明後日から2日間 ISO審査なんで 明日から行くよ よろしくね |
前日からなんて言わ ないで、準備している のを見学すべきですよ |
「すると今日の仕事はだ、現場の再点検、文書の再点検、会場準備、巡回ルートの事前確認というところか」
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「そうです。とりあえず会場の準備と巡回ルートと対応者の確認をしておきたいと思います。現場と文書はその後でもなんとか間に合うでしょう」
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「分った。じゃあ、会場を確認しよう」
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山本課長が立ち上がり、黒木と三木が続いた。 増築を重ねて迷路のようになった通路を歩いてたどり着いた審査会場は、小学校の教室くらいの広さがある。もっともがらんとした空間でなにもない。 | ||
「去年まで食堂に使っていたところだな。広さはいいけど何もないぞ。机とか椅子とかどうするんだ?」
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「出入りしている土建屋があるでしょう?」
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「五十嵐さんのとこ?」
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「そうです。あそこは選挙事務所を作ったりもしているので相談してみたんです。そしたらここを見て、テーブルと椅子だけあればいいだろうっていうんです。それだけならすぐにも用意できるそうです」
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「あまり汚いものはだめだぞ。でもまあ、選挙事務所並みならいいか」
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「今日の3時過ぎに運び込んでセットします。掃除していろいろセットして1時間あればできるって言ってました」
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「配置もあるだろう。五十嵐さんのところでやる前にお前ちゃんと考えて指示しろよ。向こうが何人か、こちらはどう座るのか、プロジェクタも使うだろうから、その映り具合・・・そうそうスクリーンはどうするんだ?」
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「ウチには大きなスクリーンがないので、五十嵐さんに向こうの壁に白い布を貼ってもらうことにしました。五十嵐さんはここを見て、他の壁もカーテンを付けた方がボロ隠しになるだろうって言ってました」
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「ボロ隠しになるか、アハハハハ。それはいいわ。 ところでこちらの参加者は何人にするんだ?」 | ||
「社長、部長、審査を受ける部門の課長と今まで協力してくれた人、それに三木部長さんで、合わせて14人と考えてます」
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「審査員が2名か、お茶なんかは?」
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「ここでは出さないつもりです。来社されたとき社長室で挨拶、そこでお茶を出してからここに移ってオープニングをして、審査はA会議室ですることにします」
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「するとここはオープニングとクロージングだけか。それだけのことに椅子と机を借りるのももったいないな」
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「ほんとは会議室で間に合うんですよ。審査のときは審査員とこちらは4名も出れば間に合いますからね。でもお隣のミルフィーユ金属がナガスネの審査を受けたとき、オープニングの出席者が少ないと言われたそうなので・・」
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「なんだ、その少ないって?」
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「審査員からオープニングは大事なセレモニーだから、なるだけ大勢出席するようにと言われたそうです。ちなみにミルフィーユでは社長と管理責任者と担当者などで10名だったそうです」
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「うーん、参加者が少ないと重要視していないと思われたってわけか・・・ ミルフィーユはウチと同じく従業員200名くらいだよな。10名では少ないか・・・ウチは14名って言ったな。大丈夫か。審査のとき文句を言われるなら、あと数名かき集めて20名くらいにしたらどうだ」 | ||
「課長もそう思いますか。私も文句言われるのは嫌だったんですが、会社の仕事を止めて出席してもらうのもなんだと思いまして・・・五十嵐さんには30名分の机と椅子を頼んでますので多少増えてもだいじょうぶですが」
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「じゃあおれから事務所からヒマなのを何人か出してもらうように頼んでおくわ。オープニングだけでいいだろう。クロージングのときは出席者が少なくても文句言うヒマもないだろう。いや文句言われてもおしまいならいいか。よし、じゃあ頼んだぞ、夕方見に来るよ」
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三木はオープニングというものも知らなかったが、そこに出席する人が少ないとなぜ問題になるのか分らない そこを出るとA会議室に行く。8畳間くらいの広さで、応接セットがありそこに6名座れる。部屋の壁にパイプ椅子が5・6脚立てかけてある。 | ||
「このままでいいか。向こうの2名は奥に座ってもらい、ウチのメンバーはこちら側だな。他の部門が審査を受けるときは俺とお前はパイプ椅子に座ればいいだろう」
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「私もそう考えてました」
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「ここではお茶を出すんだな?」
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「パートの鈴木さんに10時半と昼食のときお茶を、昼食後そして3時と審査が終わってからコーヒーを出してもらうことにしています」
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「そうそう、昼飯はどうするんだ?」
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「仕出し弁当を取ろうと思っています。一食1000円でいかがでしょう?」
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「だれか一緒に食べるのか?」
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「いや審査員だけです。彼らだって仕事しながらでしょうし」
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山本課長は首をひねって何か考えているようだ。
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「まだ手配していないんだろう。昼飯は社長か部長に車でそのへんに連れて行ってもらった方がいいんじゃないか」
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「中で食べるよりも時間がかかりそうですね」
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「時間がかかったほうがいいんだわ。その分審査する時間が短くなるだろう。 部長に相談してみるわ。予約しておいた方がいいなあ〜、二日というなら一日は社長、二回目は部長とするか・・」 | ||
「そいじゃ、それは課長にお願いします。もし仕出しを取るようになったら私に指示してください」
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「わかった、そうする。 そいじゃ、現場巡回ルートの確認だ」 | ||
歩きながら三木が山本課長に聞くと、一般的な工場見学ではなく、環境施設関連が主体だそうだ。といってもこの会社にはそんなたいしたものはない。排水処理もなければ、ボイラーもない。
小さなコンプレッサーが数台あるが建物の中で囲ってあるので外部にはほとんど音がしない。 危険物少量貯蔵所、といっても塗装を少々しているだけで、置いてあるのは一斗缶が10個くらいしかない。フォークリフトの燃料は頼むと小さなタンクローリーで給油に来てくれる。だから車両の燃料タンク以外にはない。 その他には廃棄物置場、これも段ボール、金属屑などが主体で、特管産廃は廃塗料などほんのわずかだ。受電施設は環境施設なのかどうか? | ||
「環境負荷がほとんどないようですが、わざわざISO14001を認証する必要があるのですか?」
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「おっしゃるとおりです。認証しようってのは、親会社、つまり三木さんところのご要望ですよ」
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三木は顔を赤くした。三木が出向できるのは、こういった関連会社がナガスネからISO認証をしてくれるおかげだ。
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「まあこれからのビジネスではISO認証というのは当たり前になるんでしょうから仕方ありません」
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三人はいつもの会議室に戻ってきた。
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「ええと黒木よ、次は何だっけ?」
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「会場確認と巡回ルートが終わりましたので、現場の再点検と文書の再確認です」
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「現場の点検とはどういうこと?」
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「まず整理整頓がちゃんとしていること。 それから記録、記録といっても環境マニュアルに載せているものだけですが、それらがちゃんと記録を取っているかどうかということですか。 文書などがあるべきところにあることですね」 | ||
「文書の改定とか差し替えなんてはもう終わっているのか?」
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「実はあちこちから修正要求がいくつも来ています。これから修正と差し替えをするつもりです。もう今以降は発生しないことを祈っているのですが」
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「明日になればまた改定したいってのが現れるだろうなあ〜」
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「あるでしょうねえ〜。とりあえず今日の4時で〆てそれから修正と差し替え作業をする予定です。 明日になって発生したら、対応するかしないかは内容を見て判断するつもりです」 | ||
「改定の決裁とかいろいろあるのか? また部長とか社長に伺いですることになるんだろう?」
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「いや正直言いまして、めんどくさいので改定版を進めず、つまり改訂記録を追記せずに中身を修正して現物を差し替えるつもりです。まずいですか?」
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「それはいいが・・・へたを打つなよ。差し替えは完璧にして、古いものは確実に捨てろ」
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「分っています」
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「今・・・3時か、よし俺は昼飯の件を部長に話してくるわ。じゃあ黒木は文書の修正作業を頼むわ 三木部長、すみません、このようにバタバタしておりますのでよろしくお願いします」 | ||
「いえいえ、大変勉強になります」
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山本課長は部屋から出てく。
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「黒木さん、私も何もしないわけにもいきません。エクセルもワープロも得意ですから何かお手伝いできることがありませんか?」
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「そいじゃ、お願いできますか。各部門から手順書の修正希望が来ていまして、プリントしたものに朱記してあります。それを見て電子データの修正をお願いできますか?」
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「ファイルネームはどうしようかね?」
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「バージョンを進めると支障がありますねえ〜、レビジョンを変えるという意味で末尾に『改』を付けるとしましょうか」
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「承知した」
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三木はパソコンを借りて修正作業に没頭した。仕事は特段難しいものではなかったが、なにしろ数がある。修正したファイルの数は20いくつあった。 黒木は何をしているのかと三木がのぞくと、明後日のプレゼンで使うパワーポイントを作成していた。 審査前というのは大変なのだと三木は思う。実を言って三木が来たときにはあらまし終わっていたわけで、数日前からのテンヤワンヤを見ていればその大騒ぎに驚いたことだろう。 終業のチャイムが鳴った。黒木が時計を見るとちょうど5時だ。今日はもう修正依頼はないだろう。 | ||
「そいじゃ三木部長さん、修正したものを私がチェックさせてもらいます。そしたら配布部数をコピーしてファイルの差し替えをしますんでご協力お願いできますか?」
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「指示してもらえればなんでも」
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黒木は三木が修正したファイルをチェックして数か所再修正した後、プリントする。
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「ウチの手順書の配布部数は12部です。これを12部コピーして、発行印は先日の日付で押印して、現場にあるファイルの該当文書を差し替えます」
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三木と黒木はコピーしてスタンプ押し、それからパンチ穴をあける。それが終わるともう6時を過ぎていた。
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「そいじゃ行きましょうか」
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二人は台車に段ボール箱とコピーした手順書を載せて出かける。黒木は手順書のファイルの場所が頭に入っているようだ。 ファイルを見つけると改定になった手順書を差し替える。古いものは間違って使われないように、手で二つに破いてしまう。 | ||
「だいぶ慣れているようですね。何度かしているのですか?」
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「アハハハ、何度もしました。明日の夜もまたしなくちゃなりませんよ」
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三木はそんなものかと思う。 12冊のファイルを差し替えて事務所に戻るともう8時を過ぎていた。 事務所に山本課長が待っていた。 | ||
「ファイルの差し替えをしていたのか?」
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「ハイ、こちらのほうは一段落というか、今日の予定は達成です。昼飯の件はどうなりましたか?」
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「うん、二日間とも部長が近くのファミレスに連れて行くことになった。席は総務が予約しておくそうだ」
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「分りました。じゃ仕出しの手配はなしと・・それと昼食時のお茶とコーヒーはいらない」
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「今日はまだ仕事するのか?」
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「もうだいたいは終わりです。私はパワーポイントを片付けてしまいますから、課長と三木部長さんはお帰りください」
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審査前日である● ● 三木は朝ホテルを出て 三木が着いたのは始業1時間以上前だったが、山本課長と黒木はとうに仕事を始めていた。 山本課長は昨夜、黒木が作ったオープニングのプレゼン資料を見ている。三木も山本課長の後ろにパイプ椅子を持って行ってパソコンを肩越しにのぞいた。 | ||
「黒木よ、会社概要だけど、この従業員数ってどういう数字を使ったんだ? 」
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「認証機関が従業員数を知りたいのは、単に審査費用を決めるためなんですよ。審査依頼の申し込みのときに180名にしてました。本当はパートの人とか構内外注とか含めると210人くらいなんですけど。先方の表を見たら200名からお値段が上がるようなことでしたので・・まあ、それに合わせておきました」
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「なるほど、なるほど。じゃ、そのことは社長に言っておこう。従業員数が間違っているなんて言い出すとぶち壊しだからな。 会社の事業概要、所在地、組織、まあどうせこんなのを見てもあんまし意味ないからなあ〜。よし、これでいいんじゃないか。 これを、そうだなあ〜、1ページに4画面プリントしてくれ。それを3部だな。社長と部長に渡しておくわ。説明してもらわんと」 | ||
「わかりました。ええと、今日は現場の最終確認ですね。それと手順書の変更依頼がまた来るでしょうけど」
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「そいじゃ早速現場確認をしようか。いろいろ手を打たなくてはならないことが見つかるだろう」
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三人は部屋を出る。 各現場に行くと、それぞれの現場の管理者を呼んで巡回ルートを歩く。 その気になってみるといくつも問題が見つかる。 危険物少量保管庫の前面に市販のホーローの掲示板が掲げてあるが、長い年月で文字が薄れていてほとんど読めない。掲示板があるかどうか店に聞くとすぐにはないというので、とりあえずその上からマジックで文字を書くことにした。 増改築でつなげた通路に元は外壁だったものがでっぱっている。環境とは関係ないだろうが安全上問題だと言われるのも癪だ。山本課長は出入りの工務店にうまいこと処理してくれと電話する。 工場で油漏れが起きた時のための油水分離槽に、落ち葉がものすごく溜まっている。黒木はウエーという顔をして現場の人に午後3時までに掃除するように頼む。 外側を歩くと、三木が最初に訪問したときと同様に、トラックが駐車してフォークで積み下ろしをしている。本当は車が出入りするとき以外は門を閉めて行うことになっているそうだ。だけどめんどくさいので開けたまま作業をしている。山本課長は審査のときだけでも門を閉めて積み下ろしをしろと運転手に言う。 三木はそんなことを後ろで見聞きしながら、なるほど、工場は生きているからそのときだけながめて判断するわけにはいかないなと思う。手にしているノートは既に5冊目になっていた。 ●
昼休みである。
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「黒木さん、確認させてほしいのだが・・」
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「ハイ、なんでしょう?」
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「文書の確認、現場の確認、審査場所の確認としたので、もう仕事はおしまいかい?」
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「おしまいってことはありませんね。各部門から持ち込む書類の確認、応対者の確認、ノイローゼになりそうですよ、アハハハハ」
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「各部門から持ち込む書類の確認とは?」
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「まっとうな、つまり検印のある発行印のある文書でないと困ります。中に書き込みがあったり、そうだ、バージョンが最新でないと困りますし、古い版が残っていたりするとアウトですし・・」
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「なるほど、じゃあ黒木さんは各部門のものをすべてチェックするのかい?」
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「そうしたいのですが、手が回りません」
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「そいじゃ私ができることだけでも手伝うよ」
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「お願いできますか? それじゃ休憩が終わったらチェックリストがありますから説明します」
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「応対者の確認とは?」
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「各部門の課長に対応してもらうことになっていますが、課長は実際のことを分らないこともあるので補佐というか実際に説明を誰が担当するのか、人数と名前と名刺とか」
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「分った。じゃあそれも聞いてリストを作っておきましょう」
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「お願いします。私はウチから持ち込む文書と記録の点検をしています」
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「文書と記録の点検とは? 手順書は終わったんだよね?」
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「当社では、手順書というのは会社全体に適用されるものを呼んでいます。しかしそういう文書だけではありません。部門の中でしか使わない文書、例えば廃棄物を業者に依頼するときの手順や誰が何をするのかを決めているのは部門内で決めればよいわけです。そういったものは課長決裁で、というかすべて自分が書いて自分が課長のサインをしているのですが、そういう文書がたくさんあるのです」
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「なるほど」
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「そういう文書のミスとか書き込みがないかを点検するのがひとつ」
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「他には?」
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「記録にミスがないかどうか、つまり記載漏れがないか、抜けがないか、決裁サインなどがないものがないか、いやはや今日は寝ないで点検しなければならないかも」
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「まさか・・・そこまではしないのでしょう?」
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「いや、冗談抜きに点検結果どうなることやら・・・」
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三木は各職場を歩いて点検を一通りして戻ってくると8時を過ぎていた。黒木と山本課長がなにやら話をしている。
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「どうかしましたか?」
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「いやあ、梱包のところでコンベアを油圧で動かしているところがあるんですがね、どういう偶然か運が悪いというか、配管から作動油が漏れてしまって・・」
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「機械の修理と工場内の油汚れは処理しましたが、側溝にちょっと流れてしまいました。今汲めるだけ汲み取って、あとは水で流してしまおうとしているところです」
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「明日の順回コースを少し変えてその近くに近づかないことを検討しているのですよ」
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三木は大変だなあと思う。もちろん油漏れが起きても、適正に処理しておけばなにもないのだろうが、審査では何かかにか言われるだろう。それならなかったことにするのが一番だろう。
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「三木部長さん、お世話になりました。お疲れ様でした。 もう帰ってください。あとは私の方でしておきますから」 | ||
そう言われてハイでは失礼しますとは言えないのは日本の社会だ。三木はふたりの相談を脇で聞き、それから三人で油回収の現場に行って一段落したのを確認する。 それからまた会議室に戻ってきて黒木は社長からコメントが付いたパワーポイントの修正作業をするという。時計を見ると11時半過ぎだ。山本課長も黒木一人を残しておくわけにもいかず、明日の説明資料の予習をするという。
ホテルまで人通りの絶えた通りを歩く。どこも審査の前日となるとこんなものなのだろうか。審査を受けるというのは大変なことだと思う。確かに三木も大きなイベントの前日はすったもんだ大変だったことも多い。だけど審査は会社が金を払って行う。客に納入するわけでもなく、外部の人を招いて新製品発表会を開催するわけでもない。こちらがお金を払って点検を依頼するだけだ。問題があってはいけないだろうが、運営やそれ以外のことにミスがあっても関係ないように思う。 ところで、審査する側は企業がすべてにわたって完璧であることを期待しているのだろうか? |
懐かしいですねぇ。鶏も最初の審査のときは2連続徹夜しましたっけ。冗談でも大げさでもなく正味の命がけでした。 「認証」にそれだけの大義があるのか?それが疑問でなりませんでしたね。 |
鶏様 私も1992年頃は同じでした。私も二晩徹夜しました。 何年か経つと、ばかばかしいイベントにしか思えなくなりましたね。 20年経った今は、認証制度を・・・以下略 |
審査の質を語らないのはなぜなんだろう こんなドタバタが横行していた時代があったなんて理不尽ですね。 審査では、実際に業務を回している文書が重要で、審査のための文書なんて作るべきでないと思っています。 それにしてもアイソスなどでは規格は語るのですが審査の品質を語らないのはなぜなんでしょう? まぁ都合が悪いからなんだろうなと思っています。 |
N様 毎度ありがとうございます。 いろいろ理由はあると思います。 まず、会社員側からするとある意味楽しいイベントだったのではないでしょうか。 いや、私自身そういう思いもありました。徹夜して書類を作ったり掲示を貼ったり、それはある意味学校祭のようなもので楽しいのですよ。年に一度くらいならあっても良かったのかもしれません。 まして社内失業者がISO担当であるところが多かったですから、脚光を受ける機会だったでしょうし 審査員側からすれば、当時はなにを言っても会社側はハイハイ聞いて言いたい放題ですから、規格要求ということではなく自分が思ったことを何でも言ったということでしょう。 ただそういう悪習がなかなか消えずに、接待、お土産ということにエスカレートしたのが2002年から2003年頃、そしてそれが批判されました。しかしたかり体質や態度が悪かったことに反省はしたものの、審査の質を向上しなかったというのはやはり審査員と認証機関に甘えがあったからでしょうね。 審査の質を語らないというよりも語れないのではないでしょうか。今審査員をしている人が全員、自分の審査がいくらの価値があるかと振り返ったとき、企業から1日10万とか15万とれると思う人がいかほどいるのか? もっともその価値があると判断した人の何割が勘違いかってことも・・ |
アイソスはなぜ審査の質を語らないのか? おばQ様、お世話になります。 答えは、中尾氏が認証制度を神のように盲信しているからという一点だけです。 自分の考えは間違っているかもしれないという誤謬主義でゆきたいものです。 |
出すと困んだー様 毎度ありがとうございます。 まあ、そこは大人の事情というものがあるのでしょう。 弁護士が被告人の弁護をしているのはあくまでも職務としてやっていることであり、被告人の無実を信じているわけじゃありません。コピーライターや広告屋が宣伝するのもあくまでも飯を食べるためであって、その商品がすばらしいと信じているわけじゃありません。 おっと、某誌にきれいごとを書いているのが飯のためだとは口が裂けても言いませんよ。 |