利害関係者

15.05.28

*これはISO14001:2015のDISを基に2015/5/26に書いたものである。
今後、改定や正式版が出れば見直ししたいと思うが、しないかもしれない。そこのところはご了解してお読みいただきたい。

本日は「利害関係者」について考えます。
いや、間違えました。利害関係者にまつわる妄想を書きます。なにせ私の頭には妄想が一杯詰まっているので、ときどきガス抜きをしないと爆発してしまいます。
一応、私は真面目に考えているつもりですが、お読みになる方は原文の確認と、原文と私の駄文をよく読み、自分の頭で吟味してください。もし私の文に誤りがあったり、もっといいアイデアがお持ちでしたらご指導願います。

ではいきます、果たして「利害関係者」とはいかなるものでしょうか?
まず1996年版の定義です。
組織の環境パフォーマンスに関心を持つか又はその影響を受ける個人又は団体
(ISO14001:1996より)
ここで「個人」は「individual」で、団体は「group」でした。

次は2004年版の定義では、
組織の環境パフォーマンスに関心を持つか又はその影響を受ける人又はグループ
(ISO14001:2004より)
ここで「人」は「person」で、「グループ」は・・・やっぱり「group」です。

「ISO14001:2004要求事項の解説」(2005、寺田博・吉田敬史 共著)によると「原文がindividualからpersonに変わったので、和訳も個人から人に替えた」(p.48)とあるだけで、その意味についての説明はない。説明がないということは、この語の変更は単に気分を変えた程度なのであろうか?
しかし、ISO規格を作る連中は気分程度で使用する語を変えるものだろうか?

だが不思議なことがある。同じ「group」を1996年版では「団体」と訳していて、2004年版では「グループ」と訳している。原文が変わっていないのに翻訳を変えているのは、翻訳者の気分なのだろうか? ISO的に言えば「人」と「グループ」の整合がとれていない。
ちなみにISO9001のほうは原文が改定されていなくても「誤解を防ぐために日本語訳を変えた」なんて何度も言い訳を語っていた。しかしこの場合は「団体」を「グループ」に変えても誤解もへったくれもないように思う。このような翻訳のJIS規格では真面目に読む気が失せるのは私だけであろうか?
もっともISO9001では、誤解を防ぐためでなく誤訳の訂正だという声も大きかったが
ともかくこれについては寺田さんのコメントもなく、このなぞには誰も答えてくれません。スフィンクスに食べられてしまわないのでしょうか?
ワカラン、 わからない
ところで寺田さんは、individualもpersonもあまり変わらないと理解しているようだが、辞書を引くと意味が異なる。意味が異なるというよりも、その包含関係というか範疇が違うのである。
その関係とは
「種としての人(human being)」⊃「社会人としての人(person)」⊃「特定の個人(individual)」
注:「左⊃右」は「左は右を含む」という数学の記号である。
なのである。
確認のために英英辞典を引けば
personは単なる生物、種という意味ではなく、年令や性別を問わない社会を構成する人という意味と理解する。そして普通の人personが複数いるとpeopleになるのだろう。
personの複数形をpersonsとするケースもあるが、そういうのはだいたい公文書とか法規制に関わるようなときで、複数であっても一人一人が負う義務などを表現するようなときにpersonsを使っている。単に複数の人というときはpeopleを使う。
individualは上記でわかるように、personに形容詞句をつけて特定された個人である。

とすると2004年改定は単に語が代わっただけではなく、現実に意味が大きく変わったと思われる。いや既に10年も前のことだから過去形で変わったのであった。とはいえ、ISOTC委員の寺田先生さえ言及していなかったのだから、その意味を理解しなかったのか、我々愚民に伝えたくなかったのか?
ではindividualからpersonに変わった違いはなんだろうか?
私の想像であるが、例えば我々が企業に苦情を言うとき1996年版では「私はどこどこに住むおばQと申しますが、こんな問題で困っております」と官姓名を言わなければならなかったのが、2004年版では「おい、こんな問題があるぞ、なんとかしてくれ」と匿名で苦情を言えるようになったと解釈できそうです。

では2015年版ではどうなのでしょうか?
ある決定事項若しくは活動に影響を与え得るか、その影響を受け得るか、又はその影響を受けると認識している、個人又は組織
(ISO14001:2015DISより)

かなりの変化であります。まず大幅に文字数が増えています。とりあえず対照表を作ってみましょう。

No.2004年版2015DIS
1組織の環境パフォーマンスにある決定事項若しくは活動に
2関心を持つかその影響を受けると認識している
3 影響を与え得るか、
4その影響を受けるその影響を受け得るか、
5人又はグループ個人又は組織

以下各項目について愚考しますと
  1. 従来は対象が「パフォーマンス」つまり「測定可能な結果(定義3.13)」であったものが、2015年からはまだ結果が出ない活動にも、いや実行しなくても「(組織の)決定」も対象になりました。
    まあ、それは妥当かもしれません。大々的に太陽光発電をするぞと言いだした企業があったとして、電力会社が「オイオイ、そんなに大電力の太陽光発電所を作られてもウチは引き取れないよ」と断るには、実際に太陽光発電所を作って電気がドンドンと送電されてからでは間に合いません。大きな計画を打ち出した時に、対応を協議しなければならないのはいうまでもありません。
  2. 「関心を持つ」というのが「その影響を受けると認識している」となりましたが、これは大きな退歩ではないでしょうか。今までは自分には関わりないことであっても「関心を持って」いれば、異議でもデモでもテロでも(いや、テロはいけません)利害関係者という身分で行うことができたのですが、2015年以降は「関心を持つ」だけではなく、「影響を受けると認識している」必要があるのです。
    まあ、緑豆はなんにでも自分たちは「影響を受けると認識している」だけで世界中で活動テロしていますから、こんな細かいことを気にする必要はないのかもしれません。
  3. 今までは利害関係者とは(認証)組織から影響を受けるだけの受け身の人たちだけだったのですが、これからは(認証)組織に影響を与えると自覚していればでかい顔をして利害関係者出来るのです。
    具体的にはどういうものでしょうか?
    やはり前述のものを思い浮かべました。つまり太陽光発電事業を捉えると太陽光発電しようとする人や会社は「影響を与える」でしょうから立派な利害関係者でしょう。ただこのときinterested partyというのはちょっと合わないかなと思います。発電会社がinterestedしていない場合もあるでしょうから
  4. 「その影響を受ける」「その影響を受け得るか」の箇所は日本語はちと違いますが、原文は「affected」で同じです。
    これは日本語の文法が未来形とか仮定法がしっかりしていないから、それこそ誤解を防ぐ意味で言い回しを変えたのでしょうか?
    私には分りません。
    いやあなたも心配することはないでしょう。誰も気にしていないでしょうから。
  5. 「人又はグループ」「個人又は組織」になりました。
    おお、するとpersonが再びindividualとなり、組織と相対する人は個人情報を示さなければならないのでしょうか?
    ところが原文をチェックしますと、個人の原語は「person」のままなのです。なぜDISで「person」を「個人」と訳したのか、わかりません?
    ひょっとして翻訳者の気分で「人」から「個人」に替えたのでしょうか?
    ご存じの方教えてください。

    それからグループが組織になりました。これは原文も「organization」ですから、はっきり変更されています。それで日本語の翻訳も変えたようです。
    組織の定義は「自らの目的を達成するため、責任、権限及び相互関係を伴う独自の機能をもつ、個人又は人々の集まり(定義3.1)」
    まあ翻訳は妥当であると認めます。しかしそうしますと、ちょっと疑問があります。
    定義の中で「組織」という語を使ったわけですから、利害関係者の定義の中の「組織」は当然「組織」の定義が代入できます。ご存じと思いますが、用語の代わりに定義された文章を代入しても規格の意味はまったく変わらないことをISO規格は保証しています。
    まあ、そうでなくちゃ定義じゃないんですけどね

    ではまずグループの意味はどうかといいますと、今まで使われていた語「グループ」には定義がありません。定義されていない語は一般的な意味とされていますので、英英辞典を引くとgroupとは
    1. several people or things that are all together in the same place
      同じ場所にいる人々や複数の物
    2. several people or things that are connected with each other:
      相互に関係している人々や複数の物
    3. several companies that all have the same owner:
      オーナーが同じ複数の企業
    4. a number of musicians or singers who perform together, playing popular music [= band]
      一緒に演奏する複数のミュージシャン
    上記をみますと「グループ」と「組織」の意味は大きく異なります。グループの定義2〜4ではメンバー(構成員)はなんらかの関係を持っているわけですが、目的、責任、権限などと関係ないケースも多いでしょう。そして定義1ではまったく無縁の人々ということもあります。
    私には「グループ」と「組織」の違いによる弊害が思い当たります。

    サポーズ
    今工場からおかしな液体が路上に流れ出てきているとしましょう。複数の通行人がそれに気がついて工場へ通報とか緊急事態対応の行動をとったとしましょう。 漏えい事故
    このとき通行人が二人以上であれば上記定義1によりグループであることは明白で、当然利害関係者としての交渉権を持つわけです。2004年版ならば

    しかし2015年版では、複数の人は組織でなければ利害関係者の地位を得ることができません。そのときは「個人の利害関係者が複数いる」ものとして扱われるわけです。もし漏えい事故によってなんらかのトラブルが起きた時、例えば怪我ややけどなどの被害があったとき、いやそこまでいかなくても対応について企業側と協力したり問い合わせなどの交渉するとき、通行人のグループは交渉権を持てず、個々人が対応しなければならないということになるのでしょうか? 企業側から見ても代表者にお願いするということができず、個々人に対応しなければならないのでしょうか?
    あるいは近隣住民が共同して企業に話し合いなどを持つことができないのでしょうか? もし話し合いをしたくば、市に登録した町内会あるはNPO法人としてやってこいというのでしょうか?
    これって大きな退歩のように思えます。

    まあ、ぐだぐだ書いてきましたが、審査側も企業側も、そんなDISの細かい変化には気が付かず、あるいは気にかけず、従来通りだよ〜と突き進んでいくような気がします。
    そして何事か起きた時はこの文言を基に拒否したりする可能性は大です。
    まあ、そんなことになったら次次期改定時に文言を修正するでしょう。もっとも、2015年改定が最後になる可能性も大きいように思います。
    誰か賭けに乗りませんか?

    最後にどうも変だなあってことを書きます。実を言ってこれは1996年版からの問題なんですがね、
    工場で環境管理をしていて利害関係者だと認識するものは、まず市町村の環境担当部署とそこの担当官です。それと工場立地法や廃棄物などの交渉相手の県の出先機関です。
    それから近隣住民や町内会でしょう。危ない、うるさい、まぶしい、臭い、雰囲気が悪い、そんな苦情がしょっちゅうあります。工業団地の場合だって同じです。工場に入るのを待っている車が邪魔、出退勤時の混雑、事故の際の協力とか連絡、
    ところがISO規格の利害関係者の定義では、そういったニュアンスが読み取れません。現実にある身近なことはどうでもよく(気が付かず)、大きなこと、ジンケンガ―、ジドウロウドウガー、ショウヒシャノケンリガー、でもあまりにも視野が広く見識が高すぎて、そんなのはどこかの消費者団体や万年野党のイメージしかありません。
    ナイキの児童労働なんて世界企業だからこその問題で、土地にしがみついている中小企業は考えるまでもないようです。
    いや、子供をこき使ってはいけませんヨ、ただ日本じゃそんなこと考えるまでもないということです。
    待ってください。日本の子供はゲームに忙しくて、働く暇がないと思いますよ。

    ISO規格はグローバルで高尚なものなのだという自意識過剰で、大言壮語、曖昧模糊、荒唐無稽、空理空論ばかりでは困ります。現実的にその会社の業務や実態に即して考えるべきこと行うべきことを規格に記述してほしいし、また利害関係者といっても一様ではなく、自分や相手の規模もあるし、相互の関連にも強い弱いがあるわけで、プライオリティなどがあることを示すべきではないでしょうか。少なくてもそう読めるように書くべきでしょう。

    うそ800 本日の暇つぶし
    金も力もない私ですが、ヒマだけはあります。JIS規格票をながめていると結構楽しめます。
    この文章を書くのに必要だったのは、ISO14001:1996年版と2004年版の対訳本と2015DISの対訳、寺田先生の書籍だけです。英英辞典はネットのもので間に合います。これだけで3時間位は頭の体操ができました。 スイミング
    話は変わりますが、私はフィットネスクラブに週4日通っています。自然と仲間ができます。みんな定年退職者です。運動後にお茶などをすると、みんな何をしているかいうのが話題になります。フィットネスクラブはもちろんですが、賭けない麻雀、囲碁、将棋、卓球、カラオケ、介護ボランティア、観光案内ボランティア、小学校通学の安全オジサン&おばさん、郷土史研究、自分史、家系図、英会話、まあいろいろです。
    本日はISOを考えるというのもひとつのヒマつぶしかと気がつきました。とはいえ、これは趣味と言えるのか?


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