えば、セールスのキャンペーンなどは短期が多いですから、計画完了の「目的」まで、半年スパンということもあります」
三木
「わかります、わかります」
宮下審査員
「そういった説明をすれば審査員も企業側も納得すると思います」
三木
「納得します」
宮下審査員
「実はその辺がナガスネの偉い人たちに問題があるのです」
三木
「はあ?」
宮下審査員
「ナガスネでは「目的は3年間の長期目標」で「目標は年度目標」と決めつけているのです」
環境目的の期間が3年以上矢印適合!
環境目的の期間が3年未満矢印不適合!
三木
「はあ?」
宮下審査員
「ナガスネには規則で決められた指針ではありませんが、認証が始まったときに規格の解釈を決めたものがあるのですよ。そこでは明確に「目的は3年間の長期目標」で「目標は年度目標」とみなすとあるのです。そして企業の目的が3年間の目標でないと不適合にするというのが判断基準になっているのです」
三木
「ええと不適合とは不合格という意味でしたね」
宮下審査員
「まあ現実的にはそうですね。そういったルールがありますから、私たちは目的とは課題を達成する目標で、目標はその過程の目標と理解していてもその考えをとらず、ナガスネの統一見解で判定しなければならないのです」
三木
「つまり3年間の目標がないときはダメということですか?」
宮下審査員
「そうです。実際に仕事をしていると理不尽だなと思うこともあります。そもそも初めは善意というか、分りやすい解釈をしようとしたのだと思いますが、それが原則になって硬直化するとあたり構わずに迷惑を振りまいているようなものですね」
三木 「はあ
宮下審査員
「もっとも最近はナガスネとはそういう解釈をする認証機関だということが全国に知れ渡っていますから、企業側もそれを理解してナガスネに合わせてくれていますからあまり問題になっていません」
三木 「はあ
宮下審査員
「三木さんもナガスネ流とかナガスネ方式という言葉を聞いたことがあるでしょう?」
三木はうなずく。
宮下審査員
「そういうナガスネ特有の解釈があり、それに従わないと不適合にするというものは多々あります。当社の審査員の中にも私のようにおかしいなと思う人もいますが、実際の審査ではナガスネの見解に沿って行っています」
三木
「それはそういう判断をしないと問題になるからですか?」
宮下審査員
「まあ、そうですね。我々も会社員ですから、審査リーダーとか上司とトラブりたくないです。上司と良い関係を保っていないと定年後の雇用にも関係しますからね」
三木
「その〜、ナガスネ流といいますか、統一見解にはいろいろなものがあるのですか?」
宮下審査員
「ありますね。今述べた目的目標の考え方、環境側面の決定方法、環境マネジメントプログラムは目的用と目標用の二つが必要とか、まあ何十もはないですよ。大きなものとして7つ8つでしょう。そこは外さないように審査をすればよいのです。
私も初めは右も左もわからず先輩を見ていました。その後なれてくると解釈がおかしいのではないかと思うこともありましたが、今は物事を単純にしているのだと割り切っています。まあ、ISO規格だけを読んできた企業はナガスネの審査を受けるとおかしい、間違った考え方だというところもあります、現実には。でも我々が悪意をもってしているわけではありませんから、それに沿ってほしいですね」
三木
「おっしゃることの1割も理解できたかどうかわかりません。ただ宮下さんのお考え、ある程度割り切って仕事をしなければならないということは分りました。我々の営業だって、自分自身は納得できなくても会社の方針には従うということは多々ありますからね」
宮下審査員
「そういうことでしょう。まあ、そういったことがありますのでナガスネの考え方を知ってそれを理解するにはやはりナガスネの研修を受けなくてはなりません。
それに三木さんが環境に縁がなかったとおっしゃいましたから、ナガスネのISO関係の講習はすべて受けた方が良いですよ」
三木
「すべてとおっしゃいますと?」
宮下審査員
「規格解説とか、環境側面のコースとか、法規制講習など全部受けた方がいいですね。五つくらいあったと思います。ひとつを受講しますと二度目からは若干割引があるはずです」
三木
「実は私の研修予算も限られており、全部の受講は難しいと思って悩んでいるのです」
宮下審査員
「そこは無理しても受講しなくてはなりません。他のことはともかく、ナガスネの研修を全部受講して、公害防止管理者二つを合格すれば採用してくれますよ」
三木
「社内の内部監査の見学とか工場のISO審査の陪席などもしなければと思っておりますし・・」
宮下審査員
「どうかなあ〜、三木さん、ここはナガスネに染まるという選択をして、余計なことと言っては言い過ぎかもしれませんが、そういうことをせずにひたすらナガスネの講習会の受講をされたほうがゆくゆく役に立つと思いますよ。
そうそうもうひとつ大事なことですが、講習会で教えられることを理屈で考えずにそういうものだと受け取ることが大事です。踊りとか武道のようなものでして、先生の教える型をとにかく身に付けることです。先生の教える方法がどうかと考えると、ナガスネ流になじめません」
三木は宮下の言葉を聞いて、若干納得はできなかったがそういうものかと思ったのだった。

宮下は結構面倒見のいい男で、1時間程度という話であったが、結果として2時間ほど三木につきあって質問に応じてくれた。三木にとっては六角や佐田と違い、出向先の人間だからその答えは信頼できるものに思えた。


定時間際に宮下と別れ、三木は営業本部のオフィスに戻った。とりあえず氷川に電話して取り繋いでくれたことにお礼を言う。内容についてはまだ咀嚼できていないので考えてから相談に行くと言っておいた。
例によって給茶機でコーヒーを注いで自分の席に座った。コーヒーをすすり、さっきまで宮下に質問し、回答をメモした紙をながめる。
コーヒー 予定していた質問はほとんど聞くことができた。三木の疑問がすべて解消したわけではないが、かなりの部分は疑問は解けたように思う。もちろん疑問は解けても問題は解けたわけではなく、ハードルをいかに越すかという課題はそのままだ。まあハードルがどんなものか分っただけで大きな前進だ。
なによりもナガスネ流について、概要だろうけど、教えてもらったのが大きな進歩だと感じる。ナガスネ流に特有なことは大きなものとして8つ程度のようだ。三木にはよく分らないが、実際の審査ではその8つはものすごく大きな問題になっているようだ。以前、六角氏に会ったとき、六角氏はそれになじめずに別の認証機関に出向したと語っていた。それほどの大問題なのだろうか。耳で聞いただけの三木にはそういうことが分らない。やはり実際にISO審査を見学しないと分らないなと思う。
三木はメモ書きをノートに転記する。そしてそのページに「ナガスネ流の特色」と書いたインデックスを張り付ける。
もうVOL.1のノートも7割くらい埋まってきた。
次にナガスネの審査員の日常についてだが・・・六角氏の勤めているツクヨミと異なり、ホテルや電車はそれぞれの審査員が手配するようだ。それは自由がきくということでもあるが、手間ひまがかかることにでもある。まあそれは会社の仕組みというかルールだから慣れるしかない。
環境関連資格については、当初の予定通り公害防止管理者水質1種と大気1種を必達することはマストのようだ。それから危険物と特管産廃をとること。佐田も同じことを言っていた。案外、佐田という人はまともなことを言っていたのだろうか?
さて、講習についてはどうするか? 宮下の話では審査員研修を受ける前に、すべての初歩コースを受講していないとついていけないという。腕時計を見ると、もうまもなく5時だ。それじゃ明日ナガスネに電話で全コースを受講すると割引してくれるのかどうか聞いてみよう。いや、その前に、人事のええと、幸田課長に向こうの担当に話をして受講料を交渉してもらう方がいいだろうか、そんなことを考えた。

美奈子
「三木部長さん」
岸本の声が耳元に聞こえた。三木は驚いて振り向いた。
三木
「あ、美奈ちゃん、どうかしましたか?」
美奈子
「今日のお話はいかがでしたか?」
三木
「えっ、ああ驚くこともないか。美奈ちゃんは何でも知っているからね、今日は当社から出向している宮下さんという方が上長の面接に来るというのでお話を伺ってきた」
美奈子
「ためになりましたか?」
三木
「そりゃやはりそこで働いている人は、審査員の仕事やナガスネのことに一番詳しいからね。昨夜いろいろと質問することを考えていたのだが、私の質問すべてに応えてくれた」
美奈子
「それはようございましたね。
ところで先日、私がお願いしました勉強の計画はまとまったでしょうか?」
三木
「うん、美奈ちゃんのアドバイスを含めて今立案中だ。産業環境管理協会の通信教育はもう申し込んだよ。東海道の通勤も慣れてきたから、電車の中で勉強できるだろう。ただ、みなさんのご意見を聞くと、2つの資格を同時に受けるというのはかなり大変なようだ」
美奈子
「講習会の受講はどうでしょうか?」
三木
「宮下さんのお話では、基礎的なコースをすべて受講しないと、審査員研修コースを受けることはできないだろうという」
美奈子
「なるほど、やはりナガスネ流を理解しないと審査員の研修を受けることはできないということですか」
三木
「美奈ちゃんもナガスネ流なんて言葉を知っているんだ」
美奈子
「機会があればこの事務所で行われた審査のことをお話しますよ」
三木
「それはぜひともお聞きしたいな」
美奈子
「あまり楽しい体験ではありませんでしたね
それはともかく、それじゃ受講料の方はどうするか考えないといけませんね」
三木
「いやまだ待ってくれ。ISO審査の見学とか内部監査の立ち会いなど、都内の近場の関連会社もたくさんあるだろう。そういったところを見学させてもらえば、費用も時間もかからないのではないかと思う。環境管理部の氷川君に相談して、具体的な日程を考えるからちょっと待ってください」
美奈子
「そうですね、確かに遠くまで行かなくても、都内にも当社の工場もあるし、関連会社も10や20はありますし」
三木
「なるべく費用をかけず効果のある方法を考えてみるよ
そうだ、資格は他にも取っておいた方がいいと言われた。危険物と特管産廃を取れと言われている。それらの受験料、受講料は会社で持ってくれるのだろうか?」
美奈子
「金額次第ですけど、ああ、高いとダメというわけではなく、下期に追加申請することになりますかね」
三木
「受講料などはまだ調べていない。いやあ、しなければならないことがたくさんあるなあ〜」
美奈子
「ISO規格についてのお勉強ははじまったのですか?」
岸本は教育ママのようだと三木は思った。
三木
「うん、美奈ちゃんに言われて反省したよ。ISO規格はワープロした。ISO規格といってもボリューム的には大したことはない。規格全文がA3の用紙表裏に入ってしまった。確かに自分の手で打つと頭に入るよ。どんな言い回しをしているかとか、どんな用語が使われているかなんてのが良く分る。
それとISO規格解説をホームページにアップしている人はたくさんいるものだね。3人分ばかりプリントして通勤のとき読んでいるのだが・・・面白いことに、人によって語ることが相当に違う。一体誰が本当なのか見当もつかないよ」
美奈子
「じゃあ計画の骨が決まりましたら一緒に考えましょう」
三木は岸本がずいぶんと三木の勉強について気にしているなと思う。


翌日、三木はノートを広げて宮下氏とのQ&Aについてじっくりと考えた。世間ではナガスネ流とかナガスネ方式と揶揄されているらしい。六角氏はその考えに付いて行けずにナガスネを避けて、つてを頼ってツクヨミに出向したというから、その問題というか矛盾はハンパではないのだろう。
だが、昨日の宮下氏の話では元々はナガスネの創始者たちが規格を簡単に説明しようとして割り切ったという。確かに「環境目的」なんて新語を見たとき、規格の定義を読んでも、それがどういうものかを理解するのは簡単ではない。そのとき、「環境目的とは3年後の目標のことだ」と言いきってくれたら、それは非常に単純明快で簡単だろう。まさに悩み無用である。
 ワカラン
ワカラン
だがそう言い切ると、また別の問題があることに三木は気がついた。昨日、宮下も言っていたが、活動期間が3年以上あるものならいいが、そうでないことの方が多い。ある時点で3年間計画があったとしよう。最初の年は3年後の目標があるから、ナガスネのいう環境目的の条件を満たして審査ではOKになる。しかし一年経てばゴールは2年後になるし、2年経てばゴールは1年後になる。ナガスネの審査では3年間を切ると不適合になるという。それはおかしいのではないだろうか? いや、常に3年間以上ある環境改善のテーマなど存在しないではないか!
そういえば先日転勤の挨拶回りをしていたとき、欧州では鉛規制という法律ができてその対応が大変だよと言っていた。その施行までの期間は3年ないのだが、そういった法規制対応のための重大なプロジェクトは環境目的にならないという、まったくおかしなことになってしまう。
そして宮下氏は、環境目的の環境マネジメントプログラムと環境目標の環境マネジメントプログラムが必要だとも言っていた。今まで三木がしていた営業の仕事で、3年後の売上目標があったとき、3年間の計画を立て、そしてまた1年ごとの計画を立てるものだろうか? まあ、いろいろなアプローチがあるだろうが、どうも直観的に変な気がする。
三木が3年後に売り上げを150%にしろと言われたらどうするだろうか?
とにかくいろいろな策を考えるのが第一段階だろう。そして実行すべき事項をまとめたら、それを3年間に時系列的にどう進めていくかを考える。3年後の環境目的というものが売上150%とすることもあるだろうし、場合によっては結果ではなくそのための施策を行うことを環境目的と考えることもできるだろう。そして各年に実施することがその年の環境目標と考えても良いし、初年の売上115%、二年目の売り上げを130%としてそれを環境目標としても良いだろう。
さてそのとき活動計画、つまりISO14001で環境マネジメントプログラムなるものは、どう作るだろうか。3年間の活動計画を作り、そしてまた年ごとの活動計画を作るものだろうか?
現実には各年に行うべき施策についてその目標というか達成レベルを定め、具体的詳細な計画は当年についてのみ作成するのではないだろうか。だって3年間の年ごとの詳細な計画を作ることができるなら、それはもはや革新的な活動ではなく、ルーチン業務でしかない。売り上げ増加というような一般的なテーマであっても、周囲環境の変化は大きいから、3年後の実施事項の詳細を決めても意味がないのではないか。単年度の計画さえ年初に計画を立てても、毎月の実績、他社の動向、経済環境の変化によって常時計画を見直さなければならないのは世の常である。ナガスネの基準である、環境目的の環境マネジメントプログラムと環境目標の環境マネジメントプログラムが必要という考えは、仕事で実務をしたことのない人の発想のように思える。
三木はそれを思うと、やはりナガスネ方式は現実離れしているように思える。昨日、宮下氏の話を聞いて納得してしまったがいろいろ考えるとどうも変だ。
三木はいくら考えても堂々巡りするだけだと思い至り、今考えたことをノートにまとめてとりあえず別のことをすることにした。
三木は人事の幸田課長にメールを書く。ナガスネに出向を予定しているのだから各種講習を受講するのは無償か割引にしてもらえないか交渉願いたい。もし三木が交渉しても良いなら窓口を教えてほしいと書いた。
あてにはならないがある意味、幸田課長に対して圧力になるだろう。

三木は少しは進歩しているかなと思う。公害防止管理者の勉強は数日中に通信教育のテキストが送られてくるだろうからそれから取りかかるつもりだ。
ISO規格はひたすら読んでいる。不明点は書きだして、自分の見解をいろいろ考えている。またインターネットにあるISO規格の解説サイトはもう10個くらいプリントして読んでいる。驚いたことに8割はナガスネ流の解釈であることだ。そして残りの2割はそこには触れないで一般論しか書いていない。つまりインターネットにはナガスネ流を批判する、いやナガスネ流でない解釈はまったくないに等しい。これはナガスネ流が正しいということなのだろうか? あるいは正しくなくてもデファクトスタンダードとなっているのだろうか?
今、三木が感じている疑問などもう少し学べば霧散するのだろうか?
いや、六角氏も佐田氏も、そして宮下氏もおかしなことだと言っていた。彼らみんなが間違っているとも思えない。これは・・・・三木部長は腕組みをして考える。

うそ800 本日の疑問
J△○○方式あるいはJ△○○流というお茶か踊りのようなISOの流派がある。私から見るとまったくのウソ、出鱈目でしかない。ああいったものを語っている人たちの本心はどうなのだろうか?
そんな人いないなんて言ってはいけない。あそこの審査員はみなこの信者である。信者でないなら面従腹背なんだろうか? あるいは隠れキリシタンなのか? もしご教示を頂けるなら幸いです。

うそ800 本日の失敗
いかん、いかん、また11,000字を超えてしまった。1万字以下をキープするというのは結構難しい。



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014.11.17)

「ひとりの悪意は百人の善意をムダにする」という言葉を思い出しました。


名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
善意って、おいしーの? って感じでしょうか? 
名古屋鶏様のブログにもありましたが、アドバイスをするってことは簡単ではないですね、
当然、相手のためになるすばらしいアイデアでなければなりませんが、同時に相手に理解できるものでなければならない。
自分勝手に良いと思っていても、相手の文化、習慣、過去の経験などを考慮していなければ余計なお世話でしかありません。
「情けは人のためならず」とは現在では、無用な情けをかけるとロクなことはないという意味らしいですが、まったくそのようです。
私なんぞ、人を指導しようとしてご迷惑ばかりかけて恨まれてばかり・・・このウェブサイトも世のため人のためと思って開設したのですが、そうは思われていないようで 

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