環境の定義

15.06.04

*これはISO14001:2015のDISを基に2015/6/2に書いたものである。
今後、改定や正式版が出れば見直ししたいと思うが、しないかもしれない。そこのところはご了解してお読みいただきたい。

ISO14001は「環境マネジメントシステム」とあるのだから「環境」とは何だろうか?
日本の環境基本法では環境の定義がありません。そこんところは「俺の目を見ろ何にも言うな〜♪」という歌の文句があるように、察してくれよという日本の文化だからでしょうか?
でもISO14001は共通の常識がない全世界に通用するグローバルスタンダードというわけで、ちゃんと定義があります。

まず1996年版の定義です。
大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動を取り巻くもの
 参考 ここでいうとりまくものとは、組織内から地球規模のシステムまで及ぶ。
(ISO14001:1996より)

次は2004年版の定義では、
大気、水質、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動をとりまくもの
 参考 ここでいうとりまくものとは、組織内から地球規模のシステムまで及ぶ。
(ISO14001:2004より)
神を疑ってはいけない
和文は水が水質に変わったが、原文はwaterのままで変わっていない。
これについて偉大なる寺田さんは「水は(物質としてではなく)媒体としての水を差している」から水質に変えたと解説している。
「ISO14001:2004要求事項の解説」(2005、寺田博・吉田敬史 共著)p.42
果たして媒体としてではない水を無視して良いのかという疑問もありますが、偉大なISOの予言者に疑義を呈しては命が危ないから止めておきます。
では2015年版ではどうなのでしょうか?
大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動をとりまくもの。

注記1
ここでいうとりまくものとは、組織内から、地方の、地域的な及び地球規模のシステムまで及び得る。
注記2
とりまくものとは、生物多様性、生態系、気候又はその他の特性として表されることもある。
(ISO14001:2015DISより)

なぜか水質が水に戻りました。原語はwaterで初版から変わっていません。ということは媒体の水とそれ以外の水なんて区別することもなかったのかもしれません。
寺田さん、どうしてなのでしょうか?
まあ細かいことは気にすることはないようです。

細かいことはよいとして、ちょっとしたことに気がつきました。
この環境の定義を拡大解釈すると、いや拡大しなくても、品質にも情報セキュリティにも労働安全にもなんにでも使えるのではないでしょうか?

ISO9001は早い話、売り手と買い手の間の品質に関する約束です。つまり組織の活動をとりまく環境の一要素ですね。だって組織の活動をとりまく人との相互関係そのものですから。労働というと労働の売り手と買い手の約束でしょう。情報セキュリティもしかり。考えてみれば相互関係がなければマネジメントもシステムも不要です。
某ISOTC委員は、「システムとはインプット、プロセス、アウトプットだ」と語りました。そのお考えは間違っていると思いますが、仮にそうだとしたらシステムとは外部との関係そのものです。
システムの本当の意味は社会制度とか支配体制のことです。もっともそうとしても人間同士の相互関係に他なりません。
となるとISO14001の環境を組織を取り巻くものすべてとすればISO14001以外の規格はいらないんじゃないでしょうか?
品質側面や安全側面という言い方もありますが、良く考えてみるとそういったものは環境側面の一形態であると言えそうです。
環境方針が「環境パフォーマンスに関して、トップマネジメントによって正式に表明された組織の意図及び方向付け(2015DIS)」でありますから、それは「組織の活動をとりまくものとの関わりの成果に関して、トップマネジメントによって正式に表明された組織の意図及び方向付け」と読み替えられるわけですし、環境目的が「組織が設定する、環境方針と整合のとれた目的(2015DIS)」でありますから、これもまた「組織が設定する、組織をとりまく・・以下略」となります。
ということはISO9001でやることはISO14001でもできるし、いややらねばならないとも読めます。
万が一、審査で審査員が「御社の環境の捉え方は狭い。取引先も納入者も環境じゃないですか」と言ったらどうしましょう?
心配いりません。そのときは
「おお、そうでした、ついうっかり認証機関と審査員を環境から漏らしておりました」と返しましょう。

まあ極端に走ることもないですが、ISO14001だけでISO9001その他をカバーしようという発想が出てもおかしくない。そもそもマネジメントシステムというものはひとつしかないわけです。そんなことは私が言うまでもなくISO9001やISO14001の序文に書いてありますよ。
ですから商取引のためでも今会社の仕組みを見直そうでも良いですが、あれもこれもとISO認証なんてしないで、ISO14001だけ認証を受けて、それ以外のカテゴリーについてもしっかりしていこうと少しずつ補強していけばいいって思います。
それならISO9001を基にしてという発想も出て来るでしょう。ここんところが難しい。そもそも品質とは顧客に提供する製品やサービスの品質のことでした。2015DISでは「オブジェクトに本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」なんだそうです。オブジェクトというのはなにかってえと「製品、サービス、プロセス、人、組織、システム、資源」だそうです。昔よりは相当に拡大されてきましたが、パフォーマンスを含むとはありません。ということでISO9001を基にしてというのは不十分なのかもしれません。もちろん自分が追加してというか、積極的に拡大して活動するのはよろしいでしょうけど、

注:
1986年のISO8402では品質を「製品又はサービスが、明示してある又は暗黙の要望を満たす能力として持っている特性の全体」でありました。昔の方がハッキリしていたようです。
時代とともにあいまいに、霞がかかってくるのはどうしてなのでしょうか?

おっと、品質とは仕事の質も含むなんて騙っていた某大学教授もいましたが、あんなのは無視しましょう。ところで某教授、最近露出度が少ないですね。飽きられたのかな?


うそ800 本日の結論
ISO14001があればISO9001その他はいりません。これ一つで十分です。
でもいわゆる環境管理だけですべてが賄えるなら、他の規格はいったいなんのためにあるのか?
ちょっと待ってください!
ISO26000をご覧ください。そんな拡大解釈をすることなく、これには、人権、労働、環境、消費者、社会に対するすべてが網羅されています。じゃあ、これを基本にすれば他はいらないのでは?
その通りだと思います。
しかしひとつ問題が、
大したことじゃないですが、ISO26000は認証規格ではなくガイダンスなんですよね、
世界中の認証機関、認定機関、そしてIAFが路頭に迷うのが最大の問題でしょう。
あ、あなたは気にしませんか? 私もです。



CORON様からお便りを頂きました(2015.06.27)
環境の定義
環境の定義を読まさせて頂きました。今頃何を言っているのかと思いました。
ISO14001の出発点は、環境の定義ですよね。私は長らく品質・環境の管理責任者をしていました。環境側面を「課題」若しくわ「仕事」に置き換えて環境側面を捉えていました。著しい環境側面は、品質関係ならISO9001で対応。その他の重要な課題は色々あります。もちろん自然環境は含まれますが、その他に経営環境も含まれなんでも有りで、ISO9001も14001に取り込めるとは思いますが、会社の都合でそうはいかないところもあります。将来はISO14001一本でなれば良いとは思っています。

CORON様お便りありがとうございます。
ご意見が私の書いたものに対してポジティブなのかネガティブなのか、いささか理解に苦しみますが、それはおいといて、ご見解についてコメント申し上げます。
一般に「環境」といっても、大気、水、土地、天然資源、植物、動物のような人間に関わらないものという意味合いもありますし、経済環境、地域環境、家庭環境、職場の雰囲気という人間関係的な意味もあります。それは英語でも同じようで、ISO14001の定義の後半の「人及びそれらの相互関係を含む」が前述の環境のどこまでを包含するのかは、規格文言からだけでは私はわかりません。ですからこの文章から事業環境すべても含まれるという捉え方もあるかもしれません。しかし、私はそうではないと考えます。
ISO14001規格の守備範囲はどこまでかと考えるには、規格文言だけでなく、EMS規格は何のために存在するのかということを考える必要があります。ISO14001は遡ればリオ宣言になります。1992年にリオでの環境と開発に関する国際会議で想定していた環境は、組織をとりまくものすべてではないと私は考えます。リオ宣言を思い出してほしいのですが、そこでは27原則まで並んでいました。後半の方には女性の役割、パートナーシップ、伝統の尊重などもありますが、その意図は「人類は、自然と調和しつつ健康で生産的な生活(第1原則)」でした。「自然」と訳された英語の「nature」は日本語の「自然」ではなく「人間によってコントロールされない物質界のすべて」ですから、リオ宣言が意図していたのは広義の環境でないのは明白です。ですからビジネス上の人と人、企業と企業の関係などはnatureではなく環境に含まないと思います。
これらを踏まえるとISO14001での環境の範疇は「自然」との関わりであり、先述した前半であるとみなすべきでしょう。
そして規格の意図である「遵法と汚染の予防」も当然、「環境遵法と環境汚染の予防」となるでしょう。もっともここでも広義の環境を入れるとまた元の木阿弥ですね。狭義の環境と言いましょう。
御社では環境とは組織をとりまくものすべてであるという認識とのこと。それはそれでひとつの解釈であり、どうこういうつもりはありません。「自らが想定した環境」に対応した環境マネジメントシステムを構築し運用すればよいと思います。もっともそのときは広義の環境になりますから、環境該当法規には営業活動では商法、民法、会社法、独禁法、外為法その他、開発には知的財産関連、製造物責任その他、職場では労働三法、労働安全、人権関連などが関わります。つまり事業に関わるものすべてということになります。
当然ながら、その場合の環境側面はおっしゃるように品質側面とか安全側面だけでなく、営業に関する環境側面、それは環境側面ですが契約に関すること、お金の授受、製品の納入などを含むことになります。もちろん開発関連でも職場関連でも同様です。
そこまでではなく、大気、水と言った自然環境だけでなく少し範囲が広いんだよという程度問題なのでしょうか? そのときはそれなりになると思いますが、いずれにしても環境側面も環境関連法規制もそれに見合ったものになるのでしょうね。
それと私の基本的考えというかISO認証に対するスタンスは、企業ありきというものです。事業推進にあたっては事業環境をとりまくものすべてが対象です。それをすべてISO14001の考え方でできるのかとなると、できないでしょう。結局ISOMS規格は標準化なのです。独創性、企画、開発ではない創造ということについてISOMS規格はお門違いだろうと思います。
もうひとつISO9001にしても14001にしても認証規格です。認証とはcertificateですから「一定基準を満たしていると認めること」。ですからそれを基に会社の仕組みを作るという発想はありえません。事業推進のためには様々な機能が必要であり、ISO規格は対象とする分野の要素について具備すべき条件を規定したものにすぎない。結局ISO規格を基になにをするということはできない。仕様だけではものはできません。
それから「将来はISO14001一本でなれば良い」(原文ママ)とおっしゃっていますが、ISO26000に比較すれば守備範囲は東京湾と太平洋くらい違いますし、ISO26000だって企業経営から見たらほんの一部であるわけです。ここはひとつ、ISO14001は単に組織の環境管理機能が具備すべき最低限の基準程度に考えた方がよろしいかと思います。
じゃあ、私が書いた環境の定義という文はいったいなんだとなりますか?
私は規格改定のたびにゆれる考え方、それは原文もありますし翻訳もありますが、それを揶揄しているだけです。おっと、環境の定義だけでなく、ISOMS規格そのものが対象ですけど

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