審査員物語14 氷川と本田と話す

15.01.19
審査員物語とは

三木は環境管理部に顔を出した。亜家周防あいえすおう社の審査を見学できたのも、ひとえに氷川と本田のおかげだ。そのお礼と報告をしなければ・・・環境管理部の部屋に入ると、氷川は入口の給茶機そばのスツールに座ってコーヒーを飲んでいる。忙しそうでなくて良かったと思いつつ三木は氷川に声をかけた。
三木
「氷川君、先週は例の亜家周防社のISO審査を見学してきたよ」
氷川
「おお、そうだった、そうだった。どうだい、ご感想は?」
三木
「少し話してよいかな?」
氷川
「いいとも、どうせならISO担当の本田にも一緒に聞いてもらおう」
氷川は立ち上がり10mほど離れた机で仕事をしていた本田を呼んだ。
本田は給茶機でコーヒーを紙コップに注いで二人の隣に座った。
氷川 三木 本田
氷川 三木 本田
三木
「お二人はISO審査を何度も見ているでしょうけど、私はISO審査を見学するのは初めてでしたからとても勉強になりました。まずはお礼を申し上げます」
本田
「それはよかったですね、三木さんもこれから認証機関に出向されるのですから、一度だけでなく何回か審査を見ておいたほうがよいですよ」
三木
「実は本田さん、もしよろしかったらこれから他の工場や関連会社のISO審査を見学したいとお願いしたいのです」
本田
「いいですとも。私はグループ企業のISO審査予定を把握していますので、あとで送りましょう。その中から三木さんが行ってみたいというのを連絡してください。審査の2・3週間前に依頼しておかないと審査を受ける会社も大変ですから・・」
氷川
「おいおい、その前に初めて審査を見た三木君の感想というかコメントを伺いたいね」
三木
「そうでした、そうでした。まず驚いたのは審査員がかなり上から目線の話し方をすることだ。社長より上と考えているようだ」
本田
「まあ、初めて審査をご覧になった方はそう感じるでしょうねえ〜。いや私は今でもそう思います。でも以前は、そう5年も前は今どころじゃありませんでしたよ。自分を神様というか全権者と考えているような態度でしたね」
三木
「本当ですか!? 企業の方は認証が欲しいから多少の無礼があっても大人しくしているでしょうけど、第三者から見れば違和感100%ですね。
私も長年営業をしていたので、問題があったとき幾度か法務部を通して弁護士に依頼したこともあります。弁護士だって、我々を下に見た言い方はしませんね。審査を見ていると、どちらが客だか分らない」
氷川
「おれも長年行政に届出とか相談に行ったが、おれが若いとき、1980年頃は市役所の職員はお役人が偉いと思っていたようだ。だけど、時代が下るとものすごく低姿勢になったなあ。特に1990年頃以降は市民にサービスする仕事だと考えているように思う。審査員をみると昔の公務員のようだ」
本田
「うーん、誰が客かというのは難しいんですよ。そもそもISO9001のときですが、審査員は顧客の代理人と自称していましたので、審査員が客、お金を払って審査を受ける我々を業者とみなしているのかもしれません。お金を払う・もらうというのと、どちらが客かというのは同一ではないようです」
氷川
「でも客だとか業者という立場と関係なく、世の中ではビジネスの常識として社外の人に対する儀礼とか言葉使いってのはあるだろうなあ」
本田
「氷川さんのおっしゃるとおりです。そういう意味ではビジネスの常識がない審査員もいますね」
氷川
「ビジネスの常識というよりも、社会の常識というべきか・・・」
三木
「おかしなことはそればかりじゃありません。審査員は企業のマネジメントシステムの改善に貢献したいと言っていた。あれってどういう意味なんでしょうか?
もし改善を指導するならコンサルタントでしょうから、本田さんがおっしゃった顧客の代理人とは言えないし・・」
本田
「まあ、そのへんを厳密に考えると支離滅裂ですね・・・ともかくISO審査員はジャイアンのような立場にいると我々企業の者は認識しているということです。審査員はそう考えているのか、いないのか?」
三木
「本田さん、おかしなことばかりなのですが・・・亜家周防社の審査結果、不適合と言われたのが3件ありました。しかし管理責任者である部長が、不具合はすべて受け入れるし早急に是正をするから不適合でなく観察にしてくれとお願いしたのですよ。すると審査員側は、それを了解してしまったのです」
氷川
「本田君、それはよくあることじゃないの」
本田
「確かに・・・・不適合とはISO規格に適合していないのであって、観察は不適合じゃない。そのふたつはレベルが違うのではなくカテゴリーが違うのだけどね・・
実を言って、そういうことをする審査員は多いけど、慈善のつもりなのか・・私にもわかりませんね」
三木
「それから・・不思議なことがもうたくさんあるのだけど、環境側面というのがありますね。その環境側面を決めるのが点数でなければダメなのだそうで・・・」
本田
「環境側面でなくて、著しい環境側面ですね。別に計算で決めなければならないわけではないのですが、認証機関によっては計算式でないとダメというところもありますねえ〜
三木
「ナガスネは計算でないとダメといってましたね。それどころか掛け算する値が二つではダメで、三つ以上でなければならないそうです」
本田
「ほう! 要求がだんだんと高度化してきましたか、アハハハハ」
氷川
「高度化か、アハハハハ。連中も変化がなくてはいかんとおもっているのだろうか」
三木
「笑い事ではありません。亜家周防社では初めは環境側面ごとの使用量と影響の大きさの二つの数値のかけ算だったそうですが、書面審査というのかな、マニュアル類を提出するとそれではダメなので審査までに見直せと言われて、その二つの他に影響の継続時間というものかけ算することにしたらOKになったのです」

NG・・・環境側面の点数= 使用量 × 影響の度合い
OK・・・環境側面の点数= 使用量 × 影響の度合い × 影響の継続期間

氷川
「ああいったものは審査員の嗜好もありますからねえ〜」
三木
「でも好き嫌いで審査をされちゃ、審査を受ける会社にとっては、たまったもんじゃありませんね」
本田
「もう何年前になるかな、ISO14001認証が始まったとき、我々は環境側面の特定、著しい環境側面の決定方法を、業界団体や他業種との勉強会などで研究したのですよ。そこでは専門家の判断とか、会議で決めるとか、まあ我々にとっては当たり前の方法を考えました。法規制を受けるものや事故が起きる恐れがあるもにすべきという意見もありました。それもありだと思いますね。
その後、審査が具体化したとき、まあいろいろしがらみがあってナガスネ環境認証機構に依頼することになりました。するとそういった考え方で審査に臨んだら、ナガスネの審査ですべて否定されてしまったのです」
氷川
「あんときはたまげたな。連中は逝っちゃってるとしか思えなかったね。言うことがハチャメチャで理屈も根拠もないんだよ」
本田
「氷川さん、あれはまったく悪夢としか言いようがありませんでしたね。我々は恥を忍んで他の認証機関に相談に行ったり、既にISO14001を認証していた英国の子会社に問い合わせたりしたもんです。
そういったことを基に、ナガスネに点数でなくても問題ないと話に行ったのですが、まったく話を聞いてくれませんでした。この方法でなければダメと繰り返すだけでした」
三木
「ナガスネの語ることがおかしかったなら、他の認証機関に依頼することはできなかったのですか?」
本田
「三木さん、おっしゃることはわかります。しかしですね、ナガスネに出向者を出すためにはナガスネに審査を依頼するしかなく、ナガスネの審査で合格するためにはナガスネ流を採用するしかないのです。
それ以降、当社グループに私はナガスネ方式を指導してきたというわけです。慙愧、慙愧、我ながら忸怩たる思いですよ」
氷川
「アハハハハ、これも渡世の義理。別に本田君が悪いわけじゃないから恥じることはない。君の仕事は手っ取り早くISO認証をする指導をすることだ。
そして俺の仕事は公害を出さず、事故を起こさないよう指導することだ」
三木
「氷川君、実はそこが疑問なのだよ」
氷川
「疑問ってなんだい?」
三木
「本当はというか、当たり前のことだと思うのだけど、ISO認証することは法違反をしないこと、公害を出さない事故を起こさないという体制を作ること、そういう体制であることを認めてもらったということだよね?」
本田
「三木さんのおっしゃる通りです。ISO14001の意図というのが『順法と汚染の予防』ですからね」
氷川
「序文に書いてあるのだから、たてまえはそうだろうなあ」
三木
「だけど今の氷川君の話を聞くと、いや氷川君に罪をかぶせるつもりじゃなくて、現実のISO審査を見てるとさ、公害防止や事故予防とISO認証とは無関係と言っては言い過ぎかもしれないけど、ISO認証すれば法遵守や事故対策になるとは思えないんだよ」
氷川
「それは・・・言えるな」
本田
「ISO規格、ここではISO14001のことですが、それを満たせば事故が起きないとか公害を出さないというのは1対1の関係ではない。十分条件と必要条件の違いということはありますね。まずそれはご理解いただきたいと思います。
しかし現実にはそういう理論的に厳密なことじゃなくて、規格と実際の審査の乖離、審査員のばらつきというかレベル低すぎってことが多いんです。特にナガスネは末端の審査員だけでなく、上の方も本当の公害対策や省エネをしていたって人は少ないんじゃないかと思います。いわゆる頭でっかちなんですわ。
といってISO規格の専門家とか品質保証の専門家というわけでもない・・」
三木
「おっしゃることが・・・」
本田
「あの認証機関、まあ認証機関といっても特別なものじゃない。単なる株式会社、要するに営利機関なわけですが、その設立目的はただひとつ・・」
三木
「ただひとつ? 営利機関なら利益を出すことでしょうけど」
本田
「いや、目的は業界傘下企業の遊休人員の受け皿と業界外への流出費用の抑止ですよ」
三木
「はあ?・・・うーん言われれば意味は解りますが・・
ちょっと待ってください。ナガスネが我々の業界団体が設立したというのは存じていました。しかし本田さんのように真面目に規格を勉強していた人たちが出向したのならおかしな考えにはなるはずがないでしょう?」
氷川
「そこんところはいろいろあってだなあ〜、リオ会議の頃に経団連が環境行動計画なんてのが出してさ、各社ともこれからは環境だあ〜って走り出したわけだ。
そのあとにISO14001規格なんてのが作られたわけだが、当時ISOに関わった人たちが公害や環境管理と無縁の人ばかりだったということがある。そしてISO14001の意図するところは、従来からの公害防止とか省エネとはレベルの異なる、より上位の概念なのだと言い出したわけだ。まあそれでもかまわないし、そういうのを否定する気もない。ただ現実を知らない連中が頭だけで考えたもんだから、環境側面というものをひとつとりあげても、その概念を具体的に噛み砕いて理解することができなかったのだろうねえ〜、公害一筋の俺にはそう思えるよ」
本田
「氷川さんのおっしゃることが良く分ります。ISO規格に『環境側面を特定しろ』とあるのを読んで、『では特定しよう』と考える人は公害担当者にはいませんよ」
三木
「はあ? 公害に無縁な私にはおっしゃる意味がわからないが・・」
氷川
「三木よ、考えてみろ。だって日々公害や事故を出さないしようとボイラーの運転や機械のメンテナンスをしている人が、なんでわざわざ何が重要なのかを考えなくちゃならないんだ」
三木
「そんなことは分りきっているということか」
氷川
「当たり前だ。ISO規格で環境側面なんて新語を作り、さも重要で難しい概念だ言っていた人たちは、現実の環境管理を分っていないだけだったってことさ。
公害屋にとって当たり前のことさえ分らない連中が、ISO審査してきたということかな。そしてその中でも最低最悪だったのがナガスネというわけだ」
本田
「著しい環境側面を決めるために点数を付けて計算するのではなく、はじめから重要だと考えているものを著しいものにするために配点を考えているというのが実際ですからね」

理想→従来から管理している要素や設備を著しい環境側面にする
現実→従来から管理している要素や設備の点数が大きくなるように検討する
三木
「確かに愛周防社でもそう言っていましたね・・・」
氷川
「まったく何をしているか分らんよ アハハハ/ \ / \」
三木
「ちょっと待ってくれ、ナガスネをウチの業界が作ったというのはわかるけど、この業界各社には公害防止をしている人は大勢いただろう。そういう人は参画していなかったのかい?」
氷川
「だからその当時は、ISO14001とは公害防止レベルのものじゃなくて、環境経営レベルのものでもっと偉いあるいは頭の良い人が担当しなくちゃならないという考えが支配していたということだ。それは今も変わっていないけどね。
そんなわけで各社からナガスネに出向したのはシステムの専門家、システムの専門家といっても組織論とか経営学じゃなくて、自動制御の専門家とかコンピュータ開発をしていたとか、職階の高い管理者、部長クラスとか事業所長クラスとか、もうトホホのレベルだよ。ナガスネの幹部には出身会社では環境部門の部長をしていましたなんて人が多いが、どこでも現場のたたき上げが環境部長になっていたわけじゃなくて、製造とか営業の人が出世して環境部門の長になっただけってのがほとんどで、そういう人たちが集まってナガスネを設立したんだよな」
三木
「氷川君のような実際に公害防止とか廃棄物を触っていた人はいなかったのかい?」
氷川
「ほとんどというかいなかったようだな。おれも業界団体の勉強会で他社の同業者の知り合いは多かったけど、どこの会社でもそういう現場あがりとか環境部門の管理者をナガスネに出さなかった
まあ、ナガスネそのものが遊休人材の受け皿だったから、現場の課長や係長レベルでは不適当ってこともあったんだろうなあ〜」
本田
「氷川さんのお話はよく分りますよ。今は元課長の審査員なんていますが、1997年当時はナガスネの審査員というと、元部長とか元工場長ってのがほとんどでしたからね。それも資材部長とか開発部長とかが多かったですね。彼も大変だったでしょうねえ。
おおっと失礼、三木さんのことじゃありませんよ」

三木三木は苦笑いした。
氷川
「ともかく一筋縄ではいかないいろいろなことがあったのさ。そしてそれは今も変わっていない」
本田
「ええっと、話を戻しましょう。そもそも三木さんのご質問はISO規格からみるとおかしな不適合とか判断があるのはどうしてかってことでしたよね?
ここはもう論理とかたてまえではなく、ナガスネが行うISO審査は、ISO規格に基づいているわけではなく、ナガスネ規格に基づいて行うと割り切るしかないのですよ」
三木
「ナガスネ規格?」
本田
「そうISO14001じゃなくてナガスネ14001という規格で審査されるということです。ですからナガスネ規格を理解して、それに合わせて会社の文書や記録を作るってことです」
三木
「システム構築ってそういうことですか?」
本田
「あのね、三木さん、よくISO14001のシステム構築なんて言い方をする人がいますね。あれって『私はバカです』と言っているのと同義ですよ。システム構築なんて簡単にできるはずありません。いやその必要もないのです。普通の会社は、ISO審査のために存在しているわけではないです。過去から事業を営んでおり、その事業推進において法を順守し社会に迷惑をかけないようにさまざまな付帯業務を行っているわけです。
ISO審査のためにすることは、その会社の過去からある仕組みを、審査員にわかりやすく見せるための仕事なんです」

三木は驚いた。本田が説明したことはここ数か月三木がいろいろと勉強し考えてたどり着いたことであって、その概念が新鮮だったわけではない。しかし以前、氷川がISO担当の本田のことを認証機関や審査員に言われるままに対応しているようなことを言っていたので、そういう人物かと思っていたからだ。今の話を聞くと、そんないい加減な人間でなくいろいろ考えているのだ。
三木
「なるほど、そうだったのか!」
本田
「会社の文書や記録を作ることはシステム構築じゃありません。それは単なるシステムの文書化です。まあ、そんなことさえ分らん輩が多いんですがね。
おっと、また話がそれてしまいました。ナガスネの審査を受けるとしたとき、ナガスネの判断基準を知ってそれに合わせるということなんです」
三木
「すると・・・会社の文書をナガスネ流に合わせなければならないということかい?」
本田
「そこんとこは割り切るしかありません」
三木
「それは会社の仕組みを悪くしてしまうということですか」
本田
「そうじゃありません。会社の仕組みはそのままで、ナガスネ流の考え方をした結果、今の会社の仕組みになったということを説明することです」

三木は頭がクラクラした。本田が語ることはわかるような気がする。三木もサラリーマンだから数日前に美奈子に言われたが、会社なり業界なりのルールに従って行動しているのは否定できない。だが、それには限度があるだろう。ISO認証のためにまったく無意味なことをするのはやはり納得できない。
三木
「本田さん、おっしゃることはわかるような気がしますが・・・それじゃISOを認証するのはどんな意味というか価値があるのでしょう?」
本田
「三木さん、そこは割り切るしかありません。環境担当者はISO認証すれば会社が良くなるとか、改善がはかれるなんて考えてませんよ」
三木
「はあ?」
本田
「環境担当者は日々、公害を出さない、苦情がないように、違反しないようにとかいろいろ考えて仕事しています。そういったこととISOにからまるお仕事は無縁です。
ただ世の中の評価とか業界横並びとか付き合い、そしてなによりも出向者を出すなら認証を受けなければならないということ、しがらみですよしがらみ、そのしがらみのためにISO認証を受けているわけです」
三木
「うーん、そのご意見には不満がおおいにありますが、その通りなんでしょうねえ〜
環境を良くしようとか、遵法とか事故防止とは無縁ということか」
氷川
「三木君、本田君の話は多少大げさだから、そこんところは多少割り引いてくれよ。
ただ現実をみれば間違いではない。事故を起こさない、公害を出さないというためには、ISOなんぞじゃなくて、日々の仕事で運用基準の順守、改善、そのための教育訓練をしっかりすることだろうなあ」
本田
「本来なら現実とISO審査で見せているものが一致していなくちゃならないのです。ナガスネ規格は現実には役に立たないということでしょうね」
氷川
「それからお断りしておくが、他の認証機関、特に外資系はナガスネほどくせはないよ。もっともISO認証がグローバルスタンダードなら、くせがあっちゃ困るんだけどね」
三木
「ええと、教えてほしいというか再確認ですが・・・
私がナガスネに出向するとすれば、ナガスネ規格を理解してそれで審査をするしかないということですね」
本田
「はっきり言ってそれが一番楽だと思いますね」
三木
「楽だとは?」
本田
「自分が正しいと信じても、まわりとぶつかってばかりではナガスネにいられないでしょう」
三木
「しかし・・・ナガスネの基準が他の認証機関と異なっているなら、認定機関とかから指導を受けるんじゃないのですか?」
本田
「現実問題として、認定機関はすべての審査を監視しているわけじゃありません。年に数回、抜取的にISO審査に立ち会っているだけでしょう。それも事前予告付きで・・
だからそういったときはナガスネの最高レベルの審査員の審査を見せているんじゃないかと思いますすね」
氷川
「それにナガスネから認証を受けている企業は、ナガスネ流というかナガスネ方式を採用しているわけだけど、それは審査員に言われたからではなく、自主的にその方法を採用したはずだから、たてまえ上はだけど、だから苦情を言うわけがないだろう」
三木
「しかしそういう対応が続けば、ナガスネの質が良くなることはなく、いやそれどころか下がる一方ではないのだろうか?
それはナガスネだけの問題ではなく、審査を受ける企業側がいつまでも被害を受けるということであり、自分で自分の首を絞めているだけのように思えるが」
本田
「だけどマニュアルの文章を直すとか、必要もない記録を作成するとか、あるいは年に一二度意味のない会議をしたところで大きな被害はありませんよ」
三木
「うーん、そういうものなのだろうか。どんなビジネスでも品質の悪いものを売ったり、あるいはサービスが悪かったりすればゆくゆく客がいなくなって商売あがったりだ。ナガスネが破綻することはないのだろうか?」
本田
「まあそうなるには気骨のある企業がちゃぶ台をひっくり返すようなことがあればでしょうけど、そんな会社はおかしな認証機関を指導するよりも鞍替えするでしょうねえ。もめたりしても一銭の得にもならないですから」
三木
「それじゃ、私は真理を追究することではなく、ナガスネ流を身につけるように頑張るべきだな」
氷川
「本田君、俺の疑問だが、もしいつかナガスネが外部から叩かれて、まったくダメだってことが世の中に知られたとすると、ナガスネはどうなるのだろうか?」
本田
「そういう可能性はゼロではないでしょう。しかし今まで認証機関が糾弾されたのは、ええと・・
三重県の認証機関の審査がいい加減だとして問題になったこと、審査員が豪華な昼飯を饗応されたことくらいでしょう。まあ細かいことを言えば、審査でアドバイスしたとか、判断がどうかということは聞いてますけど。要するにナガスネは、レベルが低いと言うだけで問題になるほどのことはないでしょう」
氷川
「そんなものか・・・・じゃあ、三木君はしっかりナガスネ流を身に付けるよう頑張ってくれよ。どうせ三木君が62とか63までだろうから、あと9年ももてばいいわけだ。だがそうだとすると子会社に出向した方が気が楽だなあ」

三木もこの歳になって、ワンチャンスの公害防止管理者試験を受けたり、その他の資格試験を受けたりするのも割に合わないような気がする。
三木は立ち上がった。
三木
「いや、単に報告に来たつもりでしたが、いろいろと教えていただき勉強になりました。すぐには理解できないこともあります。考えましてまた相談に来るかもしれませんのでよろしく」

うそ800 本日の愚痴
1990年代前半、ISO9000sのとき、私はJ○△、B□I、B▽○△等の認証機関で認証を受けた。当時もいろいろと問題があったが、それは過渡的な時代だから仕方がないと思う。我々も無知だったし、審査員も間違えることもある。そして審査員も間違いとわかれば修正するなどフィードバックはあった。
1990年代後半ISO14001のとき、J○△とか左右QAその他で審査を受けたときも、審査員が法律を知らないとか規格の理解が誤っていた等は多々あったが、それは仕方のないレベルだろうと思う。一社だけダメダコリャとおもったのはナガスネのモデルとなった認証機関で・・これはもう手におえなかった。
仕事柄付き合った認証機関は十指ではきかないが、まあ、あそこには参ったね、


審査員物語の目次にもどる