環境目的の不思議

14.10.13
ISO14001の2015年改定はまだ来年であるが、世の中は既にDISを基に説明会が行われ、対応策を検討されている。過去の例からDISになってから変わることはまずないから、このまま正式版になるのだろう。
ということでDISを読んで考えたことを書く。
今回の改定内容の9割は、JTCGのマネジメントシステム規格の共通化であると私は見ている。その他についても本質的なことは変わっていないようだ。まあ少しわかりやすくなったとか、気分で順序が変わった程度であろう。
そして残念ながら過去からの間違いもそのまんま踏襲しているということである。

では今回は環境目的についての第1回である。今回は環境目的を設定するということを考える。
ISO14001規格には1996年からおかしなところは多々あった。「目的・目標」もそのひとつだった。そしてDIS改定案でもそこんところは変わっていない。
何がおかしいのかというと、会社の活動と言うものを理解していないことである。

めんどくさい人は以下の引用文を読み飛ばしてください。
でも「おばQが語ることはおかしいんじゃないか、信用できない」と考える方は一応お読みください。

1996年版「4.3.3目的及び目標」

組織は、組織内の関連する各部門及び階層で、文書化された環境目的及び目標を設定して維持しなければならない。
その目的を設定し見直しするときに、組織は、法的及びその他の要求事項、著しい環境側面、技術上の選択肢、財政上、運用上及び事業上の要求事項、並びに利害関係者の見解に配慮しなければならない。
目的及び目標は、汚染の予防に関する約束を含め、環境方針と整合させなければならない。

2004年版「4.3.3目的、目標及び実施計画」の「目的・目標」部分

組織は、組織内の関連する部門及び階層で、文書化された環境目的及び目標を設定し、実施し、維持すること。
目的及び目標は、実施可能な場合には、測定可能であること。そして、汚染の予防、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守並びに継続的改善に関するコミットメントを含めて、環境方針に整合すること。
その目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面を考慮に入れること。また、技術上の選択肢、財務上、運用上及び事業上の要求事項、並びに利害関係者の見解に配慮すること。

そして2015DIS「6.2.1環境目的」

組織は、次の事項を行い、関連する部門及び階層において、環境目的を確立しなければならない。
−組織の著しい環境側面及び順守義務を考慮に入れる。
−脅威及び機会に関連するリスクを考慮する。
これらの目的を策定するとき、組織は、技術上の選択肢、並びに財政上、運用上及び事業上の要求事項を考慮しなければならない。
環境目的は、次の事項を満たさなければならない。
 a)環境方針と整合している。
 b)(実行可能な場合)測定可能である。
 c)監視する。
 d)伝達する。
 e)必要に応じて、更新する。
組織は、環境目的に関する文書化した情報を保持しなければならない。

おかしくないですか? 上記3つのバージョンを読んで、どこかおかしいと感じましたでしょうか?
全部おかしいと思われたあなたは正常です。
何もおかしくない、何がおかしいか分らないという方は、きっと企業で働いたことがないのでしょう。
「おれはベテランサラリーマンだ」とおっしゃるなら、残念ながら企業で働いていても企業の仕組みをご存じない方です。

非常に初歩的なことですが、企業は何のために存在するのか? あなたの会社の目的はなんですか?
いえ、形而上のこととか理念や企業倫理なんてことを持ち出すつもりはありません。
あなたの会社の目的は定款に書いてあることです。
ええ!定款を読んだことがない。それじゃ、あなたはベテランサラリーマンじゃありませんね! 定款を広げてみましょう。、お宅の勤め先は、定款を公開していないのですか? そりゃ違法じゃないですが怪しい会社ですから考えた方がいいですよ。何を考えるかはあなたが考えることですけど
それはともかく、定款に環境活動に努めると書いてある企業を私は知りません。
実をいってこれはハッタリである。私は何百社も調べたわけではない。実際にはそういう企業があるかもしれない。でもそんな定款であれば株主から訴えられるかもしれない。

普通の会社の定款なら会社の目的を
 「自動車、産業車両、その他の輸送用機器ならびにその部分品の製造・販売」
 「電気通信機械器具その他の電子応用機械器具の製造及び販売」
 「インターネット等のネットワークを利用した通信販売業、集金代行業」
 「音楽、演劇、美術展、スポーツ等各種催し物の開催および入場券の販売、取次業」
 「保険代理業、生命保険募集業」
 「警備業」
 「建設工事の請負」
なんて書いている。
もちろん新規事業に進出するときは、定款を書き換えなければならない。ホンダ技研が太陽光発電に進出したときはちゃんと定款に「発電並びに電気の供給及び販売」を追加して広報した。もっともとうに発電事業から撤退したけど・・
もし定款に「環境保全」なんて書いているとすれば、排水処理を生業にしている会社とか廃棄物処分業くらいだろうと思う。
ちなみに
DOWAの定款には「 産業廃棄物および一般廃棄物の処理業」、JESCOの定款には「環境の保全に関する情報又は技術的知識を提供する事業」とある。
行政の設立した廃棄物処理法人の定款には「環境の保全に関する事業」という表記は多々見られた。私もこの短い文を書くために相当数の定款を読んだ。
お断り:
環境NPOの定款では「環境保護に努めることが目的である」というところもあるだろう。
実際にそのように定めているNPOがあるのを確認した。

そういうことを考えると、「組織は、次の事項を行い、関連する部門及び階層において、環境目的を確立しなければならない(2015DIS)」というのは定款に反しませんか?
定款にない事業を行うことは違法でもなく禁止されてはいないけれど、定款に書かれている本業に関わらないことをすれば、株主から民事で訴えられるかもしれない。そしてISO規格の文言からは環境目的が本業推進に寄与するものともCSR活動とも読みとれない。となるとどうも、つじつまが合わないと私は思う。

規格の「組織は、次の事項を行い、関連する部門及び階層において、環境目的を確立しなければならない(2015DIS)」という文章がおかしいのは、やるべきことが間違いというのではない。考え方そのものが間違っているからだ。
まだわかりません?
簡単じゃないですか。素直に考えればいいんです。
ちょっと書き直してみましょう。
「組織は、計画も含めたすべての事業において、環境に配慮しなければならない。それを確実にするためにその活動の環境に関わることを関連する部門及び階層に展開しなければならない」とすればいいじゃないですか。
どの会社だって売上拡大とか棚残回転数改善とか品質向上なんて目標をあげて活動しているでしょう。だったらそういった活動を行うときには、環境にも配慮しなければならないと要求すべきじゃないかというだけです。
そういう素朴というか自然な発想をなぜしなかったのか?
だから私はISO規格を考えた人たちが企業で働いたことがなかったのだろうと思うのです。

本来ならわざわざ環境目的なるものを持ち出すことなく、下図のようにすればよかったのです。

会社の事業推進矢印環境に配慮しなさいよ

これなら、することは会社の事業そのものであり、環境目的なんて言葉も不要だからどこにも矛盾もダブりも生じない。
しかしISO14001で環境目的なるものをわざわざ作ってしまったものだから

環境目的をきめろ矢印目的を決めるには、事業
上の要求を考慮しろ
矢印できれば経営と統合しろ

こんな矛盾だらけの論理、破綻だらけの文章になってしまったのでしょう。
わざわざISO14001のために目的目標を決めて、あげくに経営の目標を統合しようとか騙っている。どう考えても、はっきり言ってそう考えた人はおバカさんじゃないでしょうか?
いや、日本のISO委員のお名前を拝見すると、みなさん高等教育を受けた立派な方ばかりのようです。なんでそういう基本的というか当たり前の考えで規格を作れなかったのでしょうか?
どうしてこんなISO規格を作ったのか、こんなものしか作れなかったのか、それを研究する価値があるかもしれませんね?

ええ!仮にそうしたらどんなメリットがあるのかですって?
考えてみましょう、

要するに、考え方の頭とお尻を逆にしただけで、環境目的の悩みは解消されます。
いや、悩みがなくなるだけでなく、ISO規格の意図をより理解したということでしょうね。
えっ、審査員がそれを理解してくれるかですって?
理解できない審査員なら、一昨日来いというか、味噌汁で顔を洗って出直して来いとか言うしかないかもしれません。おっと、その前にISO委員の方が私の意図を理解できるかどうか、私はわかりませんが、

うそ800 本日の疑問

規格を作った人たちは会社で働いたことがないんじゃないかと言う疑問は、環境目的を決めよという要求だけにとどまらない。他の要求事項においても同じように考え方、主客転倒なところが多々あるのは、規格作成者の考え方の根本的な知識、認識の問題である。
規格策定に関わった人に、会社で働いている人、経営者、管理者、サラリーマンはいなかったのか?

うそ800 本日の更なる疑問

ちょっと待ってください。
とすると、わざわざ環境目的なんて言葉を作る必要もありませんね。
それどころかこの項番そのものがいらないじゃないですか、
単に「事業活動においては環境に配慮しなさい」と書くだけで済みます。
どうしてそうしなかったのか?
ハムレットではありませんが、悩んでしまいます。
そして、更なる疑問ですが、遡って考えると、ISO14001って必要なんでしょうか?



006様からお便りを頂きました(2014.10.14)
環境目的の不思議
確かにその通りですな。
環境側から見てみれば、企業など存在せず、何ら物を作らず、活動をしないのがベストであります。

006様 お便りありがとうございます。
ISO14001の目的は「遵法と汚染の予防(序文)」なのだそうです。環境目的の狙いは、その目的達成のための手段でしょうから、まったくしないわけにもいかず、まあ渡世の義理であります。
とはいえ、多くの企業ではネタがないとか、数年は頑張っても種切れですと語る人あり、どこもお困りのようです。ここはひとつ、渡世の義理で少しは価値のあるネタを見つけてとなるわけですが、そう頑張らずに、既にしている活動(売上増進、利益拡大、休暇完全取得など)を援用して環境に配慮を目指すのが一番かと・・
ところで006様は「環境側から見てみれば、企業など存在せず、何ら物を作らず、活動をしないのがベスト」と書かれましたが、「環境とは、組織の活動をとりまくもの(定義3.5)」でございますから、企業(組織)が消滅すると環境もその定義から消滅といいますか意味を持たなくなります。
思うに、環境側から見れば、企業が目的を持って活動しようとしまいと関係ないというところではないのでしょうか?
まあそのへんで見かける目的はどうでもいいものが多いですから、実際問題どうでもいいでしょうけど・・・


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