マネジメントシステム物語23 契約内容の見直し

14.01.05
マネジメントシステム物語とは

大蛇おろち機工の品質は、この数か月、時と共に向上している。品質の指標はいろいろあるが、例えば生産途上の中間検査での合格率、最終検査の合格率、廃棄した仕損金額、客先からの苦情やそれに伴う費用などがある。そういった品質指標はいずれも継続的に改善している。
無駄な加工が少なくなり、捨てるものが減っているのだから、当然、能率はあがるわけで、つまり部品1個当たりの加工時間というか投入工数すくなくなってきた。その改善は過去半年で数パーセントになる。
ワカランワカラン
星山
星山は、品質も悪い、生産能率も低いという以前の状況から、なぜ短期間でこんなに変わってきたのかを考えている。しかし、なぜ変わったのか、そこがわからない。この変化は佐田と武田がやってきてからだ。
確かに武田が加工プログラムを改善して加工時間を短縮したりはした。だがタレパンの加工時間を1割減らしても、全体の能率が1割上がるわけではなく、まして不良が減るわけはない。
星山は日々現場をながめているが、その理由がわからなかった。
星山は川田に声をかけた。
星山専務
「川田取締役、最近、不良が減っているし生産も上がっていることをご存じでしょう」
川田取締役
「はい、確かに。しかも時と共に向上していますね」
星山専務
「いったいなぜなのでしょうかねえ〜。川田取締役はその理由をご存じでしょうか」
川田取締役
「現場の実力は、作業能率、直接作業率、入場率の掛け算です。また加工時間の短縮はそのまま生産高増加となります。ですからどれが変わったかを考えればよいのです」
星山専務
「作業能率とは?」
川田取締役
「作業能率とは、例えば人がものを取ったり置いたりする時間、あるいは手作業での加工時間が早いか遅いかということです。
これは作業指示書を整備してから、スピードアップしたようです。どうしてかといいますと、作業者が仕事をするとき指示書に基づいているので迷わなくなりました。自信をもって作業しますから、不安なままするよりも動きが早くなっています。
見ていてわかりますが、以前は工具を取り置きするにも、一回ごとに置き場所や持ち方が違いました。今は熟練して、いや熟練していなくても、指示書通りに工具を取り置きしているのがわかります」
星山専務
「なるほど、それは作業指示書を作業者が見ているからでしょうか?」
川田取締役
「それもあるでしょうけど、指導者が常に同じ指導をするようになったことが大きいのではないでしょうか」
星山専務
「指導者が同じ指導をするようになったとは?」
川田取締役
「作業指示書というのは誰のためというか、誰が読むのかということは、昔から議論されてきました。作業者が熟練すれば作業者の前に掲示しておかなくても良いという意見もあります。しかし『監督者が、作業が正しく行われていることを確認するために掲示する』という言葉があります。作業指導するときに作業指示書に基づいて行うというのが基本なのかもしれません。
ともかく指導者が指導するたびに言うことが違っては、作業者は指導者に対して信頼を持てず、もちろん自分の仕事にも自信を持てません。それでは作業スピードが上がるはずはありません」
星山専務
「なるほど、指導が良ければ作業能率が上がるのですね」
川田取締役
「もちろんです。しかしそれだけではありません。機械や工具の整備状況が良くなったこともあるでしょう」
星山専務
「ほう、どのような?」
川田取締役
「専務も毎日工場を歩いていて気がついていると思いますが、故障で止まっている機械が減っているでしょう。それは日常点検で故障まで至らなくても、おかしいと思ったら整備するようになったからです」
星山専務
「日常点検は以前からしているはずだが・・」
川田取締役
「日常点検の方法も一般作業と同じく、どのようにするのか、どのような状態なら正常かわかるように基準を決めてそれを教育し点検させるようになりました。以前は惰性であいまいなままV印を付けていたのではないでしょうか」
星山専務
「なるほど、」
川田取締役
「次に直接作業率というのは、作業者が現場にいる時間で実際に仕事をしている時間を割ったものです。
今までは段取り替えのとき、例えばプレスなら金型がどこにあるか探すとか、どのボルトを使うのかと考えたり、あげくにボルトがなかったりと試行錯誤していて時間ばかりかかっていました。それを伊東委員長が段取り表を作ったので、それを見れば迷うことなく段取りができるようになりました。もちろん技量によって手際というか、かかる時間は違います。でも何をするか分らずに戸惑うことはなくなりました。
ドライバビット 組み立てでも、以前はリーダーが段取り替えをしている間、パートの人たちはただ何もせずにいたということが珍しくありません。今ではドライバもドライバビットもどれを使うか指示書に書いてありますから、パートの人たちが自主的に段取りをしています。また工具類を整備してきたので、ドライバビットがないということも今はありません。
何もせずにいる時間が減ったのですから、直接作業率が上がるのは当然です」
星山専務
「入場率とは休んだりせずに会社に来ることだね」
川田取締役
「そう、もちろん休暇がありますから100%はありません。しかし休暇を全取得した数値まで上げることはできるはずで、そのためには欠勤や遅刻などを減らすことになります。
私が入院する前と後では入場率が数パーセント違います。その間に何があったかといえば、いろいろキャンペーンをしたそうですね」
星山専務
「ああいった活動によって入場率が上がったということか」
川田取締役
「そうとしか考えられません。
今あげた三つが90%から95%に上がれば、掛け算したものは2割近くあがります。それは加工費が2割ダウンしたということです。たいしたもんです。
これはいろいろな活動の結果でしょう」
星山専務
「確かにいろいろなことをしたが・・そうするとこれは佐田の功績か」
川田取締役
「まあ佐田君ばかりではなく、専務や伊東委員長たち全員が頑張った成果ですよ」
星山専務
「ともかく、そうするとなにか一つのことで能率が上がったり、不良が減ったりということではなく、種々の施策をした結果で全体的に改善してきたということか?」
川田取締役
「自動車を作るにはすそ野が広いといいますが、プレス加工であろうと組み立てであろうと、一つの作業を行うための技能とか設備など、やはりすそ野が広いです。ひとつ対策をすればいいというわけではなく、関連するたくさんの要因に手を打って全体的に向上させていかないと山は高くならないのです。チェーンは一番弱いところで切れるといいますが、一か所だけ強くしても意味がありません」
星山専務
「いや、さすが川田取締役はものづくりの専門家ですなあ。私は良くなったのは分っても、なぜ良くなったのかはわかりませんでした」
川田は笑った。
川田取締役
「いやいや、私はなぜ良くなったのかはわかっても、良くすることができませんでした。私には専務が期待した力はないようです」
星山専務
「ところですそ野というのはどこまでなのでしょうか」
川田取締役
「言いましたように製造現場を良くするのは一つの要素ではありません。まず固有技術があります。ここならプレスの技術技能がなければ物が作れません。次に管理です。的確な指示、無駄のない計画、その他に設備や職場環境、教育訓練といったインフラ的な要素もあります。
第三に従業員のファイトというのかなあ、いくら良い機械があっても働く人に熱意がなくては物が作れませんし、上長の指示を受ければ間髪を入れず実行するという風土がなければなりません。
そういう3つが良くなければ常に良い仕事はできません」
星山専務
「佐田がいつもいっているね。固有技術、管理技術、士気が必要だって」
川田取締役
「そうです。武田君は固有技術を持っているし、良く指導している。しかし管理や士気の向上は佐田君の仕掛けがうまいからでしょう」
星山専務
「こんなことを言ってはなんだが、佐田は出向する前からいろいろと指導してくれたが、今でも彼がここにいる必要はあるだろうか? もうここまできたら彼はいらないのではないだろうか? 実を言って、当初の目的を達成したからと彼を戻そうかと思っているのだが」
川田取締役
「専務、ご冗談を、この会社を動かしているというか、動かすという意味もいろいろですが、会社を切盛りしているのは専務でしょう。でもみんなをその気にさせるとか、問題になりそうなことに手を打っているのは佐田君ですよ。彼がいなければこの会社は油が切れた機械のようです」
星山専務
「そうなのか?」
川田取締役
「武田君は技能もあるし作業者への指導も良くしている。しかしそういうことをするための、標準化とか教育の考え方というのは、佐田君が武田君や係長たちに教えている。それが彼の存在価値です。武田君ももう少し歳をとれば、そういうテクニックというか気が回るようになるのだろうけれど、今はまだまだです。
それと現場の係長やリーダーの武田と佐田君を見る目が違います」
星山専務
「見る目が違う? どういうことだろう?」
川田取締役
「みんな武田君には困ったことや問題があれば解決してくれると思っている。しかしもっと能率をあげるとか、なにを改善すべきかというような、即物的でないばくとしたことについては、誰もが佐田君を頼りにしているという現実がある。専務だってそうじゃありませんか」
星山専務
「なるほど、言われてみればその通りだ。武田は知識、佐田は知恵というわけか」
川田取締役
「そう、武田君はここの係長や作業者よりも、プレス加工についてはいろいろなことを知っている。しかし佐田君は彼が知らないことでも、考えて対処する力があるとみなされているということです。
おっと、武田君に知恵がないというわけではありません。いつかは武田君も佐田君のレベルになるでしょう。もっともそのときには、佐田君はもっと先を行っているでしょうけどね」

星山は川田の言うことに納得した。佐田が出向してくる前、毎週ここに来ては星山専務や伊東委員長にどのようなことをしようと提案したことを思い出した。彼は具体的になにをしろというのではなく、みんなに考えさせようとした。もし佐田が命令的な表現で指示したとき、みながそれに従うかということもあるし、その方法では佐田がいなくなった瞬間に改善は止まるだろう。佐田はみなに考えさせたのだ。
そして星山は、川田も変わったなと思う。一回り大きくなった。病気をしたからだろうか。
星山専務
「品質が上がったというのもそういうことですか?」
川田取締役
「品質を上げるというよりも、不良はなぜ起きるのかということを考えればよいのです。
まず技術的に解明されていないものは、それこそ技術力を向上させなければなりません。例えば精度をあげようとか、歪を減らすというようなものはそういうカテゴリーでしょう。
しかし過去にこの会社でそのようなことに起因する不良はなかったと思います。実際にあったのは、当たりにゴミがついて寸法が狂った、似たような部品が混入した、加工を一工程抜かしてしまった、保管中に錆びた、数が足りなく客先から苦情が来た、寸法を測る測定器がなかった、まあ他の会社の人が見たら笑うかもしれません。しかしそれが現実でした。
そういう不良であれば、現有の技術であっても管理や教育によってかなりのところを防ぐことができたでしょう」
星山専務
「だが我々には、その対策ができなかった」
川田取締役
「そうです。私はすぐにも改善してやろうと思ってきたのですができなかった」
星山専務
「失礼だが川田取締役にできなくて佐田にできたわけは?」
川田取締役
「私に力がなかったといえばそれまでですが、技術があってもそれをどう使うかという方法論を知らなかったのです。佐田はあるべき姿を知っているけれど、そこに一挙に持っていこうとせずに、目の前のトラブルをひとつずつ改善することから始めました。そして大事なことですがその一歩は単なる現状の改善ではなく、あるべき姿へつながるものでなければならないのです。
一番高い山に登ろうとしたとき、自分の立っているところの傾斜を見て高い方に行くだけのアルゴリズムでは局地的な凸の地点に至っても、最高地点にはたどり着きません。最高峰を見据えて、それが見えない人をそこに連れて行くためには仕掛けが必要なのです。うまく指示しないと遠くが見えない人は、いっときでも傾斜を下ることを拒否しますからね」
星山専務
「なるほど、佐田は以前指導に来たときに、そんなことを言っていたなあ〜。あるべき姿に直接向かっても人はついてこないとか」
川田取締役
「それと我々はあるべき姿を知っていても、今あるリソースで戦わなければならないという認識が足りなかったのだと思います。大がかりなこととか、大会社がする方法ではだめです。身の丈にあったこと、今持っているもので戦うという覚悟、使えるものを生かす発想、そして目的を成し遂げるという意思が必要です」
星山専務
「具体的には?」
川田取締役
「私どもが来た早々に、客先の図面変更で同じ図番で互換性がなくなったものがありました。あのとき鈴田課長は資材コードを分けるとか、枝番を付けて別管理しようとか考えたものの結局何もせず、その結果当然のようにトラブル発生したわけです。あんなもの単純に『穴あり』『穴なし』と書いた紙を貼りつける方法が最善だったわけです」
星山専務
「とは言え、佐田が不良対策を指導したような記憶もないが」
川田取締役
「先ほども言ったように、彼は我々に考えさせたのです。彼がしているのは、直接統治ではなく間接統治なのです。
伊東委員長は一生懸命段取り作業の指導したけれど、なかなか向上しませんでした。佐田君は伊東委員長がしていることを紙に書いて貼れといいました。その結果、伊東委員長は作業標準の意味に気がついた。更にそれを見た組み立てのリーダーがその真似をした。タレパンのプログラム改善について佐田に言われて、改善には優先順序があることに気が付いたと伊東委員長が言っていました。佐田は固有技術はないかもしれないが、教師としては優秀だ。
美化運動だって工場をきれいにすることや生産性向上が目的ではなく、彼の目的はみんなの意識改革だったわけです」
星山専務
「なるほど、彼は本音を隠して、我々を動かしているということか。我々は佐田のてのひらの上の孫悟空か、考えてみれば恐ろしい男だな」
川田取締役
「いや、そう懐疑的にならないでください。別に佐田君がここを乗っ取ろうとしているわけじゃありません。彼にとってこの会社はある意味おもちゃなんです。いや、そう言っちゃまずいか、自分のアイデアを試してみる実験場かもしれません。と言って彼が元の会社に戻って何になろうという気もないようです。要するに彼は改善することが好きで、この会社はその修行の場所なのでしょう。
安い買い物だったじゃないですか。それに彼を自由にさせているようで、しっかりと首の縄を持っている鵜飼が星山専務じゃありませんか。私は以前彼の上司でしたが、あの男を使いこなせず飼い殺しにしてしまったのです」

飼い殺しとは、本人の能力を十分生かせないような地位や職場に置いたままにしておくこと。

星山専務
「なるほど、話を戻すと、このままの状態でいれば、継続的に品質向上と生産性向上が図られるということなのだろうか?」
川田取締役
「一定レベルまでは行くでしょう。しかしさらなる向上は設備更新やレイアウト見直しなどの物理的な改善、あるいは職制改正のようなシステムの改革が必要になります。どのようなアプローチでも必ず限界があります。それを越えていくには新たなブレークスルーが必要です」
星山専務
「なるほど、そんなことも佐田は言っていたな〜
奴のことだからそれは既に考えているのだろう。そしてをわしらには黙っているわけか、可愛げがないと言えば可愛げのない男だな」
川田取締役
「悪意があって小出ししているのではなく、相手が理解できるレベルになったときに次の目標を与えているというべきでしょう。最初からあまりにも大きなビジョンを見せて、相手が咀嚼できないというか、途方に暮れることを恐れているのではないでしょうか」
星山専務
「いやはや、我々はとんでもない人間を引き取ってしまったのかもしれんな」
そのとき営業課長営業課長が血相を変えて部屋に入ってきた。
営業課長
「星山専務、大変です緊急事態です」
星山専務
「なんだ? お前は侍の子孫だろう、武士は決してうろたえるんじゃない」
営業課長
「宇都宮藩の侍だったのは私の7代前ですよ。冗談言っている場合じゃありません。大国主おおくにぬし機械からの注文を5千個だと思っていたのですが、5万個だったのです」
星山専務
「そりゃ結構な話じゃないか」
営業課長
「冗談じゃありません。たった今間違いに気が付いたのですが、納期が1週間後に迫っています。他社さんの仕事も入っていますし、残業も時間外出来る夜8時まではフルに入れていますから・・対応できません」
星山専務
「なんでそんな簡単な間違いをしたんだ?」
営業課長
「今まで毎月5千からせいぜい1万でしたので、4つのゼロを3つに見間違えたのです」
星山専務
「武田課長と鈴田課長、それから佐田と伊東を呼べ」

10分後メンバーが会議室に集まった。
武田課長 佐田 川田取締役 星山専務 営業課長 伊東 鈴田課長
武田課長 佐田 川田取締役 星山専務 営業課長 伊東 鈴田課長

鈴田課長
「まず材料は一般的な亜鉛メッキ鋼板ですから在庫はあります。日程的にはフル残業状態ですから、他を遅らせるしかありません」
武田
「この部品は穴あけ、折り曲げするだけです。とはいえ金型がなければ加工できません。ものが大きいですから60SPM、1分60個というところでしょうね」
星山専務
「5万個作るには14時間かかるということか。たいした時間ではないじゃないか」
鈴田課長
「とはいえあと実働数日しかなく満杯のところに14時間は入りません」
武田
「納期までに土曜、日曜があります。土曜日は出勤予定が入ってますが、日曜日に出勤残業をすれば10時間は稼げます。それに土曜日は残業予定がありませんから残業すれば2時間、あとは平日の残業をなんとかということでなんとかなりませんか」
星山専務
「近隣との協定で日曜は休み、土曜日は残業なしということになっているのだ」
伊東
「緊急だからと町内会長と話せないか」
星山専務
「市との協定だから町内会だけではだめだ。市役所相手では、交渉するにも二日三日では無理だなあ〜」
佐田
「他の会社に頼むというのもありますが・・」
営業課長
「市内の同業者にはあたったのですよ。時間的に余裕があればウェルカムでしょうけど、ショートレンジなのでどこからも断られちゃいました」
星山専務
「営業課長、大国主さんに納期の見直しとか分割納入について聞いてみたか?」
営業課長
「問い合わせしました。いやあ叱られたのなんの、よそを止めても納期必達と怒鳴られました。実はこれ、タイに送るそうです。船便なので分割も不可とのことです。大国主もとうとうタイ生産を始めたようです。そのうち現地生産を始めれば、ウチには仕事が来ないんじゃないですかねえ」
星山専務
「みんな、なにかアイデアはないか?」
佐田
「川田取締役、素戔嗚すさのおのプレスはほとんど動いていませんね。ウチから仕事を頼むことはできませんか?」
川田取締役
「子会社から親会社に発注するのか?」
佐田
「ビジネスですから、おかしくもなんともありません。川田さんの顔で話がつけられませんかね」
武田
「場合によっては機械だけ貸してもらって、私が行って加工するという手もありますね」
川田は分ったと応えて、すぐに電話する。
川田取締役
「素戔嗚さんですか? 大蛇機工の川田と申します。ああ、元製造部長だった川田です。上野部長をお願いしたいのですが。
あ、川田です。ご無沙汰しております。ハイ、おかげさまでもうすっかり元気になりました。実はお願いがありまして、ハイ、ウチの仕事があふれてしまいましてお宅にプレス加工をしていただけないかと・・仕事量としては十数時間でしょう。
はい、金型と材料はすぐにも・・
詳細は武田課長がお邪魔して説明することにします。そうなんです、武田君は今製造課長で活躍しています。早すぎるかって、いやもう立派な大課長ですよ」
川田は電話を切って皆の方を振り向いた。
川田取締役
「おお、やってくれるって。但し機械だけ借りるのは安全上だめだと言われた。それでお金は向こうのチャージレートになる。差額は損失だ」

営業課長
営業課長はしばし斜め上を見ていたが、
「損ってわけじゃありません。レートの差額からウチの利益がなしってところでしょう」
星山専務
「ま、しょうがない。それじゃ、大至急進めてくれ」
川田取締役
「鈴田君、材料と通箱の輸送の手配をしてくれ。武田君、金型と図面などの準備、それから日程表などを準備して明日の午前中に福島工場に行って説明と指導をしてきてくれ」
武田
「わかりました。古巣ですから大丈夫ですよ」
鈴田と武田は席を立って出ていった。

星山専務
「いやあ、川田取締役、どうもお世話になりました」
川田取締役
「いや、佐田君のアイデアだ。私は電話をしただけだ」
営業課長
「ホッとしました。大国主には大丈夫と連絡しておきます」
佐田
「営業課長さん、ちょっと待ってください。ついでですからこの問題の対策と再発防止をしちゃいましょう」
佐田は立ち去ろうとした営業課長を捕まえた。
営業課長
「え、まだ何か問題なの?」
佐田
「お客さんからの注文を間違えたという問題は解決していません。この再発防止をしなければならないでしょう」
星山専務
「そういやそうだな。まずどうしてこんなことになったのだ?」
営業課長
「まず注文を受けたときの流れを説明しますと、ウチは客先と電子データでリンクしていません。最近は注文が直接データで来てこちらの日程計画にリンクする方式もあるらしいですが」
星山専務
「あれは別途、正式な注文書がないと違法と聞いたが」
営業課長
「ともかく当社は3月前に電子メールで発注予定表が来て、前々月に正式な紙の注文書が来ます。
当社の顧客を担当者二人が分担していまして、注文書の数を当社の生産指示書作成のデータとして担当者が入力します。このとき50,000を5,000と読み違えたということです」
星山専務
「単純と言えば単純だな。だけど誰だって数字くらいチェックするだろう」
営業課長
「しかしこの部品は過去2年くらい毎月作っているのですが、毎回5千から多くて1万くらいでしたので、担当者はそれが頭の中にあって、5千と読んでしまったのです。まさかいつもの10倍とは思わなかったのです」
星山専務
「次回から注意すればよいのか?」
営業課長
「そうするしかありません」
誰も何も言わないので佐田が口を開いた。
佐田
「仕事は当事者以外がチェックするのが基本です。作った人と検査する人は別、品管と品証は別というふうに。営業担当者が二人いるなら、お互いにチェックしあうというのが最低条件でしょう」
営業課長
「そんな、まず時間のロスだし、それにお互いの仕事が信用できないってことになる」
佐田
「検査する人は、作った人を信用していないから検査するわけではありません。不良を見つけるためではなく、良品であることを確認するために検査をするのです。
それに注文書の入力を都度チェックするといっても、その時間はたかがしれているでしょう」
営業課長
「まあ、そう言われればそうだな」
佐田
「それから数字だけをチェックすれば良いというわけではありませんよね。50万個のときも数字さえ間違えなければ良いというわけではないでしょう」
星山専務
「というと?」
佐田
「当社が注文に応えられるかということを確認しなければならないはずです。5千個なら作れても、5万個ならつくれないかもしれません」
営業課長
「いや受注時に5万と気が付いたなら、月初めから時間外を計画するとか、外注に出すとか考えることができたから問題ないよ」
佐田
「いや個数に関わらず、生産できるかどうか、納期に間にあうかどうかを確認するプロセスが必要です」
営業課長
「普通はそんなこといらないんじゃないか、50万個なら担当者が俺に大変だと言ってくるはずだ。ひょっとして発注側のミスかもしれないし」
佐田
「そうです。でも50万個であっても気が付かないかもしれませんよ、今回のように。
そして5千個だとしても、当社が対応できるのかということを検討しなければならないはずですよね。その検討方法と結果についても、本人だけでなく別の人が検証しなければなりません」
星山専務
「佐田さんのいうのはどういうことなのか?」
佐田
「設計と営業の仕事は違うように思われるかもしれませんが、インプットつまり要求仕様が明確になっているか、アウトプットである設計が要求仕様を満たしているかの検証が必要なことは同じです。
注文を受けたとき、単にそれを情報システムに入力するのではなく、インプット事項、つまり注文品、注文数、お値段、納期、出荷先、梱包方法、送り先などが明確になっているか、それを製造できるか、納品できるかの検討を検討しなければならず、その検討結果が妥当であるかを確認する仕組みがなければなりません」
伊東
「俺も気にしていたことがあるのだけど・・・今回のものはタイに送ると言ったが、他の会社のものでもタイに送っているものがある。そういったものは梱包箱をポリシートで包んだり、出荷先が工場ではなく横浜港だったりする。そういうことの確認はどうだったんだろう?」
営業課長
「確かにそう言われるとそうだ。どうなっていたのだろう?」
星山専務
「オイ営業課長、担当者を呼べ」
営業課長
「いやこれは私の責任ですから、私が承ります」
星山専務
「そうか、ならいい。ともかく今までの話をホワイトボードに書け。お前はすぐに忘れるから」
営業課長
「いや、忘れません」
営業課長はそう言いながら、壁際からホワイトボードを引きずってきて、そこに「情報システムに入力したとき相互に入力内容を確認する、課長は数字が妥当かどうか確認する」と書いた。
伊東
「梱包仕様と出荷先の確認も加えてくれよ」
営業課長がホワイトボードに追加する。
星山専務
「素戔嗚さんで加工してもらうとして、行先がタイなら梱包箱は戻ってこないのだろう。一回だけならプラダンに入れて送るのはもったいない。段ボール箱とか手配しなければならないのではないか?」
伊東
「それよりもポリシート包装が必要かもありますね」
営業課長
「ええと、話が多岐にわたることが分りました。ひとつは今回の対応のこと、ひとつは今後の対応ですね。
今回のものについては包装仕様と出荷先を再度確認して、すぐに管理課に手配を依頼します。
今後のものについては・・・・」

営業課長
「こんなことでよろしいでしょうか?」
星山専務
「いや、けっこうだ。お前にしては上出来だよ」
佐田
「じゃあ、これを営業の規定に盛り込みましょう」
川田は佐田の発言を聞いていていろいろと感じたことがあった。今回の議論は自分ではなく、営業課長に関わるものだったので冷静に考えることができたのだ。
ワカラン
川田取締役
まず、佐田は自分の意見を主張しようとしているわけではない。とはいえ皆が暗黙に認めたから自分も追認しようとか黙っている気は全くない。なぜかというと自分が目立ちたいとか不満があるから発言しているわけではないからだ。彼は単純に良い仕事をしようと思っているだけなのだろう。だから目上に対しても正しいと思うことを遠慮なく発言しているのだ。
しかし川田には、佐田の頭が良いとか回転が速いという気はしなかった。ある意味まわりに気を使わないというか空気を読めない愚鈍なだけじゃないかという気もした。あるいは、まわりに気を使うということは、会社の仕事では無用なのだろうか?
ともかく考え方の基本がしっかりしていて、常にそれを外れずに判断している。佐田にできて川田にできないのはそのあたりなのだろうと思う。

佐田と営業課長が部屋を出ていき、会議室には星山と川田そして伊東が残った。
星山専務
「大国主もタイに進出したのか。いよいよウチも動き出さないとまずいなあ」
川田取締役
「動き出すとおっしゃいますと?」
星山専務
「少し前、親会社の素戔嗚から、タイに工場を作れという話があったのだ。素戔嗚に限らずウチのお客様の多くはどんどんとタイに工場を作っているので、そのうち日本では仕事がなくなるということも考えられる」
川田取締役
「そうですか。私の知り合いが何人もタイの工場に行っていますので、彼らに状況を聞いてみましょうか」
星山専務
「おお、それはぜひともお願いしたい。なにしろ我々はまったくといっていいくらい情報がない。できるならすぐにでも」
川田取締役
「それじゃこれからでも知り合いに連絡を取ってみます。本社にいるのが多いですから、連絡が取れたら一度本社に行って何人かに会って状況を聞いてきましょう」
星山専務
「できるならすぐに取り掛かってもらえないか」
川田取締役
「承知しました。私にできるのはこんなことしかありません」

佐田は鈴田のところに準備状況を見にいった。
管理課の事務所に入ると、鈴田の席の隣に、一目で上等とわかるスーツを着た中年の男が座ってなにやら話をしている。業者だろうか?
鈴田は佐田の姿をみると、すぐにその男との話を打ち切って立ち上がり佐田のところに来た。その男も立ち上がり現場事務所を出ていった。
佐田
「お客さんだったのかい、それは悪いことをした」
鈴田課長
「いや、お客さんは俺だ。実は俺は株をやっていてさ、今度証券会社の担当が代わったからと挨拶に来たんだよ。福島支店から、わざわざこちらまで挨拶に来るとはご苦労なことだ」
佐田
「へえー、株だって! 鈴田君はすごいんだね」
鈴田課長
「おっと、大きな声を出さないでくれよ。安斉課長のように、会社に迷惑をかけるわけじゃない。俺の楽しみさ。実を言ってここ数年、毎年ボーナス2回分くらいは稼いでいるんだ」
佐田
「そりゃ、すごい。でもうまくいくときもあるだろうけど、損をするときもあるんだろう?」
鈴田課長
「頭を使うんだよ、頭、おれはまだ大損したことはない。ところで何の用だっけ?」
佐田
「素戔嗚に送る材料と通い箱、それに武田君が用意した金型などの状況を見に来たのさ。タイに送るからプラダンではなく段ボールにしたいと言っていたなあ」
鈴田課長
「材料は、ばっちりさ。箱は連絡があってからでも間に合うだろう。一緒に見に行こう」

今じゃ「契約内容の見直し」という言葉を聞いても、なーんも思い浮かばない人が多いかも・・・
1987年版の「契約内容の見直し」は1994年版では「契約内容の確認」となり、2008年ISO規格では「顧客関連のプロセス」となり、2015年では「市場のニーズの明確化及び顧客との相互作用」となるようです。まさに出世魚、とどのつまりは単なる名称の変化ではなく、二者間取引から不特定多数のBtoCへの変化の反映なのでしょう。BtoCじゃ製造者と消費者は、普通の場合は契約なんてしませんものね、
1987年版のISO9001にある「契約内容の見直し」という要求事項は、それ以前の二者間の品質保証協定書にあったためしはなかった。規格を読んでこの言葉を見たとき、私たちは「契約書の見直し」とばかり思ってしまった。
それで営業に行って客先と結んだ契約書を見せてもらい、一生懸命読んだ。しかしそこには取引銀行、支払い条件や延滞金、トラぶったときどこの裁判所を使うとかいうことしか書いてない。一体なにを見直し(review)するのかと途方に暮れた。
今なら笑ってしまうが当時は真剣に悩んだものだ。

うそ800 本日予測されるご意見
物語は今1993年初頭ですから、中小企業でもタイに行くのは少し遅いか?
まあ、そんなことはないということにしておきましょう。

うそ800 本日の予想
鈴田課長は今に株で大損するぞ! と思われた方
そうなるかどうか一つ賭けませんか?




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