7.4.2 内部コミュニケーション

16.11.07
内部コミュニケーションとはなんだろう?
そりゃ組織(認証範囲)内部のコミュニケーションなんだろうけど・・なんでわざわざISO規格で、内部コミュニケーションについて要求事項を決める必要があるのだろうか?

コミュニケーションは複数の人がいるときに発生し、複数の組織が存在するときその内部コミュニケーションと外部コミュニケーションが発生する。
そして運用過程において必然的にフィードバックがかかり、いかなる組織も最善最適のコミュニケーションシステムを維持するはずだ。なんとなれば適切なコミュニケーションのシステムを備え運用しなければその組織は存続できないからだ。

ちなみに: communicateとはto express your thoughts and feelings clearly, so that other people understand them、あなたの考えや思いを他の人に伝え理解させること、
まさかISO規格のcommunicationは意味が違うとは言うまい。だって定義してない言葉は一般の辞書の意味で用いることになっている。

もっともフィードバック機構が不適切な組織においてはISO規格の要件を満たすことにより、お家断絶をまぬがれることになるのだろうか。自律的に最善の状態を維持できない組織が外部からの情報によって安定を保つのはあるべき姿ではないような気もするが、まあそういうのもありなのかもしれない。ちなみに昔の飛行機は基本的に安定するように設計されていたが、現代ではデフォルトが不安定で、それをコンピュータで姿勢制御するのが主流らしい。

2016年秋現在、韓国のパク・クネ大統領が私人である友人に国家機密を渡し、また重要な判断や演説を相談したことがばれて大統領の椅子を追われるどころか刑罰を受けそうな状況である。どんな人でも一人では判断できないこともある。だから我々は知らないこととか判断に迷うことがあるとコンサルタントや弁護士に相談し、司令官は参謀を使い、政府は学識経験者に諮問する。それは恥ではなく多くの英知を結集してより良い解を得る手法である。もちろんそれはルールに基づいて行わなければならない。ルールに反することはその責任を問われるのも仕方ない。
コミュニケーションにはルールが必要だし、組織の場合は明文化された手順があるはずだ。だからISO規格で内部コミュニケーションという項番があってもおかしくない。
一応、内部コミュニケーションは重要で、その手順を決めることは必要なことということまでたどり着いた。
では本題に入る。規格にはどんなことが書いてあるのだろう。


7.4.2 内部コミュニケーション
組織は、次の事項を行わなければならない。
a)必要に応じて、環境マネジメントシステムの変更を含め、環境マネジメントシステムに関連する情報について、組織の種々の階層及び機能間で内部コミュニケーションを行う。
b)コミュニケーションプロセスが、組織の管理下で働く人々の継続的改善への寄与を可能にすることを確実にする。
(ISO14001:2015より)

a)を一読しただけで私はおかしいと思う。
っ、あなたは思わないですか?
「環境マネジメントシステムに関連する情報について、(中略)で内部コミュニケーションを行う」って変でしょう。なお英語原文でも同じニュアンスである。
ちなみにISO9001では

7.4 コミュニケーション
組織は、次の事項を含む、品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。
以下略
(ISO9001:2015より)
とこれまた同様の言い方である。

これらの規格(s)の文言とおり実行しようとすると、現実問題としておかしなことになる。
「みんな集まれ、これから品質の朝礼を行う。・・・解散」
「みんな集まれ、では環境の朝礼を行う。・・・解散」
「みんな集まれ、それじゃ安全衛生の・・・」
以下略
オイオイおかしな話だ
そんなことをしていたら、ちょっと仕事になりそうがない。
当たり前だが、普通の会社のまっとうな管理者なら
「朝礼をします。今日の生産は○○型を○○台です。
昨日は○○工程が遅れたのでパートの方2名を補充します。
○○工程で工具故障で不良が出たので工具の点検をします
それから環境、安全衛生その他を話して・・・
では元気よく仕事を始めましょう。解散」
これ常識でしょう
となるのではないだろうか? 30年前に私が係長だったときは毎朝そんな風に語っていたものだが・・・
だから、a)項を次のようにただすべきだ。
「内部コミュニケーションには環境マネジメントシステムに関連する情報を含める」
それが素直というか普通の言い方かと思う。
まあ、その程度のことにケチをつけてもしょうがない。そう読みとれないお前が悪いなんて逆切れされるかもしれない。そもそもISO規格は天上天下唯我独尊という臭いがプンプンだしね、

これだけではない、前記した事柄とはまた別の問題というか疑問点がある。
実は2015年版のISO14001で「各階層への伝達」とあるのはここだけではない。
それは
6.1.2 環境側面
組織は、必要に応じて、組織の種々の階層及び機能において、著しい環境側面を伝達しなければならない。

上記文言が内部コミュニケーションの項番でなくて、環境側面の項番にあるのはどういう理由なのだろうか?
いや、各階層まで要求していなくても伝達を求めている箇所は多数ある。
それらを考え合わせると、ISO14001の各項番に書いている割り振りに、論理的一貫性がないのではないだろうか?
「環境側面」の項番の書き方を通すなら、内部コミュニケーションに書いてある文言を「10.改善」の項番に持っていくべきではないのだろうか? そうでなく「内部コミュニケーション」の項番の書き方を通すなら、上記5.1〜6.1.2に散らばっている文言を内部コミュニケーションに集約しなければ一貫性がない。consistentなんてISO規格が大好きな言葉なんだけど
不思議なことである

いや、上記5.1〜6.1.2にある文言そのものが不要という見方もあるのではないだろうか。というのは内部コミュニケーションとは「環境マネジメントシステムの変更(下段落参照)」を含めているわけだ。であればわざわざ個々の条項にそんな文言を書くのは冗長極まりないこと。
いやいや、その論を進めれば内部コミュニケーションの項番で「環境マネジメントシステムの変更を含め」などと語ること自体不要ではないか?
どうも2015年版を書いた人たちは論理的に考えることができなかったのかもしれない。おっと、それは日本語訳だけでなく英語原文からだから翻訳者の責任ではない。

とはいえ、そんなことを考えてもしょうがない。なにしろISO規格は、文字の迷路、論理のラビリンス、迷い込んだら抜けられない。
では次に進む。

a)必要に応じて、環境マネジメントシステムの変更を含め、環境マネジメントシステムに関連する情報について、組織の種々の階層及び機能間で内部コミュニケーションを行う。

これはどんな意味があるのであろうか? ロゼッタ・ストーンを解読せねばならない。
まず7.4.2そのものが共通テキストにはなく、環境専用の要求事項である。つまり品質その他のMS規格にはない部分である。だから理解するには文言はすべて環境にのみ必要なものであろうという前提で考えなければならない。
読み下していく前に注意しなければならないことがある。それは「環境マネジメントシステムの変更を含めて」の「環境マネジメントシステムの変更」だけど、これは附属書A.0という項で、ああだこうだといろいろ説明がある。私の理解では「変更のマネジメント」とは単なる「マネジメントシステムをどう変更するのか」とか「変更をどうマネジメントするのか」ではない。「環境側面」が「環境の側面でない」ように、「変更のマネジメント」を一つの固有の単語として理解しなければならない。
つまり「変更のマネジメント」とは「マネジメントシステムを維持、向上、つまり継続的改善をしていくためのさまざまなこと」を意味している。(cf.附属書A.0)
この項番の文章「環境マネジメントシステムの変更を含め、環境マネジメントシステムに関連する情報」という文言を一般的な意味で読み取ろうとすると、「環境マネジメントシステムの変更」が唐突というかヘンテコに感じるが、附属書の意図を汲んで「マネジメントシステムを維持し継続的改善をしていくためのさまざまなことを含めて」と理解すれば日本語として意味が通じる。いや、そうしないと意味が分からない。
とはいえ、そのようなことをわざわざ規格に書き込まなければならないことなのかという疑問は消えない。なぜなら、繰り返すが、この文章は共通テキストにはなく、ISO14001にだけ追加されているということである。
果たして品質では必要ないが、環境では必要だという理由は何であろうか?
わからないから次に進もう

更にb)項も気になる。

b)コミュニケーションプロセスが、組織の管理下で働く人々の継続的改善への寄与を可能にすることを確実にする。

トップダウンだけじゃなくて、広く下々の意見を集めて組織の改善に役立てろという意味は分かるような気がする。おっと共通テキストでもそんなことは求めていない。そして9001でもそのような要求はない。
What does that mean? なぜ環境だけは「組織の管理下で働く人々の継続的改善への寄与を可能にすることを確実」にしなければならないのか?
品質は客の要求に応えることが第一義であり、それだけである。しかし環境保全は地球上の人間すべてに関わるからみんなの英知を集める必要があるからだなんて声が返ってきそうだ。
だが、それはおかしい。日本の品質が世界一になったのは、単に客の要求仕様を満たすだけでなく関わる人たちがもっと良いものをという意識を持ち、行動に移したからではないだろうか。それは製造業だけでなくサービスの品質、販売やレストランその他においても発揮され今があるということを踏まえれば、環境だけということはないだろう。

そんなことを考えると、そもそもコミュニケーションの項番において内部コミュニケーションという項番を(外部コミュニケーションもではあるが)細分してここに置いたという理由は何だろうか? 正直、私はわからない。

参考までに9001と14001のコミュニケーション項番の文言比較を下表に示す。
附属書SL(JABより引用 ISO9001:2015 ISO14001:2015
7.4 コミュニケーション
組織は、次の事項を含む、XXXマネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。

-コミュニケーションの内容
 (何を伝達するか)
-コミュニケーションの実施時期
-コミュニケーションの対象者
-コミュニケーションの方法
7.4 コミュニケーション
組織は、次の事項を含む、品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。

a)コミュニケーションの内容
b)コミュニケーションの実施時期
c)コミュニケーションの対象者
d)コミュニケーションの方法
e)コミュニケーションを行う人


ワカラン: 対象者は「whom」であるから、行う人があった方がよさそうに思う。実際ISO9001もDIS時点ではe項はなかった。
しかしそれならば、共通テキストは欠陥なのか?それが追加されなかったISO14001は欠陥なのか?
謎は深まる?
7.4 コミュニケーション
7.4.1 一般
組織は、次の事項を含む、環境マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションに必要なプロセスを確立し、実施し、維持しなければならない。
a)コミュニケーションの内容
b)コミュニケーションの実施時期
c)コミュニケーションの対象者
d)コミュニケーションの方法

コミュニケーションプロセスを確立するとき、組織は、次の事項を行わなければならない。
−順守義務を考慮に入れる。
−伝達される環境情報が、環境マネジメントシステムにおいて作成される情報と整合し、信頼性があることを確実にする。

組織は、環境マネジメントシステムについての関連するコミュニケーションに対応しなければならない。

組織は、必要に応じて、コミュニケーションの証拠として、文書化した情報を保持しなければならない。
7.4.2 内部コミュニケーション
組織は、次の事項を行わなければならない。
a)必要に応じて、環境マネジメントシステムの変更を含め、環境マネジメントシステムに関連する情報について、組織の種々の階層及び機能間で内部コミュニケーションを行う。
b)コミュニケーションプロセスが、組織の管理下で働く人々の継続的改善への寄与を可能にすることを確実にする。
7.4.3 外部コミュニケーション
組織は、コミュニケーションプロセスによって確立したとおりに、かつ、順守義務による要求に従って、環境マネジメントシステムに関連する情報について外部コミュニケーションを行わなければならない。


なぜISO14001にだけ必要なのか?
なければ困るのか?


ISO9001とISO14001のコミュニケーションの項番の文言を比較して、9001が不足だとかおかしいと考える人はいかほどいるだろうか?
もしISO14001から共通テキストにない7.4.2と7.4.3を削除したとき、なにか問題があるのだろうか? 問題があるのなら、共通テキストには瑕疵があるのだろうか? そして追加してない9001は欠陥なのか?
そうではなく余分なものが付加されたISO14001は冗長なのだろうか?
正直言って、私はそんな気がする。

冗長で申し訳ないが: 冗長とは余分なものとか余計なことという意味です。
もっとも冗長とは単純に悪いことではなく、軍事や宇宙関連では、積極的に冗長なシステムを作ることもある。連絡網が寸断されることに備えて二系統で命令を伝えるとか、故障に備えて同じ機械をを二つ備えることもある。データ通信でエラーを見つけるために1ビット追加するパリティチェックなどもある。
アメリカ海軍の戦闘機に双発が多い(ex:F4H、F14、F18C/D、F/A18E/Fなど)し、以前は太平洋を横断する長距離旅客機が4発エンジンであったのも、一つのエンジンが故障/被弾しても生存性が高いからである。エンジンの信頼性が高くなった現在ではそれほど冗長性をもたせなくなった。
小惑星探査機「隼」ひのまるが地球に帰還できたのも冗長性のおかげである。もちろん技術者、研究者の知恵と工夫と頑張りがあったからこそ。

だが大宇宙を行く小惑星探査機でない、ISO規格であるなら一度言えば十分、山口百恵のコスモスの母のように何度も同じ話を繰り返すことはない。
そして冗長ならこの項番はあってもなくても、意味は同じだ。当然、組織(企業)はそんなことを気にすることはない。 お前は何を言っているんだ

考えてみればさ、自分たちの会社の決まりやプロセスによそもんに言われたくはないさね。取引するにあたってこういう管理をしてくれという要求ならまだわかる。客でもないのにああだこうだと言われるのは煩わしい以前に、「おまえは何を言っているんだ?」と言いたくなる。

うそ800 本日の内心
今の私はこの項番の意味などよりも、なぜこんな余分な文言を入れ込んだのかに興味がある。
まあ、誰にでも間違いはあろうさ、



akijapan様からお便りを頂きました(2016.11.07)
もしISO14001から共通テキストにない7.4.2と7.4.3を削除したとき、なにか問題があるのだろうか?

おっしゃるとおりです。
すぐに削除を希望いたします。

akijapan様 まいどありがとうございます。
このISO規格は世界の英知()を集めて作られたもの、オバケ1匹の寝言ではどうにもなりそうありません。
でも世界の企業がへそを曲げればアットいうまに(以下略
勝負は下駄をはくまでわからないと言いますが、ISO認証の価値は認証企業のパフォーマンス次第ですから、アッという間に結果がわかりそうです。
2年もしたら勝負が決まるでしょう。

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