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「実はせがれは新しい仕事を始めたんですよ」
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「ほう、どこかにお勤めしましたか」
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「そうじゃなくてさ、前回のとき、せがれの先輩がネットラジオをやっているって言ってたでしょう。その先輩がネットビジネスを拡大しようとして、せがれを誘ってきましてね、せがれも魚心があったのか今ではそっちが本業のようです。とはいえフルタイムでもないので朝晩とか向こうが休みの日は店を手伝っていますがね」
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「この店の持続可能を図ろうとしたが、逆に後継者に逃げられてしまったか・・・アハハハハ」
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「実は今日は特段話題があるわけではなく、今までのまとめというか反省をしたいと思いましてね。 まず饅頭屋の商売繁盛をめざして店の改造をしましたが・・・」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「おお、今までの状況はどうでしょうか?」
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「まあ改装したかいはあったということでしょうね。饅頭1個でも食べに来ていただけるお客様も毎日数十人はいます。数十人かける百数十円では困りますが、今までの様子を見るとそのせいかどうか全体の売り上げは増加しています。もちろん将来も大丈夫というわけじゃありません。ただ常にチャレンジしていかないといけないということを再認識しました。 ええと改装前から、息子といろいろ話をしたんですよ。店の改装だけでなく、私たちが提供するものってのは旅行者に憩いの場なのかどうかということがまずありました」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「うーん、だいぶ前にその話がありましたね。饅頭屋いやお菓子屋さんといっても、店によって提供するものが違うということになりますか」
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「そうですね、見た目はお菓子を売るといっても店によって狙いところはいろいろだと思います。それによって競争相手が違います。旅行者に一休みする場所を提供することなら競合するのは喫茶店とか、ファミレスということになりますか。家族で食べるケーキのようなものになると競争相手は宅配ピザとか仕出し屋でしょうし、贈答品であるならお酒とかハムなどと競合するでしょう。 そして我々の先祖が参詣者に一休みする場所とお茶と饅頭を出したからといって、我々もそのサービスを提供しなければならないということもありません。時代が変われば提供するものやサービスが変わるのは当然です。変えなければ持続できません」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「なるほど」
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「二人でそこんところを大いに議論しました」
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「つまり饅頭なりお菓子を追及するか、その憩いの場を提供するものかということか・・」
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「お父さん、目的はそればかりじゃありません。もっといろいろ考えなければなりません。 前回、お父さんが店が失敗してもマンション経営で食っていけると言いましたね。そこもひっかかりました。マンションで食うというより不動産経営っていいましょうか、それが悪いわけではありません。 えーと、そもそもという話ですが、私たちの祖先は昔この辺りで魚を取っていた漁師だったとお父さんから聞きました」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「そうらしいなあ〜」
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「ずっと先祖を遡って、縄文時代か弥生時代かわからないけれどここに住んでいた先祖は、どんななりわいをしていたのだろうかということから始まるわけですよ」
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「このあたりでは貝塚が多く見つかる。ある本に書いてあったが自分たちがとって食べただけではこれほどの貝塚はできないという。貝を獲って干物を作ったり、あるいは貝殻を加工して外部の人たちに売っていたのではないかということだ。もちろん昔は物々交換だったのだろうけど」
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「なるほど、それが真実かどうかはともかく、ここに住んでいた人たち、その中には我が家の祖先もいたのでしょうけど、そういう人たちは手に入る獲物、リソースをどのように活用して自分たちの暮らし営んでいくかと子孫の繁栄を考えたのでしょうね」
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「そういうことを考えると壮大だなあ」
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「古墳時代や奈良時代頃は、この辺は利根川の流れも現在と違い、海もずっと内陸まで食い込んでいて漁が普通にできたようです。やがて時代が下って江戸時代になると陸地化が進んできたし、徳川家康が船橋に漁業の権利を与えたとか、我が家の祖先は漁業に見切りをつけて農業に切り替えたらしい。 そして江戸時代に中山の法華寺が有名になって参拝者が多くなった。それで街道沿いで茶や饅頭を出したと伝えられています」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「いやあ〜、ものすごい歴史のあるお家ですね。私の家など明治時代までしか遡れません。先祖代々の暮らしが思い浮かぶなんてすばらしいことです」
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「良いことばかりではありません。お寺とか親戚の付き合いとか義理も大変です。 まあ、そんなことを思うと、我々が通行人に憩いを提供するというサービスだって最上位の目的ではありません。最上位となると、我々一族が生きていくということになりますか」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「なるほど、となると饅頭屋の将来を良く考えてだめなら不動産経営に徹するというのもありということだな」
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「おとうさん、正直って空洞化、少子化の時代ですから、不動産業の方が将来性は危ないような気がしますが・・・ まあ、それはともかくそんなことを考えまして、息子がITナンチャラをやってみるのもいいかなって思いました。うまくいけばありがたいですし、だめなら饅頭屋に戻っても、饅頭屋がダメならマンションの管理人でもさせましょう」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「店の伝承どころではなくなってしまったなあ〜」
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「いやはや私がISOを言ったことがきっかけで、とんでもないことになってしまいました」
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「二代目は店の伝承とおっしゃいますが、何を伝承するつもりだったのでしょうか?」
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「なにをって? そうそう、初めは饅頭屋を継いでもらうつもりだったけど、今お話したことを考えるとそうじゃないよね。 結局この地で生きていってほしいというか、いやここでなくてもしっかりと生きてくれればそれで十分じゃないのかな」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「そうでしょうねえ〜。この土地で生きていくということなのか、お宅が持っている資本を活用して大きなビジネスを動かしていくことなのか、あるいは過去のしがらみなど気にせずそのときそのときのベストを尽くすのか」
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「なるほど、振り返ると孫に継いで欲しかったのはなんだろうなあ〜」
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「饅頭屋を継いでもらうなんてことは小さなことというか、目的じゃないですね」
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「といってもマンションや駐車場で食っていくのを期待したわけでもない。いやいや、奴にこの町にずっと住んでほしいと思っていたわけでもない。突き詰めると自分の好きなことを存分にしてほしいということなのだろうか」
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「そんなところなんでしょうねえ」
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話が途切れて四人はしばし黙ってお茶を飲んでいた。 税理士の伴先生が恐る恐るといった様子で話を始めた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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「あのう、饅頭屋さんのことではないのですが・・・ISOのことなんですがね ISO9001では品質方針とか品質目標なんてありましたし、ISO14001では環境方針とか環境目的なんてのがありましたね」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「ハイ?」
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「あれってどういう位置づけなんでしょうか? まさか品質方針が最上位の理念とか目的ではありませんよね。饅頭屋さんのお話をお聞きすると、一家の最上位の理念なり目的となると、保有するリソースを最大に生かして一家繁栄を目指すということでしょう。それは饅頭屋さんに限らずどの家庭もどの組織も同じですよね」
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「ああ、先生のおっしゃることが分りました。ISO9001とISOイチヨンなんとかとかいうのも、ものすごく限定された範囲での話だってことだね」
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「そうです。ISO9001では目標設定方法についてあまり難しいことを語っていませんが、ISO14001の方は条件までいろいろつけてますね。目標の条件を指定できるということは規格の目指すところが非常に限定的で選択の余地がないということだろうと思ったのだが・・」
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「伴先生のおっしゃる通りです。経営ってものすごく大きなもの、幅も奥行きもあるものだと思います。先生はバランススコアなんて言葉をご存じと思いますが・・・」
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「バランススコア? バランスト・スコアカードなんてのは聞いたことがありますが・・・」
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「ああ、日本語の言い方の違いで同じものですよ。ええっとこんなものでしたよね」
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佐田は部屋の脇に置いてあったホワイトボードにマス目を描いていくつか文字を書き込んだ。
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「それはなんだね?」
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「経営構造のモデルの一つと言いましょうか・・・こんなふうになっているという一つの考え方ですよ」
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「ええっと、一番左が上位の目的ということになるのかな。それは財務、顧客、業務プロセス、人材という柱からなるということか」
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「もちろん考え方によっては異なるものを取り上げるということもあるでしょうけど」
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「ここで顧客の視点とあるが・・・ということは前提としてどのような製品あるいはサービスを提供するかという決定はこの枠組みの外にあるわけだな」
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「なるほど、そう言われるとそうですね。ということはこれは与えられたリソースで与えられた事業を行うというときの枠組みというわけだ」
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「佐田さんのおっしゃることが分りましたよ。起業というのはこの枠組みの外にあるということですね。饅頭屋といっても店で食べる人と贈答品を買う顧客の期待するものは違う。とするとそのお店がなにを目指すのかで下位の目標や施策は異なる。いや、もっと広く見れば、どのようなビジネスを起業するか継続するかということはより広い視野で考えなければならない」
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「伴先生のおっしゃるとおり、私もISOというのはそういう広い視野でみようというのではなく、非常に限定された戦場の方法論にすぎないなと思いました」
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「さっき私が言いかけましたが、ISOでいう目的とか目標、まあどっちも英語では同じ言葉でobjectiveと言いましたな、そういうのを決定するのはその事業において拡大しろと命じられた管理職ではないのでしょうか。経営者はそんなレベルではなく方針を示すことが職務であり、その方針は組織のビジネスを持続し拡大していくことだということになる。 事業家あるいは起業家は更にその上にあって、お金を増やすことを目指すということになりますか」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「私は青臭いかもしれませんが、お金を増やすことではなく、自分が世の中に貢献することを目指すのだと思います。松下幸之助も山葉虎之介もビルゲイツもジョブスも、お金を儲けようとしたのではなく、結果としてお金持ちになったのだと思います」
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「なるほど、なるほど、とすると元々饅頭屋さんの将来を考えるときにISOを使おうとしたのはそもそもが間違いだったわけか」
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「先生がおっしゃるのはISOではなくバランススコアカードを使うべきだったということですか?」
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「いやバランススコアカードも力不足であって、みなさんは自分たちがどんな事業をして世の中に貢献していくかを考えるのは手法ではなく、みなさんの持っている理念とか理想であるということです。 いかなるツールも考え方も、それを実現するためのものに過ぎません」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「ちょっと待ってください。そうすると・・・イマイチ分らないのですが・・ ISO9001の規格は顧客満足を目指すものとおっしゃいましたね。とするとここでいう顧客満足というのは、与えられた事業における特定の顧客が提供するものやサービスに対しての評価をあげるということになるのでしょうか?」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「そういうことになりますね」
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「ISO規格でいう顧客とは製品やサービスを受け取る人が顧客だったはずです。となると、さっきの話に戻りますが饅頭を売るとしても店で食べていただくというビジネスの顧客と、贈答用の顧客は違うでしょう。となると顧客満足というのは誰の満足なんでしょうか?」
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「うーん、それはお宅が誰を顧客として重要視するかによって決まるのではないですかね」
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「伴先生のおっしゃる通りでしょう。事業を始めるときは世の中に貢献するためのはずです。そのときの世の中という概念と、ISO9001の顧客は同じじゃなくて階層が違うのですよ。ISOでいう顧客満足は、もっと限定されたものであり、実際の事業においてはその限定された顧客を対象にするために戦略も戦術も決まる。」
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「そういうことになるのか。となると今回行った改装の前に、ウチの事業をどうするかということを考えなければならなかったというわけか」
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「それはお前しょうがないだろう。お前だって試行錯誤しても何かしなければと思っていたわけだし 結果として悪くはなかったのだから」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「ISOにしても、バランススコアカードにしても、いや過去の多くの手法、マッキンゼーが唱えたものだって、デミング賞を受賞した会社の手法だって、トヨタの平準化だって、それを採用して大成功したというのはあまり聞きません。シニカルかもしれませんがああいったものは成功した企業を調べたエッセンスなんじゃないかなと思うんです。 ああ、つまり誰でもどこでも成功する方法はない。すべての企業はユニークなのですから、その企業を改革したり拡大する方法はそれぞれが異なるはずなんです」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「おっしゃることはよく分ります。私もコンサルを自称していますが、他の会社でうまく行ったことを別のお客様のところで指導してもうまくいきません」
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「ISOというものを聞いたとき、我々はISOをやれば良くなると考えたことが見当違いだったということか」
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「佐田さん、疑問があるが、ISO9001といっても版によって大きく違うようだね。昔のISOはお客様のためのもの、今のISOは会社のためのもののように思える。といっても今のでも会社に役に立たないようだけどね」
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「そのとおりです。昔の規格はお客様との約束をしっかり守るというものでした。しかしある程度広まるとそれでは会社が良くならないと言われるようになりました。それもおかしいですよね。良い製品をお客様に渡すということは具体的ですが、会社をよくするってなんでしょうか? ともかくそういう意見があって規格は改定されたのですが、改定された規格で会社が良くなったという話も聞いたことがありません」
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「以前も佐田さんにお聞きしましたが、会社をよくするって何で測るのでしょうか?」
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「わかりませんね。人それぞれの物差しがあると思います。それに利害関係者によっても視点は違います。オーナーの視点、経営者の視点、従業員の視点、お客様の視点。 人それぞれであるなら、みんなの希望を叶えることはできませんね。みなさんの物差しはどんなものですか? 物差しが違えば、それを実現する方法もいろいろでしょう」 ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「せがれは知らんが、わしが饅頭屋をしていたときはうまい饅頭を食べてもらうことだったな」
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「すばらしいことです。でもそれが従業員の期待するものではないと思います。自動車会社の従業員がすべて車が大好きってことはありません。饅頭屋の従業員全員が饅頭が大好きとか、美味しい饅頭を作りたいと思うことはありえません」
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「そりゃそうだ」
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「利害関係者が異なるならそれぞれの考える良い会社とか良い職場は違います。更に言えば利害関係者といっても組織の外の人に対しては影響を及ぼすことはむずかしいでしょう。 影響を及ぼせるのは組織の中だけです。我々ができることは、組織のそれぞれの階層に対して目標を明確にしてそれに向かって努力する雰囲気を作る、そして一番大事なことは、自分が所属している組織に誇りを持たせること、いや、組織を誇れるようなものにすることかなあ〜 朝日新聞のように、所属することが恥だと思うような組織ではしょうがない」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
![]() 佐田は本社に来てからの15年を振り返った。自分は結局なにか会社に貢献したのだろうか。確かに佐田が担当する以前に比べて事故や違反は大きく減ったと思う。工場の環境担当者に教育して法律の読み方や社内展開についてはレベル向上を図ったと自負している。後継者育成にしても竹山を一人前にしたつもりだ。 それは自分の職責においては妥当だったと思う。そして成果もまあ妥当だろうと思う。賃金分は働いたと確信していた。だが今の論理で考えると、自信はなかった。佐田がしてきたことは与えられた戦場において最善を尽くしたことにすぎない。より広い視野で最善を考えたわけではない。今までの考え方で良かったのだろうか? ただISO認証について考えれば、認証を目的とせずに、その上の目的を考えて対応してきたことは間違いない。具体的には、認証のために新たな仕事や文書を作ることは一切しなかった。したのは従来からの仕事や文書から規格要求事項を拾いだすことだけである。そう思うと佐田は少し安心した。 |
もっとも規格が目指すことが実現できたという話を聞いたこともなく、それどころか目指すことが実現できるはずだという説明を聞いたこともありません。
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しかしひとつ大きな疑問がある。 ISO9001:2008年の対訳本の表紙には「品質マネジメントの国際規格」と書いてある。これってどういう意味なのだろうか? 中を見れば「品質マネジメントの国際規格」あるいは「品質マネジメントの規格」なんて書いてあるところは一か所もない。すべて「品質マネジメントシステムの規格」とある。対訳本に「品質マネジメント」というタイトルを付けた人はいかなる考えがあったのだろうか? ISO9001をより大きく見せようとしたのだろうか? ISOがものすごいものだと言いたかったのだろうか? それを書いた人の意図は分らないが、間違いであることは間違いない。 なお、ISO14001の対訳本はちゃんと「環境マネジメントシステム」と書いてある。だから「システムを入れるスペースがなかった」という言い訳はありえない。
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