10.1一般

16.03.31
ご注意
これは一般論としての「一般」ではなく、「10項 改善」の「10.1 一般」について考えたことである。

10.1項を読んでサット頭に入った方は素晴らしい頭脳の持ち主だと思う。私はひっかかってどうも納得できない。いろいろあるが、10.1だけならともかく、10.2と10.3と続けて読むとどうも論旨が通っていないように思える。和文だけかと思い、英文も見たがどうも変だという感じがぬぐえない。
では、本日の愚考を進める。

「改善」という語はISO14001では定義されていない。ISO規格とは定義された語句以外は辞書に載っている意味で解釈することになっているから、まず辞書を引いて意味を確認した。

・わるい点を改めてよくすること・・・・三省堂web dictionary
・悪いところを改めてよくすること・・・広辞苑/デジタル大辞泉
「改善」とは「悪いところを直すこと」のようだ。
ところで「わるい」と「悪い」そして「点」と「ところ」はどう違うのか? これもまた不思議である。上記はたまたま双方が「よくする」であるが「良くする」とは違うのか?
どうでもいい話 実は調べました。
「悪い」「わるい」は同じで、単に漢字で書くかかなで書くかの違いらしい。
形容詞の「良い」は漢字書き、終止形・連体形の「よい」はかな書きが原則なんだそうです。また「いい」は「よい」の口語形なので会話以外には使わないそうです。
上記の例では、「悪」については、漢字を読めない人が辞書を使うか否かのスタンスの違いでしょうし、「よくする」は双方とも書き方の原則とおりということになる。
「点」と「ところ」は分かりませんでした。

いや、間違えてしまった。日本語で考えてはいけない。原語はimprovementだ。
    improvementとはどんな意味かと英英辞典を引くと
  1. the act of improving something or the state of being improved
    なにものかをよくする行為、あるいはなにかの状態がよくなること
  2. a change or addition that improves something
    なにかをよくするために変更あるいはなにかを付加すること

ちょっと待て、improveを考えなしに「よくする」としてしまったが、そう思い込んではいけない。
これらから「improvement」は一層よくすること、日本語の「改善」は悪いところを直すことで、意味が違うことになる。
しかし実際に我々が「改善」という言葉を使うときを思い浮かべると、悪いものを直すことだけでなく、一層よくするときにも使う。私が思うだけでなく、既に国際語となった「カイゼン」という言葉は、不良対策や不具合が起きたときでなく、どんどんよくしていくという意味で使われている。ということから「improvement」と「改善」の意味合いは同じで、「壊れていたり誤動作を起こしているとは限らないが、より良い機能やより高い性能にすること」とみてよいだろう。

では本題に進む。「10改善」の「10.1一般」では次のように述べている。
10.1 一般
組織は、環境マネジメントシステムの意図した成果を達成するために、改善の機会(9.1、9.2及び9.3参照)を決定し、必要な取組みを実施しなければならない。
(ISO14001:2015より)

前に述べたように規格では「改善」の定義もなく、こういうものが改善であるという説明もない。参照せよとある9.1項から9.3項までを読んでみたが「改善の機会」という文言がない。ここで「改善の機会」とはなんだろうと考え込んでしまった。
いや、また間違えた、日本語のJISを読んでもしょうがない。「改善の機会」にあたる語句はISO原文では「opportunities for improvement」だから、英文の9.1項から9.3項で「opportunities for improvement」が出てくるところはどこか?
実は9.1から9.3ではその言葉は使われていない。しかしそのものズバリではないが一か所だけ似た語句がある。9.3項の最終パラグラフの最後から2番目のところで
-opportunities to improve integration of the environmental management system with other business processes, if needed;
ここを日本語では、「必要な場合には、他の事業プロセスへの環境マネジメントシステムの統合するための機会」と訳している。これが10.1項でいう「改善の機会」にあたるのかどうか、私にはわからない。
しかしちょっと待てよ、「opportunities to improve integration」 を「統合するための機会」と訳しているが、「improve」はどこに行ったのか?

実を言ってJIS規格9.3項には「改善の機会」ではなく「継続的改善の機会」という修飾がついた言い回しが一か所ある。ところが対応する英文では「-decisions related to continual improvement opportunities;」とこれまた違う。
どうも「opportunities for improvement」と「改善の機会」は1対1ではなく、「opportunities for improvement」も「改善の機会」も固有の意味を持たない一般的な語句のようだ。そうでないというなら英語と日本語の使い方は1対1でなければならないはずだが、そうでないのだからそうでない。

となると「1.1 改善の機会(9.1、9.2及び9.3参照)を決定し、必要な取組みを実施しなければならない」から、いかなる意図を読み取らなければならないのか?
「改善の機会」が特定の意味を持つ熟語としてでもなく、特定のものをさしてもいないわけだから、9.1から9.3までの中で、他の表現であってもなんらかの機会に改善することを決定して実行を求めているところはないのかと探してみよう。
まあ、9.1から9.3の範囲だからそんなに大変でもない。

関係ありそうなものは
9.3 最終パラグラフ
マネジメントレビューからのアウトプットには、次の事項を含めなければならない。
−環境マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効であることに関する結論
−継続的改善の機会に関する決定
−資源を含む、環境マネジメントシステムの変更の必要性に関する決定
−必要な場合には、環境目標が達成されていない場合の処置
−必要な場合には、他の事業プロセスへの環境マネジメントシステムの統合を改善するための機会
−組織の戦略的な方向性に関する示唆
(ISO14001:2015より)

果たしてこれらが「改善の機会」と取り上げるほどのことなのかどうかとなると、よくわからない。そもそもマネジメントレビューとは「9.3 組織の環境マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効であることを確実にするために」行うものであるから、マネジメントシステムの継続的改善のためであるのは当然だ。
すると10.1はトートロジーなのか、文字数稼ぎなのか?

過去に是正処置の対象であったものは2015年版では「改善」扱いされたようだ。correctionとimprovementは異なるわけだが、その辺はまあおいといて・・・
新旧を比べてみると、2004年版の4.5.3項と2015年版の「10.2不適合及び是正処置」が対応し、2004年版の4.5.3項が2015年版の10.2項と対応すると思えるが、2015年版10.1項は異質である。
ここのところはJIS規格だけでなく、ISO規格も整理されていないように思える。

もともとDISのときは
10改善
10.1不適合及び是正処置
10.2継続的改善
という構成であった。
それが最終版で
10改善
10.1一般
10.2不適合及び是正処置
10.3継続的改善
となった。
DISではなかった10.1項を加えた理由は定かではない。アイソスなどに解説はあったのだろうか?
ともかく「10.1一般」がどういう位置づけになるのか、これまたわからない。
思うに、2015年版では規格の構成をよく練っていないように思われる。
まあ「一般」というのを追加しても悪いことはないが、このとき三つの項番の役割分担をはっきりさせなかったようだ。
もし10.1項ではマネジメントシステムの改善について、10.2項では不適合の是正について、そして10.3項ではパフォーマンス向上を言いたかったなら、「10.1一般」というのはネーミングのミスだろう。「一般」という名称の項はISO14001にいくつもあるが、9.1項の「9.1.1一般」でも「9.2.1一般」でも、9.1.1項あるいは9.2.2項以下と全く別のことを書いているわけじゃない。それに続く項目の枠組みというか概要を示している。まったく別のことを書くなら「一般」ではない名前を付けるべきだ。その証拠に記載内容が以降の項と並列な7項や8項では第一項が「一般」という名称ではない。今のままの内容なら、「10.1一般」新たに設けて概要を述べ、現在の10.1と10.2、10.3を10.2、10.3、10.4として各論を記述すべきでなないのか。いずれにしても10.1と10.2、10.3の相互関係、役割分担がわからない。

うそ800 本日のセリフ
忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ。
改善とは悪い点を直すことなり。悪い点を直さずして改善を語る悲しさよ。
BGMにハモンドオルガンの響きが・・・・

うそ800 本日の謎
高校のとき監督が「もっとうまくやれ!」と言った。
ちょっと、ちょっと、もっとうまくできるように指導するのがお前の仕事じゃないのか?
ISO規格は改善しろというだけで、規格通りにすれば改善になるわけではない。
改善しろと言うだけなら九官鳥にもできる。そいじゃ、ISO規格の存在意義は何だね?



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