目的、目標

15.12.24

*これはISO14001:2015の正式なJIS規格発行前に書いたものである。
今後、改定や正式版が出れば見直ししたいと思うが、しないかもしれない。そこのところはご了解してお読みいただきたい。

ISO14001:2015の定義に「3.2.5目的、目標」というのがある。これは何のためにあるのだろう?
本文をじっくりと眺めたが、「目的、目標」も「目的・目標」あるいは「目的目標」という語句も見当たらない。じゃあ「目的」と「目標」が使う場所によって同じ意味に使われているのかといえば、そういうケースも見当たらない。
思うに本文で使われていない「3.2.5目的、目標」という定義はいらないのではないか。いや使っていない語を定義する意味があるのか? むしろ定義3.2.5では「目標」という語を定義すべきではないのか?

定義「3.2.5目的、目標」の注記3に「目的(又は目標)は、例えば、意図する成果、目的(purpose)、運用基準など、別の形で表現することもできる。」とあるが、これもおかしい。そのようにほかのいろいろな言葉で言い表せるものなら、規格で使う用語としてわざわざ定義することはなさそうだ。なぜなら定義されている言葉は常に定義を代入することができることが保証されている。そんなに多様な表現にひとつの定義を代入できるとは思えないし、そんな多様な言い方があるなら、そもそも定義するまでもないだろう。ISO規格では定義されていない言葉は一般的な意味で使われることになっているのだから。言い換えると、定義された言葉は一般的でない意味を持たせるとか、意味を限定するなどの必要があるから定義されるわけだ。
実は私は現時点ISO14001:2015の英語原文をみていない。これはJIS翻訳の問題なのだろうか、それともJIS翻訳だけでなく原文のISO規格そのものが混乱しているのか?
DISの定義3.16ではobjectiveしかなかったし、解説3.2e)(p.9)でも「目的、目標(objective)の訳」となっているから、ISO原文で「objective and target」となっているようにはみえない。となると「objective」を「目的、目標」と訳したように思える。ともかく英語原文を見ていなくては論評できないので、とりあえず今回はJISQ14001:2015を読んで目的、目標についておかしいと思うことを書く。
対訳本が来年2月発行と聞くのでそれが出たら買うつもりだ。それ以降ここを加除修正しよう。

定義3.2.5で「目標」でなく「目的、目標」とした意図はなんなのだろう? 本文で「目的、目標」という使い方が一か所もないのにそのような定義を設けたのはいかなる意図があるのか?
率直に言えば、1996年版、2004年版での誤訳をごまかす、いや繕うとしたためだろうと推察する。そもそもISO14001の1996年版や2004年版では「objective(s)」を「目的」と訳していた。ところがISO14001初版が出た1996年時点以前に、ISO9001においては1994版で「objective for quality」は「品質目標」と訳されていた(定義はない)。いやそれをはるかさかのぼる1988版においても「quality objective」は「品質目標」と訳されていた(このときも定義はない)。
なぜISO14001を翻訳するときにISO9001に倣って「objective(s)」を「目標」としなかったのかというのは大きな疑問である。ISO14001及びその翻訳に関わった人たちはISO9001の翻訳を知らなかったのだろうか? まさかそんなことはあるまいが・・・
環境ではobjectiveとtargetがあるから、targetを目標にして、objectiveはその上位の概念として目的にしたというなら、逆にobjectiveをISO9001と同じく目標としてtargetを目標の下位概念として経過点などにすればよかったのではないか。まさか品質と環境ではobjectiveの意味が違うということはあるまい。
そして「目的」なんていう言葉を使ったためにobjective(s)を誤解する人が続出した。いや全員が誤解したのかもしれない。
ISO14001認証が始まった頃、どの研修会でも講演会でも、講師たちはいかにも重要、難解であるという顔をして「目的とは〜」と説明したものだ。そしてその多くは「目的とは3年以上先の目標であり、目標とは年度の目標である」と語ったのである。そしてISO9001から関わってきた我々は「へぇ〜」という顔をして聞いていたのだ。
っ、証拠ですか
過去の講習会でのあまたの配布物があります。今更言い逃れようなんてジタバタしないでください。
ところで3年とはどういう根拠があるのだろうか? 普通長期目標というなら5年以上だろう。そして3年なら中期とするのが普通だ。一説には認証審査が3年インターバルだからというが、別に企業が認証審査に合わせて事業を営んでいるわけもない。1992年当時、ISO9001の審査は半年ごとだったが、数年後に審査は1年毎に変わった。そのとき企業の計画が半年から1年になったなんて話は聞いたことがない。
いきさつはともかく目的は3年以上という3年縛りはしっかりと根付いた。携帯電話だって2年縛りなのに、3年縛りなんてひどすぎませんか? 
目的が3年だと問題があったのかと疑問をお持ちですか
私自身、審査を受けて「目的達成までの期間が3年未満なので不適合です」と言われたことは何度もある。そしてまた指導する立場になった2002年以降にも同じ不適合を多数見聞きしているし、「助けて〜」と泣きつかれたことも二度や三度ではない。
認証機関にいちゃもんを付けに行くと「この会社では改善テーマが4つあり、目的の期限が3年未満のものは1件ですし、他は3年の期間がありますから適合にしましょう」なんてそこの取締役に恩着せがましく言われたこともあった。
ザケルナ
別に不適合をなくしてほしいのではない。審査員が間違っていると言いたいのだよ。

しかしね、JISQ14001:2015の解説3.2e)(p.9)で「組織における実際の実施では中期的(3〜5年など)に達成を目指す包括的な到達点として理解されている場合が多い」なんて書いているあたり、ISO14001の2015年版の翻訳に関わった人たちは現実のトラブルを知らず、暢気なものだ。いやいや、現実の問題を知っていて、それとも自分たちがそういった問題を起こして、それがまずいと気が付いて臭いものに蓋をしようなんて、フンをしたところに土をかける猫みたいな真似をしているとしか思えない。
それとも脳みそが腐っているのか
今現在、「有益な環境側面」という発想がバッコしているが、次期改定版の解説には「組織においては有益な環境影響を有益な環境側面という言い方もされている場合が多い」なんて書くんだろうなあ? そして自分たちが間違えたアイデアを広めて、その間違えた考えを広める過程では大いにコンサル料金をとり、講習会で儲けたという事実をなかったことするのだろう。
目的が3年以上の長期目的と考えたのは企業の愚かな担当者たちであり、有益な環境側面というおかしな考えをしたのはアホな企業の担当者たちであって、決して審査員やコンサルではないのだろう。
そして目的達成まで3年ないからとか、有益な側面がないからと、審査で不適合を出したということなど忘れてしまうのだろう。なにせ審査員は、無責任で、忘れやすく、アノミーな方々が多いのだから。
もとい、ISO規格をJIS規格に翻訳した人には、無責任で、忘れやすく、アノミーな方々が多いようだ。

うそ800 本日の予言
次期改定において定義「目的、目標」はたぶん「目標」となるだろう。もとい「目標」となるのは間違いない。そして次期改定版の「解説」では「かって環境目的と環境目標という語句が使われていて、その実態を尊重して前回改定時は『目的、目標』という表現を定義に残したが、現在では既に目的という語句は使われることがなくなったために、objectivesの定義を単に『目標』とした」なんて記述されるのだろう。
歴史の改変を得意とする国が隣にあるが、日本はそんな悪弊を見習わないでほしいものだ。

うそ800 本日の締め
ISO14001の改定版を読んだだけで、認証関係者の進歩がないのはよくわかった。
今年ももう終わり、来年に期待したいと言いたいがISO認証制度には期待は持てない。唯一期待できるのはどんどんと認証件数が減っていくことだ。


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2015/12/24)
目的達成までの期間が3年未満なので不適合です

3年先の情勢を読む事が出来るってんなら、会社員をヤメてFXで大儲けしてますって。
彼らはソ連の計画経済(5カ年計画)が破綻したことを忘れてしまったのでしょうか?国家規模で推進した計画ですら破綻するものが、イチ企業に出来るもワケ無いとは思わないのが(ry

名古屋鶏さん
まあ審査員がそう考えていたのか、それとも上司の指示でいやいやながら・・・
どっちにしても大人のするこっちゃなさそうですね
まあISOなんて子供の遊びか

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2015/12/24)
次期改定において定義「目的、目標」はたぶん「目標」となるだろう。

私は、そうは思いません。
「次期改定」自体がない(社会的にその必要がない)のではないかと予測します。

ぶらっくたいがぁさん
言葉がありません・・・・・・・・・至言ですな


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