マネジメントシステム物語73 文書状況

14.08.06
マネジメントシステム物語とは

竹山竹山はまだ環境管理の改善策が浮かんでこない。とにかく工場によって仕事の内容が違うし、従事者も多様だし、環境管理についての考え方が違う。ともかくあらゆる観点からみてバラエティに富み過ぎている。
それでまだヒアリングを続けている。
今日は岩手工場に来た。吉永課長吉永が相手をしてくれた。
竹山
「お宅の工場では環境管理の手順書はどれくらい整備しているのでしょうか?」
吉永
「製造現場と違い、環境管理では担当者だけしか関係ないというものも多くてね、わざわざ文書化するというほどのことはないと考えている。だってメーカーの取り扱い説明書をみたり、今までの問題やその対策を紐解いたりして操作要領をまとめても、それを見るのが作成した自分だけってことだからね。
そんなわけで、ここではあまり文書にしてはいないな。ほとんどの設備の運転要領はその担当者の頭の中にあるんだ」
竹山
「それって、わかる気もしますが、そんなんで大丈夫なんですか?」
吉永
「どんな仕事でも手順書を作ることに価値があるのではなく、日々問題なく仕事をすることが大事だからね。今まで特段問題はないのだから、それでいいと思っている」
竹山
「でも定年退職とか異動があったときには、仕事の引継ぎは発生するでしょう。そういったとき仕事を書いたものがなくては困るでしょう」
吉永
「まあ、そういったときはだいたいひと月くらいの引継ぎ期間はあるから、運転要領とか問題が起きたら何を見たらいいかとか、どこに問合せしたらいいかなんてことは伝達できるよ」
竹山はそんなことでいいのかと思う。
竹山
「でも簡単なものばかりではないでしょう。例えば・・・・お宅では有機塩素系溶剤の地下水汚染があって、その浄化をしていましたね。そういうものは運転手順、使用薬品など内容が難しいでしょう。異常が起きたときメーカーの取説を見る程度で大丈夫なのですか?」
吉永
「まあ簡単とは言えないだろうね。でもそういったことを頭に入れておかないと日常業務はできない。
つまりなんだ・・・・文書を作る必要がない程度に習熟していなければならないということだ」
竹山
「文書があれば良いということではないでしょうけど、文書もなくメーカーの取説程度と前任者からの口伝え程度で仕事ができるものでしょうか?」
吉永
「何度も言っているけど、今まではそんな問題は起きていないということだ」
竹山はあまり何度も質問するとまずいなあと思う。吉永課長の言うのが本当ならそれはそれでいいことなんだろう。
少しの間があったとき、吉永課長の胸ポケットに入っている携帯電話が鳴った。
吉永
「はい吉永です。おお楡井にれいさん、なにかあったの?
・・・・
除塵機から白煙が出ているって! 火事?
・・・・
今すぐ行くわ」
吉永は立ち上がり壁につるしてあるヘルメットをかぶった。
吉永
「非常事態だ。失礼する」
竹山
「私も付いて行っていいですか?」
吉永
「名前の書いてないヘルメットをかぶってくれ」
吉永は駆けだした。
竹山は名前のないヘルメットを見つけてかぶり、その後を追った。
けっこう広い工場だ。200mくらい走ったようだ。一番奥の塗装工場の外に鉄筋で作られた除塵機の小屋がある。小屋といっても縦横10m位高さは3階建てか4階建てくらいはある。その小屋の3階くらいの高さにある排気口から、煙というよりも粉じんのようなものが景気よく吹き出ている。
小屋の前に作業服を着た人が四五人いて、そのありさまを見あげている。
吉永
「煙ではないようだな」
?
「粉じんみたいですね。すぐに落下してこないところをみると、非常に小さい粒なんでしょうね」
吉永
「自衛消防隊とかには連絡したのか?」
?
「いったん連絡しましたが、火事でないと判断して取り消しました」
吉永
「わかった。とりあえず除塵機の運転を止めろ。というかなんで止めないんだ?」
?
「一回止めたんです。でも工場の方から製品に問題が起こるから一段落するまで運転を続けてくれという要請があったんです」
吉永は頭を振って携帯を取り出す。
吉永
「あ、山田課長、吉永だけど、あのさ、除塵機がおかしいんだ。止めると生産に支障があるって言われたというんだけど、どうなんだい?
・・・・・
わかった。あと20分だな。じゃあ20分後に停めさせてもらう」

吉永は携帯を切って、メンバーを集める。
吉永
「製造の方はあと20分だけ動かしてくれということだ。それ以降は今日は動かさなくても良いということだ。20分後に除塵機を止めて点検してくれ。
その前にだ、この白煙というか粉じんがどこまで飛んで行ったか調べなくちゃならないな。敷地内で止まっていれば良いが、構外にまで飛んで行っているなら近隣に迷惑かけていないか状況を見てきてくれ。問題あればすぐにもお詫びに行かなくちゃいかん。
楡井さんと井沢さん、それには佐藤さんは、まず敷地境界に行って、外まで飛んでいるかどうか見てくれ。外まで出ているようなら、外に出て被害状況をチェックしてほしい。異常あればすぐに私の携帯に状況報告を入れてくれ。すぐに頼む」
指示された三人は風下の方に走っていった。
吉永
「この除塵機の担当は大木さんだな。この原因はなんだ?」
大木と呼ばれた年配の人は頭を書きながら
?
「さっぱり見当がつきません。私がここに来まして半年なんですが、こういったことについては引継ぎでは教えられませんでした」
吉永
「ああ、そうか、大木さんは異動してきたばかりだったね。ええと前任者はと・・・誰だったけ?」
残りの一人が
?
「古川さんでしたよ。定年退職した」
吉永
「ああ、古川さんだったか。しょうがない、古川さんを呼ぶか。まだ電話番号は登録してあったな」
吉永課長は携帯を取り出して短縮を探す。
吉永
「ああ古川さん。俺だよ俺、吉永だ。悪いんだけどさ、除塵機から白煙というか粉じんが吹き出してさ、そうそう、まだ止めてない。生産現場が一段落したら止める。そいでさ、原因とか分らないかな?
・・・
ああ、来てくれるか、すまない、待っているよ」
吉永は電話をポケットにしまいながら
吉永
「古川さんが来てくれるそうだ。彼の家までは4キロくらいだから10分もあれば来るだろう」
竹山は脇で見ていて、退職者に声をかけるのもどうかと思うし、そもそも引継ぎされていないのか、あるいはこういった異常時の処置が決まっていないのか、一体どうなんだろうと思う。

その後、指定された時間になって除塵機の運転を止めた。その直後に退職した古川氏も現れた。久しぶりに職場に現れた古川氏は自分が呼ばれたことをうれしく思っているようだ。
吉永課長が古川さんに状況を話していると、外に様子を見に行った三人が帰ってきた。さすがに今回は駆け足ではなく3人共自転車に乗っていた。
吉永は三人に向いあった。
吉永
「ごくろうさま。状況はどうかな?」
?
「報告します。目視で粉じんが敷地境界よりも外まで飛んでいましたので、三人で手分けして状況を見てまいりました。
粉じんが目視でわかるのは敷地境界から2・30メートル程度でした。その範囲内には人を見かけませんでした。郵便ポストや駐車している車の屋根などを見ましたが粉じんが積もっているようなことはありませんでした。
更にその外側ですがそこから先は粉じんが飛んでいるのは目視では認識できませんでした。洗濯物を干しているお宅が何軒かありましたので、玄関のチャイムを鳴らして話を聞きましたが特段問題はないということでした」
吉永
「そのさ、洗濯物を干していた家に聞いたってのは、どんな質問をしたのかな?」
?
「ああ、ご心配なく。一般的な話をしましたから。つまり、ええと『工場のものですが、騒音とか粉じんなどでご迷惑をかけていないかときどき見て歩いています。最近はどうですかね』といった調子で話を聞きました」
吉永
「わかった。それでそのとき洗濯物を見てくれたということだな?」
?
「そうです。家庭の主婦がその話を聞いたので、干してある洗濯物に異常がないかみて問題ないと言いましたので大丈夫でしょう」
吉永
「ありがとう。あとで今のことを簡単なメモを書いて出してくれ。古川さんも来てくれたので、これから除塵機の点検をする。楡井さんたちは元の仕事に戻ってよし」

吉永はまた向きを変えて、古川と山下を従えて除塵機の小屋に入った。竹山はスーツが汚れるかなと気になったが、ここで待つわけにもいかずその後に続いた。
除塵機の小屋の中はサイクロンがいくつも並んでいるだけだ。
古川
「構造は簡単なんですよ。サイクロンであらまし粉じんを落として、それでとりきれなかったものをフィルターでこして外に出すだけなんです」
吉永
「今までこんなことはあったのか?」
古川
「まずなかったですねえ〜。フィルターが目詰まりすると負荷がかかって止まったてのがありましたけど。フィルターが・・・・あれえ!」
吉永
「どうかしたかい」
古川
「フィルターが破けてますわ。簡単に破けたりするもんじゃないんだけどねえ。おや、このフィルターは私の時代に使っていたものとは違うなあ〜」
竹山はスーツがだんだんと白く汚れてきたのに気がついて表に出た。別に壁とか機械に触った記憶はないが、小屋の中に細かい粉じんが漂っていて、それが服に着くのだろう。口の中も埃っぽい感じがする。
竹山が外に出てまもなく三人とも出てきた。
吉永を先頭に事務所に戻るようなので竹山もその後に続いた。

お茶 環境管理課の事務所に戻ると、4人は疲れはてたように打ち合わせ場に座った。
庶務の女性が座っているみんなの上着を脱がして、それを表に持って行ってパタパタと埃を払ってくれた。それから服をえもんかけに吊るして、お茶を出してくれた。
吉永が立ち上がりホワイトボードの前に立つ。
吉永
「ええと、フィルターが正規のものでなかったから破けてしまったということか」
古川
「そうだと思います。私の時代にはフィルターが破けたことはありません」
吉永がホワイトボードに『フィルターが正規品でなかったために破けたことによる粉じんの外部放散』と書く。
?
「あのう、今回フィルターを手配したのは私なんですが、古川さんのときに手配していたのと全く同じ品名を伝票に書いてます」
吉永
「おーい、サッチャン、副資材の注文履歴を持ってきてよ」
庶務の女性が大きなパイプファイルを持ってくる。
吉永がパラパラとめくるといいたいが、ファイルにとじてあるものが、A4サイズ、B5サイズ、A5の伝票、もっと小さな複写伝票とさまざまで、かつそれぞれがしわくちゃなので、めくっていくのに時間がかかる。吉永はチェックするのにだいぶ手こずっていたが、やがて吉永が手を止めた。
吉永
「ああ、これだな、これはひと月前に注文したもので除塵機用フィルターAX220とある。ええと、それからこれは7か月前のもので、発注者の名前が古川となっているけどやはりAX220となっている。
古川さんが手配したフィルターの在庫がなくなって山下さんが手配したのがひと月前、そして使用を開始して異常が起きたということか」
古川
「ああ、ちょっと待てよ。山下さん、フィルターの型番はAX220だけでなく、正確にはその後ろに何用ということがつくんだよ。おれは注文するとき納期が心配だったから毎回業者に確認の電話をしていたんだ。そのときポリエステル塗料用って言ってたんだ。山下さんがそういうことを言わなかったとすると向こうはAX220なら何でもよいと思った可能性がある」
?
「ちょっとちょっと、古川さん、私はそんなことを引き継ぎしたとき聞いてませんよ」
古川
「そんなことないよ、引継ぎではそういったことを説明したつもりだったがなあ〜」
山下も定年までまもないという感じだが、古川の方が当然それよりも年上で古だぬき的対応である。二人のやりとりを聞いて吉永課長が両手をあげて二人の話を止めた。
吉永
「ちょっと待ってくれ。そうするとフィルターが変わっていたというのは間違いないのだな」
古川
「さっきは確認しませんでしたが、印刷されている型名を見ればはっきりします」
吉永
「そいじゃ、ちょっと現物を確認してきてくれ。今除塵機に取りつかっている物、在庫している物、古いものがあればいいが、まだ廃棄物業者に出していなければ使用済のものがあるだろう。そのみっつがどうなのか見てきてくれ。頼むわ」
タバコ 古川と山下が部屋から出ていく。
吉永は事務所の窓の外にある喫煙場所に行ってタバコに火をつけた。面白くないような顔をしている。
竹山はやはり文書で決めておかないと問題があるなあと思いつつ出されたお茶を飲んだ。もうすっかり冷たくなっていた。

結局、新旧のフィルターは型名が違っていた。そして現品違いの原因は引継ぎ時の連絡ミスのようだったが、新旧の担当者は言った言わないの水掛け論を延々と続けた。
竹山はもういてもしょうがないと判断して、電車の時間だと言っておいとました。

老人は往々にして過去の自分の仕事を美化しやすいものである。自分がしていた仕事は問題なく、ミスもなく、それに比べて後任者はなってないと確信しているようだ。
おおっと、私もその例に漏れない。心しよう。


今日、竹山は都内の大手販売会社に来ている。ここは素戔嗚すさのおグループと称してはいるが、東証二部に上場していて正確には子会社ではない。しかし素戔嗚電子がいろいろなことについて指導を行っていて、環境管理についても環境管理部が指導をしているし、また環境監査もしている。
環境管理は総務部が担当である。谷口谷口という方が竹山の対応をしてくれた。
谷口
「私は素戔嗚からの出向なんですよ。初めは営業にいたんですけどね、成績が悪いせいでしょうか、半年ほど前に総務に回されて今は環境管理を担当しているのです」
谷口はそう言ったがそれはもちろん冗談である。彼も出向して数年が経ちまもなく転籍する予定で、ゆくゆくは総務部長になると竹山は聞いている。部長になるまで総務部の各業務を一通り担当するのだろう。
竹山
「最近は環境が脚光をあびていて、どこでも環境管理を強化しています。しかし素戔嗚グループの各社を見ていますと、過去10年間に環境部門の人員が倍近くなっていますが、それが適正な人員規模であるかということについては私どもでは若干疑義を持っております。それで実情調査をしてより環境管理の生産性向上を図ろうと考えており、現在関連会社さんのヒアリングを行っているところです」
谷口
「おっしゃることはよく分りますよ。ウチもほんの数年前までは環境なんていう仕事があるとは考えていませんでした。オフィスの廃棄物は街の業者に頼んでおしまい。省エネなんて考えたこともなく、社有車の運転だって省エネ運転なんて考えたこともありませんでしたね。私も営業時代は車の運転で省エネに気を使ったことなんてありませんでしたし、エアコンをバンバンかけていたものです。ところが今はね・・」
竹山
「環境管理と言いましても会社によってさまざまですから、一律的な標準化をして、これに基づいてやれということはできないと思います。ただ各種業務の手順を共通化したり、教育資料などを私どもから提供するということで全体的な省力化や管理レベルの向上が図れないかと考えています」
谷口
「それはいい考えだねえ〜。先ほど言ったけど私が総務に来て間がないんだけど、今までいろいろ困ったことがありましたよ」
竹山
「仕事の要領などが前任者から引継ぎできなかったとかいうことでしょうか?」
谷口
「まあ、簡単に言えばそうなんだろうけど、
実はね、私の前任者は定年退職してしまったのです。私とはほんの一日二日しか顔を合わせませんでした。このあたりから問題なんですがね、
ところで本社の環境管理というと、この本社ビルの廃棄物、省エネ、オフィス町内会の対応などですが、その他に支社の環境管理指導があります。オフィスの環境管理は支社も本社も同じですが、ビジネスでは環境に関わることがけっこうあるのですよ。
まずウチで取り扱っているものの環境情報提供があります。薬品や塗料もありますし、その中には輸入品もあるのです。そういったもののMSDSは我々に提供義務があります。輸入品の場合は外国のMSDSではしょうがないので、日本用に該当法規とか記載内容を合わせて作成しなおさなければなりません。
仕事そのものでもいろいろな事情で客先から引き取ることもありますし、また工事もしていますし、リース関係とかまあいろいろあるわけです。それらの廃棄処理は膨大になりますね。
で、話を戻しますとそういったことが一日二日話したくらいではわかりませんよ。いや実を言いますとね、私の場合ホンの1・2時間引継ぎをしただけなんですわ」
竹山
「手順書などがなければ、もう暗中模索ですね」
谷口
「いや、その逆でしてね、前任者は手順書があるからそれを読めばわかるというのですよ」
竹山
「ホウ?」
谷口
「前任者から引き継いだ手順書なるものはおそろしいものでした」
竹山
「はあ?」
谷口
「なにしろ10ポイントの細かい字で150ページもあるのです。そこに廃棄物の要領、省エネの要領、リースの扱い、その他もろもろありました。一見して読む気が失せましたね、アハハハハ」
竹山もつられて笑った。
谷口
「それをしっかりと読めばちゃんと仕事ができるのか分りませんが、ウーン、
今は支社から問い合わせを受けたりすると、該当箇所をめくって回答したり、他の支社の方に相談したりしてなんとかしのいでいます」
竹山
「その手順書を完璧にマスターすれば大丈夫なレベルなのでしょうか?」
谷口
「そう願いたいところですが、実を言ってわかりません。それと法改正がありますから、そういったことをどのようにこの手順書に反映といいますか改定していくのか途方に暮れてしまいます」
竹山
「前任者の方は勉強家だったのですね」
谷口
「どうなんだろうねえ〜。聞くと数年前はウチでも環境に力を入れろという時代だったそうで、環境担当が三人くらいいたそうです。その人たちがISO14001認証をしたり、またこのような環境業務の手順書を整備したそうです。でも一旦ISO認証もして、各種手順書もできたからもういいだろうということで、担当者が定年退職しても後任を補充せずに半年前には一人になってしまったそうです。まあ良く知っている人なら一人で間に合ったのかもしれませんが、私のような駆け出しではどうにもこうにも・・・・」

竹山は谷口にその手順書を見せてもらった。パラパラとめくっただけで読む気が失せた。文字が小さいだけでなく、行間が狭く、それに挿絵ひとつない。普通は1ページに一つくらい絵とかグラフを入れると読みやすいと言われる。文章を書くときには、読んでもらえるような努力をすべきだ。
竹山は産業廃棄物管理票と書いてある項目を読んでみた。すると「○○欄には何々を記入する」というふうにある程度具体的に記載してあるものの、マニフェストの図もなにもないので、この文章を読んで仕事になるとは思えない。脇にマニフェストの絵を描いて文章の項番を図中に①とか②とか記載しておくべきだろう。それだけでも文章だけを読むのとはだいぶ違うだろう。
こんなものを預けられただけで仕事をしろと言われた谷口さんは大変だなあと思う。

竹山
「谷口さん、大変なのはわかります。もし何かお困りとか分らないことがありましたら、私どもに電話でもメールでもお気軽にご相談ください。依頼をいただければご支援致します。
谷口さんが私どもに期待することってなにかありましたら・・」
谷口
「ビル管理者が知っておくべき環境法についてとか、営業担当者に対する環境法教育のように業種、職務ごとに内容を合わせて行ってくれるとうれしいね」
竹山はうなずいた。


竹山は大田区にある従業員100名弱の関連会社に来ていた。
宇佐美宇佐美という保全係長が対応してくれた。
竹山
「今私どもでは環境関連の仕事の仕方を、どのような手順書というか規則というか、文書にしているのかを調べているのです。オタクでは設備の運転などの文書はどのようになっているのでしょう?」
宇佐美
「ここで語ってもしょうがないから現場を歩きながら見てみましょうか」
宇佐美は竹山を連れ出した。
宇佐美
「環境って言われてもピンとこないからね、私が対応している保全関係のものを見ていただこうか」
危険物貯蔵所
宇佐美は工場の外に出てまずは危険物保管庫に連れて行く。
宇佐美
「ここは見ての通り危険物、つまり燃えやすい塗料とかフォークリフトの燃料なんて保管しておく所だ。どんなものをどれくらいどのように保管するかってことが分るようにしているが・・・手順書といえるかどうか、こんなもんしかないね」
宇佐美は壁を指さす。
そこには危険物の種類ごとに置き場所、一斗缶何個までとか、何段積とかを書いている。まあこれが手順書だというならそうもいえるのだろう。
竹山
「なるほど、分りやすいですね。でも誰が担当するとか問題があったらどうするというのは書いてあるのですか?」
宇佐美
「ここに出入りするのは限られた人だけだからまあ問題はないと思う。おっと、出入りするのは危険物取扱者だけではないよ。ウチみたいな小さいところは杓子定規にはいかないからね」
宇佐美はそこを出ると縦横3mくらいで高さ30センチくらいのプールのようになっているところに案内する。
宇佐美
「ここは一応工場で漏えいが起きた時の防液堤になっている。一旦ここに溜めて油などがないかを確認してから外に出すことになる。ここに1トンは溜まるので機械の作動油が漏れたくらいでは大丈夫だ」
竹山
「漏洩した水を確認する方法とか排出する方法などはどこに書いてあるのですか?」
宇佐美
「この看板に書いてある」
竹山は宇佐美が指さす方を見ると、鉄板を白く塗った上にマジックで文字が書いてある。しかしながら書いてからだいぶ時がたったと見えて、マジックの文字は日の光で退色して判然としない。
竹山
「文字があせていて読みにくいですね、ほんとのことを言うとなんて書いてあるのかわかりません」
宇佐美
「まあ、担当者は内容を知っているからね」
竹山
「あのう、ここに一旦溜まるとおっしゃいましたけど、防液堤の中に機械とか一斗缶が置いてありますよね、これでいいんですか?」
宇佐美
「本当は置いちゃいけないんだ。変なものを置けばその分容量が減るからね。でも、なかなか徹底できないわ」

その脇に油水分離槽が設置してある。
宇佐美
「この油水分離槽の管理方法はここにある」
宇佐美は壁に取り付けてある電源ボックスを開けた。その中にA5サイズくらいの冊子がひもでぶら下がっている。
竹山はそれを手に取った。
メーカーの作った取説で、常に水を張っておけ、落ち葉やごみを取り除け、吸着マットは・・・そんなことが印刷してある。ページをめくっていくと、あちこちに鉛筆とかボールペンでメモというか注書きが書き込んである。

『蓋の大きさが同じ大きさでないので番号を合わせること』
『オイルセンサーの先端部は定期的に汚れを落とす』
『作業の前に準備するもの、バケツ、清掃用ブラシ、ゴム引きの長手袋、ゴム長、ゴム前掛け・・』
『吸着マット交換時期は・・・・』
などなど

なるほどこれは現場の知恵と工夫が生かされていて良いことだと思ったが、同時にこんな方法で良いのかという気もする。いや、問題が多々あるだろう。まず書き込んだ人がだれか分らない。書き込んだ内容が正しいのかその通りやる必要があるのか参考程度なのかもどうなのだろう。
次に廃棄物置場に行く。
法律で定める置場表示があるが、その表示板にマジックでいろいろと書き込んである。

『高さが3mになるとトラック1台分になるので明石産廃に引き取りを依頼すること』
『引渡しするとき事務の松井さんにマニフェストを書いてもらう』
『廃油を扱うときはゴム手袋、ゴム長を必ず使用』
『終業時、雨が吹き込まないようにビニルシートをかけて紐でしばって帰ること』

こんなんでいいのかなあと竹山が黙ってながめていると宇佐美が話しかけた。
宇佐美
「どうです。ウチは小さいけど結構しっかりやっているでしょう」
竹山は複雑な思いであいまいにうなずいた。

大手町の本社に帰る電車の中で、文書管理というものはどうあるべきなのだろうかと竹山は考える。ISO規格の中にも、文書体系は会社の規模や文化、仕事の複雑さ、従事者によって異なるだろうとある。これでなければならないということはないだろう。しかし文書管理の基本である、審査(レビュー)、決裁、発行管理、バージョン管理、明瞭性というものは担保されなければならない。とはいえ竹山にはあるべき姿が思いつかなかった。

うそ800 本日の妄想
ISO審査員は多くの企業を見ているから、自分の会社しか知らない担当者よりもより広い視野で見ることができるはずだ。しかしLMJも言ったように、その会社についてはその会社の人のほうが詳しいことは間違いない。
私が環境監査の仕事をしたのはジャスト10年間である。いや10年と2カ月だったか、それはともかく
その間に訪問した会社はものすごい数になる。そういう意味では私は内外両方の情報を持つことができ、そこから多くのことを考えることができたと思う。そういう機会を与えてくれた上司、運命、まわりの人たちに感謝する。
その恩返しとして、いまここで御恩送りを実行しているつもりだが・・

うそ800 本日のくだらないこと
今回三つのお話がありますが、段々短くなるのはどうしてでしょうか?
その理由は簡単で、キーボードを叩くのが飽きてきたからでございます。



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