審査員物語24 審査での疑問

15.04.09
審査員物語とは

この物語は2002年に始まったが、時が経ちこの回では2004年になった。
三木が出向して1年がたった。今は晴れて補がとれて審査員として働いている。審査では担当している部分については、ほとんど三木に任せられている。このままいけばあと半年もせずに主任審査員になれるだろうと目算している。

CEARの主任審査員になるには当初は審査リーダーの経験が3回以上、しかもそのうちの1回は初回認証審査でなければならなかった。しかし2009年以降に審査が減少して、そして更に新規登録する企業が減ってからは、主任審査員の要件を満たすことが難しくなり、登録基準から初回審査経験の代わりに認証機関の講習でよいと緩和された。しかし今回の設定である2004年当時はまだ新規に認証するたくさん企業があり、リーダーと昇格する要件を満たすことは難しくはなかった。順調にいけばまもなく三木も主任審査員になれるだろう。
私が審査員登録制度に詳しいのかって? そうです、なぜかは言えませんが・・・それとももう時効かな?

とはいえ今の三木が迷うことなく審査をしているのかといえばそうではない。三木は審査をするたびに、規格の解釈で悩むことがあった。いや自分自身わからないということではないが、そのときどきのリーダーによって解釈がさまざまで、あるリーダーは問題としなかったことを、別のリーダーが不適合としたりするのが納得がいかない。
もちろん三木はことなかれというかリーダーの判断に異を唱えず大人しくしていた。それが主任になる近道であることをよく理解していた。だから裁量範囲があるような判断がつかないこと、なぜ不適合かを説明ができない場合は、リーダーをしている審査員に判断を仰いでいる。とはいえ、リーダーの見解も怪しげでおかしなことてんこ盛りなことも多い。


ある工場での審査でのこと
審査員は二名で、朱鷺とき主任審査員がリーダーを務めて、三木は審査員として参加していた。
三木 朱鷺
三木 朱鷺
朱鷺はいい色具合に日焼けしている。きっとゴルフが趣味なのだろう。フィットネスクラブとか登山などではこれほどに日焼けはしないだろう。
三木
「環境マネジメントプログラムを拝見します」
1996年版では「環境マネジメントプログラム」と言った。同じものが2004年版では「環境実施計画」と名を変え、2015年版では「環境目的を達成するための取組みの計画策定」とまたまた改名した。まさに「昔の名前で出ています」ではないか!
ISO規格改定なんて、こんなふうにどうでもいい変更を繰り返しているのですから、あなた、バカバカしくなりませんか?
まあどんな改定でも日本規格協会はJIS規格票が売れて、本屋は解説本が売れて、コンサルは指導する仕事ができて、けっこうなことですね!
だいぶ前だが、昔の知り合いが新年度の環境実施計画を作るのだが、タイトルを規格に合わせて変えた方がいいだろうかと問い合わせてきた。お前、社会人だろう 恥を知れ!
会社担当者
「これです」
三木
「ええと、環境目標の環境マネジメントプログラムは確認しましたが、環境目的の環境マネジメントプログラムはどれでしょうか?」
会社担当者
「は? 当社では環境マネジメントプログラムはこれしかありません」
三木
「規格では・・・ええと、4.3.4のb)項に『目的及び目標達成のための手段及び日程』とありますでしょう、ですから目的のプログラムと目標のプログラムが必要になります」
会社担当者
「そういうふうに読むんでしょうか? ええとですね、この規格の文章は『目的及び目標を達成するためのプログラム』であって、これからでは目的のプログラム及び目標のプログラムとは読めないようですが」
三木
「いや、文章の意図は双方を達成するものではなく、それぞれのものが必要なのです」
会社担当者
「規格の文章を何度読んでもそういうふうには思えませんね。それに審査員さんは規格の意図とおっしゃいましたが、ものごとは階層化され、言い換えると上位目標が展開されるわけですよね。環境目的を達成するための環境目標で、環境目標を達成するのが環境マネジメントプログラムじゃないんですか?」
三木と担当者がやり合っているのを耳にした朱鷺主任審査員が隣の席から声をかけてきた。
朱鷺
「三木さん、何か問題があるのかね?」
三木
「あ、朱鷺主任、こちらさんでは環境目的と環境目標それぞれに環境実施計画は必要ないとおっしゃるのですよ。それぞれに環境実施計画が必要と説明していたのですがご納得いただけなくて」
朱鷺
「あー、これはですね、よく勘違いする人がいるのですよ。規格に明白に書いてあるでしょう。環境目的を達成するための環境実施計画と環境目標を達成するための環境実施計画が必須です。 キリッ」
会社担当者
「しかし規格をどう読んでもそうは受け取れません。ええとですよ、英文を見ますと「(a) programme(s) for achieving its objectives and targets.」となっています。「s」は複数形の場合もあるということですが、それと同様に「a」は単数の場合もあるということを意図しています」
朱鷺
「あなたそんな屁理屈はやめてください。お宅の会社でいろいろな開発とか建築をするときに、年間の計画も立てるでしょうけど長期計画も立てるでしょう。ですからここは両方がないと規格不適合になります」
課長
「オイオイ、審査員の先生がそうおっしゃっているのだから、環境目的の環境実施計画も作ることにしようよ」
会社担当者
「しかしですね、必要もないものをわざわざ・・・」
朱鷺
「部長さんはよくご理解されている。そうです、両方ないと仕事が円滑に進みません」
担当者は面白くない顔をして三木をにらんでいた。三木は本心では二つの環境実施計画は必要ないような気がしたが、ナガスネの社内では朱鷺主任審査員がふたつなければ不適合だという説を主張してそれが大勢説となっており、それに反論する気はなかった。
そう言えばと三木は思い出した。審査員登録機関の産環協が発行している「CEAR誌」に、朱鷺主任審査員が連載しているコーナーがあり、数か月前のものに「環境目的を達成するための環境実施計画と環境目標を達成するための環境実施計画が必須である」と書いていた。その次の号に、朱鷺審査員の解説にイチャモンがついたようでCEAR誌事務局の「前回号の見解は著者の個人的見解であってCEARの見解ではない」というコメントがあった。そしてその号の朱鷺審査員のコ−ナーでは前回号の解説にご意見があったが、環境目的を達成するための環境実施計画と環境目標を達成するための環境実施計画があるのが正しいと同じことを繰り返していた。あれを見ると朱鷺審査員の見解は間違っているとまでは言い切れないにしても、絶対に正しいとは思えない。とりあえずここは三木の意見ではなく、朱鷺の意見として処理していただけるので免罪になるなと三木は都合よく考える。
注1:
私は「朱鷺に似た苗字の審査員」が環境目的と環境目標それぞれの環境実施計画がなければ不適合だあと怒鳴っていたのを覚えている。
あの朱鷺さん、まだおたっしゃだろうか? それとも彼に不適合を出された人たちの恨みでも買って・・以下略
注2:
CEAR誌に規格解釈の連載していた審査員が「環境目的を達成するための環境実施計画と環境目標を達成するための環境実施計画が必須である」と書いたのは事実である。そして私は即座に産環協に抗議した。そのときCEARの事務局長という方からなんだかんだと謝罪とも弁明ともつかぬメールを頂いたがそれで納得する私ではない。私はJABを含めて知るかぎりの機関に抗議メールを送った。そしてつてを頼り幾人にもCEARに抗議を要請した。もう10年になる。
その結果、ここに書いたように次の号で「前回号の見解は著者の個人的見解であってCEARの見解ではない」というコメントがあった。しかしながらその朱鷺に似た苗字の審査員が「環境目的を達成するための環境実施計画と環境目標を達成するための環境実施計画があるのが正しい」と同じことを繰り返していたのも歴史的事実である。私はかような不正義を許すことはできない。
お断りしておく、
それは単なる青臭い正義感からではなかった。それによって余計な仕事が増えるわけであり、それによって会社はいかなる利益もない。そのような間違えたことを語る審査員は百害あって一利もないのだ。日本の産業界に多大なる被害をもたらしたと言っても過言ではない。日本の成長の足を引っ張った一人として歴史に名を留めるであろう。


別の会社のときである。
三木 早苗さん
三木 早苗
審査員は二名で、リーダーの早苗と三木であった。
オープニングのあと、二人そろって事務局の審査を行っていた。
早苗さん
「環境方針の周知としてはどんなことをしていますか?」
会社担当者
「社内報の1月号に社長の今年の抱負というところに載せています。ウチでは社内報をよく読んでくれますから方針を理解してくれていると思います」
早苗さん
「ええと、その他にどんな方法で周知しているのでしょう?」
会社担当者
「毎日の朝礼や月ごとの部ごとの朝礼などで、年度の計画とその達成状況などを説明していまして、その中で方針についてもその順守状況などを話しているつもりです」
早苗さん
「それだけじゃ・・・・お宅では環境方針カードを作って配ってはいないのですか?」
会社担当者
「そういったことはしていません」
早苗さん
「それじゃ私たちがこれから現場の審査を行うわけですが、方針が周知されているかをどのようにして調べればいいのですか?」
さすがに三木もこの早苗の言葉を聞いて、そりゃちょっと違うだろうという気がしたが、黙っていた。
会社担当者
「審査員の方が現場でひとりひとりに『あなたは環境方針を知っていますか?』とお聞きになればよろしいのではないでしょうか?」
早苗さん
「お宅の環境方針は文字数もありますから覚えるのは大変でしょう。環境方針を知っていますかと質問したら答えることのできる人はどれくらいいますか?」
会社担当者
「そう言われればそうですねえ〜。正直言って私自身暗唱できるほど覚えていません」
早苗さん
「でしょう。ですから環境方針を周知するために、名刺というか定期券の大きさくらいのカードに印刷して携帯させているのが普通です」
会社担当者
「名刺サイズに印刷できますかね、文字が小さくなってしまうでしょう」
早苗さん
「会社によっては二つ折りとか三つ折りなどもありましたね」
会社担当者
「なるほど、それはいいアイデアですね。そいじゃこれからすぐに作成して配布しますよ」
早苗さん
「それがいいですね。では環境方針の項目は完璧だったことにしておきましょう」
会社側の担当者がニヤリとした。早苗は気がつかなかったようだが、三木はその笑に気が付いたものの、その本意がわからなかった。これで不適合が一つ減ったぞと思ったかもしれないし、審査員の質があまりにも低くて笑ったのかもしれない。


今回は商社に審査で来た。従業員が300人くらいいる。
三木 三杉審査員
三木 三杉
審査員はふたり、リーダーは音響機器メーカー出身の三杉主任審査員で英語が得意だと言っていた。三木は三杉に会うのは今回の審査の打ち合わせが初めてで、移動中に電車の中で経歴などを伺った。得意な英語を活用して海外、東南アジアでの審査に出かけることが多いという。 三木は順守評価を担当していた。隣では三杉が環境マネジメントプログラムを見ている。身を入れて仕事をしていると周りの声はあまり聞こえない。しかし隣のやり取りが段々と大きくなってきたので三木は三杉の方に顔を向けた。三杉と会社の担当者が口角泡を飛ばしてやり合っている。
会社担当者
「目的が3年ないとだめなんてどこに書いてありますか? ISO14001にもアネックスにも、ISO14004にだって3年なんて言葉は一つも出てきませんよ」
三杉審査員
「あのね、環境目標って1年だよね、環境目的は3年てことになっているんですよ」
会社担当者
、環境目標が1年なんてことも聞いたことがありません。あなた、何を根拠にそんなことをいうんですか」
三杉審査員
「あなたはナガスネの講習会受けたんでしょう。あそこでは目的は3年以上、目標は1年って教えているでしょう」
会社担当者
「それはナガスネさんの独自の考えですか? それともISO規格でそのように書いてあるんでしょうか?」
三杉審査員
「ISO規格ではそのような細かいことは決めてないんです。ですけど目的は目標よりも長期だってことはわかるでしょう。ですから目標が1年なら目的は3年と考えるのが妥当です」
会社担当者
「少しも妥当じゃないですね。目標よりも目的が長期だなんてどこにも書いてありませんよ、そして三杉審査員の論理なら環境目標が1か月なら環境目的が半年でもいいことになりますよね。
ともかく当社の目的は多々ありますが、いずれもその目的を達成しなければならないときが納期であって3年なんて決まったものではありません。三杉審査員さん、法改正があって1年後までに対策しなければならないとき、その目的を3年にするんですか、あほらし」
三杉審査員
「あほらしってなんですか! そのような突発的とか短期のプロジェクトは環境目的にあげなくてはいいでしょう」
会社担当者
「はあ! なんか三杉審査員さんのお話は支離滅裂ですよ。じゃあ環境目的に挙げるのは、やらなくてはならないことであって、かつ期限が3年以上のものだけということになりますね。
じゃあ、やらなくてはならないけど、期限が3年以内のものは環境目的に取り上げてはいけないことになる。となると環境目的とは会社で実現しなければならないことのうち、3年以上のものであるというバカバカしいことになりますね。我々はそのようなことでは会社の仕事ができません」
三杉審査員
「三木君、こちらの方は間違っているのは明らかなのに納得してくれない。君はどう説明したらよいと思うかね?」
三木は三杉から対応を振られたので一瞬驚いた。ここは正論で行くしかないように思った。
三木
「三杉主任、内部で打ち合わせますか?」
三杉審査員
「いやいいよ、三木君流でいいから説得してくれないかな」
三木
「そいじゃ、ええとですね、環境目的が3年ということはISO規格要求にはありません」
三杉審査員
「オイオイ、三木君なにを言いだすんだ、困るよ」
会社担当者
「そうでしょう、ですからこれは問題ないのです」
三木
「しかしならがISO審査はISO規格だけで行っているわけではありません。ISO規格は純粋にEMSの要求事項だけを定めていますが、それだけでは審査をする手順が不足しているのです」
会社担当者
「はあ?」
三木
「それで・・・たとえば審査工数つまり工場の従業員が何人なら審査員何人で何日かけるとか、審査の間隔を1年にするのか2年にするとか、審査員の要件をどうするとかいうのはISO14001やISO9001以外の規格や取り決めがあるわけです。よろしいですか?」
三木は周りの人を見まわした。三杉主任審査員と会社担当者のほか数人がまわりを取り囲んで三木の話を聞いている。
三木
「その他、認証機関はこうあってほしいとか、規格の意図を具体的に定めて自社の審査ルールにすることも許されています。もちろん自分が決めたと言ってもそれは無効です。その決めたものを審査を受ける会社に通知して了解を得ておかねばならないことになっています。
そのためにお宅の会社から審査を依頼されたときに審査契約を結んでいます。その中で審査にあたっての提出資料とか審査手順などを決めているのです。お宅にも審査登録ガイドという冊子をお渡ししていると思いますが・・」
担当者は資料ファイルをガサゴソと探った。それらしきものがあったようで取り出して机の上に置く。
三木
「そうそう、それですね。その中に環境目的は3年間であることが望ましいと書いてあるはずです」
担当者がページをめくる。
会社担当者
「しかしガイドブックでは望ましいとなっていますね。つまりshouldではなくshallだから義務ではありません。つまり3年なくても不適合とはならないはずです」
三木
「まあ、世の中の文章の多くはとげとげしい表現をするのではなくマイルドにするのは分りますね。つまりISO規格で環境目的が3年とは決めていないけれど、審査契約で決めているのでこの審査においては不適合となるのです」
担当者は納得しないような顔をしている。
会社担当者
「3年ではだめとのことですが、先ほど申しましたように法改正などで2年以内に対応しなければならないものがあるわけです。そういったものの達成目標を3年後にするわけにはいきません。ナガスネ認証機関としてはそこをどう考えているのですか?」
三木
「ああもちろんそういうものもあるでしょう。ですからそういったものを2年後を目標にして計画し活動するというのは当然です。しかしお宅にはいくつもの目的があるはずです。そういったもので特段期限のないものは最低限3年以上の目的を設定し目標を定めて活動してほしいのです。
例えば省エネとか廃棄物削減などは2年後をめどにということはないと思います。ですから3年間程度の中期といいますか長期計画をまず立てて、それをブレークダウンして1年の目標を立ててほしいのです」
三杉審査員
「いや、そうだった、そうだった。ウチの審査登録ガイドに決めてあったんだよな。忘れていたよ」
三杉はわざとらしくそう言った。

担当者は面白くなさそうな顔をして更に言う。
会社担当者
「となりますと、今の当社の環境目的目標はですね、この一覧表をご覧いただいていると思いますが、省エネ、廃棄物削減、PCB処理などいろいろありますが、今年以内のものもありますし、2年後のもの、3年後のもの、それ以降のものなどいろいろです。今の三木審査員さんのお話ですと、3年以上のものもいくつもありますから、適合ということでよろしいのですね」
三木は改めて「○○社 環境目的目標一覧表」というものをながめた。確かにそのようになっている。
三木
「三杉主任、この場合は3年のものが半数以上あるようです。環境マネジメントプログラムがそろっているなら適合でよろしいのではないでしょうか」
三杉審査員
「そうか、そうか、若干短期の環境目的があっても良いだろう」
会社担当者
「それではそういうことで」

注:審査登録ガイドに環境目的が3年間あるべしと書いてあったというのは私がストーリーを考えて作った。
ナガスネのモデルとなった某認証機関は、審査の場で口頭で環境目標が1年後の目標、環境目的が3年後の目標といっていて、そうでないと不適合としていた。そこでは環境目的が3年であるという論理的な説明はまったくなかった。そして実際には「3年後も考えられない会社はロクな会社じゃないでしょう。御社はそういうことはありませんよね」なんてヨイショをしたり脅したりしていた。
まあ、そんなことを言っているのはロクな認証機関じゃないよね。



三木は会社でも自宅でも、審査への行き帰りの電車や飛行機の中でも、いろいろと考える。
審査では結論は「認証を推薦する」ということになる。ああ、もちろんルール上は「認証を推薦しない」ということもあるわけだが、現実にはそのようなことは一度もない。あってはならない、出してはならないというのが不文律であろう。
まあそれはともかく、結論はそうだが、その結論を導き出すためにISO規格の各項番ごとに要求事項が満たされているか否かを確認する。それが審査である。仮に要求事項を満たしていない場合は、その根拠と証拠を明記しなければならないことになっている。ナガスネの研修では根拠を明記することは徹底して教えられたが、証拠についてはあまり重視していなかったようだ。
だが、先輩の主任審査員と一緒に過去数十回審査に参加したが、指摘事項の記載においても根拠といっても「4.4.5文書管理」とかせいぜいが「4.4.5文書管理c)受入場所にMSDSがない」といった程度であった。
三木は本来なら「4.4.5文書管理c)項では業務が行われるすべての場所で関連する文書の最適版が利用できることを要求しているが、屋外タンク貯蔵所で硫酸搬入立会時に該当品のMSDSを参照することができなかった」くらいは書くべきだろうと思う。いや、このくらい証拠根拠を書かなければお金をもらえないだろうと思う。
だが、余計なことは言わないほうが良いだろう。どうせ半年もすれば主任審査員になって自分が仕切ることになる。そのときはしっかりとした審査をしてまっとうな報告書を書けばよいだろうといささか不遜な考えをしている。
そして思うのだが、先輩諸氏は規格を一字一句読むとか、不適合には証拠根拠を書くなんて初歩というか基本をなぜ無視しているのだろう?
なにを言っても審査員には歯向かわないと思い込んでいるのだろうか? その辺はしっかりしないといかんなと思う。


今回は須々木取締役と一緒だ。取締役と一緒だといささか緊張する。聞くと須々木取締役は三杉主任審査員と同じ音響機器メーカーからの出向転籍者だという。須々木はいくつもISO関連本を書いているが、母体にいた時は環境部長を務めていたものの専門は電子回路らしく環境管理については机上で学んだだけらしい。それをいっちゃ三杉審査員も同様であった。そんな話を聞くと三木は少し自信を持つ。
三木 須々木
三木 須々木

審査先は、大手電子部品メーカーの製造子会社である。
そこで須々木は「環境方針が親会社と刷りあわせされていない」という不適合を出した。それに三木は大いに驚いた。
帰りの電車の中で三木はその真意を聞く。
三木
「須々木取締役、環境方針が親会社と刷りあわせていないという不適合でしたが、あれはどの項番に不適合なのですか?」
須々木
「アネックスにあるだろう、『組織が属するより広い企業体の環境方針があるならばその枠内で、かつ、その承認を得て、環境方針を定め、文書に表すことが望ましい(ISO14001:1996ANNEX A.2)』、あれを根拠にしたつもりだが」

注:この時点では1996年版が有効である。

三木
「でも、アネックスは審査の基準ではありませんし、shallではなくshouldなのですが・・・」
須々木
「かまわん、かまわん。我々は企業を指導する立場だから多少はゴリ押しもかまわないよ。それに向うだってその要求が妥当だって納得したじゃないか」
三木は須々木の論理に納得しなかったが黙っていた。


今日は三木は会社にいて審査を依頼してきた会社の提出資料をチェックしていた。
営業にいた時はものを売るというのは楽なことじゃなかった。競合する同業社もひとつやふたつではないし、買い手の方も値引き、仕様アップ、オプション追加をねだるとか海千山千、更にはお金の回収も一筋縄ではない。それどころか納品したら即倒産なんてこともある。敵もさるものだから駆けつけても手遅れってことがほとんどだ。
それに比べて認証機関とよい商売だと思う。競合他社は多数あるが、この業界ではナガスネがほぼ独占状態だ。そして向こうから接近してくるときもぜひとも審査をお願いしたいと下手で来る。まして値引き要求など聞いたことがない。もちろん三木は営業ではないが、審査の見積もり依頼に来た時などは、営業と共に出ることが多い。
そんなことを考えながらチェックをしていると電話が鳴った。
三木
「ハイ、ナガスネ認証機構です」

注:実を言ってこのように電話に応える認証機関は少ない。多くは「J○○QAです」などと英文字略称で応えるところが多い。一般のまともな企業で受けた電話にアルファベットの略称で応えるところってあまりないと思う。正式社名を言うのは礼儀なのか常識なのか

会社担当者
「○○電気と申します。来月審査予定なのですが」
三木
「はい、○○電気さんお世話になっております。このたびはどのようなご用件でしょうか?」
会社担当者
「あのですね、審査スケジュールというものを頂いたのですが、それがですね、社名が別の会社のもので、内容も当社の予定と日付も何も違うのですよ。間違えて他社さんのものを送ったのではないかと思うのですが」
三木は脇の下に汗が流れるのを感じた。○○電気は三木が担当していない。誰が担当したのだろう。きっと予定表を送るとき、別の会社のものを間違えて送ったのだろう。ひょっとするとテレコになってその会社の方に送ってしまったか、あるいは混乱していくつもの会社の資料をランダムに送付したという恐れもありそうだ。
会社担当者
「私どもでは御社の情報管理がどうなっているのか問題になっております。私も上から言われて困っておりまして・・・」
三木の脇からはますます汗が流れ、誰もいない空間に向かって何度も何度も頭を下げ続けた。。

うそ800 本日の付録
審査でのトラブルは多々経験してきた。その多くは審査員の間違えた規格解釈であり、そのゴリ押しであった。もちろんISO14001審査開始直後は、規格をよく理解していないで御免なさいというところもあったかもしれない。
だが21世紀にもなれば、しっかりした審査員を派遣してもらいたい。特に朱鷺審査員のモデルとなったような審査員は即刻退場してほしかった。といいつつCEARの審査員登録リストを確認したらいまだに現役で頑張っているようだ(2015.04.04現在)。いい加減引退して日本のISOを悪くしないようにしてくれよ。

うそ800 本日の嫌味
審査員のお名前から何かを感じていただけたら嬉しいのですが・・・


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