マネジメントシステム物語47 こぜりあい その2

14.03.31
マネジメントシステム物語とは

今日、佐田は出張だ。新しい監査方法について工場の人と打ち合わせに行くと言っていた。
佐々木は現在ISO認証の指導状況をまとめている。毎週、指導している事業所の進捗状況と問題点を佐田に報告し、佐田が自分の分も合わせてまとめて塩川課長に報告する。もちろん問題があれば、その都度佐田と相談して対応しているので、報告書に大変ですと書くことはない。
佐々木は現役部長時代は部下の仕事を監督し、上長に報告し、またフォローされるという日々を送っていた。管理者とは楽なものではないのだ。今は自分の仕事のみを遂行すればよい担当者の身分なので、30年も前の新入社員に戻ったようで気楽である。
佐々木
私がISO認証の指導をしている佐々木である。
週報をまとめて佐田にメールで送ると少しほっとしてコーヒーを飲む。時計を見ると11時少し前だ。週の半分は日本全国を歩き回っているので、会社にいるとくつろぐ。電車、飛行機に乗って歩くのはやはり疲れる。いや肉体的に疲れるというか緊張するのだろう。審査員として毎日全国を歩き回っている片岡は大変だろうと推察する。もっとも彼は現役時代はアメリカやメキシコを駆け回っていたそうだから、出張も初めての人に会うのも負担ではないのかもしれない。
今日は佐々木が指導している大田区にある小規模な製造会社が、ISO14001の審査を受けている。関連会社の場合、佐々木は社外のコンサルタントとみなされて認証機関から陪席を断られることが多いこと、また最近は審査でそれほどトラブルがないことから審査に立ち会うことは少ない。それに今日の認証機関は横浜に事務所がある外資系だから、ナガスネよりはまともな審査をするだろうと期待している。
そんなことを考え、コーヒーの香りを楽しんでいると電話が鳴った。外線の音だ。

佐々木
「ハイ、素戔嗚すさのお電子 環境管理部です」
?
「佐々木部長さんですか。オオゲツ工業の長島です」
オオゲツ工業とは今日まさに審査を受けている会社である。長島はそこの部長で環境管理責任者をしている。
佐々木
「ハイ、佐々木です。なにかありましたか?」
?
「今、審査の休憩時間です。審査で問題が見つかりましたのでご報告しなければと思いまして。
廃棄物を出すときのマニフェストとかいう伝票に法違反があるというのです。このままでは認証はもちろんできないし、速やかに行政に報告しないと大変なことになると言われました。ちょっとご指導に来ていただけないでしょうか?」
佐々木
「審査はどのような状況なのでしょうか? まさか中断したとか?」
?
「向こうも一応することはしないとならないようで、先ほどマニフェストの問題が見つかったのですが、今はそれ以外の項目をチェックしています。午後は現場審査をしてからまた書類審査になります。当社は規模が小さいので本日と明日は午前中審査をして、明日の午後は審査員のとりまとめをしてから3時頃にクロージングという予定です」
その予定は佐々木も聞いていた。
佐々木
「わかりました。すぐに御社に伺います。とはいえ、今からですとお宅に着くのはお昼頃になりますね。私が審査員と直接会うのはまずいようですから。こうしましょう。昼休みに長島部長さんから説明いただけないでしょうか。部長さんから説明を聞いたらその状況判断とか対応を私が考えます。そして定時以降に長島部長さんと打ち合わせるということにしたいですね。そのとき昼以降に出された問題をお聞きするようにしたいです」
?
「わかりました。お待ちしております」
佐々木は上着を羽織って、行先表示板に「外出・直帰」と書いて事務所を出た。書類とか法律の本を持って行っても役に立つかどうかわからない。身一つで一刻も早く行った方が良いだろう。
ちなみに行先表示板は2年ほど前に、入退出や勤怠をサイボウズで管理するようになってから廃止された。ところが電話を受けたときにすぐに行先を知るには、サイボウズより表示板の方が便利だという声が多く復活したのだ。

行先表示板

氏名行先備考
塩川課長会議 9:30〜11:30 
山本会議 10:00〜12:00 
橋田休暇23日

  
佐田出張22-23日山形工場・福島工場
佐々木外出-直帰 
竹山  

  


大手町から大田区まで電車で30分、歩く時間と乗り換えを含めると50分近くかかる。佐々木がオオゲツ工業に着いたのは12時少し前だった。長島は審査を受けているので会うことはできない。佐々木は総務課の空いている机で、出されたお茶をすすって時計をながめていた。隣の会議室で審査が行われているのだ。
12時少し過ぎて午前中の審査が終わり会議室からメンバーが出てきた。
長島部長は佐々木の顔を見ると会釈をして、女性事務員に審査員に食事とお茶を出すように指示してから佐々木のところにやって来た。
佐々木は立ち上がり、自分の指導の未熟をわびた。
佐々木
「このたびは大変失礼いたしました。私どもの指導が足りず問題となりまして申し訳ありません」
長島部長
「まあまあ、ここじゃなんですからあっちの部屋で話をしましょう。オイ、西岡君、ちょっと来てくれ。そうだお弁当を三つ持ってきてくれないか」
長島は少し離れた会議室に入った。西岡と呼ばれた若い男性が弁当とお茶をもって後に続いた。
二人は疲れ切ったようにドサッと座った。
佐々木 長島部長 西岡
佐々木 長島部長 西岡
長島部長
「西岡君、気にせず食べてくれ。まずおれが概要を説明するから、俺の話に間違いとか不足があったら後で補足説明してくれ」
西岡
「わかりました。申し訳ないですけど腹減ってますんで食べさせてもらいます」
長島部長
「マニフェストについていくつも問題を提起されました。今回の審査員は、マニフェストの専門家なのかあるいはマニフェスト以外は知らないのか、とにかくマニフェストばかりしっかりと見ていたという感じでしたね」
西岡
「まったくですねえ〜」
西岡は食べながらモゴモゴとあいづちを打つ。
佐々木
「なるほど、で、どんな問題だったのでしょう」
長島は立ち上がって部屋の壁際にあったホワイトボードを机のわきまで転がしてきた。
長島部長
「問題がいくつもありましたので、書き出しましょう。
ひとつは、マニフェストは有印公文書なのでハンコがないといけないということを言われました。
当社ではマニフェストは工務係のメンバーがボールペンで署名しているだけなのです。それが問題だということでした。確かにマニフェストをしげしげと眺めると名前を書く欄に『印』と印刷されていました」
佐々木は正直言ってハンコがほしいのか否かわからない。だが、都庁の廃棄物課に電話すれば回答はわかるだろうと心の中で思った。
長島部長
「それから発行の際、数量が変わったりすることが多いのですが、横線を引いて脇に訂正後の数字を書いていたのです。これも法違反だというのです」
佐々木
「ほう、どのようにするのが正しいとおっしゃったのでしょうか?」
長島部長
「訂正印を押さなければならないとのことです。そうなんですか?」
佐々木
「すみません、私も存じません。でもすぐに調べます。それだけでしょうか? 他にもあるのでしょうか?」
長島部長
「あります、あります。マニフェストは何枚も重なった複写伝票なのですが、発行したときは一番表のみを控えに取っておいて、それ以下の部分を業者に渡します。そして運搬とか処理が終わると後ろの伝票が一枚ずつ返ってくるのです。その返ってくる期限が法律で決まっているとのことなのですが、当社では80日までに回収しなければ督促して、90日経ったときに行政に届けるとしていました。審査員お名前は稲垣さんとおっしゃるのですが、その方は法律では60日までに戻ってこないと届ける義務があるというのです。そしてですね、たまたまウチが発行したマニフェスト伝票に70日で戻ってきたものがありまして、とんでもない違反だと言われました」
佐々木は良いも悪いも分らない。だが、これも問い合わせれば良し悪しはすぐにわかるだろう。そして行政なら対策も教えてもらえるはずだ。
長島部長
「まだあるのですよ、ウチの運用も悪いようなんだが、マニフェスト伝票というのは法律で廃棄物の引渡しの際に使うように定められているそうなのです。
ところがウチでは有価物、つまり売っている物、具体的には金属の切粉とか残材などですが、それにもマニフェスト伝票を発行していたんです。現場の者に聞くと管理上払い出し伝票のようなものがないと困るので、わざわざそのような伝票を作る代わりにマニフェストを使っていたというのです。ウチがお金を出して買った伝票をどのように使おうと問題ないと思っていたというのです。
これはまずかったのでしょうか?」
佐々木
「とりあえずお話を全部伺います。マニフェストに関することは他には?」
長島部長
「いや、それくらいでしたね。オイ、西岡君、今までの話を聞いたと思うけど補足することはないか?」
西岡はあらまし弁当を食べ終わっていた。
西岡
「部長もうひとつありました。マニフェストを毎年度別のファイルにとじておかなくてはならないというのです。当社は数も少ないので連続して綴じていたのでまずいと言われました。でも台帳を作っておけば良いはずなんです。それを説明したのですが、ダメというのですね。あれは、おかしいですよ」
長島部長
「そうだ、そうだ、それもあったなあ〜
マニフェスト以外では法規制を調べるのが年に1度では足りないとか、環境目標が低いとか、いろいろ注文を付けていました。あ、そういったことは不適合とは言いませんでした。単なるアドバイスなのか、独り言なのか、よくわかりませんでしたね。
おっと、佐々木さんがご心配されていた環境側面や環境方針では何も言いませんでした」
佐々木
「審査員は1名だけでしたっけ?」
長島部長
「そうです。一人で一日と6時間、明日の午前中審査をして、午後からまとめと報告で3時に終わる予定です。それで審査料金が26万円、ウチの会社にとっては大金ですよ」
佐々木はうなずいた。
佐々木
「わかりました。すぐに都庁に問い合わせます」
長島部長
「うちの名前を出さないでくださいね。違反だと言われると大変なことになりますので・・・まあ、違反だとなったとしても、そのときはいろいろと対応を考えたいと思いますので」
佐々木
「わかりました。じゃあ長島部長、お昼くらい食べてください」
長島は冷めた弁当を開けて食べ始めた。
西岡はあとで弁当を片付けますと言って部屋を出ていった。
佐々木は腕時計を見ると12時40分、都庁の昼休みは1時までだろう。1時過ぎたら電話しようと思う。どういう回答になるのか分らないが、やれることをするしかない。
そう決心して佐々木も弁当を食べ始めた。

食べ終わるともう1時4分前になっていた。食休みする暇もなく長島部長は審査会場に入っていった。
佐々木と佐田は出張が多いので、会社から携帯電話を貸与されていた。1999年当時、携帯電話はまだ珍しく、よほどの人しか持っていなかった。学生はポケベルとか安いPHSを使っていた時代だ。
佐々木は電話帳から東京都環境局産業廃棄物対策課というのを探し出して恐る恐る電話をかけた。
すぐに若い男が出た。腰の低い愛想のよい応答で、佐々木は安心した。長島の言った審査員の指摘事項をひとつづつ質問した。こちらの官姓名を名乗ることもなく親切に教えてもらうことができてホットした。そしてその回答を聞いて驚くとともに安心したのである。

東京都環境局の応対が親切丁寧であることは特記しておく。他の県や市町村に問い合わせた場合に比べては格段の差がある。特に「わかりません」などと逃げることが絶対ないことはすばらしい。市町村の役場に質問すると、わかりませんねえと答えられることも多い。専門家がいないのだろうか?

佐々木は長島と会って話をしたいと思うのだが、長島はずっと審査のトイメンにいるので会うヒマがない。終了前に休憩があるのかと思ったら、4時半過ぎに当日のまとめといって今日気がついたことの再確認をして、質疑応答もなく審査員は帰ってしまった。

審査員を見送ってから長島と西岡が佐々木のいるところに戻ってきた。
長島部長
「やれやれ、ともかく今日は終わったよ」
佐々木
「午後の部ではなにか問題がありましたか?」
長島部長
「書面では、緊急事態のテストが不十分だとか、経営者による見直しの報告事項が規格を満たしていないとか、私にとっては理解できないようなわけのわからないことを言われましたが、ダメだとか、不適合と言われたものはなかったようですね。オイ、西岡そうだったろう?」
西岡
「はい、経営者による見直しでは一層の改善が必要だとか言ってましたが、悪いとかダメということはなかったです。もっとも一層の改善とはどういう意味なんでしょうか?」
長島部長
「俺に分るか! 現場では指摘はなかったと思います。あまり現場など分らない方のようでした」
西岡
「危険物倉庫とか廃棄物保管庫の看板はしげしげと見ていましたね。でも特に問題だとかは言われませんでした」
佐々木
「それでは一安心ですね」
長島部長
「佐々木部長の方はなにか進展がありましたか?」
佐々木
「ご安心ください。もう、ばっちりですよ。すべて問題ないというのが結論です」
西岡
「うわー、それは本当ですか?」
佐々木
「本当ですが、話の持っていきかたをどうするかというのは考えなくてはいけませんね」
長島部長
「とおっしゃいますと?」
佐々木
「明日の朝、前日の問題のフォローをするかもしれません。そのとき問題ないと言い出すと朝から調子が狂ってしまうというか、明日の審査でまた別の問題が出されるかもしれません。それなら朝は黙っていて、最終確認の場で問題ではないことを説明した方が、敵さんは新しい問題を提起するヒマがないかと思います」
長島部長
「なるほど・・・明日の午前はと内部監査とオフィスの現場審査か、
ところで説明とおっしゃいましたが、佐々木さんが説明するわけにはいかないでしょうね」
佐々木
「もちろん私も明日午後はこちらに来ます。但し私は審査には出てはいけないようですから、審査員への説明はお宅がするしかないでしょう。もちろんこちらの説明を了解しないとか、もめた場合は顔を出すことにしましょう」
長島部長
「そうしていただければ幸いです。じゃあ個々の問題について説明してもらえますか。
オイ、西岡明日お前が説明するんだぞ。良く聞いておけ」


稲垣審査員
稲垣審査員
翌日の午後となった。稲垣審査員がまとめが終わったから最終確認をしたいという。長島部長と西岡が審査員の控室に入った。
稲垣審査員
「昨日今日とお付き合いいただきありがとうございました。御社のシステムは良くできていると思います。不適合は昨日、マニフェスト運用で見つかった5点だけです。いずれも法規制に関わる問題ですので、認証はこの是正が完了した時点でないと出せないことになります。
なお、同じマニフェストに関する問題ですので5つではなく合わせて1件の重大な不適合ということにしたいのですが、よろしいでしょうか?」
長島部長
「ええと、その件については行政に問い合わせしましたところ、いずれも法違反ではなく問題ないということを確認しました。よってその不適合を取り消していただきたいと思います」
稲垣審査員
「ええ!、なんですって、そんなことありません。
まずマニフェストには署名と押印が必要です」
西岡
「あ、詳細は私から説明させていただきます。
まず始めのハンコがなければならないということですが、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則では『当該産業廃棄物の運搬を委託した者の氏名又は名称』となっており、押印が必要とは定めていません。署名があれば問題ありません」
稲垣審査員
「それは間違っている。マニフェスト票の法違反は『有印公文書違反』となるから押印がなければならないはずだ」
マニフェストを「公文書」であると言う審査員は多い。行政が定めた様式の文書帳票はすべて「公文書」であるという思い込みで語っているのかもしれない。もっとも法令ではマニフェストの記載項目を定めているだけで、様式を決めているのは製造している民間団体であるけれど、
まあ、審査員の語ることは一般人には分らないことが多い。
西岡
「ええと、まずマニフェストは『有印公文書』ではなく、『有印私文書』になるかと思います。 『公文書』とは公務員が作成するものをいいます。我々が公文書を作れるはずがありません」
稲垣の顔色が赤くなった。
稲垣審査員
「法で定めている文書は公文書だと思ったが・・・」
西岡
「そうではないようです。それから『有印文書』という定義ですが、『印章若しくは署名を使用した文書』となっています。現物には弊社の担当者がボールペンでサインしておりますので、それは立派に有印私文書の要件を満たします」
稲垣審査員
「そうなのか? おかしいなあ。ウチの研修では署名と押印が必要だと習ったが・・」
西岡
「東京都環境局に問い合わせましたが、サインがあれば問題ないという回答でした。行政の指導ですからご了解願います」
稲垣審査員
「それじゃ訂正印がないことはどうなのか?」
西岡
「公文書であれば『公文書の書き方』という通達があって、そこで見え消しとか訂正印が決めてあるそうです。
しかしマニフェストに限らず私文書の訂正について、法的には訂正印が必要と定めたものはないようです」
稲垣審査員
「でも数字に横線を引いて数字を書き直した時、それを記載した交付者が訂正したのか、受け取った者が訂正したのか分らないじゃないか」
350kg ⇒ 450kg
西岡
「いや大丈夫です。当方はマニフェストのA票を保管しているわけです。A票に訂正箇所があれば交付時に交付者が訂正したことは明らかで、A票に訂正がなくB2票以下に訂正箇所があれば、交付者ではなく運搬業者以降が訂正したことはこれまた明らかです」
稲垣の顔色が蒼くなった。

実は収集運搬業者が量目を修正することはよくあることだ。例えば排出者がハカリを持っていないようなとき、廃棄物の重量を計りようがない。ところが法では廃棄物の量を概略でもいいが書かなければならないことになっている。そして必ずしも正確でなくてもあるいは重量でなくてもよく、例えば段ボール5箱とか一斗缶3個などと書くよう指導されている。
ところがそのように記載すると重量が分らないから金額が決まらない。そのため収集運搬業者は台秤などで重量を計った数値をB票に書き加えて返却することが多い。それは決して違法ではない。測定した記録用紙をマニフェストに添付する業者もいるが関連性が分るように記録用紙添付と共にマニフェストへ追記するところも多い。


稲垣審査員
「東京都が問題ないと回答したのですね。それならいいです。
では回収日が70日のものはどうでしょうか?」
西岡
「あのう、審査員さんは普通の産業廃棄物と特別管理産業廃棄物を取り違えているのではないでしょうか。確かに特別管理産業廃棄物は60日以内なのですが、例のものは普通の産業廃棄物ですから90日以内なら問題ありません」
稲垣の顔色がマスマス青くなった。
稲垣審査員
「でも御社はあのとき産業廃棄物は90日以内に戻れば良いとしか説明しなかったでしょう。それでは法規制の把握が不十分ではないでしょうか」
西岡
「いえ、状況はちょっと違ったように思います。あのとき私どもは特管産廃でない普通の産廃は90日以内なら問題ないと申し上げています。それに対して稲垣審査員さんは伝票が60日以内に戻ってこなければ違法であるとおっしゃいました。それを法規制の把握が不十分と言われましても・・・」
稲垣審査員
「それじゃ、有価物にマニフェストを交付することも問題ないのですか?」
西岡
「ハイ、問題ありません。法律では産業廃棄物を引き渡す場合にはマニフェストを交付しろとあるだけで、マニフェストを産業廃棄物以外に使用してはいけないという決まりはありません。極論すればマニフェストを社内の払い出し伝票として使っても問題ありません。私どもでは有価物であっても運搬期日や途中での紛失などがないことを確認するためにマニフェストを利用しておりますが、特段法に触れることはないです。都に確認しました」
稲垣審査員
「ええと、もうひとつありましたね。マニフェストは年度ごとに別ファイルしなければならないことになっています。お宅では何年分も連続してファイルしていました」
西岡
「法律で決めていることは、稲垣審査員さんのおっしゃったことと、ちょっとというか全然違います。
法律では特別管理産業廃棄物を排出した者は帳簿を作れとあり、その帳簿は年ごとに追記できないように閉鎖しろとあるのです。私どもでは特管産廃の帳簿を作成していてそれは毎年別シートにしています」
稲垣審査員
「それがマニフェストのとじる方法とどう関係するのですか?」
西岡
「あのですね、行政の通知では、帳簿を作成する代わりにマニフェストを閉じることで帳簿とみなすというのがあります。そして多くの会社では帳簿を作るのが面倒だから、特管もそうでない産廃のマニフェストも年度ごとに別にファイルしているのではないかと思います。稲垣審査員さんはそうしているのを数多く見ているので、マニフェストは年度ごとにファイルしなければならないと勘違いされたのではないでしょうか?」

この物語の現時点は1999年頃であり、その当時の法規制に基づいている。マニフェストを閉じれば帳簿とみなすと書いてあった通知は、その後変更されてその語句はなくなった。なくなった時、従来通り帳簿とみなすと解釈するのは有効かと行政に問い合わせたが、自治体によって回答は異なった。今はどうなのかは知らん。

稲垣はおもしろくなさそうな顔をしてしばらく黙っていたが、
稲垣審査員
「わかりました。御社の審査結果、EMSは規格適合で適切に運用されているのを確認しました。認証するように推薦します」

みなさんはお気づきと思いますが、この稲垣審査員の提示した不適合は、その方法において不適格というか間違っています。
というのはISO審査に限らず、裁判であろうと、起訴する方、問題にする方が、
何を根拠にどのような証拠でもって有罪かを記載しなければならない。
ここでは稲垣審査員は「これがダメダ」と証拠をあげただけで、何を根拠に悪いのかを説明していない。だから西岡の説明も論理的には指摘されたことが適合(無罪)であることの説明になっていない。例えば、西岡はマニフェストは公文書でないと説明しているが、稲垣が別の資料を持ち出して「公文書と書いてあるじゃないか」といえば、振出しに戻る。
そもそも証拠、根拠を提示されていないのだから、稲垣審査員の指摘はすべて悪魔の証明であり、無罪を立証することは不可能なのだ。
ちなみにISO17021では不適合とするには証拠と根拠が必要と定めている。(参照:ISO17021:2011 9.1.9.6.3)
しかし現実には多くの審査報告書はそれを満たしていない。あげくに「なぜ不適合なのか?」と質問すると、「そう決まっているのだ」と一方的に断言する方が多い。(切れるともいう)なぜ悪いのかを説明しなくても良いとなると、これはもはやISO審査ではない。泣く子と地頭、ジャイアンに審査員と呼ぶしかない。
なお、JQAについてはそのほとんどの報告書がこの二要素を満たしていることを書き添えておく。
じゃあ、審査員が不具合の根拠を知らなければ不適合にできないのかといえば、そうでもない。「・・が適正であることを示す証拠の提示を受けなかった」とすれば良いじゃないか お互いが論理的に考えれば、自動的に悪魔の証明は回避される。


翌日、佐々木は出張から戻ってきた佐田にオオゲツ工業のいきさつを報告した。佐々木は独力で問題を一つ片づけることができて、いささか高揚していた。
佐々木
「外資系の認証機関だから、規格の理解は大丈夫と思っていたのだけれど、法規制の理解はイマイチだったねえ〜」
佐田
「まあ、法規制を知らないのは外資系に限らずナガスネも一緒ですよ。佐々木さんもマニフェストについて勉強させてもらったと思えば良かったのではないですか」
佐々木
「まさしく、その通りだね。思ったんだけどね、あの稲垣審査員という人も、環境なんてかじったこともなくて認証機関に出向してきたのだろうなあ。そう思うと少し同情するよ」
佐田
「ありがちですね。実を言って私も元々環境業務を担当していたわけではありません。そういう人が初めに覚えるのは、マニフェスト伝票の書き方というのが多いですね。どの会社にもあり、不備が多い項目ですから。それに初心者にも不具合が見つけやすいということもあるのでしょう。
稲垣さんも認証機関に入って先輩から、マニフェストのチェック方法なんて教えられたのではないでしょうかね。ところが先輩が間違っていたのか、それとも教え方が悪かったのか、
いずれにしても迷惑を受けたのは審査を受けた会社ですが」
佐々木
「ともかくもめずに済んでよかった。それに我々は審査員を指導するのが仕事じゃないよね」
佐田
「まあ他山の石ということで」

うそ800 本日の物忘れ
物忘れといってもボケとかアルツハイマーの話ではない。単純な記憶の話だ。「うそ800」を書くときに、危険物の指定数量やマニフェストの細かな規制を取り上げることもあり、たまにはこんなウェブサイトでも法規制について質問されることもある。
ところがそういった規制値や専門語などがなかなか浮かんでこなくなった。いやはっきり言えば忘れてしまったのである。今回はマニフェストの回収日を思い出せなかった。
どうも毎日見聞きしたり、仕事で使わないと、ドンドン忘れていくようだ。これはしょうがないのかもしれない。コンピューターだってキャッシュメモリーは一定であり、使わない情報はハードディスクにあっても即座に使える状態ではなくなる。
もっとも最近は古事記の神様や歴代天皇の名前には詳しくなったし、スイミングにも詳しくなった。だから日々使うことは新たに記憶しているわけだし、完璧に物覚えが悪くなったわけでもない。これはしょうがないのだろう。
いつの日か、ISOなど完璧に忘れてしまい、代わりに郷土史に詳しくなったりしているかもしれない。それも素晴らしいことだと思う。

うそ800 本日の疑問
ISO14001の審査で多くの、いやほとんどの審査員はマニフェストをチェックするが、自分でマニフェストを書いたことがあるような審査員には私の現役時代の15年間に一度も会ったことがない。環境法を知らない審査員は、せめてマニフェストのチェックでもしようと思うのだろうか。だが、マニフェストのチェックもちゃんとしようとすると、環境省の通知や自治体の見解を知らなければならず、そういったことを知っている審査員は・・多少はいるのだろうか 

うそ800 本日の真実
これは実話かって? もちろんです。但し1回の審査でこの間違えた指摘が全部出されたわけではなく、いくつかの実例をマージしました。
審査員のご芳名に実名を使おうかと思いましたが、それだけは思いとどまりました。
こういったナンセンスコールの事例も多々備蓄していますので、それらの大放出というのもありです。しかし誰にでも間違いはありますから、そういうのをあげつらうのは邪道でしょう。
私はここでは単なる間違いで指摘したことよりも、証拠、根拠を提示しない、審査員の力量のなさ、あるいは卑怯さというものを問題にしたいですね。
いや、違うか・・・・常に根拠、証拠を考えて指摘事項を記述するように努めていれば、間違いは起きにくいということだろう。
ところで、今後ドキュメンタリーに変身して、『うそ800』を『真実一路』と改名するのもありかと 
あるいは『花咲舞が黙ってない』の向こうを張って、『おばQが黙っていない』と変えるのはいかがでしょうか。
おや、「今まで黙っていたつもりか」という罵声が聞こえたような・・・



initialA様からお便りを頂きました(2014.04.01)
佐為様 こんばんわ。
initialAです。
マネジメント物語、、、ますます好調でいつまで続くんでしょうかね(笑
更新の日が待ち遠しいです。まるでマガジンとジャンプの発売を毎週待ち遠しく待っていた頃のような気分です。
さて、新年度になり、読むのも恥ずかしい「環境配慮のお願い」を発信する時期になってきました。今年は不幸の手紙を阻止したいところですが、何か良い策はないでしょうかね。
出さなくても問題ないんですよーっとやんわりと説得したいので、いいお知恵を授けてくだしいまし。
話は替わりまして、物語の中でもよくでてくるマネジメントの概念を示した、マトリックス図。似たようなものを「コカコーラ社」のHPの中で見つけました。
KOREという独自のマネジメントシステム?だそうです。検索すればすぐに見つけられると思いますので、是非ひとつ斬ってみてください(死語でしょうか?(^_^;))
マネジメントの勉強にさせていただきたいと思います。
歴史の話、お花見の話、スイミングの話とブログの方も楽しく拝見しております。なかなかコメントする機会がないですが、たくさん話題をお持ちで羨ましいです。
今後も楽しみにしております。

initialA様 毎度ありがとうございます。
熱心な読者がいらっしゃるとファイトがわきます。
「環境配慮のお願い」ですか・・・・私はそういうことをしたことがなくて・・・
単なるお願いではなく、報道された事故や違反の分析とか、それを参考にした活動やチェック項目など簡単で誰にでも使えるようなものにしたら喜ばれるかなという気がします。
私が現役のとき、自分の会社の不具合はいえませんので、報道された違反や事故の原因と対策、水平展開などをまとめた冊子を毎年作って社内や関連会社に配っていました。1年間で50くらいの事例が集まりますよ。報道を追跡しただけでけっこうな情報があり、そういった資料を作るのにあまり時間はかかりません。騙されたと思って・・
寺田さんは予防処置なんてできない、あるのは是正処置だけだと語っていましたし、IBMが環境優良企業になったのは過去に起きた事故を二度と起こさなかったからと言われています。
他社が失敗してくれたのを最大活用しなければもったいない、そんなことを思います。
コカコーラのKORE拝見しました。バランススコアカードのようなイメージですね。結局、環境だ品質だ安全だとワイワイ騒いでこういうものに落ち着くのが必然なのでしょう。統合マネジメントシステムなんてバカなんですよ。本来はマネジメントシステムとはひとつしかなく、それをバラバラにしてあとでまずいと気がついてまとめるというのは、ISO関係者の力量がないのでしょう。ISO委員が経営を知らないというのが致命的です。
一般企業はそんなものに左右されず、コカコーラ方式でもBSCでも、自分が使いやすく効果のあるものをやればいいって思います。ISO認証に価値がないとなった今では、ISO規格よりも自分に合っているかということが第一でしょう。
来年以降、規格改定でどうなるのか、見ものだと思っています。
気が向いたらまたメールをお願いします。


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