「三千年の海戦史」

2015.07.23
お断り
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたいという方には不向きだ。
よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。

同じ種で殺しあうのは人間だけという人が多い。人間以外の生物は、同じ種同志で争うのか争わないのだろうか?
どんな生物でも生息数が多くなると餌を争うのは当たり前だし、中には共食いをする動物も多い。だからその答えは人間以外でも同種で殺しあうというのが正解だろう。ただ人間のように科学技術がなくて武器を使わないから戦争をしないように見えるだけではないかと思う。
ともかく人間は食べ物、土地、財宝を争ってきた。戦いの道具も場も、その時点で人間が使えるものはすべて利用して争ってきた。初めは地面で棒きれで叩きあい弓を射り、やがて海の上で船をぶつけ合い、空でレンガを投げ合い、宇宙で電磁波をあてたり、まあご苦労なことだ。

タイトル著者出版社ISBN初版価格
三千年の海戦史松村 劭中央公論41200374282006/6/102400円

この本は海の上の戦いについて、その発祥から現代までいつどこでだれがどのようにとキプリングのように説明する。ここには聞いたことのある海戦、聞いたことのない海戦、勝敗がついたもの、勝敗が分らないもの、戦わずに終わったもの、いろいろある。
戦艦三笠 知らないことがたくさんあった。私は日本海海戦とは一方的勝利に終わった稀有な戦いかと思っていたら、そのような一方的勝利という海戦は多々あることを知った。
おもしろいことだが、海だけでなく陸の戦いを含めた過去600年間の戦闘(戦争ではない)において、戦力が劣勢側が勝利した戦いが64%で、優勢側が勝利したのは18%、残りは勝敗あいまいであったという。桶狭間のような少数が大勝する戦いは珍しくなかったようだ。とすると相手より少ない勢力で戦った方が勝率が良いような気がする。まさかそんなことはあるまいが・・
もっともこれは単に勢力の多寡を言っているだけで、その比率は分らない。40対60とか30対70という程度なら劣勢の方が勝つということも多々あるかもしれないが、1対5とか1対10では衆寡敵せずとなるほうに1000円賭ける。

この本にはもちろん海上での戦いしか書いてない。読めば海戦といっても軍艦が敵の軍艦と出会い、それやっつけろ!てな簡単なものではない。海戦をするまでが長い道なのだ。
まずその国家がどのような戦略をとるのかということから戦術が決まり、戦術によって軍艦の性格が決まり、その結果兵器や防御の仕様が決まり、その仕様により、兵装、乗組員、その他もろもろが決まってくる。指揮官は自分側の武器弾薬、乗組員の性質・練度・状況を把握し、敵の状況を推測し、取りえる戦法の中でもっとも有利と思われる戦い方を選択することになる。
しかし理想とおり行くことはめったになく、故障、病気、兵器の不足、第三国による妨害や支援などによって選択肢は変わる。
兵器の仕様による制約は絶対だ。人力のガレー船時代は母港からの距離が制限され、帆船時代となると風向きによって制限された。
アルマダの海戦でのスペインの無敵艦隊の大砲は威力大であったが射程が短く、小口径でも射程が長いイギリスの軍艦に一方的に撃たれた。陸と違い遮蔽物に隠れて忍びよるということができない海上ではもう手がない。そしてなによりも陸上と異なり、軍艦同士の通信手段が制約されていた時代は、複雑な指示が困難であり、また情報が交換できず、自軍内の情報共有さえ困難であった。もちろん勝敗は砲填兵器だけでなく、第三国が港を使わせなかったとか、風向きとか、なによりもはるかかなたのスペインから遠征してきたのと、母港から出撃し母港に帰って補給できるなどものすごいハンディキャップがあった。もっとも自分が攻め入ってきたのだから言い訳にはならないけど。
現在の戦いにおいては味方の偵察機や戦車や戦闘機がとらえた敵に対して、それを見ていない他の戦車や戦闘機が攻撃するという昔の人が見たら魔法のようなことは、コミュニケーション手段の発達によって情報共有ができるからのことだ。ドレイク時代に遡るまでもなく、ミッドウェーのときにそんなコミュニケーション手段があれば南雲さん勝利間違いなし。もっとも相手も同じく現代の利器を使えるなら何も変わらないか・・

まあそれはともかく、戦争というものは大規模になればなるほどお金がかかるようになる。徳川幕末の黒船時代、日本の海防がしっかりしなかったのは統一政府がなく各藩がそれぞれ対応したからだという説がある。この本でも戦争が騎士による馬と槍から鉄砲くらいまでは諸侯がそれぞれ軍備を備えることができた。しかし大砲の時代になるとその費用は莫大になり、諸侯単位では軍をそろえることができなくなり、国家単位、国王単位で軍隊を整備することになり、それが中央集権化を引き起こしたという。このへんになると鶏が先か卵が先かという気もするが・・・
海においては初めから貴族がひとりで艦隊を構築できるわけがなく、早い時期に国家としてまとまった国が海軍を持て、世界の海を制したという。
古来より地中海や大西洋沿岸の港湾都市を荒らした海賊がいたらしいが、彼らは暴れても海賊とまりか? まあドレイクは海賊から海軍司令官にスカウトされたらしいけど。

いずれにしても一国の軍備というものはその国の性格が根本にあり、どのような政治体制でどのような理想を掲げるかによって決定されるようだ・・というか、決定されるはずだ。
外国の軍艦をみてうらやましいとか好戦的な国だと思うかは、あまり意味がなく、日本においてはその地勢や国家の方針、国民性などを考慮して、我々はどうするのかということを考えなければならない。
そして現実に国によって軍艦のニュアンスは変わるのがおもしろい。例えばイージス艦を持っている国は2015年現在4か国であり、いずれも基本はアメリカのアーレイ・バーク級である。だけどアメリカのまんまというわけではない。アメリカのアーレーバーク級駆逐艦はアメリカ艦隊では最小の軍艦である。しかし日本においては艦隊最大で旗艦となるから旗艦機能を追加した。そのために艦橋は巨大になり、その代わり海上自衛隊は8隻艦隊でワンセットという考えから、対潜や個艦防衛は僚艦に任せた。韓国でもイージス艦が最大の主力艦というのは日本と同じだが、日本と違い多数の艦艇で艦隊を構成するほど数をそろえることができない。それで対空・対潜・対艦すべての武器を詰め込んだものだからアメリカや日本に比べて重武装イージス艦になった。だがミサイルが多いことは強いということとは同じではない。更にトップヘビーとなったために悪天候下の航行に不都合があると聞く。スペインは空母を中心とする艦隊の防空に特化し余計なものを省いて小さく安くとなっている。イージス艦といってもその国その国の求めるものが異なるのだからそれは当然だ。もっともその結果が適正なのか、いざとなったとき有効なのかはまた別の話だ。
タイコンデロガ巡洋艦タイコンデロガ級(アメリカ)
満載排水量 9400〜9600t

漏れておりまして11/19追加
アーレーバーク級アーレイ・バーク級(アメリカ)
満載排水量 8300〜9600t
日本のイージス艦こんごう型(日本)
満載排水量 9485t
世宗大王級世宗大王級(韓国)
満載排水量 10290t
アルバロ・デ・バサン級アルバロ・デ・バサン級(スペイン)
満載排水量 6250t
(オーストラリアはスペインと同じものを建造中。2016就役予定)
その他にフリチョフ・ナンセン級(ノルウェー・満載排水量5121t)があるが、それがイージス艦と言えるのかどうか不明。ミニイージスとして別扱いしている書籍もあり。

世界の戦車の強さ順位なんてのがあり、韓国のK2が日本の10式より上だなんて韓国ネットははしゃいでいるが、全く意味のないことだ。まず戦う相手がなにかということによって求められるものが違う。アメリカのエイブラムスが戦車戦を想定しているとは思えない。アメリカは航空攻撃で敵地上部隊を壊滅させてから地上戦を始めるから、エイブラムスの敵は敗残兵とかパルチザンで、敵戦車とあいまみえることはなさそうだ。イスラエルのメルカバの敵は戦車よりもテロが多いだろう。韓国のK2戦車と日本の10式が戦うことはまずない。K2の相手は北朝鮮の戦車だろうし、10式の相手は上陸してくる中国の水陸両用戦闘車両だろう。韓国が日本に攻め込んでくるにしても、どうやってK2を日本まで運んでくるのか? 10式がわざわざ朝鮮半島まで行くことはありえない。

と考えると、海軍だけでなく、軍備だけでなく、すべてについて同じことが言える。
だいぶ前、三橋貴明の「崩壊する世界 繁栄する日本」なんて本を読んだが、日本が今の日本であるということは国土、地形、気象、植生などの影響を受けた結果であり、それぞれの国がそれぞれユニークな経済・社会・文化を持つことも同様なのだ。昔、日本はスウェーデンを見習えとか、スイスのような国であるべきだとか語る人がいた。2000年頃、これからは金融立国だ、アイスランドを見習えとか言っていた人もいたけど、リーマンショックでアイスランドは氷山に沈んだ。
その後シンガポールが理想とか、韓国の政策を見習えなんて騙る人もいる。韓国はもう左前で見習うまでもなさそうだが、それはともかく、そもそもそんなことは無理なのだ。
資源のない国が資源のある国を目標にしてもダメ。人口が1憶3000万もいる国が、人口数千万とか数百万の国と同じ方法は取れない。
とりえる道はひとつしかない。自分の特徴をよく理解し、それを生かす方法を採用するしかない。
頭の良い人に並みの頭の人が学科で勝とうとするのは無理。相手が得意でない体育で勝とうとか、趣味の世界でとか、戦略を考えないとならない。そして自分が選択した道をいかにして究めるかという戦術になるが、戦略を間違えれば戦術では戦略のミスを取り戻すことはできない。
人間は3000年間の海戦でそういうことを命を懸けた戦いで学んだわけだ。当然陸戦においても学んだはずだ。
しかし現実の世界を見ると、経済でも政治でも2000年前のレバノンやローマで行われたことを繰り返しているように見える。現実に今でも、金融立国だあ、韓国を見習え、中国はバブルではない、と叫んでいる人が多いし、本屋にはそんな本がたくさん並んでいる。人間は、日本人に限定しても良いが、もっと過去の歴史を学ばなければならない。追体験は良いけれど、実際にミスを繰り返すことのないようにしなければならないと思う。
ともかく国土、国民、気候、周辺国家の環境、そういったことが織りなして、戦争も経済も文化もあるのだなあとしみじみと思う。
尖閣列島を中国に差し上げるという人々は、日本の米を食べ水を飲んで育った人ではないと、これまたしみじみと思う。
安倍首相反対のデモを外国人が見て、反内閣デモではなく反日デモだと言ったそうだ。どの国でも反政府デモ、反国家首脳デモをするとき、その国の国旗を掲げ、我々は国を愛しているゆえに政府に、国家首脳に反対しているのだと表明するのだそうだ。あからさまに赤旗を振り、日の丸を足蹴にするのは、政府に反対しているのではなく、日本を愛しているのではなく、外国勢力の手下であることを表明しているとみなされるという。
もっともプラカードにハングルが書いてあるのは、国外勢力のテロ活動かも知れない。

本日のまとめ たかなみ
「軍隊ほど儲からないものはない。しかし軍隊がなければもっと儲からない」とはギリシアの伝承だそうだ。また「中立は強力な武装によってのみ成り立つ」とも言われる。日本人もこれの名言を肝に銘じないと、お金も、国家も、そして心も命も失ってしまうよ。
沖縄独立を叫ぶ知事や沖縄県民は、中国の尖閣侵略をどう考えているのだろう。
それともう70年前の沖縄ではなく、今日のそして明日の沖縄を議論したいね。


名無し様からお便りを頂きました(2015.11.19)
お名前を名乗らない方から、タイコンデロガ級が抜けているぞというお叱りをいただきました。
なんということ!
イージス艦の初代を忘れては生きていけません。未熟の至りです。すみません、
追加しました


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