順守義務は変わったのか

14.12.22
2004年版では「法的その他の要求事項」という項目だったが、英語も日本語もタイトルが変わり「順守義務」となった。
中身はどのように変わったのだろうか? それとも変わっていないのだろうか?

まず2015年DISと2004年版を比較してみよう。
2015年DIS2004年版
6.1.3 順守義務4.3.2 法的及びその他の要求事項
組織は、次の事項を行わなければならない。
組織は次の事項に関わる手順を確立し、実施し、維持すること。
a)組織の環境側面に関係した順守義務を特定し、参照するa)組織の環境側面に関係して適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を特定し、参照する。
b)これらの順守義務を組織にどのように適用するかを決定する
b)これらの要求事項を組織の環境側面にどのように適用するかを決定する。
組織は、順守義務に関する文書化した情報を維持しなければならない。
組織は、その環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持するうえで、これらの適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を確実に考慮に入れること。
注記 順守義務は、組織に対する有害な影響(脅威)又は有益な影響(機会)に関連するリスクをもたらす可能性をもつ。
 

では個々に見ていこう。
以下、バイオレット色の文字は規格文言を表す。

  1. 確立し実施し維持し」  「次の事項を行わなければならない
    規格の言い回しが全体的に変わったが、どうしてなのか私は知らない。規格改定説明会で解説があったのかもしれない。まあやることは変わらないだろうし、それは必要なことだろう。
    ところでISO規格では「確立する」なんて言葉が大好きなようだが、これってすごいことだよね
    「establish」の本来の意味って国を建てたり会社を創立することだから、文書を作るとか約束事を作ってみんな守りましょうなんてことに使うのはおおげさな気がする。
    それはともかく、元々の文章が変だったと思う。
    確立し、実施し、維持するうえで」って変だよね。いやこの副詞節が必要なのだというならば、他の項目すべてにこの枕詞まくらことばを置かなければならないように思う。
    しかし2004年版でこの枕詞があるのは、4.3.1環境側面、この4.3.2法的及びその他の要求事項(旧タイトル)、4.4.1資源、役割、責任及び権限、4.4.2力量、教育訓練及び自覚、4.4.3コミュニケーション、4.4.5文書管理、4.4.6運用管理、4.4.7緊急事態への準備及び対応、4.5.1監視及び測定、4.5.2順守評価、4.5.3不適合並びに是正処置及び予防処置、4.5.4記録の管理、4.5.5内部監査だけだ。それ以外の5項目にはない。書くのを忘れたのだろうか?
    いやそもそもが単なる枕詞で、語調を整えるところにだけ書いたのかも?
    ところで昔はエスタブリッシュメントなんて言い回しを見かけたが、今ではあまり使われないようだ。華族とか財閥、そしてそれに連なるファミリーなんてなくなったからだろうか?

  2. 適用可能
    日本語の言い回しが変わったのは原文も変わったのだろうか? 英文を見ると「applicable」が確かになくなっている。
    元々「適用可能」ってのは英語直訳なんだけど、日本語としてこなれていなかったと思う。意図を尊重して「該当する場合」とすべきだったろう。
    ともあれJISQ14001:2004が「適用可能」という言葉だったから、審査員やコンサルによって珍説がいくつも生まれた。
    某解説本では「法的要求事項とは罰則があるもので、その他の要求事項とは努力義務のことである」なんていう誤説明もあった。書いていた人が主任審査員というのだから笑ってしまう。どんな審査をしていたのだろうか?
    以前某雑誌に「この法規制には当社は対応できないので適用可能ではありません」と書いていた企業の人がいた。その会社は粛々と違法状態を歩んでいるように思える。
    ( ゚д゚)ポカーン
    キジも鳴かずば撃たれまい!
    公の本にそんなことを書いては不味いのではなかろうか
    あの人たちはまだ生きているようだが恥を背負って生きるのは辛いだろう。
    えっ、恥と感じていないって!
    まあ過去のことはいいか。

    おっともっと大事なことだが「適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項」と「順守義務」は同じなんだろうか?
    これについては新たに定義が設けられている。
    3.22順守義務
    組織が順守しなければならない、又は順守することを選んだ要求事項。
    注記 義務は、適用される法律及び規制のような強制的な要求事項から生じる場合もあれば、組織及び業界の基準、契約関係、良いガバナンスの原則、コミュニティ及び倫理上の基準のような、自発的なコミットメントから生じる場合もある。

    揚げ足を取るつもりはないが、日本語で「選んだ」というのもまたどうかなと思う。「choose」は単に見繕うとか好きなものを取るというニュアンスではない。「熟慮決定した」というニュアンスだ。

    あるとき英会話スクールの先生がdecideとchooseの話をしてくれた。先生の話によると、物(無形のものや概念を含む)を選ぶときはchoose、行動を決めるときはdecideだという。もちろん英語での説明だから私がニュアンスを理解できたかどうか定かではない。
    それを聞いたとき、っと思った。私はdecideとは真剣に考えて決定することで、chooseとは食べたいクッキーをつまむような軽い選択だと思っていたから。
    改めて質問したが、先生の説明は、どちらも真剣に考えて決めることであって、単に選択するものが物と行動の違いだという。

    とすると定義の日本語訳は「順守することを選んだ要求事項」ではなく「順守しなければならないと判断したもの」くらいにしないと、今後また審査員やコンサルによって、いや事務局担当者によって珍説、珍解釈が生まれるのではないだろうか。
    これからは・・・そうだなあ「これは順守するものには選びませんでしたので対象外です」あるいは「これは組織に選択権がありますからね」なんてやりとりが行われるだろうと思う。そして何人かの審査員はそれに対して「ごもっともです」なんて応えたりして・・・

  3. 組織の環境側面にどのように適用するか」 → 「組織にどのように適用するか
    これはまったく妥当だと思う。そもそも法規制の対応として手順を決めなくてはならないことは、環境側面に適用することだけではないだろう。
    例えば行政への届などを審査し決裁する手順などを考えると、総務部長が審査して工場長が決裁するとき、総務部長も工場長も組織の機関ではあるが組織の環境側面ではないと思う。
    英文を含めて元の文章が変だったのだ。
    考えると2004年版の規格を書いた人は、機関と環境側面を混同していたのかもしれない。機関で環境側面というものはあるのだろうか?
    ディーゼルエンジンは動力機関で環境側面だなんてボケをかます輩は退場

  4. 文書化した情報を維持
    ここは、文書と記録の定義の見直し、テキストの整合化などの諸事情によって文章が見直されたのだと思う。
    確立し、実施し、維持するうえで」については前述を参考に

前回改定のとき法的要求事項とその他の要求事項を分けたのは、コンプライアンスという語句に拒否感をもつ国があったためという。もうコンプライアンスの語句については拒否はなくなったのだろうか?
まあ、それはともかく定義3.22で恣意的な判断ができないような表現ができないものだろうか?
あるいは逃げられない規制と、努力義務、そして自主的に選択するというものを明確に記述した方が良いかもしれない。
なにしろ某認定機関が言うには、組織の順守意識が低いから認証の信頼性が上がらないとのこと。ならば対策をしなければならない。
とはいえ、認証は遵法を保証しないのだからどちらにしても意味はないか 
まあこの項番について現実にはまったく変更ないと考えている。もし私が現役であるなら何も変えない。審査で文句言われたら議論するのが楽しみだ。

もう少しがんばりましょう うそ800 本日の採点
英文も日本語訳も2004年版よりも若干向上したことをみとめる。だがすばらしいとは言えない。
よってGPA3.1くらいかな、
もう少しがんばりましょう


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014.12.22)
この法規制には当社は対応できないので適用可能ではありません

スゲー言い訳ですね。例えるなら「今月は赤字なので社員に給料を払えません」と言ってるのと何ら変わりません。いや、こんなヤツに払う必要はないか・・・


名古屋鶏さん
JIS規格を文字通り読むとそのとおりなんです。いやあ、よかったですねえ、
何が良かったのか?


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