マネジメントシステム物語41 ISO14001指導 その5

14.03.09
マネジメントシステム物語とは

素戔嗚グループの4社がISO14001認証した。この試行結果を基に、これから認証する社内の工場や200社にも及ぶ関連会社の認証方法をどうするべきかについて、塩川課長にも参加してもらい検討会をもった。
塩川課長
「佐田の報告書の他に、4社の管理責任者から報告が来ていて、おれもひと通り目を通した。オロチの星山社長はカンカンだったなあ 笑」
片岡
「真面目に考えている方なら、ナガスネの審査を受けたら怒りますよ」
佐々木
「じゃあ素戔嗚すさのお静岡の鶴田部長は真面目に考えていなかったというのかい?」
片岡
「うーん、そう言われると真面目、不真面目とは関係なくキャラクター次第ということかな?」

どうでもいい話
偉い
片岡佐々木
塩川課長
佐田
ペーペー
4人の上下関係であるが、片岡と佐々木はラインの部長をしていたが、役職定年になって役職を引退したという設定である。塩川は管理部門の課長なのでライン部門の部長相当の地位にあるが、年齢からいって二人より目下になる。佐田は塩川課長よりワンランク下だ。
つまり、片岡と佐々木は同格、その下が塩川課長、そのまた下が佐田という上下関係になる。
ということで敬語というか話す言葉を使い分けているつもりだが、いい加減な私だからそうなっているかどうか定かではない。


塩川課長
「星山社長だけでなく、静岡素戔嗚の鶴田部長も、ナガスネにはこりごりで次回は認証機関を鞍替えすると言っていたな。佐田よ、鞍替えなんて簡単にできるのか?」
佐田
「以前は認証機関を替えるときは、初回審査から受けなくてはならないと言われていましたが、今では同じ認証機関で翌年受ける維持審査と同じ工数で良いとのことです。
要するに鞍替えしてもしなくても、手間もお金も変わらないということです」
塩川課長
「なるほど。しかしウチではえらいさんがナガスネで認証しろといっているので、初回はナガスネでも2年目から鞍替えでは我々監督部署としては困ったことになるな。佐田よ、お前はどう考えているんだ?」
佐田
「関連会社とか完全子会社といっても法的には別会社ですから、強制的に押し付けるわけにはいきません。もし親会社が何事かを子会社に強制したなんて公にされたら、当社の評判に関わります」
塩川課長
「お前も簡単に言うなあ〜、ま、そう言われりゃそうだけど、当社グループで他の認証機関から認証を受けるところが多ければ出向者を出すのに影響するからなあ」
佐田
「課長、まずその前に認証機関の違いによる問題の検討、ナガスネ流が適正かの検討、ナガスネに対して是正を要請するなどの手を打たなくてはなりません」
塩川課長
「おお、そうだそうだ。今回二つの認証機関の審査を受けたわけだが、みなさんの感想はどんなものだったのでしょうか?」
片岡
「それじゃ私から。
ナガスネは幹部から一般の審査員まで、ISO規格を理解していないようです。それと問題なのは審査を受けている会社の意見や考えを聞こうとせず、一方的に自分たちの解釈を押し付けるという姿勢が問題ですね」
佐々木
「審査の際に、異議申し立てできることを説明しなければならないことになっているが、ナガスネは説明しなかったね」
片岡
「なんというのかなあ、根本には審査する側はされる側より偉いという考えがあるようだね。あの上から目線の態度は改めてもらわないといけないなあ」
佐々木
「それと夜の宴席を要求するのがまずいと思いますね。あれは絶対にやめてもらわなければ。ISO審査以前の倫理の問題です」
片岡
「夜の宴席だけでなく、昼飯の問題もあったなあ。担当者にしてみれば不味いと言われても対応に困ってしまうね。接待や昼飯のレベルは、グループ全体で基準を決めておいた方が良いのではないかな」
佐田は、ホワイトボードにみんなの発言を書きとめていく。


塩川課長
「昼飯の話というのは初耳です。片岡さん、そりゃどういうことでしょうか?」
片岡
「岐阜工場で用意した昼飯が粗末だと言われたのですよ。ものは1000円の仕出し弁当だったそうです。その日は手の打ちようがないので、翌日からグレードを上げるということで了解を頂いたそうです」
塩川課長
「1000円の駅弁なら最低ランクだろうけど、仕出しの昼飯で1000円なら立派なものだと思うなあ。
ま、私の感覚ではだけど」
前世紀は、いや2003年頃までは、昼食は100%企業側が用意した。もちろん費用は企業持ちで請求しない。
私自身「飯が不味い。昨日審査に行った○社では昼飯にステーキがでたぞ」と言われたことがある。どう答えればいいのだろう?
「お相伴にあずかりたかったです」と言えば良いのか、「それじゃ今日は軽くお粥にしましょう」と言えば感謝されるのか?
なお、2003年に誰かがうまい牛肉を食わせたのは不正行為だと密告したので、それ以降どの認証機関も審査員は弁当持参になった。良いことだ。いや当たり前か

片岡
「審査員になると、どこに行っても美味いものが出されるのでしょう。審査を受けている会社が認証を受けられるかどうかという瀬戸際なら、ステーキをおごっても惜しくはないでしょうねえ」
塩川課長
「夜は接待したのですか?」
片岡
「オロチ以外は手配していましたね。オロチに来た審査員は宴席の用意がないと聞いて驚いていました。もっとも接待がないから不適合が出されたわけではなく、その前から大揺れでしたけど。
ウケイ産業では認証機関はナガスネではなくBB社でしたが、審査員が接待を断りました。おかげで私たちが飲み食いしました」
塩川課長
「まあ大人の世界だから、まったくダメということもないだろうが、要求するのは失礼だろうし、度が過ぎるのは困りますね」
佐々木
「飲み食いではないが、ナガスネはオプション審査を受けろとか自社の講習を受けろなどと、営業活動が目についたね。審査の場で講習会を受けることが望ましいと言えば、企業側は講習を受けないと審査で不利になると思うよ」
片岡
「我々は第三者として陪席していたからあまり感じなかったけど、審査を受けていた当事者は強制と感じただろうね」
佐田
「私もそう思います」
塩川課長
「やれやれ、審査の問題以前の問題が多いなあ」
佐々木
「そうそう、面白いことがありましたね。オロチではオープニングの出席者が少ないとお小言がありました。佐田君が静岡素戔嗚と岐阜工場にそれを伝えておいたので、オープニングにはサクラを用意していました。それで事なきを得たって感じですね」
塩川課長
「佐々木さんおっしゃる意味がわかりませんが?」
佐々木
「審査員のお話を聞く人が少ないと、審査員様はご不満なのですよ」
塩川課長
「はあ!」
佐田
「あのとき星山社長の態度は立派だと思いました。おとなしい人なら、言われるままに人を集めたでしょうし、反骨精神旺盛な人なら『帰れ』と怒鳴ってもおかしくないです」
塩川課長
「佐田よ、そういったことをまとめておけよ。後でナガスネに話に行こう」
佐々木
「まあ審査以外のことはそのくらいにして、問題はやはり規格解釈でしょうね」
片岡
「というよりもナガスネは規格を理解していないということだろうなあ」
塩川課長
「それは審査員の教育が悪いということですか?」
佐田
「一般の審査員だけでなく、審査員研修の講師とか取締役など幹部の理解も全然おかしいですね」
片岡
「いや逆じゃないかな。幹部が間違えた規格解釈で指導しているから、一般審査員の解釈もおかしいのではないかね」
佐々木
「なるほどそうかもしれんな。審査員がまっとうなことを語っていると、リーダーがおかしな方向に指導していたからね」
塩川課長
「ああ、ごめんごめん、思い出した。そうかナガスネの規格解釈はナガスネ流だったね」
佐田
「課長もみなさんも、今回のトライアルの目的をお忘れではないですか。ナガスネの規格解釈がおかしいというか、完璧に間違っているのはもう確固たる事実なわけですよ。それで我々の対応をどうするかというのが、今回の4社のトライアルの目的だったわけです」
塩川課長
「うんうん、そうだった。おれも日常業務に追われてそれをケロッと忘れていた」
片岡
「私は接待とか傲慢な態度というものは多少はやむを得ないというか、妥協しなければならないと思う。営業なんてしていると、それを当たり前と思わなくちゃやっていけないしね。士農工商営業マンっていうくらいだ。
だけどおかしな規格解釈には妥協できないなあ。ビジネスで買い手が言いたい放題なのはやむを得ないところもあるけど、一旦契約を結んだらそれを破ることは違法だ。同じくISO規格で審査すると言いながら、規格と違った考えで審査するのは民法上の不法行為だよ」
塩川課長
「片岡さんのおっしゃることは誠にもっともな話です」
佐田
「議論の前に整理しておきますが、今回のトライアルのパターンは次のようになります」
そう言って佐田は図を描いた。

 審査でみせる文書や記録
ナガスネ流にルールを合わせるダブルスタンダード折中案あるがままを見せる


従来からの仕組み岐阜工場静岡素戔嗚オロチ機工
ウケイ産業
ナガスネ流の仕組みこれは実施せず左に同じ左に同じ

佐田
「このトライアル結果からみると、ISO審査のあるべき姿である、あるがままを見せるという方法はBB社ならOKで、ナガスネの場合は相当なやりとりが必要になるということがわかりました。はっきり言って、どの会社もこの方法で行くのは勘弁してよという感じですね。我々が支援するにしても全部には対応できないでしょう。恒久的にこの方法で行くなら我々本社の者がナガスネと協議して文句を言わないというように話を付けておく必要があります。もちろん話が付くかどうか定かではありませんが。
とにかくナガスネ相手はエネルギーを使いますね。オロチの星山社長は来年BB社に変えると言ってましたので、結局この方法でナガスネから認証を受けるのは軋轢が大変だと考えたということでしょう。
岐阜工場は実際の運用のルールと審査用のルールのダブルスタンダードです。これなら社内を悪くしないし、審査でももめない。だけどダブルスタンダードはバカバカしいし、壮大な無駄ですね。文書を二通り維持するだけでもバカバカしいですよ。
静岡素戔嗚の方法は実態はもとのままで、審査に対応する際にナガスネ対応のエミュレーターを使うという方法でした。しかしその結果は、かえって中途半端であるということです。結局、静岡素戔嗚の是正方向は、岐阜工場と同じ方法にすることになりました。もっとも鶴田部長が来年は鞍替えするので、とりあえず審査の不適合に対して是正報告をして認証してもらっても、実際には是正処置は何もとらず、来年はウケイと同じくBB社にするようです」
エミュレーターとは、あるOS上で別のOSの機能を実現して、そのOS向けのアプリケーションを動作させるソフトウェアのこと。ubuntuでwindowsのソフトを動かすものなどがある。

佐々木
「あのとき静岡素戔嗚は断固戦うという選択もあっただろうけど、鶴田部長が妥協路線を選んだということだよね。断固戦えば表の折衷案というのもあり得たのではないかね」
佐田
「選択肢としてはあるでしょうけど、鶴田部長は頭の中で、どうせ戦うなら折衷案でなくオロチ方式が良いことがわかったのでしょう。それと既に次回鞍替えする決心をしていて是正するつもりはなかったでしょうから、もめない道を選んだという大人の考えなのでしょうね」
片岡
「わしも佐田君に同感だ。静岡素戔嗚は従来からの仕組みとナガスネにおもねるという中途半端な立ち位置だったからうまくいかなかった。やるなら大蛇まで徹底するか岐阜工場のようにナガスネにヘイコラするかしかない」
佐田
「みなさん、誤解しないでくださいね。静岡素戔嗚があの方法をとったのは私がお願いしたからです。静岡素戔嗚が好んであんなバカげた方法を選んだのではありませんから」
塩川課長
「結局、分ったことはナガスネでいくなら、ダブルスタンダードにして、言われたことはハイハイと聞くしかないということか」
佐田
「もちろん実態もナガスネ方式にしてしまうという考えもありですが、はっきり言ってそれは会社の仕組みの崩壊でしょうねえ」
佐々木
「ISO認証すると会社の仕組みが崩壊するのでは悪い冗談だね」
片岡
「冗談ではなく真実かもしれないね。ナガスネ方式とはそういうものなのだろう」
佐々木
「毎回審査で、ナガスネ独特の規格解釈を論破していかなくてはならないのかな」
片岡
「私がおかしいと思うのは、ナガスネの審査員は企業側が異議を述べることさえ認めないことです」
佐々木
「それもあるけどさ、『これはUKASの指示です』と言っておきながら、UKASがそんな指示をしていないことが分っても自分の非を認めないってのもたいしたもんだ。規格の理解が間違っているという次元ではなく、不誠実、虚言癖というレベルでしょう。呆れたもんだ」
片岡
「あんなこと一般のビジネスなら告訴問題だよ」
塩川課長
「UKAS云々とはなんでしょうか?」
佐田
「UKASとはイギリスの認定機関で、まあ認証機関に免状を出しているような立場の機関ですね。
ナガスネの審査員は、そこから指示があるのでそれに従ってほしいと言ったわけです。もっとも審査を受ける前からそういっているならともかく、審査の場で言われてもすぐには対応できません。
そしてどうも話がおかしいと片岡さんがイギリスまで問い合わせしてくれたのですが、そのような指示をしたことはないという返事がありました」
塩川課長
「ほう、それでそのとき審査員はなんと言ったの?」
片岡
「なにも・・・オロチの取締役が『UKASの指示と言ったのは間違いだったことはどうなのか』と問いただしましたが、審査員はそれに応えず次に進みました。
あれはなんでしょうね? 審査員とは嘘つきの始まりですか?」
佐々木
「面白いのはといいますか、面白くない話ですが、その後行われた静岡素戔嗚でも岐阜工場でも、UKASの指示であるという発言をしていましたね。同じ審査員でしたよ。まさに詐欺師ですわ」
片岡
「その他にも目的が3年ならなくちゃいけないとか、マネジメントプログラムが二つ必要とか、オロチのときに論破されたことを要求していたなあ〜
あれは一体何なのだろうなあ? 自分たちが言いたいことを虎の威を借りているのだろうか? 理解に苦しむ。しかし嘘だとばれても同じ嘘をつくとは頭が悪いのか」
佐々木
「法律の理解を間違えて、不適合を出していましたね。消防署のこととか廃棄物処理法のこととか。あれも罪が重い」
塩川課長
「審査員が間違えると、かえって法違反を起こしたりね」
塩川課長は純粋に冗談を言ったのだが、それは冗談ではなかったのだ。
佐々木
「塩川課長、冗談ではありませんよ。実際に、審査員のいう通りしていたら法違反になるところでした」
塩川課長
「うへぇ、そりゃ・・・・」
片岡
「生半可な知識で不適合を出しておいて、行政に問い合わせたら間違っていたなんて、そんなことを語った審査員は腹を切るべきだ」
佐々木
「腹を切るかはともかく、自分の非を認めないなんて、恥を知れと言いたいね」
佐田
「まあ今回は審査を受ける側のアプローチの違いを見るのが目的でしたが、そういったいろいろな情報が得られましたね」
塩川課長
「ISO認証の本来の目的である、事故防止やパフォーマンス向上にはどのアプローチがいいんだ?」
佐々木
「塩川課長、元々ISO認証にはそんな効果はありません。認証とは単に会社の状態とか仕組みが規格適合か否かを判定し表明するだけのことです」
片岡
「結局、事故防止もパフォーマンス向上も会社がするかしないかしかありません。それは認証と無関係でしょう」
佐田
「なにしろ審査員が法律も知らず、現場の管理が適正なのか否かもわからず、単にエクセルの計算方法の良し悪しを見ているだけですからね。認証とは、はっきり言えばお金の無駄です。
それはISO9001も同じですが、ISO9001では顧客の品質監査を省略できるというメリットがありました。現時点、顧客から環境監査を受けている事業所はありませんからね」
グリーン調達とかグリーン認定で、ISO14001を認証せよという話が出てきたのは、これから数年後のことである。1990年代末までは、ISO14001認証は自己満足以外の効果はなかった。

片岡
「ISO認証の目的は事故防止やパフォーマンス向上ではなく、他社並みであることを示すことじゃないですかね」
佐田
「そうですね、他社の担当者もそう理解しています。そして認証機関は選べないからナガスネ流で行くしかないと審査員研修会で会った人たちは言ってました」
佐々木
「私が研修を受けたときも、一緒に研修を受けた人たちはそう言ってたね」
塩川課長
「つまりなんだ、ISO14001認証は単に他社並みであることを示す印ということか。ということから演繹されることは、手っ取り早く無駄を省いて認証することであり、そのためにはナガスネでダブルスタンダードでいくことになるということか?」
片岡
「塩川課長、そうじゃなくて、ナガスネ以外の認証機関で、あるがままを見せることではないかね」
佐々木
「話があちこち飛んでしまった。話を戻すとナガスネに対してまっとうな審査をしてほしいという協議を持つのが第一だと思う。その結果、向こうが他の認証機関並みにまっとうになってくれればこちらとして文句はない。
だがナガスネが耳を貸さず、ナガスネ方式を変えないとなると・・」
塩川課長
「変えないとなると?」
佐々木
「客観的にみて、ナガスネを止めて他の認証機関にするということがベターじゃないかね」
塩川課長
「なにぶん業界団体の作った認証機関という事情があるし、みなさんの出向もあるし・・」
佐田
「ナガスネで認証を受けるということは、その企業にとっても社会にとっても何ら意味のないことなのです。各社からの出向者を食べさせる、それも単に禄を与えるだけでなくご本人たちに難しい仕事をした気をさせるということだろうと思います」
片岡
「ちょっと私の話を聞いてほしい。実は数日前、私はツクヨミ品質保証機構に、審査員として出向できないかと相談に行ってきたんだ」
塩川課長
「ええ、ほんとですか?」
片岡
「ほんともほんと。その結果、出向受け入れしてもいいと言われた。資格要件だが、特に環境関係の資格は問わないという。人件費負担については五分五分くらいを考えているようだ。それはナガスネと同じだと思う。まだ人事にも塩川課長にも言ってはいなかったのだが。私としては、ナガスネはちょっと遠慮したいという気持ちだし、ここに長くお邪魔しているのもなんだと思ってね。塩川課長と話が付けば、人事に相談するつもりだ」
塩川課長
「片岡さんは当社からナガスネに出向できなくてもいいから、当社は認証機関を自由に選ぶべきということでしょうか?」
片岡
「うーん、微妙だね。私の場合英語が得意だということ、それに業務経験が環境管理ではなく、入社以来ずっと営業畑だったので、そういった業種の審査に使えると思ったのでしょう。先方は非製造業のISO9001の審査もしてほしいということを言ってました」
佐々木
「片岡さんは特技があるからなあ〜。得意技のない一般の人が、そういうふうに活路を見いだせるとは思えないなあ」
片岡
「私はちょっと違う印象を持った。環境の審査員といっても、公害防止をしていた人だけでなく、営業とか設計開発などの経験者を必要としているようだ。佐々木さんだって情報システムという得意分野があるでしょう。そういった分野の環境管理とか品質保証とかもあるのではないかな。
おお、イギリスでは情報セキュリティの規格があると聞いたよ。いずれそれもISO規格になるだろうから、そうなれば佐々木さんの独壇場だ」
イギリスのISMSの国家規格BS7799は1995年、それがISO17799になったのは2000年である。
塩川課長
「ともかく問題点をまとめて、ナガスネと話し合いを持とう」
佐田
「個々の規格解釈の問題など細かいことはよろしいですか?」
塩川課長
「俺が聞いても時間の無駄だろう。まとめはお前に任せる。ただ奴らの解釈が誤りであるという証拠や出典はしっかりとまとめておいてほしい。佐々木さん、片岡さん、佐田と一緒に作業してくれませんか」
佐田
「承知しました。それじゃナガスネにいつごろ都合が良いか話を付けておきます」
佐々木
「行くのは塩川課長と佐田君だけですよね? 私の場合、ゆくゆくナガスネに出向する身なのでそういうところには顔を出したくないので」
片岡
「私はむしろその打ち合わせに参加したいなあ」
塩川課長
「それじゃ、片岡さん、佐田、私の三人で行くことにしよう。
片岡さんは名刺ありますか?」
片岡
「部長解任になって、こちらにお世話になってから名刺は持っていません」
塩川課長
「じゃあナガスネに行くときは担当部長の肩書きの名刺を作っておきましょう。佐田よ、片岡さんの名刺を手配しておけ。佐田もそうだなあ、担当課長の肩書きの名刺を作っておけ」


佐田はナガスネ認証の窓口に電話して、問題の打ち合わせをしたい旨申し入れた。ナガスネ側も打ち合わせすることは了解して半月後に話し合いを持つことになった。
三人は当日ナガスネを訪れた。
狭い応接室に通されて待っていると、須々木取締役と柴田取締役が現れた。ナガスネの大御所のそろい踏みである。
名刺交換して話が始まる。
佐田
「このたび、弊社グループの企業が3社ほど御社の審査を受けましたが、いろいろとトラブルがありました。今後無用な問題が起きないように、双方の見解の調整を図りたいというのが本日の意図です」
須々木
「私どもの印象を申し上げると、今回審査を受けた御社の関連会社は規格解釈が間違っているとしか思えません。私は審査をしていて驚きました」
柴田審査員
「私も素戔嗚グループの二社審査しましたけれど、まじめに審査を受けていないという印象を持ちました。審査側に対して失礼なことだと思いますよ」
佐田
「双方の見解に大きな相違があるようです。
まず審査の前のことですが、オープニングで大勢の参加を求められたという話を聞いております」
柴田審査員
「そのとおりです。企業側に審査員の話を聞こうとする姿勢がありません。先日審査を行ったオロチという会社では、おお、佐田課長さんもいらっしゃいましたな、あんたたち本社の人間を除くと、あそこではたった5人しか出席していませんでした。私は失礼も甚だしいと思います」
塩川課長
「柴田取締役、ちょっと教えてほしいのですが、審査のオープニングに出席する人は経営者と管理責任者、その他審査で関わる人だけではまずいのでしょうか?」
柴田審査員
「はあ! こちらがISOとはなにかとか審査をどのように行うかということを説明するわけですから、企業側はなるべく多くの人が出席して聴講するのが当然でしょう。違いますか」
塩川課長
「企業というのは物を作ってナンホ、売ってナンボという世界です。そういう人たちに仕事を止めて会議に出席を求めるのは、企業に多大な金銭的負担を強いることです。それは困るというのが私どもの考えです。
柴田様がおっしゃったようにオープニングミーティングとは審査の進め方の説明と確認を行う場でしょうから、必要もない人が傍聴しても意味がないように思います」
柴田審査員
「グループ企業の環境管理を束ねる本社の塩川部長さんが、そのようなお考えだから関連会社がしっかりしてないのです」
塩川はナガスネ側の反論を聞いて、これはもうダメだなあと感じた。規格解釈の問題ではなく、スタンスが違うのだ。自分たちは審査を受ける企業を導いていく立場であると信じているようだ。まるでカルトだ。
塩川課長
「お宅様のご意向はわかりました。とはいえ組織側にも事情があるわけですから、今後はオープニングミーティングに出席者が少なくてもそれについてコメントしないということをお願いできますか」
柴田審査員
「まあ私も目くじら立てることじゃないと思います。でもオロチでは5名でしたね。たった5名ですよ。調査書では従業員が250名もいるわけです。これはちょっとふざけているんじゃないですか」
塩川課長
「ふざけているとおっしゃいますと?」
柴田審査員
「審査を真面目に考えていませんよ」
塩川課長
「オープニングの出席者が少ないと真面目ではないということですか。ではどのようにすればよかったと・・・」
柴田審査員
「250名の会社ならオープニングに50名は出るのが普通でしょう」
塩川は黙って考えているようだった。佐田と片岡が塩川の顔を見た。
やがて塩川は口を開いた。
塩川課長
「お二人とも取締役であらせられますから、お二人のお話が御社の見解と理解してよろしいでしょうね?」
柴田審査員
「けっこうです」
塩川課長
「認証機関は御社ばかりではなくいくつもあるわけですが、他の認証機関ではそのようなことを要求したとは聞いていません」
柴田審査員
「私どもでは単なる通り一遍の審査ではなく、審査を受けられる企業さんを指導しようというスタンスでおります。そうそう、ええと佐田課長さんだったな、あなたが出ていたところで我々が指摘したことが規格要求にないということで拒否したところがある。我々が一層の改善をしていただこうとして指摘したことを、規格要求にないといって拒否するなど言語道断だ。そう思わんかね」
佐田
「ISO審査とは規格との適合性確認ですから、おっしゃることは審査とはちょっとニュアンスが異なるのではないかと考えますが」
柴田審査員
「あきれた、グループ企業を指導すべき立場の人がそういうお考えとは・・・」
塩川課長
「先ほど佐田が申しましたように、本日は過日行われた御社の審査での問題について改善策を打ち合わせるのが目的でした。今お二人のお話を伺いましたが、細かいことではなく基本的なところで弊社が期待している審査と御社が考えているものは異なることが分りました。
ちょっと話が変わります。認証機関は複数存在しているわけです。他の認証機関の規格解釈と御社の解釈が異なる場合、あるいは今おっしゃったように企業の改善のために規格にないことを要求されたとき、私どもがそれに対応できないと考えて、他の認証機関に鞍替えすることはやむを得ないとお考えなのでしょうか?」
柴田審査員
「まあ、認証を受ける企業さんの自由でしょうねえ。ま、今現在、日本のISO14001の過半は当社が認証しているということはご存じと思いますが」
塩川課長
「御社の設立の経過とかは十分存じておりますし、当社も業界団体に加盟しております。ぜひとも御社から認証を受けたいと考えております。そういったことを踏まえてものは相談ですが、当社グループに対してだけ、ISO規格のみの審査をお願いするというわけにはいかないでしょうか。つまり指導は不要ということで」
須々木
「我々は付加価値のある審査を提供しているつもりです。そのようなレベルの審査で良ければ外資系とか安値の認証機関に依頼すればよろしいでしょう。でも結果として当社の審査が一番価値があるとお気づきになると確信していますよ」
塩川課長
「なるほど、ISO規格のみの審査はできませんか・・・・
もうひとつだけ質問させてください。当社グループの審査においてISO規格要求以外で不適合を出された場合、異議申し立てを行うという方針でいった場合、御社はどのような対応をされますか? 具体的にはすべての組織においてオロチと同じ対応をするという意味です」
柴田審査員
「異議申し立てといっても外部機関とか裁判に行くわけではない。御社と当認証機関での協議になるということです。当然我々は先ほど申したように企業の改善を指導するというスタンスで考えていますので、不適合を認めて是正していただくことを求めます」
塩川課長
「法規制に関わる間違った不適合もあったと報告を受けています。そういったことについてはいかがでしょうか?」
柴田審査員
「ま、多少の勘違いはあったかもしれませんが、基本的には改善の気付きを与えるという我々の方針に間違いはないと確信しております」
塩川はしばし目をつぶって沈黙していたが、やがて苦笑いして
塩川課長
「本日はお忙しいお二人にお時間をとっていただきまして、ありがとうございました。 当社グループの全事業所についてこれからISO14001認証を進めていくわけですが、本日の須々木取締役と柴田取締役のお話を基に、私どもの今後の方向を検討させていただきます。どうもありがとうございました」
塩川は立ち上がった。佐田も片岡も一緒に立ち上がる。
柴田審査員
「御社が別の認証機関に依頼するということでしょうか?」
塩川課長
「そういう可能性も検討することになろうかと思います」
柴田審査員
「認証といっても認証機関によって社会的信頼が違います。当社の認証は他の認証機関に比べて信頼されていると申し上げておきますよ」
塩川課長
「そういったことも考慮に入れて検討したいと思います」


会社に戻ってきて、塩川は佐々木も呼んで会議室にこもった。
塩川課長
「いやあ、とんでもない認証機関だなあ〜」
佐々木
「どんな塩梅でしたか?」
片岡
「まあ今までの審査方法を是とするという態度だったよ。企業を指導することが社是というわけだ」
塩川課長
「その指導が適切ならまだしも・・・」
佐田
「こんなことを申しては失礼かと思いますが、これで塩川課長も我々と同じレベルまでになったということですよ」
塩川課長
「おれはさ、今後いくつかのところでオロチ方式で審査を受けさせる。そしてトラブルが起きたら徹底的に戦うという方向でいこうかと思う。それが当社にとってだけでなく、業界にとっても良いことじゃないかと思うんだ。もちろんナガスネにとっても良いことだろう」
片岡
「失礼ながら課長の一存では決められないでしょうから、社内の確認をとるのでしょう?」
塩川課長
「もちろんです。とはいえナガスネを使わなくてはならないとか出向人事の話は、役員レベルで決定する問題じゃない。とりあえずウチの部長と人事の了解を取ればいいことです。もっとも既に出向予定者の名簿もあるようだけど」
片岡
「ナガスネ以外のまっとうな認証機関に審査を依頼するという見返りに、ウチからの出向者を受け入れてもらうということもありですよね」
塩川課長
「それはもちろんあります。その他に、出向させるためにいくつかの認証機関の株を取得するということもあるでしょうね」
佐々木
「私もおかしな認証機関よりまっとうなところに行きたいですよ」
塩川課長
「少し時間をください。おい、佐田、今の話をA3で1枚くらいにまとめてくれんかな。関係を絵にでも書いて、ビジブルで誰にでもわかるようにしてくれ」
佐田
「かしこまりました」


それから1週間ほどして、塩川課長が佐田たち三人を集めた。
塩川課長
「先日のナガスネの一件について、ご沙汰があったので伝えておきます」
片岡
「ほう!どうなりましたか」
塩川課長
「結論的には、基本的にナガスネに審査を依頼することを推奨する。審査において規格要求との齟齬、解釈に問題があれば徹底的に究明して会社の仕組みを悪くすることのないように、また遵法の徹底に努めよということです」
片岡
「はあ! 意味が良く分りませんなあ」
塩川課長
「平たく言えば、どの認証機関を使おうと好きにして良いということ。ナガスネに限らず審査でもめたら徹底的に戦え、審査員が言ったからといって違法状態になぞするなよということです」
佐々木
「なるほど、建前としてはナガスネは出向者を受け入れないとは言えないわけですね」
塩川課長
「そこがNC電気との違いです。NC電気はナガスネを止めたとはっきりと表明しましたからね。
今後こういった方針でいたるところでナガスネとのチャンチャンバラバラが起きれば、ナガスネに出向したいという方は少なくなるでしょうね」
佐田
「私の指導方向は明確になりました。しかしよくもまあこんな決断がでたものですね」
塩川課長
「私が話を持っていく前に、上の方にあちこちから苦情が来ていたようだ。ご存じと思うが佐田が4社の認証を指導している間に、認証が必要な数社が自発的に審査を受けている。ウチがナガスネを使うように指示していたから認証機関は全部ナガスネだった。その結果、規格解釈の問題、宴席の問題、お土産を求められたという苦情などが関連会社部や事業本部のほうに来ていて、ナガスネについてだいぶ問題視されていたようだ」
片岡
「なるほどねえ、あんな態度に怒るのは星山社長だけではなかったようだ」
塩川課長
「名前を忘れたが社員が30人くらいの会社で、オープニングに全員参加しろと言われたところがあったそうだ。そのときは社長はしょうがないと仕事を止めて参加させたそうだ。その後関連会社部に不満を言ってきた。そんな認証機関を絶対使えとは言えないだろう」
佐々木
「ナガスネは改善するのかねえ? 私自身、このままではナガスネに出向したくないね」
塩川課長
「何とも言えませんね。佐々木さんのご心配については、人事の方も分っていて既に動いています。具体的には、2社の認証機関の株を買う方向で動いています。そこにも出向させるようリスクを分散といいますか・・とはいえすぐにというわけにはいきませんね」
片岡
「私の件だけど、話を進めてよろしいでしょうか?」
塩川課長
「あ、失礼しました。片岡さんの件は人事に話したところ、人事からツクヨミ品質保証機構と話をするそうです。いずれにしても待遇とか費用負担など決めないとなりません。半月もしたら片岡さんにご連絡します。人事の話では異動は二月後くらいかなと言っていました」
片岡
「それはありがたい。よろしくお願いします」
佐々木
「私はナガスネしかありませんか?」
塩川課長
「ちょっと微妙な話なのですが、」
佐々木
「何か悪いことでも?」
塩川課長
「ここに片岡さんと佐田がいますが、話してもよろしいでしょう。
悪いか良いかは佐々木さん次第ですが・・、これから当社グループの多くの企業がISO14001認証を進めていくことになります。ISO9001のときは、この佐田君がひとりで認証指導をしました。しかしISO9001は製造業に限定していましたが、今回は非製造業、つまり販社や運送会社、その他リース会社などの金融業も認証することになり、その数はISO9001に比べて2倍から3倍になると思われます。まして先ほど申しましたように審査員とチャンチャンバラバラしろというお沙汰ですから、相当の負荷がかかるでしょう。
ということで、佐田と一緒にグループ企業の認証指導をしてもらえないかということです」
佐々木
「いやはや、思いがけない展開ですな」
塩川課長
「いかがでしょうか。もちろん審査員として出向という選択も佐々木さんのご自由です。ちょっとお話しておきますが、認証機関の審査員は定年がないなんて言われていますが、現実はどこでも出向後に転籍しても60歳定年のようで、それ以降は認証機関の子会社に賃金が下がって再雇用されるか、契約審査員といって仕事があるときだけ日当をもらって参加するようになります。ですから佐々木さんがこの会社に残って60歳定年まで社員として働き、以降嘱託として2年ないし3年働いた場合と比較すると賃金や福利厚生などを考えて会社に残ることは決して悪くないと思います」
佐々木
「私も今それを考えていました。元々私が認証機関に出向したいと思ったわけではありませんし、ここに残れるなら、そう願いたいですね」
塩川課長
「今ここで決めることでもないですが、肩書は専門部長として職制表にも載せます。ただ仕事は佐田の指示で動いてもらうということになりますが」
佐々木
「異存ありません。片岡さんも残りたいなんて言うんじゃないですか?」
片岡
「うーん、確かにこれからの気苦労とか毎日が出歩くということを考えると、今は良いけど、段々と歳をとって体がきかなくなるわけで、会社に残ったほうが楽だろうねえ〜
でも、まっ、全く新しいことへのチャレンジもおもしろいんじゃないか。特に俺は営業しかしたことがないからね。佐々木さんは社長とかいろいろ経験しているけれど」

うそ800 本日の思い出
私が勤めていた会社でも、業界団体設立の某認証機関をメインバンクならぬメイン認証機関としてグループ企業に推奨していた。もちろん子会社とはいえ親会社の指示に従う義務はないから、それぞれが所属する業界団体の認証機関とか、自らが選んだ認証機関に審査を依頼していた。
また審査で問題があれば、一寸の虫にも五分の魂、納得しなければ問題は私のところに回ってきた。それで私は支援の依頼があれば中身をみて、審査員の問題であれば認証機関に行って交渉し是正してもらった(不適合を取り消せということ)。
しかし年月が経っても、審査員のレベルアップが図られていないというのはISO七不思議のひとつである。もっとも宴席とかお土産、お昼ご飯については解決されたと言っておこう。
当然と言えば当然だが


湾星ファン様からお便りを頂きました(2014/3/9)
実にリアルで笑えません。客観的には実にトンデモナイ仕組みであることが、良くわかります。結局のところ部長層の出向先として便利に使ってきた経営の責任、ですね。もちろんJABは認定審査で何を見ていたんだとの謗りは免れないと思いつつも、JABにも出向してたな・・・。
残念ながらウチはケーススタディのように真っ当な経営判断とならず、しのごの言わずに業界の機関で認証しろ、でしたし、それは今でも変わっていません・・・(遠い目)。

湾星ファン様 毎度ありがとうございます。
私もずいぶんちゃんちゃんばらばらをしてきました。
今は穏やかな老後の日々を過ごしております。
私のライバルたちもどんどんと引退しているようです。

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014/3/9)
「プロ野球選手だから」凄い球が投げられるのではなく、「凄い球が投げられるから」プロ野球選手になれるのでして。
「ISO審査員になったから」他社を指導できるほどエライのではなく・・・
イカンな、その理論だと誰も成り手がいなくなるか。

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
その論理、逆じゃありませんんか!?
「他社を指導するから審査員」なのであって「他社を指導しなければ審査員ではない」
まあ、そんなもんでしょう・・・


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