脅威と機会の不思議

15.05.14

*これはISO14001:2015のDISを基に2015/5/13に書いたものである。
今後、改定や正式版が出れば見直ししたいと思うが、しないかもしれない。そこのところはご了解してお読みいただきたい。

ISO14001:2015DISの「順守義務」という項目を読んでいて、ちょっと変だなと思うところがある。今日はそれを語る。
どんな文章かというと・・・

6.1.3 注記 有害な環境影響(脅威)又は有益な環境影響(機会)に関連するリスクをもたらし得る。
(ISO14001:2015DISより)

「有害な環境影響」は「脅威」なのでしょうか? 「有益な環境影響」は「機会」なのでしょうか?
それからもうひとつの疑問は、突発的でない定常的な有害な環境影響はリスクという表現にはなじまないように思うのです。論点が複数になるといけませんので、本日は後者について考えます。前者はどうするのかといわれると、とりあえず放っときましょう。

ISOの世界では「リスク」とは「有害」だけではないようですから、確率的あるいは偶発的に発生するからこそ(良くても悪くても)「リスク」ではないかと考えます。
確認のために、Longman英英辞典でriskを引くと

the possibility that something bad, unpleasant, or dangerous may happen
とあります。英英辞典の意味が英語としての一般的な意味でしょうから、リスクとは「望ましくないことの発生可能性(possibility)」そのものを意味しているわけです。

「有害な環境影響」でも「有益な環境影響」といっても、常時顕在しているものもあり、確率的に発生するものもあります。 金勘定 例えば病気になるのは確率的でしょうからリスクと言えるでしょうけど、保険を支払うのは家計から見れば脅威ではありますが、それは定常的で確率的ではありません。プラスだって同じです。銀行預金に利子がつくのはデフォルトがなければ確定ですが、叔父さんが亡くなって遺産相続するのは確率的です。これをISO規格の文章に入れ替えれば「支出は有害な金銭の移動(脅威)であり、収入は有益な金銭の移動(機会)である」となるかもしれませんが、これは意味からしたら明らかに「偽」です。
ですから当然、
「6.1.3 注記 有害な環境影響(脅威)又は有益な環境影響(機会)に関連するリスクをもたらし得る」
という文章は明らかに偽です。
言いたいことは、長さを時計で測るようなものかと・・
ISO規格に論理的に考えて「偽」があってはまずいのではなかろうかと・・・

そもそもISO14001ではriskは
「3.18 リスク 目的に対する不確かさの影響」
(ISO14001:2015DISより)
となっていて不確かさであることを明言している。これは英英辞典の意味と同じだ。
だが、ここで更なる疑問がわいてくる。
つまり「リスク」とは「目的に対する不確かさ」となっており、この「目的」は一般語ではなく定義3.16の「達成する結果(objective)」なのである。
ということは「達成すべき結果」以外については「リスク」を考慮しないこととなるのだろうか?
但し2015年版では「目的(objective)」は「環境目的(environmental objective)」だけでなく対象が広い。だから「管理すべきことすべてが目的である」と理解するのもあるだろうし、それならば仕事全てについてリスクを考えるのだと言い切れるのかもしれない。いや、「リスクを考慮しなければならないものが目的である」と強弁することも可能なのだろうか?
もっともここまで言い切ったら支離滅裂じゃなくて主客転倒か?
つまり仕事も設備ももちろんであるが、文書管理も記録管理もリスクがあるから管理するのだと言えばそれまでではある。しかし、そういうものすべてをリスクというものに含めるなら今更わざわざリスクという言葉を入れ込むことはなさそうだ。あるいは過去から規格で管理を求めていたことをリスクというのなら、今回の改定でリスクなる言葉が追加になったけれどまったく変わっていないということになる。
いやいや「リスク」とか「管理」を考えると奥深い・・・これは大いに怪しいぞという意味である。

だが、話を戻すと管理すべきことや管理しなければならないことすべてが確率的だとは思えない。そりゃ例に示した保険の支払いや銀行預金の利子も、コンピューターのシステムエラーや企業犯罪や使い込みなどがあるかもしれないから不確定である、リスクがあると言い出せばそうなのだろうが、そりゃもう考え過ぎだろう。

うそ800 本日の疑問
そんなこたあどうでもいいんだ、ちいせえことに拘るな、
そんな言葉が聞こえてきそうだ。
まあ、ISO規格ってそんな厳密なものではないのかもしれないね、



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