マネジメントシステム物語25 認証準備

14.01.12
マネジメントシステム物語とは

ある休み明けの朝のこと、星山が会社に来ると佐田がいた。佐田が星山より早いのはいつものことであるが、今日、佐田は星山が出てくるのを待っていた。
佐田
「専務、おはようございます」
星山専務
「やあ、お早う」
佐田
「ちょっとお話があるのですが・・」
星山専務
「なんだろう、ちょっと待ってくれよ」
星山はそう言いながらコーヒーメーカーまで歩いていってコーヒーを注ぎ、また佐田の机まで戻ってきた。
佐田
「土曜と日曜は久しぶりに福島に帰ってきました」
星山専務
「ご家族のお顔を見にか・・・単身赴任は大変か?」
この質問は単なる社交辞令であったが、佐田にとってはそうではなかった。
佐田
「そうですね、こちらに来まして早8カ月になります。正直言いまして家庭的には大変です。家内といろいろと話し合ったのですが、このままではまずいという結論になりました」
佐田はかなり深刻な顔をしている。星山は気を引き締めた。
佐田
「お話というのは専務が私を元の会社に戻すとお考えなのか、ずっとここに置くのかということをお聞きしたいのです。出向するときは、この会社の改善の目鼻がつけば出向を解除して戻すというお話だったと思います。確かに目の前の問題は少しずつ片付けてきましたし、社長のご指示であった会社のルールの文書化はクシナダ対応で早めに完了したと思います。
しかし現状の仕事をみると、ISOの認証もありますし、しなければならないことに終わりはありません。それで今後1年程度、あるいはそれ以上こちらにいるというのであれば、家族をこちらに呼びたいと思います。子供たちも5歳と3歳になりまして、家内にとっても子供たちにとってもこのままでは問題と考えております」
星山専務
「確かにな・・・はじめ、私は佐田さんを1年程度で帰そうと思っていたのだが・・・川田取締役や伊東委員長の話では、佐田さんがいなくなるとこの会社は油の切れた機械のようになってしまうという。仕事のことを言えばISOの認証を決めて、更にはタイ工場の基礎を固めるまではいてほしいと思うようになった。そうなると短くても今後1年半あるいは2年になってしまうなあ。とはいえこれは私とかウチだけでも決められないことで、出向元とも調整せねばならんな」
佐田
「あのですね、私はここが嫌だとかいうわけではないのです。本体に戻って今更課長になるとかラインに沿って昇進したいという気もなくなりました。ただ先の見通しを教えていただきたいのです。子供の教育のこともありますし、家内も子供二人を看ていて、かなり参ってますので・・」
星山専務
「わかった。今日中に回答しよう。今まで宙ぶらりんの状態にしておいてすまなかった」
星山はその場にいづらくなったので役員室に入ってしまった。


佐田に新たに与えられた仕事は、10か月後までにISO9001を認証することである。そのため少し前、星山専務は菅野さんをまた佐田の助手に戻すことにした。それで今、菅野は佐田の隣にいる。
部屋には伊東の席もあるのだが、伊東は普段は工場内を歩き回っているのでめったに部屋にいない。正直言って伊東が何をしているのか、佐田は知らない。ときどき専務や川田取締役となにやら話をしている。たぶんタイに工場を作ることの準備なのだろうと思う。
佐田と伊東は仕事の関係はないとはいえ、佐田にとっても新しいルールの現場への周知徹底とか、現場の情報収集などについては伊東にお世話になっている。

暖かい日差しを受けながら、佐田と菅野はコーヒーを飲みながら話をする。
佐田
「ISO規格には4.1から4.20まで要求事項が並んでいますが、細かく見ていくとそれぞれが会社でしているこの仕事に該当するってわかりますね。それをみるとISO規格がいっていることは当たり前のことでしかなく、またウチの会社もそれらの項目についてちゃんとしているようで、捨てたもんじゃないって気がしてきますよ」
菅野
「まあ、それは佐田さんのひいき目でしょう」
佐田
「そうでしょうか?」
菅野
「だって先日営業で受注数量を間違えていたって事件がありましたよね」
佐田
「菅野さんは耳が早いですね」
菅野
「私が知ったきっかけは武田課長が素戔嗚に出張したからです。あのとき私は総務で勤怠をとりまとめていましたから、興味を持って現場に行って武田課長に何をしたのかと聞きましたよ」
佐田
「なるほど、菅野さんには秘密にしておけませんね」
菅野
「営業課長にも聞いたんですよ、それからみるとウチの営業の仕組みは内部牽制がないというか、しっかり管理されていませんね。ISOの要求事項で言えば『契約の見直し』が不十分というか、全然なっていないということでしょう」
佐田
「アハハハハ、そう言われるとその通りですね。あのあと星山専務や営業課長と再発防止策を打ち合わせましてね、それを営業の規定にすることになりました」
菅野
「それも聞いてます。営業課長から頼まれた規定の中に、注文の予定や注文書を受けたときの手順がありました。ISO9001の『契約の見直し』にある要求事項はほぼ満たしているようですね」
佐田
「菅野さんは何でも知っているのですね、しかし菅野さんに『ほぼ』と言われると怖いですね。あれでもまだ不十分でしょうか?」
菅野
「まず気になったのですが、要求事項はすべて文書化されているのでしょうか?
別件ですが例えば先日、佐田さんが黄泉の国よみのくに産業にクレーム対策に行って、向こうから電話で追加生産を指示されたでしょう。あれは営業から見れば受注でしょうけど、あのときは文書化された注文書というものがありません。そして電話の相手は向こうの会社の人ではなく、佐田さんでした」
佐田
「おっしゃる通りですね。でもいろいろな考えがあると思うのですよ。まず項目のタイトルが『契約内容の見直し』となっていますが、見直しの原語はreviewですから、良く考えるとか検討することで、なにかを修正するとか手直しするという意味ではないでしょう。それと契約内容ですから、契約書の見直しではありません。つまり先方というか発注者からの注文書がなければならないということではなく、注文内容が書かれた文書があれば良いわけです」
菅野
「発注者の注文書と、注文内容が書かれた文書って違うのでしょうか?」
佐田
「電話の向こうで私が言ったことを、営業課長が書き止めたものがあれば、それは注文内容を書いた文書だと思うのです」
菅野
「ほうー」
佐田
「無い袖は振れないと言いますからね。完璧を期そうなんてのはどだい無理ですよ。ともかく注文が書いたものがあれば、それを基に当方が受注できるかどうかを客観的に検討し、その結果を記録しておくことができるでしょう」
菅野
「なるほど、こちらでメモしたものに仕様、納期、その他必要なことが書いてあればよいということですか・・」
佐田
「それで『ほぼ』は『すべて』になりましたか?」
菅野
「うーん、『すべて解決されていること』ということもどうでしょう?」
佐田
「といいますと?」
菅野
「あのときの梱包仕様ですが、普通はプラダンだけど、急なものだから段ボール箱を使ったと聞きました。
段ボールにしようとしたとき、その仕様で要求事項を満たしているかを確認したのでしょうか? あ、仮に出荷する前に箱詰めして落下試験とか振動させてみるにしてもですよ、受注を決定した時点で『すべて解決している』とは言えないように思います。
白兎さん向けのものが交通事故で破損して追加生産したものを段ボール箱に入れてあとで大勢で手直ししたことがあったでしょう。あんなことが起きたかもしれませんよね」
佐田
「いやはや、菅野さんには参りました。地獄耳か千里眼ですね。
確かにおっしゃる通りですね。ただその理屈では普通のケースにおいて、新しい部品の注文を受けて受注決定したときでも、まだ加工した物がないわけで梱包仕様が大丈夫かどうかを検討していません。というか梱包仕様も決まっていないと思いますよ」
菅野
「じゃあ、(b)要求事項をすべて解決していること、(c)要求事項を満たす能力を保有していること、ということは、確認していないことになりますよね?」
佐田
「文字面だけを見れば、菅野さんのおっしゃる通りでしょう。ただ私はそのときは確認していなくても、通常の工程を踏めば、十分要求に応えられるだろうと思われるなら、それで条件を満たしているのではないかと思います。
そのようなレベルではなく、新設備を入れなければならないとか新しい技術を研究しなければならないというものなら、それらを解決しなければ物が作れず納品できないわけで、品質保証以前の問題になってしまいます。
けれども梱包仕様であれば、現行の技術で十分に対応できると言えると思います。だからそこまで厳しく考えなくても良いのではないでしょうか」
菅野
「あ、私はイヤミとか揚げ足取りをしているつもりはありませんよ。規格の文言をどの程度に解釈するのかなということが、相場というべきか程度というべきかがまだ分らないものですから」
佐田
「それは私も同じです。実を言いましてね、ISO審査員という人種にはまだあったことがありません。彼らの規格の読み方というか、厳密さがどれくらいなのか知りたいです」
菅野
「私もです。ところで、似たようなことですが、トレーサビリティの対象品とどこまでトレースできなければならないのかということが、どうでしょうねえ?」
佐田
「それも分りません。ただ規格では『トレーサビリティが規定要求事項である場合』に、個々の製品またはロットがトレースできることとあります。ですから規定要求事項になければ何もしなくて良いということじゃないですかね?」
菅野
「えっと、規定要求事項って何でしたっけ?」
佐田
「ええと、『specified requirement』ですから、客先から要求として明記されている場合ってことでしょう。ここは菅野先生の出番ですが」
菅野
「そうするとISO規格に決めていないことで客がトレーサビリティを要求するときは、先方の図面仕様に書くということでしょうか?」
佐田
「トレーサビリティ要求は図面仕様ではないでしょう。購買仕様書とか品質保証協定書に、製造年月日や製造条件をあとで分るようにできることというふうな記載があるかどうかでしょうねえ」
菅野
「でもISO9001の認証を受ければ、お客様から品質保証協定は求められないっておっしゃいましたよね?」
佐田
「そうですねえ、確かにそこんところの関係がイマイチわかりません。ISO規格はシステムまあ仕組みというか体制の規格ですから、製品仕様だけでなく製造条件の要求はないのですよね。だから・・・そこから考えると従来、品質保証協定書を取り交わしていたお客様は、こちらがISO認証すれば品質保証協定書を止めるとも思えません。トレーサビリティだけでなく、そんなことを思うとISO認証がそもそも矛盾を孕んでいるように思えますね。いったいISO認証するとどんな運用になるのでしょうか? 今時点では解りかねますね」
菅野
「ちょっと思ったんですがトレーサビリティって、お客様から求められるばかりではないですよね」
佐田
「ほう、どういうことでしょうか?」
菅野
「先日のように客先から苦情などがあった場合、ウチがちゃんとした管理をしていると説明しなければならないとき、説明できる必要があります」
佐田
「なるほど、そうか! じゃあ、ウチが重要だと考えたものは、客の要求に関わらずトレーサビリティをしっかりしておく必要がありますね」
菅野
「加工などだけでなく、例えば梱包仕様をいつから変えたとか、ロットで異なるような場合、記録しておく必要がありますね」
佐田
「なるほど、トレーサビリティとは製品そのものだけでなく梱包仕様もあるのですね」
菅野
「輸送が分割されたりすれば、それも把握しておかないと不具合が出たとき原因分析できませんね」
佐田
「なるほど、もちろんなんでもかんでも記録、記録となると収拾がつかなくなりますが、私たちが重要だと考えたものについてはトレーサビリティを確保しておくということですね」
菅野
「話が変わりますが、ISO9001は設計があって、設計がない製造者向けにはISO9002があります。ウチでは実際は部品の設計をしていませんから、当社が認証するのはISO9002ではないのでしょうか?」
佐田
「私は、ちょっと別のことが気になるんですがね・・」
菅野
「なんでしょう?」
佐田
「『設計及び開発』ってありますよね、私たちの感覚なら『開発及び設計』のような気がするのです」
菅野
「ちょっと待ってください。元の言葉はと・・・設計はdesignで開発はdevelopmentですか、ああ、なるほど
佐田さん、designは私たちの感覚の設計と同じですが、このdevelopmentは新しいものを開発することばかりではないですよ。デベロップって本来は大きくするとか丸まっているものを広げるという意味で、写真を現像する、計画を実行に移すとか、保有しているものを使える状態にするなんてことです。住宅地を開発分譲する業者をデベロッパーっていうでしょう。彼らは新しい技術を開発しているわけじゃありません。単に土地をならして、道路を作り家を建てているだけです。
もちろん新しいアイデアを具体化するという場合は、私たちが使っている開発と同義となる場合もあるでしょうけど」

2015年版ではdevelopmentだけになるといううわさを聞いた。それに対応をしなくちゃとお考えの方もいらっしゃるだろうが、私はISO規格って、いい加減だとしか思えない。

佐田
「なるほど、そうかそうすると『設計及び開発』とは、設計してそれを生産に移す活動って考えればいいのでしょうか?」
菅野
「製品ばかりでもないと思います。新しい生産ラインや加工方法を設計することもあるでしょう。あれ、そうすると私がさっき言った、ウチはISO9002を認証すべきというのはおかしいのかしら?」
佐田
「いや待ってください、規格では『製品の設計及び開発』とありますから、規格通り考えるとやはりISO9002になるのかもしれません。いやいや、梱包箱などはウチが設計しているから、製品を引き渡すまでを考えると、やはり設計を含むと考えた方がよさそうだなあ」
菅野
「『契約の見直し』では梱包仕様の検証までは含まないという考えなら、梱包仕様についてはここで確認することにしないとまずいですかね?」
佐田
「うーん、このISO規格というのは、実施事項と要求事項の関連は、一意的に定まらないように思えますね。梱包仕様の検証を『取扱い、保管、包装及び引き渡し』という項目ですると言ってもいいのではないでしょうか」

菅野
「なにか私はあらさがしとかケチばかり付けているようですね」
佐田
「いやいや、菅野さんと話すこと非常にためになります。菅野さんと議論すると思考実験になります」


会議室で星山専務、川田取締役、伊東委員長が話をしている。
星山専務
「とりあえずの結論としては、情報収集に励まなければならないということだね」
伊東
「そりゃ初めに戻ってしまう。今の議論はどのような方法でするかというか、どこまでするかということだよ」
川田取締役
「先ほど報告しましたように、素戔嗚すさのお電子工業では、来月に別の子会社の担当者を現場案内するというので、ウチもそれに参加すべきと思います。百聞は一見にしかずですから」
伊東
「おれも川田取締役の意見に賛成だ」
星山専務
「うーん、素戔嗚が今後説明会などをするというのだから、それまで待つというのもありだ。我々が聞いていたのより時間的に半年から1年くらい遅いというからな、あまり先走るのもどうかと思う。
それにまずお金の問題もある。タイに出張するといくらかかるんだ? 1週間も行ったら、安売り航空券を探しても、もろもろで20万くらいかかるんだろう。
伊東よ、お前も同業他社の情報が手に入らないか? 近隣の同業者がタイに行くときにどんなことをしたかは調べられるだろう」
伊東
「ああ、もちろん。協議会などで会うたびに、お宅はどうかと声をかけている。すでに進出したところが数社あり、どんなことをしたかなどを聞いてはいる」
川田取締役
「中小企業ではどこまで事前調査などをしているのでしょうか?」
伊東
「まず聞いた限りでは、独自にというか自分の意思で向こうに出ていったというのはないね。親会社とか大手のお客さんの要請というか指示で、一緒に行ったというケースだけだ。だから向こうの会社も単独ではなく親会社との合弁、正確に言えばタイ資本と親会社との三社出資という形になる」
川田取締役
「なるほど、そうすると独自に工場を建てたりというのはないですか?」
伊東
「ないですね。おんぶに抱っこでないと、従業員100人規模の会社では調査能力も起業する力もありませんよ。それに当面の向こうでお客さんというか仕事が確保されていなければ進出する理由がありません」
星山専務
「そうそう、それだ。わしも気にしているのだがウチが向こうに行ったとき、素戔嗚はどれくらいの仕事を出す予定なのだろう。それと、素戔嗚の敷地内で仕事をするとしたら他の仕事は取れないのだろうか?」
川田取締役
「私が社内の知り合いから聞いた限りでは、素戔嗚の中で仕事をしているところは、他の仕事はしていないようですね。もちろん言い換えると保有工数分の仕事は出してくれるようですが。
そもそも向こうに行って国内でお客様だったところ以外から仕事がとれる力があるなら、国内でも系列にしがみついているわけはないし、人から言われたから向こうに行くなんて受動的なことはしないでしょう」
星山専務
「なるほど、言われてみればそのとおりだ」
伊東
「話を戻すけど、来月のタイ視察の機会を逃すべきじゃないと思う。向こうに知り合いも多く情報収集力がある川田取締役にぜひ行ってきてほしいと思う」
川田取締役
「伊東委員長、私は逆に現場も経営も知っているあなたに行ってほしいと思っているのだが」
社長である
社長である。
久しぶりだな
そんなことを議論していると社長が入ってきた。
この会社で社長の仕事といえば、はっきりいって専務が決定できないことを決めることと、親会社の交渉窓口、お客様のところで問題が起きたときお詫びに行くことだけだ。
日常の決裁業務すべてと経営判断の9割9分は専務が取り仕切っている。最近は客先で問題も起きていないので暇をかこっているだろう。
池村社長
「お前たちの声が大きいから俺の部屋まで聞こえてくるぞ」
星山専務
「ウチの将来がかかっていますから真剣ですよ」
池村社長
「論点は来月タイに調査に行くか行かないかってことだろう」
伊東
「この機会を逃したくないですね。ぜひとも行くべきと思います」
池村社長
「行ってこいよ、わしは川田君と伊東君の二人が行ってくるべきだと思う」
星山専務
、社長、費用だってばかになりませんよ」
池村社長
「ついさっき、素戔嗚の関連会社部からわしの所にぜひ参加してほしいという電話があった。向こうも関連会社の海外進出のモデルケース的に、ウチと名前を忘れたがもう一社を取り上げたいらしい。ということで費用も半分くらいは素戔嗚が負担するという。もちろんそうなるとあとで素戔嗚に報告書出すとか、関連会社への説明会などの講師をしなければならないというわけだ。
その前にお前たちの話し声が聞こえていた。それで現場のことは伊東君が詳しいだろうし、経営レベルの情報収集は向こうに知り合いも多い川田君が適任だろうと思っていた。言い換えると二人で一人前だろう。
電話があったついでだから、関連会社部の人に二人行かせたいと頼み込んだよ」
伊東
「そりゃよかった、社長ありがとうございます」
星山専務
「川田取締役はパスポートをお持ちですか? 伊藤、お前は持ってないだろう?」
伊東
「残念だな、今年、地元の協議会で海外旅行をしようかって話があってさ、この前パスポートを取ってきたよ」
星山専務
「フン、まったくこのところ景気がいいもんだから、労働組合まで海外旅行か・・」
池村社長
「じゃあ、専務、それじゃ川田君と伊東君を行かせるということで良いな、
それとずっと考えていたのだが、このさい伊東君は組合を辞めて管理職になったらどうかと思うのだ。
タイのプロジェクトも今後進めていかなくてはならないし、そのときは川田君がメインになるとしても伊東君がサブとなって動かないとまずいだろう」
星山専務
「うーん、社長そこんところが難しいところで、海外に出るとなったときウチの組合が騒ぐとも思いませんが、これから円滑に進めるには伊東が組合委員長でいた方がなにかとよろしいのではないでしょうか」
伊東
「社長のおっしゃることは良く分ります。タイのプロジェクトが具体化したときに考えるということでどうでしょうか」
池村社長
「わかった、まあそんなことも考えておいてくれ。それじゃそういうことで、
それからお前たち、もう少し小さな声で話せ。うるさくてかなわん」
社長は部屋を出ていった。
星山専務
「じゃあ、二人で来月タイに行ってくれ。具体的な調査事項などは明日でもまた打ち合わせたい。それぞれ考えてきてほしい」


ある日のこと、クシナダの横山から佐田に電話があった。
横山
「佐田さん、お元気ですか?」
佐田
「やあ横山さん、お久しぶり、先日出張して認証機関を数社訪問してきましたよ」
横山
「ほう! どうでしたか?」
佐田
「いくつか感じることがありました。まず以前横山さんからもお聞きしていましたが、どこも仕事が満杯で審査を依頼しても審査できるのは1年先と言われました。
それからそんな先のことなのに、手付金を何十万も入れないと契約しないと言われました。それに態度が大きいですね。どちらがお客さんか分からないようなありさまです」
横山
「アハハハハ、私も同感です。まあ私のところは輸出できるかできないかという切羽詰まった状況ですからしょうがありません。でもお宅はそんな状況じゃないですから余計そう感じるでしょうねえ」
佐田
「例の下請まで認証を要求するかもしれないということはどうなりましたか?」
横山
「あれはあまり重要視しなくても良いようです。要するに要求事項じゃないようです。実は先日というか昨日なんですが、認証機関の営業の方がウチに来ましてレクチャーをしてくれたんです」
佐田
「へえ、審査契約をするとコンサルをしてくれるんですか?」
横山
「まあコンサルとか指導というと差し障りがあるらしく、向こうも審査員が来て指導することはできないようです。もちろん彼らとしても当社が審査で問題があると困るわけで、営業担当者といっても審査員の資格を持っているそうですが、その人が来て規格の解釈を教えたりとか、こちらの準備状況を見ていきました」
佐田
「なるほどねえ〜、それで下請けに対する認証についてはどうだったのでしょうか?」
横山
「一応規格に書いてあるので、ウチは取引先にISO9001あるいはISO9002の認証をお願いしたという証拠を残しておけばいいということでした」
佐田
「なるほど、分りました。日本的腹芸ですね」
横山
「腹芸ですか、アハハハハ、そうそう、それですよ。もっとも一社くらい認証していれば形が整ってうれしいようなことを言ってました。ですからオロチさんが認証してくれればハッピーです」
佐田
「実を言いまして当社ではISO認証することを正式に決定して、私がその担当になりました。ところが先ほど言いましたように、どこも審査できるのは1年先とかいいまして困っているのです」
横山
「佐田さん、でもお宅がISO審査を受けるためには相当準備といいますか、文書を作ったりしなければならないでしょう。1年くらいかかるのではないでしょうか?」
佐田
「いや、クシナダさんの監査を受けたとき製造や生産管理については整備しているので、それは十分かなと考えています。それで今は営業とか設計部門について文書化をしていますが、あとひと月かふた月で形になるでしょう。それに認証機関を訪問したとき、一応運用期間が半年以上あれば審査すると言ってました」
横山
「ええ、そんなに作業が進んでいるのですか、うらやましいなあ。ウチよりも進んでいるんじゃないですか。ウチはもうテンヤワンヤですよ。人様に品質保証を要求していても、自分の会社はしっかりしていませんで・・・
ところで佐田さん、今の話を聞いて思いついたのですが、最近日本に進出してきた英国の認証機関でUSO認証ってところがあるのですが、出遅れたものであまり仕事がなく依頼すればすぐにも審査してくれるような話でしたよ。あ、もちろん認定を受けていますよ」
佐田
「認定ってなんですか?」
横山
「あ、ご存じないですか。認証機関も好き勝手に事業をするわけにはいかないのです。イギリスの通産省みたいなところから認証事業をしても良いという許可を得ているのですよ。それを認定というのです」
 注:当時はまだUKASもなく、IAFもない。
佐田
「なるほど、そのUSO認証って会社について教えてくれませんか。そこにあたってみたいですね」
佐田はその住所と電話番号を聞いた。
そのあと横山は、文書や記録について佐田に質問した。横山の話からはまだ規格の理解がおぼつかないようだった。横山からいろいろ聞かれるのだが、佐田もまだ自信がなかった。


うそ800 本日の解説
私がISO9001なるものとつき合ったのは1992年である。もちろん1987年に制定されたことは新聞で読み、その後に品質保証を担当していた人から、ディミング賞よりも認証することは難しいなんて話を聞いたことがある。私はなにごとにも懐疑的な人間であるから、まさかディミング賞よりも難しいことはないと思った。だってディミング賞はプライズそのものであるに対して、ISO認証は単なる商取引のツールなのだから。もし認証が難しいなら認証される企業がほとんどないわけで、世の中のビジネスに使えないではないかと思った。

うそ800 本日の状況説明
ISO規格についての1990年頃の関心ごとと現在の関心ごとはまったく様相が違う。ISO認証が始まった頃、「契約内容の見直し」って項目を読んだ時、品質保証をしている部門には契約書もなければ注文書もない、What can you do?(どうせいっていうんじゃ!?)なんて途方に暮れた。
お気づきと思いますが、1994年版のとき項目のタイトルは「契約内容の確認」ですから、契約を見て大丈夫かと確認することという意味が直観として分ります。でも「契約内容の見直し」でしたから、営業がとってきた契約を品質保証部門が見直せるとは思いませんでしたね。
またトレーサビリティはどこまで対象か、どれくらい厳密さを要求するのか、なんてわかるはずがない。品質保証屋は品質保証協定書に書いてあることは手のひらのように知っているが、それ以外は知らないのだ。
ところで今は2015年改定に対応するために頭を絞っているようだが、私に言わせると2015年対応なんて何もしないでよろしい。もし不適合って言われたら認証を辞退すればいい。




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