0.3 成功のための要因

15.01.29
タイトルが「成功のための要因」とあるのだから、十分条件ではなく必要条件であるのはわかる。だが必要条件であるならばそれは重要なことである。少なくてもこれを満たさなければ成功しないのだから。
では成功のための要因とはどんなものだろうか?
ぜひとも知りたいものである。

まずは全文を見てみよう。
環境マネジメントシステムの成功は、トップマネジメントによって主導される、組織の全ての階層及び部門からのコミットメントのいかんにかかっている。彼らは、環境影響を低減又は除去するような機会、特に戦略及び競争力に関連のある機会を活用することができる。トップマネジメントは、他の事業上の優先事項と整合させながら、環境マネジメントを組織の事業プロセス、戦略及び意思決定に統合し、環境上のガバナンスを組織の全体的なマネジメントシステムに組み込むことによって、これらの機会に効果的に取り組むことができる。この国際規格をうまく実施していることを示せば、適切な環境マネジメントをもつことを利害関係者に納得させることができる。
しかし、この国際規格の採用そのものが、最適な環境上の成果を保証するわけではない。二つの組織が、同様の活動を行っていながら、それぞれの順守義務、環境方針のコミットメント、用いる環境技術及び環境パフォーマンスの目標点が異なる場合であっても、共にこの国際規格の要求事項に適合することがあり得る。
環境マネジメントシステムに必要な文書類及び資源の詳細さ及び複雑さのレベル並びにそれらの範囲は、組織の状況、規模及び立地、順守義務、環境マネジメントシステムの適用範囲、並びに組織の活動、製品及びサービスの性質(これらの環境側面及び潜在の影響も含む。)のような多くの要因に依存する。
(ISO14001:2015DISより)
これを読んで「すばらしい」「なるほど、そのとおりだ」と思われた方がいるならば、いやそういう方は多いと思うが、文章をよく読んでない人だと私は思う。だって、つじつまが合わないし、読んでストンと腑に落ちるようなことが書いてないじゃないか。
とはいえ、それは元々の原文がおかしいのか、日本語訳がおかしいのか、これを読んだだけではわからない。では個々に考えていきたい。

環境マネジメントシステムの成功は、トップマネジメントによって主導される、組織の全ての階層及び部門からのコミットメントのいかんにかかっている。
「トップマネジメントに主導される」は後半部分と並列なのか、後半部分の形容詞節なのか、どちらにもとれそうだが、原文をみると後半部分(英語では前半部分)にかかっていることがわかる。誤訳とまでは言わないが、句読点の打ち方を直すかあるいは接続の見直しをすべきだろう。
ところでコミットメントであるが、「組織の全ての階層及び部門」の人に要求しているのであろうか?
本文をみてみよう。コミットメントという語は、マネジメント(経営層)にだけ要求されていて、組織の管理下で業務を行う人に求めていない。ということは「組織の全ての階層及び部門からのコミットメントのいかんにかかっている」ということはどういうことなのだろう?
ISO規格要求だけでは不十分ですよということなのだろうか?(もちろん不十分であるのは間違いないが)
あるいはもうマネジメントシステム規格だけでは環境マネジメントシステムが成功することはできず、組織に属する全員の総力を集めねばならず、小集団活動や提案制度のようなISO規格要求以外のさまざまな手法を必要とするということなのだろうか?
わかる方教えてください。

彼らは、環境影響を低減又は除去するような機会、特に戦略及び競争力に関連のある機会を活用することができる。
「することができる」ってどういうことなんでしょうか?
いやちょっと待てよ英語原文はどうなのかと見ますと、They can leverage opportunities ですから、訳文は間違えていないようです。

ISO規格要求でないことも「活用することができる」ということなんでしょうか?
これはISO14001の序文であるから、ISO規格通りにすればこんなに良いことがあるよと言わなければならないと思います。例えば英会話の本があったとして、その本の序文に「あなたは他の英語の本も活用することができる」と書いてあったとして、良い本だと思いますか?
あるいはISO規格要求を満たせば、チャンスを逃さないようになるのでしょうか?
でもleverageは活用するで、逃さないではないようだけど・・

トップマネジメントは、他の事業上の優先事項と整合させながら、環境マネジメントを組織の事業プロセス、戦略及び意思決定に統合し、環境上のガバナンスを組織の全体的なマネジメントシステムに組み込むことによって、これらの機会に効果的に取り組むことができる。
「卵が先か、鶏が先か」という問いには答えることは難しい。だが、「環境マネジメントシステムは全体的なマネジメントシステムと別なのか、環境マネジメントシステムは全体的なマネジメントシステムの一部なのか」という問いの答えは明確である。環境マネジメントシステムは全体的なマネジメントシステムの一部であり、その性質からいって統合もできないし組み込むこともできない。なぜならそれは全体と部分の関係であり、そもそもが統合しており入れ子になっているからだ。おっとそんなことは規格の定義に書いてある。この一文はまったくの見当違い、間違い、勘違いである。
私を勘違いだという方がいれば、あなたはISO規格以前に企業の仕組みについて基本から考えないといけない。

この国際規格をうまく実施していることを示せば、適切な環境マネジメントをもつことを利害関係者に納得させることができる。
この文は、ISO14001規格は認証のためのものであるということを意味するのだろう。
「利害関係者に納得させることができる」ためのものが、「組織が成功するための要因」ということは、組織の成功とは「順守と汚染の予防」ではなく「利害関係者に納得させること」なのか。
おっともちろん、認証とは「順守と汚染の予防」ではなく「順守と汚染の予防をしっかりやってと利害関係者に納得させること」ではあろうけど。だがそれは認証の成功であって、組織の成功ではないように思う。
一市民としては、適切な環境マネジメントをもつことよりも、事故を起こさず法を守ることを希求するところだ。

しかし、この国際規格の採用そのものが、最適な環境上の成果を保証するわけではない。二つの組織が、同様の活動を行っていながら、それぞれの順守義務、環境方針のコミットメント、用いる環境技術及び環境パフォーマンスの目標点が異なる場合であっても、共にこの国際規格の要求事項に適合することがあり得る。
このセンテンスは1996年版から変わっていないようだ。
書いてあることは妥当というか現実であるだろう。だがそれはとりもなおさず、この規格は認証のための最低レベルを規定したものだということを意味する。
そして「環境技術及び環境パフォーマンスの目標点が異なる場合であっても、共にこの国際規格の要求事項に適合することがあり得る」ということは、成功とはレベルの異なる二つ以上の状態があることになる。ひょっとして「成功」とは「順守と汚染の予防」の実現ではなく、この環境マネジメントシステム規格要求を満たすことなのだろうか?

環境マネジメントシステムに必要な文書類及び資源の詳細さ及び複雑さのレベル並びにそれらの範囲は、組織の状況、規模及び立地、順守義務、環境マネジメントシステムの適用範囲、並びに組織の活動、製品及びサービスの性質(これらの環境側面及び潜在の影響も含む。)のような多くの要因に依存する。
語ることには同意である。審査員がこの一文をご理解されることを希求する。
だが・・・・審査以前に、認証とは無意味であるということになるのだろうか?
というかこの規格は「スタンダード」ではないとうことかな?

うそ800 本日の提言
現在の状況を考えると、「組織が成功するための要因」ではなく「ISO認証制度が成功するための方策」を考えるべきじゃないだろうか?
どう考えてもこの項で書いていることが「組織が成功する要因」とは思えない。
おっと、その前に「組織の成功とはなにか」を定義してほしい。

うそ800 本日の謎
この項を読むと、「ISO14001規格は力を持ちません。みなさんはこの規格だけでなく、あらゆる手法を使って頑張ってください。そして成果を出してください。成功しなければみなさんの努力不足です。成功したときはISO規格のおかげですよ」と語っているだけのような気がする。



うそ800の目次にもどる
ISO14001:2015解説に戻る