解説 その1

15.12.17
お断り
この話の対象である「解説」とは、規格の解説や規格改定についての解説ではない。2015年に改定されたJISQ14001規格の末尾にある「解説」という項目のことである。

同志ぶらっくたいがぁ様がISO14001:2015の解説がナンセンスだと語っておられた。しかし以前の版では解説など読むほどのものではなかったので気にもしていなかった。 考え中 だが見てみると2015年改定の「解説」はなんと18ページもある膨大なものであった。「規格本文」が9ページしかないのだから本文の倍もある「解説」とは異常である。
昔チョコレートについているカード目当てに買われた○っくりマンチョコとか、ガムの付録の小さなプラモデルが後に独立して食玩なんていう商品カテゴリーを作り出したこともあるが、それと同じだろうか?
ともかくそれほど重要な「解説」ならば、読まねばならない。
おっとご存知と思うが「解説」は原文であるISO規格にはない。当然DISにもない。JISQ14001にしかないから私が改定版の「解説」を読んだのは今回が初めてである。
「解説」を読めば読むほど、ほおっておいて良いしろものではないと思った。ぶらっくたいがぁ様ならずとも、おかしいぞと怒り狂うようなところもあるし、規格関係者の責任を問い質したいところも多々ある。
ということで「解説」についても解説を書くことにした。いや今回だけではすみそうがないので、今回は「その1」である。

私が現場の管理者を首になって品質保証という業務についたのは、今から25年も前のことだ。品質保証とは何かと一口で言えば、ISO9000の定義による顧客が要求する工程管理を、自分の会社・工場が満たしていることを証明することである。具体的には品質保証協定などに定められた品質保証要求事項なるものを、自分の会社の手順書に展開し、それに基づいて業務を執行していることを客観的証拠(記録や現物など)によって裏付けることになる。
ということで品質保証業務に従事すると、社内の手順書の作成・維持が業務の手始めとなる。さて手順書とは法律などでは社内の業務を定めた文書の一般語・範疇語であり、具体例としては会社規則、工場規則、規定などと呼ばれるものである。
法律で「手順書に定める」と書いてあったので、一生懸命「○○手順書」という文書を作成していたアホな先輩がいたが、それは完璧な間違いであって、それぞれの会社で定めるところの社内文書に展開すればよい。いやよいというかしなければならないことになる。

ヤレヤレ
そういえばと20年前を思い出すが、一生懸命「○○手順書」を作っていた旧帝大の修士であられました方は、定年になってから別の会社にISO担当として就職し、更にその後は田舎でISOコンサルをしていました。あの人のコンサルを受けた会社は大丈夫だったのだろうか?(棒)

しかし現場にいる人が会社規則などを読んでいるはずはない。管理職であった私でも会社規則なんて読んだことも食べたこともなかった。とはいえ品質保証に来たからには会社規則を知らないと言っていられない。顧客要求と会社規則を照らし合わせて過不足をチェックし、不足を満たすべく何本もの規則の改定案を作って文書管理課の担当の方に見てもらった。
どの会社にも文書管理の専門家というのがいるはずだ。というのは経理とか人事という部門では文書化した規則がなければ仕事にならないので、基準や手順を文書に定めることになり、すると当然文書管理部門を設けることとなり、そこには文書管理の専門家が必要になる。
私が当時勤めていた工場にも文書管理課が存在し、そこには文書管理のプロがいた。会社規則をすべて頭の中にいれているのは当然であるが、文書とはいかに作成すべきか、文書体系とか文書の構成、文体そんなことについて完璧に熟知していた。まして当時は手書きからワープロに変わりつつあった時代で、その方は過去あまたの会社規則を手書きで作ってきたから、ものすごく楷書が達筆な方であった。私より6歳か7歳上でまだ40代後半であったが、とんでもなく年配に思えたものだ。
おっと一般に専門家とか牢名主というと偏屈な人が多いが、その方は温厚で誠実で、もの知らずの後輩いじめをするような方ではなかった。

彼は私の持って行った規則改定案を一読すると、フウと大きなため息をついて「お前は文書というものを全く知らんな」と言ってしばし沈黙した。やがて改定案を見て個々にコメントしてもしょうがない、文書とはいかなるものであるかを教える。文書管理とは万国共通の基準や手順があるのだ。そういう原則や社内の約束事を理解してから仕事を始めろと言われた。
それから文書管理の教育を受けた。教育と言っても座学という意味ではない。今ある規則を例にして作成作法を習い、法律()を基に文書の作成過程や文書体系というものを習い、そのほか「朝日新聞用語の手引き」とか読めとか言われた。そのとき法律では第一項には①を付けず、第二項から②、③と付けるのだということを知った。
一通り教えてもらうには半月ほどかかったが、習ったことは25年たった今も覚えているしそれからの人生に非常に役に立った。

ともかくそういうことを習うと自分が作った規則改定案にいかなる問題があったのかということがわかった。「解説」もその一つである。そういうことを習うまで「解説」とは何なのか知らなかったのだ。
私は規則の改定案を作ったとき、前のバージョンの規則の末尾についていた「解説」を改定版に合わせて改定したのだが、改定版の解説とはそういうものではなく、今回の改定がいかなる要因によってどのように改定したのかを書くのだということを知った。
なお文書管理について教えてくれたこの恩人は、その後まもなく病を得てお亡くなりになった。まだ50にならなかったと思う。ご冥福をお祈りします。
私は言いたい放題を語っているが、こんな私を教えてくれた師は大勢いる。そして反面教師はその数倍いる。皆様のご指導に感謝申しあげます。

一般的に会社規則(手順書とか規定と呼んでも良い)の改定のいきさつはどのようなことだろうか。原因というかインプットとしては事業の変化、従業員のレベルの変化、情報システムや文書管理などのインフラの変化や改善、そして法規制の改正や顧客など外部内部環境の変化だろう。アウトプットというか改定されるものとしては運用や基準、あるいはシステムやプロセスの変化ということになる。
一般のJIS規格の「解説」を見るとわかるが、懇切丁寧にインプット(原因)とアウトプット(変化)を書いているものは少ない。多くは主たる点であり、大きく変わったことが主である。もちろん規格本文に対して解説が倍もあるというのは稀有なことである。
そもそもISO14001の2015年改定にしても過去数年間の長きにわたり、認証機関や認定機関、一般企業などISO関係者の意見や異議を集めて審議され、DISも公開されて大いに議論されてきたわけで、そんなことを改めてJIS規格に書く意味がない。

さて今回のJISQ14001の「解説」を拝読すると、「解説」は規格改定についての解説ではなく、翻訳と過去の運用を言訳するもののように思えた。実を言って規格の「解説」が要求事項に影響があるわけがないし、要求事項の理解の助けになるわけではない。今回の「解説」を読んでわかるのは、過去どんなトラブルがあったかということ、そしてそれらのトラブルに対して規格関係者はその問題解決に対してたいした努力をしていなかったということが読める。
そして「解説」を読んで感じるのは、ISO14001が変わったからJISQ14001が変わったということよりも、今まで起きた問題を対策するためにISO14001規格改定に便乗してJISQ14001を改定したということである。
!? ちょっとおかしいよね?
かってJISQ9001が1998年に日本語訳が不適切として、ISO9001は改定されなかったが翻訳規格であるJISQ9001を小改定したことがある。本来ならそれに倣ってISO14001は変わらずともJISQ14001の誤訳部分だけを修正するとか、審査員に広がっていた迷信ともいえる目的3年とか点数法だとかを戒める文言を追加すべきではなかったのか?
あるいはかって一度だけ出されたが、ISO 14001 規格解釈に関する質疑応答のようにISO 14001/4 翻訳・解釈 WGなどが己の責任を負い是正なり言い訳なりをすべきではないのか?
責任転嫁なのか、ごまかしなのか、いずれにしても潔い話ではない。およそ大和魂を持つ日本男子のすることではないぞ!
そんなことを書くと終わりがないので本日はここまで!

この文章を書くきっかけとなったぶらっくたいがぁ様のお言葉を引用しておく。
「3.2 JIS Q 14001 の審議中に問題となった事項」より
旧規格では,"環境目的(environmental objective)"は"組織が達成を目指して自ら設定する,環境方針と整合する全般的な環境の到達点"と定義され,組織における実際の実施では中期的(3〜5 年など)に達成を目指す包括的な到達点として理解されている場合が多い。これに対して,短期的(年度内など)に達成を目指す具体的な内容には,"環境目標"という用語が用いられているという実態がある。
実態がある? はあ? おいおい、他人事みたいに言うなよ。
互いに縁もゆかりもない組織が、まるで示し合わせたかのように「環境目的は3年先の目標で、環境目標は今年度の目標」なんて横並びで決めるわけないだろ。そんな偶然があってたまるか。JABの意向を汲んだJAB系認証機関が、半ば強制的に仕向けたんだろうが。要は、あんたらの身内の仕業であって、組織は被害者ですぜ。
もうね、アホを通り越してこれは犯罪級の悪事ですよ。素直に自らの誤りを認めたらどうかね
2015/12/3 原文は私のブログ

うそ800 本日のあいまいな話
えっ本日は何も語らずに終わりになってしまいました。まあその2をお待ちください。
「次回はいつか?」というご質問があろうかと思います。
渡世人なら「足の向くまま気の向くまま」、スカーレットなら「明日は明日の風が吹く」、ボガードなら「そんな先の事は分からない」、私の場合は見当もつきません。

*:
「風と共に去りぬ」の元々のフレーズは「tomorrow is another day」であり「明日は明日の風が吹く」は直訳でないどころかまったく意味が違います。「明日は明日の・・」とは投げやりな言いようでしょう。本来は「明日は新しい希望がある」という意味かと思います。なら直訳して「明日は別の日」の方が良かったのではと私は思います。なお小説では「明日がある」という訳もあるそうです。
いずれにしてもISO規格を訳すときには、「風と共に去りぬ」を訳すほどには真剣に検討されなかったのでしょう。


akiJapan様からお便りを頂きました。(2016.04.04)
解説 が見当たりません
おばQさま
いつも刺激的なスッキリするお話をありがとうございます。
ところで、2015対訳ポケット版では解説がないのですが、JIS規格票にはあるということでしょうか?

akiJapan様 毎度ありがとうございます。
さようでございます。今回は対訳本には収録されていません。
実を言って対訳本はJIS規格そのものでもないのです。今回は全文チェックしてはおりませんが、1996年版のときはどういう段階のものなのか、JIS規格と対訳本の和訳は若干違いがありました。
また2004年版の対訳本には「JIS規格の解説」の一部が収録されていました。
要するに対訳本をどのように作成するかというのは、そのとき、そのときの成り行きかとか、ページ数次第なのかと思います。
正直申し上げまして、私も2004年版のときは解説など読みませんでしたが、今回はボリュームがけっこうあるので読んでおかねばと思った次第です。
読んでためになるとも思えませんが、突っ込みどころ満載で個人的にニヤニヤするところがありまして、面白い読み物ではあります。


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