脅威及び機会

15.03.23
これを書いた後に、2015年3月現在DISのリスクとか機会について見直しが検討されているということを知った。
どう変わるのかわからないが、変わってからまた考えたい。
この文章を読むときは、そこにご留意願いたい。

学問でも町内会の規約でも趣味の収集でも、どんなものでも時と共に幅広くそして深く進化していくようだ。そういえば最近は、「進化」という漢字の代わりに「深化」と書いたりもする。
なにごとかの修行を行い、その上達を「守破離」などという言葉で表すこともある。「守破離」とは元々は武道において到達したレベルを語る語かと思っていたら、一説ではあるが千利休が源らしい。起源はともかく武道に限らず、芸事、伝統芸能などにおいて修行者の進歩のレベルを示す。
我が愛しきISO規格も、「守破離」の「守」を卒業して「破」の段階なのか、それとも既に「離」に至ったのか、「脅威」ばかりでなく「機会」まで言及するようになった。

矢印

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当然ながら守破離の流れになるには、なにはさておき伝統なり師がなければならない。
ところが私のISO修行は田舎剣法で己の試行錯誤だけで今に至る。 侍 それゆえ師もなく、○○フォーラムなんてグループに属したこともなく、どなたかから免許皆伝をいただいたわけでもない。 だからそもそも「守」もなければ「主」もないから、ゆえに「破」もありえない。出発点からして「離」であったわけだ。エッヘン
おっと、剣術使いの最高峰、宮本武蔵だって師についたわけでもなく誰かから免許状をいただいたわけでもない。すると私は「ISOの武蔵」を名乗っても良いのだろうか?
ま、そこまでいうと笑われてしまいそうだから「ISOのべんのすけ(武蔵の幼名)」くらいにしておくか、
師がいなければ上達が遅いとか、間違った方向に進む危険はあるが、他方、先人に盲従することなくひとつひとつ自分で考え道を拓いてきたということでもある。いや下手な考え休むに似たりというから自慢することでもない。

ところで元々は品質保証規格とか遵法と汚染の予防に過ぎない環境管理の規格が、マネジメントシステム規格と名乗り、関係者は経営の規格と僭称する。そんなたいそれたことを言うのは、可笑しいを通り越してバカバカしいと思うのは私だけであろうか?
まさかドラッカーとか野中郁次郎の向こうを張ってなんて身の程知らずなことを・・・

では本日のお話のはじまり、はじまり
機会の原語はopportunity(儲けのチャンス)だがからあんまし上品なイメージではないが、それはとりあえずおいといてと・・・私が気になるのは、プラスのリスクとマイナスのリスクを同じ尺度で考えるようになるのではないかということである。
1万クレジット賭けても良いが、来年から審査員が「有害な影響(脅威)と有益な影響(機会)の、それぞれのリスクを評価しなければなりません。そして評価結果を比較して対応を考えるのです」なんてウソを堂々と語るようになるのではないだろう。
え、あなたはそれが正しいとお考えですか?
もしそうお考えなら、それは危ないから考え直した方が良いですよ、

あなたが環境担当者だとしよう。おっと、ここではISO事務局は環境担当者には入らないことに注意してほしい。ISO担当者はエクセルとかワープロは得意かもしれないが、品質や環境に関する本当の仕事をしていないからである。
工場排水 もしあなたが環境担当者なら、日々汚れにまみれて仕事をしているだろう。排水処理を担当していて事故が起きないように、故障が起きないように毎日施設を歩き回っているだろう。文章で書けばそれだけであるが、排水処理の現場はかなり臭う。
あるいは電気担当なら、力率が下がってないかとか、どこかの職場でおかしなことをしてないかとか、日々見張っているはずだ。地震や大風の後には、柱上変圧器や電線の異常を点検しなくちゃならない。鳥の巣、ネズミ、木の葉、枯れ枝にも油断できない。工場の停電事故原因の2割が鳥獣と樹木と言われる。もっとも原因が分らずヘビのせいにしている可能性もある。知り合いの電力会社の作業員が、どうしても原因が分らないときは蛇を捕まえて・・・なんて語っていたのは聞かなかったことにしておこう。
まあ、そういうのを本当の仕事といい、本当の仕事をしている人を環境担当者という。

エクセルで環境側面の数値計算をして、「おお!これは点数が高いから重要だ」なんて寝言を語っているのは環境担当者ではなく単なるアホという。
それはともかくいかなる環境担当者でも最重要、最優先事項と考えていることは、事故を起こして近隣に迷惑をかけないように、法に違反して社会に迷惑をかけないように、操業を止めて現場に迷惑をかけないようにという非核三原則ならぬ、非迷惑三原則だろう。
世のため人のためということは、自分のため会社のためと同義である。

もし遵法や安全よりも、効率優先とか費用削減が重要なんて頭にあるなら、環境担当を止めた方が良い。それは非常に危険なことだ。事故を起こせば社会的に糾弾され刑務所に行くようになるかもしれない。刑事罰が科されなくても、あなたは責任を取って辞める羽目になるかもしれない。問題が起きれば担当者でも責任者でも社内的な処罰もされる。外部まで影響しない社内的な事故や問題であっても、懲戒解雇とか、依願退職、そこまでいかなくてもどこかに飛ばされるなどの処分を受けることは間違いない。
要するに事故とか違反とはそれほど重大なことである。だからこの世で事故を起こしたり違反したりすることは、恥ずべきどころか人様に迷惑をかけるし、己の罪は重大だ。

いや、あなたがどんな職務でもよい、まっとうな環境担当者としよう。いや実を言って環境担当者でなくても良い。情報システム管理者であっても、購買担当者であっても、社内の給食を作っているオバサンでも同じであるが、その仕事におけるプライオリティの認識が重要なのだ。なによりも、情報漏えいが起きないように、法に基づき公平な業務を執行したり、食中毒を起こさないようしなければならないことは、環境担当者が事故違反を起こさないことと同じである。

さてそのようなことから人様に迷惑をかけないという大々前提で日常業務をこなしているあなたが、脅威と機会を同等に考えるはずは絶対にない。
そりゃ原価低減、ロスコスト削減はあなたの頭から離れたことはいっときもない。廃棄物を減らそう、漏水はないか、漏電はないか、変な機械を入れて力率を下げてないか、無駄をなくそう、そういうことは当たり前である。
だが、脅威と機会といったときの機会とは、そういう改善とか無駄排除とは次元が違うように思う。
どうも脅威と機会は同じ次元というか一直線上にあるものではないと思う。いや一直線上にあり、プラスとマイナスの方向が違うのだというなら、その場合のプラス方向とマイナス方向のメモリは大幅に非対称なのだと思う。つまり100円の脅威と100円の機会という場合、脅威には数十倍をかけて比較しなければならないと思う。

具体例として廃棄物の処理を考えてみよう。
今までA社に委託していた。A社とは10年来の付き合いで、あなたは過去何度も現地にも行っているし、向こうの担当者や社長とは冗談を言いあえる仲である。A社は近隣の評判も悪くなく、処理場に行く道には「産業廃棄物業者は出ていけ」なんて看板もない。何事もなければ継続しようと思っていた。
最近B社という産業廃棄物業者が売り込みに来た。いろいろと話を聞くとA社よりリサイクル率が高く、処理費用もA社より2割程度安いという。設立は2年ほど前と言うが、廃棄物担当者であるあなたは近隣工場や同業者からその廃棄物業者の名前も聞いたことがない。
産業廃棄物 このときA社からB社に切り替えたら年間30万くらい安くなるとして、あなたは切り替えるだろうか?
万が一、不法投棄などに巻き込まれたらこちらに違反がなくても措置命令で1000万くらいは軽く飛ぶ。まったく非がなくても協力金なるものをおねだりされる。それどころか委託したあなたの会社の名前が全国報道されるだろうし、そうなれば自分の会社の評判は一挙にダウンする。
保守的とか後ろ向きとか事なかれとか言われるかもしれないが、私は同業他社が取引を開始するのを待って、問題が起きないかを横目で見てから、まあ1・2年経ってから切り替えを考えるよ。
正直言って、考えるだけで替えないだろうと思う
つまりこの場合プラスとマイナスの金額は1対1では評価できず、マイナスの方を30倍くらいして比較しなければならないほど重みが違うということだ。
電気代だって、従来の地域割りではなく他の発電事業者に切り替えるってのが流行りだが、本当にそれ大丈夫かと考えないといけない。少なくても単なる金額の比較だけではないだろう。
太陽光発電装置であれば、製造販売している企業が機器を保証する期間ほど、その会社の歴史があるところはまずない。そういう会社が語ることは眉唾しないといけないと私は思う。
おっと、環境だけではない。仕事を下請けに出すときも同じだ。私が現場監督のとき、値段だけで発注先を選んだものの結局物を作れず、仕事を自社に引き上げて残業かけたり別の下請けに出したり苦労しましたよ。もちろん私がその下請けを選んだのではなく、エライサンが知ったかぶりして決めたことの尻拭いってわけです。
世の中、なにごともプラスの項目とマイナスの項目は単純に比較できるものではなく、重みをかけて比較しなくちゃいけません。

ですから、脅威と機会とセットにして並べていわれても、ハアーと言うしかありません。
おっしゃる通り、脅威もしっかりと考えないといかんですねえ、機会も忘れちゃいけませんねえ〜、ですけど脅威と機会は単純に比較したり計算できるもんじゃないんですよ。
銀行の利子はほとんどゼロ金利、外貨預金ならって思いますよね。でも為替は動くから金利どころかデフォルトなんてされるとって考えるでしょう。それと全く同じですわ、

ところで疑問なのだが実は6.1.4を改めて読むと、昔からというか常識的というか当たり前のことしか書いてない。
6.1.4より抜粋
  • 外部の環境状況が組織に影響を与える可能性を含め、望ましくない影響を防止又は低減する。
  • 継続的改善を達成する。
    (ISO14001:2015DISより)

6.1.4項では、脅威と機会を評価しろとか比較しろなんてことはまったく語っていない。悪いことだけでなく、良いと思われることも忘れるなということでしかない。言い方を変えると当たり前のこと、新しい情報を全く付け加えていないのだ。
悪いことだけでなく良いことも忘れるなということから何か思い出しませんか?
そうです! 環境側面です
ということは・・・これは今後の審査での争点になりそうですね。楽しみです
上記文章からすると審査においても従来と全く変わるはずがないことになる。だが前に述べたように、「有害な影響(脅威)と有益な影響(機会)の、それぞれのリスクを評価しなければなりません。そして評価結果を比較検討し対応を考えるのです」と語る審査員が発生することは間違いない。なぜなら規格が変われば審査も変わる、それが企業を向上させるのだと考えている審査員や認証機関は多いからね。
えつ、ISO-TC委員もそう考えているのかな?
実を言って既に認証機関のウェブサイト、コンサルタントや審査員のウェブサイトやブログ、ISO雑誌などにはそういうご意見(誤意見かな?)があふれています。
もっともそう書かないと書くことがないんだろうという気もする。

うそ800 本日の教訓
前述たように、ISO規格には常識的なことしか書いてない。とすると規格改定後に審査で何かが変わるとすると、それはISO規格の責任ではないようだ。
解釈改憲ならぬ解釈改定の問題であったか・・・



レイシオ様からお便りを頂きました(2015.03.31)
脅威及び機会について1
「有害な影響(脅威)と有益な影響(機会)の、それぞれのリスクを評価しなければなりません。そして評価結果を比較検討し対応を考えるのです」
おっしゃるとおり、コンサル会社等ではすでに発生しているようですね。

DIS版を持ってなくて規格改正説明会だけのため、何とも言えないのですが私的に2点気になっています。

1つ目は6.1.2著しい環境側面の「関係する環境影響を特定しなければならない」の部分です。
これまでの2004年度版では「環境側面を特定しなさい」だったのに今度は「関係する環境影響も特定しなさい」となっています。
最近「工数低減や設備更新の目標や計画がEMPだ」と運用見直しはじめたところですが、「その目標(著しい環境側面)に関係する環境影響が特定(文書化)できていないor漏れている」等の指摘がでないか、と恐れているところです。

2つ目は規格内に新たに追加された内容は、環境側面ではないような気がしております。
いやもちろん、著しい環境側面はリスクがあってこれまでどおりだと思うのですが、気になっているのは「外部環境状況が組織に影響を与える可能性を含め」という点です。
どうも「環境側面」もさることながら「外的リスクも含みなさい」といっているように思います。
・環境側面:環境に影響を与える組織の活動等(要素)※環境側面に関連するリスク(従来どおり)
・追加された脅威と機会(リスク):組織の活動に影響を与える(外的)要素

というのは、6.1.5a)では「リスク」と「著しい環境側面」と「順守義務」への計画を策定せよとなっております。
リスクに対する取り組みと、環境側面に対する取り組みと、順守義務に対する取り組みとそれぞれ(統合化されててもいいのでしょうが)説明となるのでしょう。
リスクに対する取り組みの、意味はわかるのですが具体的に文書化とかできているのか、経営的すぎて我々ごときではよくわかっておりません。

レイシオ様 毎度ありがとうございます。
「環境影響を特定する」と「環境側面を特定する」確かに違いがありそうですね。とはいえ具体的に認証機関がどう考えるかというか、認証機関が考えたことに対応するしか手はなさそうです。
楽観的に考えれば、従来から「運用管理」でそれを反映していたと思いますから、元から満たしているのではないかという気はします。
とはいえ、側面だけでなく<あらゆる>影響も特定しておけとなると問題です。

該当箇所は環境側面ではなくリスクの個所と思います。側面とリスクは次元の異なることですが、現実に事業を進めていく上では両面を考慮しなければならないことは当然です。つまり事故が起きないように違反が起きないようにするには、自社の設備や薬品や工程をしっかり管理していかなければなりませんが、同時に外乱、つまり台風や地震や法規制の変化などにも注意を払わなければならないのは当然です。

この辺の考えとかどこまでどうするのかということにご心配されているのはよく分ります。ですが、このあたりについてはまだ誰も分っていないのではないかと思っております。というのは私は講演会などには行ったことがありませんが、アイソス誌などを読むと「従来と変わらない」という人もいるし、「変わった」という人もいるという状態です。現時点では認証機関も判断つかないのでしょう。まあISOTC委員も分らないのではないでしょうか。
私も現役でしたら自社が認証を受けている認証機関に問い合わせ、それに合わせるしかありません。とはいえまだ2年先のことでしょうから、のんびりとしていていいのではないかと思います。
どっちみち、現場の担当者の常識でできないことを押し付けるほど、現時点のISO認証機関も認定機関も強くありませんよ。最悪、認証を辞退しますと言えば(以下略)


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