マネジメントシステム物語57 人事部ヒアリング

14.06.05
マネジメントシステム物語とは
始業のベルが鳴ると熊田部長が佐田を呼んだ。
佐田
「はい、なんでしょうか?」
熊田部長
「あのさ、この前の件、例のISO認証効果の話だが、環境担当役員に説明した。その話をするからちょっと聞いてくれ。オイ、塩川お前も一緒だ」
佐田
「佐々木さんにも入っていただいてよろしいですか?」
熊田部長
「あ、そうだね、声をかけてくれ」
四人は打ち合わせ場に集まった。
熊田部長
「先日の認証の効果の話だが、佐田の報告書で環境担当役員に説明した。その結果ご指示を頂いた。佐田の方からグループ企業に展開してほしい。
ええとそれは、とりあえずISO認証は継続するが、過去からの当社の仕組みを尊重しろと言われた。そして審査で不適合を出されまいとして、当社の仕組みを変にいじったり、また当社の環境計画に合わないようなことをするなとのことだ。
もうひとつはISO規格が最善とは思えないこと、そして当社の環境管理の仕組みが最善でもないだろうということ。だから当社グループの環境管理レベルを向上させることを考えろということだ」
佐田
「佐々木さんと私がまとめた報告書については、どのようなご意見というかご感想だったのでしょう?」
熊田部長
「思った通りだとおっしゃっていた。ああいう偉い人はいろいろなところでいろいろな人と話をしているから、なにごとも肌で実情を感じているんだろう。お前が調べたことはそういう印象通りだったということだろう」
塩川課長
「私も社内の監査とかISO審査の報告書を見て同じことを感じていました」
熊田部長
「まあ誰だってISO認証が環境管理に貢献しているようには見えないということだろうなあ」
佐田
「ではとりあえずお役目は果たしたとして、ご指示頂いたISO審査のためにおかしなことをするなというグループ企業への周知もこれだけ通知するってのもおかしいですから、次回関連企業を集めた定期環境会議で時間を頂いて説明することにしましょう。
次の課題は当社の環境管理体制の見直しというお仕事ですね」
熊田部長
「そうだな、役員がおっしゃることは多岐に渡る。当社グループのマネジメントシステムの見直し、環境計画の見直し、また環境活動の活性化などの仕掛けもあるだろうなあ」
塩川課長
「佐田だけの仕事というわけでもないですね」
熊田部長
「まず環境計画については企画課の方で次期環境計画策定に取り掛かっているから、そこで当社グループの長期ビジョンを考えてもらおう」
塩川課長
「最近は省エネ、廃棄物削減などは飽和してしまったのか、目玉というか突飛なテーマを打ち出すところが多いです。同業他社の中には、環境活動の目玉にマングローブ保全とか都市部にビオトープ回廊を作ろうなんて唱えているところもあります。
私は古い人間ですからそんな浮ついたことじゃなくて、本業でいかに社会貢献、自然保護に努めるか、実現できるかが大事だと思いますねえ〜」
佐々木
「塩川課長、それは古い人間とは関係ありませんよ。会社は何のために存在するのかと言えば、起業したときの理念を実現することであり、そのために定款に書かれたことをするわけです。トンボの保護とかビオトープ作りが我々の事業の目的じゃありません」
熊田部長
「同感だ、俺もそう考えている。マングローブを保護するのが、どうして他社の環境目的になっているのか俺にはわからん。高尚なのか、アホなのか、まさかそんなこと定款に書いてはないだろう アハハハハ」
佐田
「単なるアイデア不足でしょう」
熊田部長
「なるほど、じゃあ俺たちは本業をもっと深堀して実のあることをしようや。
オイ、次のシステムの見直しだが・・」
塩川課長
「これは佐田と佐々木さんに継続して担当してもらおう。また監査の是正は問題が起きた事業所の是正処置だけでなく、当社全体のシステムの見直しにつながらなければならないのだからその一環でもあるだろう」
佐々木
「塩川課長、ちょっとこんなところでする話ではないのですがね・・・私も嘱託になって1年半が過ぎて予定ではあと半年で会社勤めも終わりです。あまり長期にわたる仕事は受け持ちたくないのですが」
塩川課長
「あ、佐々木さん、それは別途としましょう。とりあえず佐田よ、システム改善のアプローチを考えておいてくれや」


佐田と佐々木は自分たちの席に戻って話を続けた。
佐々木
「環境マネジメントシステムとは一体何なのでしょうかねえ?」
佐田
「佐々木さんの質問の回答はいろいろあるでしょうけど、まずシステムとは一般的というか基本的には、組織、機能、手順と言われますね」
佐々木
「するとシステムの改善とは、組織の見直し、機能の見直し、手順の見直しになるわけだ。しかしISO14001のマネジメントシステムの継続的改善というと、普通はそんな大局的なものではなく、環境指標の改善、あるいは手順の見直しくらいかなあ〜」
佐田
「そう言われれば組織の見直しとか機能・・・つまり職務分掌とか権能の見直しを行ったなんてのは聞いたことがないですね」
佐々木
「いやいや、現実をみればISO14001で改善として例示されているのは、ほとんどが省エネとか廃棄物削減といった環境パフォーマンスの改善だ。
私が環境監査やISO審査立会をした中では、継続的改善として説明されたものは、省エネ、廃棄物削減、リサイクル率の向上、製品の環境性能向上、中には環境意識向上なんてのもあったなあ〜」
佐田
「珍しいものと言えば、売上拡大、棚残回転率向上、パートの定着率向上なんてのもありますね」
佐々木
「そうそう有利子負債削減ってのもあったなあ 笑。珍しいと言えば珍しいが、パフォーマンス向上であることは間違いない。マネジメントシステムの改善とはいえないね。いったい世の中では継続的改善なんてどんなものをいうのだろうか?」
佐々木はパソコンに向かい検索エンジンで調べた。
佐々木
「ほう、ISO規格では教育訓練のニーズに応じて行うとあるので、必要性に応じて実施内容を決めるようにして、実施後に効果があったかを評価するようにしたなんてのがあるね」
佐田
「まあ、確かにそれはシステムの見直しでしょうけど、ISO以前にそれが当たり前でしょうからちょっとレベルが低いですね」
佐々木
「そうだろうなあ。必要もないのに教育していたのかと突っ込みたくなるね。
おお、これは業務マニュアルを継続的に改善していくというのがある」
佐田
「システム文書というよりも指示書の改善ですか。まあ、悪いことはないでしょうけど・・」
ISO9001:1987の時代には、システム文書はprocedure、作業指示書はwork instructionと区別されていた。

佐々木
「この会社では『事業活動が環境に与える影響を削減すること』を継続的改善と解釈している」
佐田
「アハハハハ、言っていることは当たり前ですが、システムの見直しで環境影響は変わるのかというとどうなんでしょう。というかそのためには人間を減らすことが一番ですね。中国の人口を3分の1に、4億にすれば世界の環境問題の半分は解決だ」
佐々木
「おっ、このコンサルは『日本の伝統ある、ものづくりの職人芸が品質管理と融合したものが継続的改善である』なんて書いている。これって日本以外では継続的改善は存在しないってことかな」
佐田は飲みかけたコーヒーをプッと吐き出した。苦笑いして机の上のテッシュボックスから二三枚テッシュをとって机の上を拭く。
佐々木
「コミュニケーションを良くしようと、朝礼の方法を変えたり連絡版を設けたというのがある」

これらはいずれも2014年5月時点、ネットでググって見つけたものである。

佐田
「まあそれもシステムの改善の範疇ではあるでしょうけど・・・それはマネジメントシステムのレベルじゃないでしょうねえ〜」
佐々木
「是正処置だけが継続的改善だというコンサルがいる。確かに本当に是正処置をしようとするとシステムの見直しをしなければならないからそれは当たっているのかな?」
佐田
「でもね佐々木さん、不具合がなくても改善はできるでしょう」
佐々木
「いやそれは潜在的な不適合だというかもしれないよ」
佐田
「なるほど、そう言われると反論しにくいですね。ともあれシステムに関わりない是正処置もあるでしょうねえ〜」
佐々木
「まあこれらを見ると世の中の9割の人、企業だけでなくコンサルも審査員もだが、環境パフォーマンスを向上することが継続的改善と思っているようだ。そして残りの1割は単純なパフォーマンス改善ではないと理解しているものの、具体的なシステムの改善の具体的イメージを持っていないようだね」
佐田
「ともかく私たちが頭の中で考えても堂々巡りするだけのようです。ウチの会社だって歴史がありますから過去当社のマネジメントシステムに関わってきた人たちというか部門のヒアリングをしてみませんか」
佐々木
「さっきもちょっと言いかけたが、私はあと半年しかここにいないわけであまり長期にわたる仕事を担当するのはどうかなと懸念しているのだが」
佐田
「佐々木さんはもうお仕事を辞めて引退するおつもりですか?」
佐々木
「大学出て40年、まあ十分働いたと思うよ。引退したらやろうと思っていることはいろいろあってね」
佐田
「ツクヨミに出向された片岡さんはどうしているのでしょうか?」
佐々木
「片岡さんはとうに転籍して更にツクヨミを定年退職している。あそこには定年退職者を雇う子会社があるそうで、そこに再雇用されて今も審査員をしている。もっともそこも63歳までだと聞いたが。その後も契約審査員の口はあるそうだ」
佐田
「なるほど、審査員になるとずっとお仕事を続けられるのですね。
しかし佐々木さんだって、嘱託は2年間と決まっているわけじゃありません。働く気があればまだ働けますよ」
佐々木
「知ってるよ。実際当社でも67とか68歳で嘱託で働いている人がいるらしいね」
佐田
「特許の専門家とか労使関係の専門家とか、見込まれた人は退職したくても退職できないなんてぼやいているそうですね」
佐々木
「私は絵を描いたりギターを弾いたりして暮らしたいと思っているのでもう働く気はないよ」
JR飯田橋駅駅から市ヶ谷の方に外堀沿いに歩いて行くと、外堀公園でいつもギターを弾いてるおじさん(おじいさん)がいる。彼も引退して暇つぶしにギターをつま弾いているのだろうか?

佐田
「そうですか。それなら引退するのはお引止めできないですね。せめて引退するまでご指導をお願いします」
佐々木
「冗談言うなよ。逆じゃないか」
佐田
「ともかくシステム関係者に対するヒアリングをしたいですね」
佐々木
「システム関係者って? 情報システムの?」
佐田
「あ、違いますよ。当社のマネジメントシステムを維持している人たちのことです。
マネジメントシステムなんていうと英語でもISO関係が真っ先に出てくるけど、企業を動かしていく仕組みってのは組織が存在したときからありますよね。今まで当社の仕組みを担当してきた部門にヒアリングしてみませんか」
佐々木
「今まで当社のシステムを担当してきた部門とはどこだろうか?」
佐田
「先ほど申しましたように、システムとは組織、機能、手順です。組織を作ってきたのはどこでしょうか?」
佐々木
「人事かなあ? それとも総務だろうか?」
佐田
「実を言って私も知りません。これから調査するんです。ワクワクするでしょう?」


数日後、佐田と佐々木は人事に来ていた。以前、保養所で出した廃棄物に問題があったとき、人事の担当者から佐田が相談を受けて所在地の行政と話をつけて事なきを得たことがある。それで人事に知り合いもいたし、恩も売っていたのだ。
お話を聞きたいというと課長人事課長と担当者人事担当者が会ってくれた。
佐田
「まず私たちの目的を申しますと、ISO規格では継続的改善ということが言われています。それには組織体制が適正かを見直すとか職制変更も含まれると解されます。実際には環境改善というと、省エネ推進とか廃棄物削減などはいやというほどしているわけですが、環境に関わる職制改正とか担当部署の変更なんてことは聞いたことがありません。人事の方に聞けば当社の組織がどのようにできて、どんな場合に変更が行われるのか教えてもらえるのかと思いました」
人事課長
「佐田さんたちの目的はわかったつもりです。
さてと、人事というと一般の方から何を考えているのか分らないなんて思われているでしょう。社内の警察機構と思っている人もいるかもしれない。でも我々が主体的になにかするということはまずありません。
我々がしていることは、経営層の決定を実行することとか、単なるルーチンワークですよ。もちろん個人情報を取り扱っているということが他の部門とは違いますが」
人事担当者
「今課長が申しましたが、あの誤解のないように言っておきますが、我々が人事異動を提案したり決定したりするわけじゃないです。そういうことはラインの管理者のすることです。人事の仕事とは人事異動の事務手続きをすること、あるいは処分などが法に触れないかの確認とか、他の例とのバランスなどをチェックします。
人事査定・昇格降格も同じく、我々は事務手続きをするだけです。決定は職制です。定期採用・中途採用についても役員レベルあるいは事業所長レベルの決定を粛々と実行しているという感じですね。
ルーチン的なこととは、給与、休暇などの手続き、研修の実施や自己啓発の支援、健康管理や労組交渉などでしょう。
そのほか、小さいことはいろいろあります。 例えば、大学へのリクルート活動、関連会社の労使双方への労働法や慣行の教育とか、職場のトラブルの把握と対策なんてことですかね」
佐田
「新しく部や課を設けたり統合したりということは時々ありますが、ああいったことは?」
人事課長
「申しましたように我々は決定者じゃありません。組織の変更で全社に関わることなら役員会、事業部内なら事業部長、事業所内のことなら事業所長の決定です」
佐々木
「去年でしたか、事業部制の役割を見直したりしましたね。ああいったことって誰が決めるのでしょうか?」
人事担当者
「あのレベルになると役員会です。もちろん役員会は決定しても案を作るわけじゃない。あのときは関係する事業部から部長級が集まってプロジェクトを作りました。ああ、もちろん人事も参画しました。ただ社内でクローズしていますから分社化とか合併のように賃金や職階に関わるような検討事項はなく、基本的にラインの人たちがビジネスを推進するためにはどのような組織にすべきかという議論だけでしたね」
佐田
「なるほど、私は会社組織の変更などの発表は人事ですから、人事部門が企画して推進しているのかと思っていました」
人事課長
「佐田さん、勘違いしちゃ困りますよ。我々に権限があるわけじゃない。佐田さんは監査をしているけれど、その権限が佐田さんにあるわけじゃない。そしてその結果による対策も佐田さんの決定じゃない。我々が人事異動を発表したり手続きをするのも同じですよ」
佐々木
「私が聞くのも変な話ですが、環境管理に関して組織がどうあるべきかなんてことにご意見とか考えてらっしゃることはありませんか?」
人事課長
「なにごとも縦切り横切りがあります。テーラーが唱えた機能別組織なんてのもありましたね。環境管理に限らず、各事業所の業務は共通的なものは多い。例えば人事とか総務とか経理、あるいは資材なんてのもそうでしょう。そういった仕事を担当している人は転勤が多く、他の工場や支社に行っても同じ仕事をする。だから全社的に人を管理をしているしローテーションもしている。例えば人事部門の者は一生人事の仕事をする。人事担当者の教育も査定も本社の人事がしている。
他方、製品に直結している開発や製造や営業は全社統一の管理をしているわけじゃない。その事業や製品を管轄している事業部が取り仕切っている。開発者が突然営業の第一線に出たり、製造部門の人が保守サービスをしている関連会社に出向したりする」
佐々木は、この人は何を語っているのだろうという顔をして黙って聞いている。
人事課長
「環境管理も以前はその工場の保守とか雑用的な業務であったと思います。それである工場では建屋の管理部門とか、ある工場では製造部門が担当しているということが多かった。そして本社とか支社では自らがエネルギー管理とか廃棄物処理するということはほとんどないから、大家であるビル管理会社との交渉窓口である総務が環境管理部門と言って良いでしょう」
佐々木はだんだんと人事課長の話が見えてきた。
人事課長
「そんなわけで環境に関して全社共通な組織もなく、全社の環境管理を見ている部門もなかった。ええと今年は2003年だけど、1990何年かに経団連が環境憲章なんてのを作りましてね、そのときからウチでも全社の環境管理をする部門を作ったわけですよ。それがみなさんのいる環境管理部です」
佐々木
「なるほど、なるほど」
人事課長
「しかし人事や経理のように歴史もないし、また全体を統括するだけの力もない。いや必要性が認められていないというべきかな・・・だから現在の環境管理部は工場や支社の環境部門を指導支援するだけしか仕事をしていない」
佐々木
「環境担当者の査定とか異動などの権限がないということですね?」
人事課長
「そうです。で、やっとさきほどの佐々木部長のご質問に辿り着くのですが、」
佐々木
「話がどうなるのかと思っていました」
佐田
「ぜひお聞きしたいですね」
人事課長はギョットしたように佐田を見た。
人事課長
「いえ、そんな重大なことじゃありません。まず環境管理というものが全社共通の管理手法とか手順でできるのか・・・私は専門家じゃないですからわかりませんよ・・・もしそうであるなら、そういう方向に、つまり現在の人事のように入社時から人事担当者として育成し各工場をローテーションさせて昇進昇格させていくという処遇を考えるべきかもしれません。
ただ、」
佐田
「ただ?」
人事課長
「ただ人事にしても経理にしても人数は非常に少ない。全社で毎年数人採用すれば間に合います。ですからそういう業務の担当者を工場や支社だけでは教育していくということができないから全社で管理しているという理由があるわけです。
環境管理というお仕事はそういうものなのか、そうではなく工場固有の設備や法規制対応で共通化標準化できないものなのか、お断りしておきますが私はわかりませんよ。あるいは実際にあるわけですが、現場で歳をとって引退した人が担当する仕事なのかということもあるでしょうね。製品のサービス業務とか保養所の管理とかはほとんど引退間近の人が担当しています」
佐田
「なるほど、仕事の性格によって全社まとめて管理するのか、個々の事業所で管理するのかという、さきほど課長さんがおっしゃった縦切り横切りということですか」
人事課長
「そうです。あ、これは佐々木部長が環境管理に関して組織がどうあるべきかとご質問されたから例えばとしてお話しただけで、私がどうあるべきと考えているわけではありませんよ。ともあれそういう組織とか人事管理について考えることは、ISOでいう見直しではあるでしょうね」
佐田
「なるほど、とてもためになりました」
人事課長
「アハハハハ、もちろんどういう組織が最適かということは時代とともに変わります。またインフラというか具体的には情報システムによっても最適なものは変わります。昔は物を買うにも情報も限定されていましたし取引先も限定されていました。今は売るにしても買うにしてもグローバル化していますし情報の入手も容易になりました。ですから各工場で使っている共通な部品や材料は本社資材がまとめて買うようになりました。そのほうが安く入手できると考えたからですね。
環境管理においても情報の共有化がメリットがあればそうなるでしょうし、それによって結果として組織も変化する可能性もあります」
佐田
「確かに工場のパフォーマンスなどの情報収集は電子システム化が進んできました。しかし行政報告は全国まとめてというよりも、法律では政府の管理組織に報告というのが多く、エネルギーなどは各地方の経産局宛となりますし、ものによっては知事宛にするものもあります。最近は知事宛のものも市長に事務移管するものが多くなっていて、一拠点の会社なら便利になったと思うでしょうけど、我々のような大会社にとっては面倒になった感じですね。そういうことの影響を受けるというか、そういった行政の都合に従わざる得ないでしょう」
人事課長
「なるほど国、県などの階層や区分に対応しなければなりませんからねえ〜」
佐田
「とはいえ届の際に社長や役員の住民票や被後見人に登記されていない証明が必要になることもあるから、そういうことは全社まとめて行う方が依頼される方も楽でしょうねえ」
人事担当者
「それは面倒ですね、実際にはどうしているのですか?」
佐田
「そういうことが発生するのは役員が代わる株主総会時期とか新設備の設置したときなどですね。届が必要になる新設備なんてめったにありませんので、9割方は株主総会後毎年発生します。それで各工場が本社総務部に要請し、総務部秘書課がまとめて対応しています」
人事課長
「なるほど、役員といっても海外に常駐している方もいるから大変だろうなあ〜」
佐々木
「仕組みと言えば、公害防止管理者とかエネルギー管理士といった国家の制度対応として、社内的な権限を明確にすることは必要だろうねえ〜」
人事課長
「それはどういうことでしょうか?」
佐田
「公害防止管理者として県に届けていても、会社がその人に法で定める権限を与えているとは思えない。通常は課長なり部長が決裁して動くということが多い。電気主任技術者は、本来課長級を選任すべきでしょうけど、現実は国家資格を持っているヒラの担当者を充てている。もっとも行政が来たときは担当課長なんて名刺を持たせているけど」
人事課長
「なるほどねえ〜、そういうことははっきりとさせておくことが必要でしょうね。例えばその公害防止管理者ですか、あるいは電気主任技術者はどういう権限を与えるということを職制表に明記することだってあるでしょう。どうせ必要なのだから、固有名詞を書かなくても職制に記載しておくことはおかしくない。以前ある工場で計測器の校正業務を行っていて、計量士を組織表に載せていた例があったね」
佐々木
「それは人事がしてくれるのですか?」
人事課長
「いや、そういうことを決めるのは例えば公害防止管理者なら環境管理部とか、電気主任技術者なら環境ではなさそうだから工場管理部門になるのかな、そういう部門が検討して会社規則をそのように改定することが必要です。その結果の仕事は我々人事が担当することになります」
佐田
「なるほど、会社の仕組みとはそうなっているということですね。分ります」
人事課長
「我々が逃げ腰というわけじゃありません。要するにそういう会社の仕組みを作る権限はみなさんというか、担当している部門にあるのです。各部門が担当している業務を一層よくしよう、効率をあげようと考えて、仕組みや権限をどうするかを考えていくことが必要です。主人公はみなさんなのですから」
佐田
「とてもためになりました。またいろいろとご相談とかご教示をいただくことがあると思いますのでよろしくお願いします」
人事課長
「補足ですが、みなさんが最善と考えても実現できないこともあります」
佐田
「どんなことでしょうか?」
人事課長
「まあ、当社も大会社ですからルールもありますしバランスというものがあります。公害防止管理者が行政への届をするよう法律で決めているかどうか私は知りませんが、仮にそうだとしても、当社の場合社外へ公式な文書を出すのは総務部長となっています。ですからその辺はそういう全社的なルールと妥協というか矛盾ないようにしていただくことが必要です」
佐田
「なるほど、決済金額なども他の業務と横並びしなければなりませんね」
人事課長
「そうです。大きな工場では毎月の電気代が数億なんてところもあると聞いています。もちろん使ってしまった電気代は払わざるを得ないのはわかりますが、それをエネルギー管理士が決裁するのは困ります。1億以上になると当社では事業所長決裁になるのかな?」
人事担当者
「そうです」
佐々木
「縦切り横切りの話になりますが、工場の環境管理の業務の決裁を本社の環境管理部が行うなんてことになれば、工場の運用はおかしくなりますね」
人事課長
「そうでしょうね。事業所長は工場で問題が起きた時は全責任を負うわけですから、工場の業務について最終的な決裁権がなければなりません。権限と責任は裏表ですから。人事に関して言えば、各工場の人事担当者の管理は本社人事部がしていても、工場の人事担当者への指揮命令は工場にあるわけです。
まあ、まだ検討の段階でしょうけど、実際に見直すならそういうことをいろいろと考えて問題のないようにしないといけませんね」
佐田
「もちろん今回は初心者としてのヒアリングですから、具体的なことになったときはまた相談に伺います」
佐田と佐々木はお礼を言って去った。


部屋に戻ると二人は打ち合わせコーナーでコーヒーを飲みながら話をする。
佐々木
「人事課長の話は当たり前のことだったな」
佐田
「確かに当たり前のことですが、すっかり忘れていたのを思い出させてくれてためになりました。感謝です」
佐々木
「環境管理の組織はどうしたらよいかということは人に聞くことではなく、自分が考えることか」
佐田
「翻って今までの問題を考えると、組織体制を見直せば問題が起きなかったということがありましたかね?」
佐々木
「うーん、組織と限定すれば思い当たらないが、体制といえばやはりパワー不足というところはあるんじゃないだろうか。特に環境管理部門には若い人がいない。現場は現場の第一線を引退した人が多いし、管理者も設計や製造の課長を卒業した人が多かったね」
佐田
「単に二線級のロートルというわけではなく、環境という仕事は昔からなかったから生え抜きというのがいないということではないのでしょうか。つまり環境業務には課長級以上になる年代の人がまだいないということではないですか?」
佐々木
「そうとも言えるなあ〜。公害防止というのは70年代からあったようだが、PRTRとか含有化学物質管理なんてことは昔は発想がなかったからね。今の新人が課長の年代になるにはあと10年かかるということか」
佐田
「今では当たり前のフロン使用禁止だって、たかだか10年前のことですから」
佐々木
「環境も人事の仕事のように、全社の環境従事者を本社の環境管理部が統括するというアイデアを人事課長が言っていたが、どう思う?」
佐田
「人事管理までするというとどうかと思いますが、環境担当者の教育や工場ごとの管理システムの統一なんてのはした方が良いと思います。まあ具体的なことになるといろいろと問題があるのでしょうけど」
佐々木
「ヒアリングはこれで終わりかい?」
佐田
「いえ、始まったばかりですよ。組織の次は手順ですから文書管理についてヒアリングしましょうか」

うそ800 本日の言い訳
つまらないかも知れませんが、へたなISO規格論議よりは価値があると思っております。



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