認証の近未来(その2)

17.02.13

ISO認証制度が5年後、10年後どうなるのか気になる、いや私だけでなく、ぜひとも知りたいという人は多いだろう。
認証制度側で審査員をされている人は、せめて年金がもらえるまでは働きたいだろうから、そのときまで認証制度が続いてくれないと困る。いやいや認証機関の幹部となればそれは重大な関心事である。認証機関もゴーイングコンサーンでなければならない。5年後、認証機関が存在するか否かは現時点の経営者の責任である。栄光あるT芝や#が崖っぷちになったのは、今の経営者ではなく5年前の経営者の責任である。
しかし認証を受ける側にすれば認証制度がどうなろうと、正直いってどうでもいいことだ。そもそもがISO認証制度が現れたから認証を受けなくてはならなくなかったというだけだ。一般企業がISO認証制度が必要になったとか、そういう制度を作ろうと言い出したなんて話を聞いたことがない。だから、認証制度がなくなっても厄介ごとが一つ減ってヤレヤレだと思うだけだろう。
もちろん中には「ISO事務局です」と誇りを持っていらっしゃるような人や、これから審査員になろうと考えている人にとっては重大問題かもしれない。だって認証制度がなくなると自分の存在意義がなくなってしまう。ISO認証制度がレーゾンデートルというのも変な話だが、現実にそういう人はいる。証拠?そういった方々が書いた本やウェブサイトはごろごろしている。
まあ、ここまではいつもの前振りだ。では今日も近未来の認証について考えていく。

ISO9001の登録件数のピークは2006年、14001のピークは2009年であった。2017年の今、それぞれのピークから11年、8年経過したがその間、登録件数はなだらかに減少してきた。このグラフを見ているとこれからも少しずつ減少していくのだろうと思うかもしれない。これから減少が加速するのか、なだらかになるのかが関心事である。

認証件数推移

認証件数は従属変数であり、影響する独立変数は多々あるだろう。そして最近、大きな変化があったことに思い至る。それは2015年の規格改定である。
ISO14001の認証件数のピーク以降に改定はなかったが、ISO9001では2008年に改定があった。とはいえその改定では変更内容はあってなきがごとしで、誤読防止のための記述の見直しとISO14001との整合化程度で、規格構成は変わらず要求事項にも大きな変化はなかった。2008年の規格改定による審査員研修も移行審査もなかったように記憶している。要するに2006年のピークから今まで大幅な規格改定がなかったということだ。そしてこのたび2015年に大規模な規格改定があった。これがどんな影響があるかということを考える。
2015年改定は中身はともかく、形式というか規格構成も要求事項の配列もまったく今までと異なり、移行審査もするし審査員も規格改定セミナーを受けないと改定対応の審査もできない。その変化の大きさは2000年改定のときと同程度だ。
審査員や認証企業にとっては大変なことだ。だが見方によれば審査員研修機関やISO委員などにとっては稼ぎ時ということも事実である。まさか彼らが金を稼ぐために規格改定を・・なんてことはないだろうけど
実はISOのスタンダードライターが自分の仕事を作るために、規格改定をするといううわさ話は聞いたことがある。

ぬるま湯という言葉がある。人間は基本的に保守的な生物であるから現状に特段の支障がなければそれを変えようとはしない。いや多少の不具合があっても現状維持を好む。100円で購入しているものの値段が200円になれば安いところを探すだろう。しかし1割アップ程度であれば、調査や評価の手間ヒマを嫌って現状維持というところも多いだろう。
ではISO認証ではどうだろうか、認証している企業を考えてみよう。

ケース 1 部長
部長
「ISO規格が改定になりました」
社長
社長
「何かすることがあるのか?」
部長
「ほとんど変わりません。マニュアルの文言を少々いじることくらいですかね」
社長
「そうか〜じゃあ適当にしておけや」
ケース 2 部長
「ISO規格改定になりました」
社長
「何かすることがあるのか?」
部長
「大幅改定でして、マニュアルは全面見直しになりますし、記録や文書も規格に合わせて見直しが必要です。またコンサルを頼む必要がありそうです」
社長
「あのよ、過去3年間、客先から認証を求められたことはあるか?」
部長
「ありませんでしたね」
社長
「去年ISO登録証のコピーを提出したことはあるか?」
部長
「ありません」
社長
「そいじゃISO認証を止めたときのメリット、デメリットをまとめて報告してくれや」

そういう会話がかわされている会社は多いのではないでしょうか。そういう会話がされない会社は異常でしょう。だって利益を追求し無駄を排除しない組織は営利団体ではありません。

そしてまた、ISO9001認証の目的は「法令や要求事項を満たした製品を一貫して提供し、更に顧客満足の向上を目指す」という信頼を与えることです。(ISO/IAF共同コミュニケ
ですから商取引においてISO認証が話題に上らないなら、止めることが自分たちのためではなく、顧客のためです。QCDが変わらずに高い金をとることは三方よしに反します。
いやウチはそうじゃない、「ISO認証で会社を良くしようと考えているんだ」というところがあるかもしれない。でもそれはその会社が考えたことであって、ISO規格もISO認証もそういうことを謳ったこともありませんし保証もしていません。もちろん過去にそういうことができると語ったISO関係者や認証機関もありました。でもそれは「偽」であって嘘です。嘘と言っては語弊があるかもしれませんがそう言える根拠がありません。
ISO認証とは商取引においてお客さんに安心してもらうものでしかありません。私が言っているのではなく、MS規格を制定したISOと認証機関の国際シンジケートであるIAFがそう語っているのです。少なくてもJABや個々の認証機関や審査員やISO委員よりも信用できるでしょう。だから信用してください。

となるとお客様からISO認証が要求されず、ISO認証しているかどうか気にされていないなら、ISO認証する意味がありません。
もちろんISO規格は会社を良くするツールであると考えても悪いことではなく、それを参考に会社の仕組みを見直してもバチは当たりません。しかしわざわざお金を出して審査を受けることも、お金を払って認証を受けても意味がないのです。

そういうわけですから「過去に認証を求められたがなく」そして「ISO登録証のコピーを提出したことがない(認証を立証すること)」なら、ISO認証を受ける意味がないということです。
ただ先ほども言いましたが人間は保守的な生き物です。なにごとでも今までと変えるのはパワーが要ります。ISO認証を止めるというのも決断です。止めて支障はないだろうか、お客さんから何か言われないだろうか、取引先から毎年グリーン調達の調査が来るけど、あれにISO9001と14001認証の有無の欄があったな、もし止めたら取引が止められるってことは・・・
だから現状維持というのが一番エネルギーを使わないんですね。改善をするというのがいかに大変だということがわかるでしょう。大改革なんてもう大変です。

でも規格改定、それも大改訂があればそれに対応するために使うエネルギーが大きくなります。ISO9001は過去数回改定されました。そのときの認証維持の労力はどうだったのでしょうか?
小改訂なら対応する労力は小さく、大改訂なら対応に大きな労力が必要になるでしょう。大きな改定の場合、認証を継続するかは組織内部で検討されるでしょう。その結果はどうなるのでしょうか?
過去のISO規格改定とそれに対応する負荷の関係をみると次の表のようになります。
さて、過去の改定時には認証件数の変化はどうであったのだろうか!?

イベント改定概要対応負荷認証件数の変化
1987年制定
ダミー
1994年改定
項番の構成が変わったが、要求事項はほとんど変わらず
1998年翻訳修正
ISO規格は変わらず。JIS翻訳の見直し
2000年改定
構成全面変更、要求事項の記述も全面変更
2008年改定
一部文言の変更
2015年改定
構成全面変更、要求事項の記述も全面変更

規格改定と認証の登録件数の推移の関係をグラフにしてみました。赤線が認証件数の年ごとの差分です。網掛け部は移行審査が行われた期間です。

QMS認証件数増分 EMS認証件数増分

注1:
当然だがグラフで増分がゼロのとき認証件数はピークである。但し、グラフは年末の認証件数で作っているので、実際のピーク時とは数か月ずれている。

ISO9001
上の左グラフになります。1994年の改定はISO認証が急上昇中の時期でしたが、特段赤線に変化はなさそうです。1998年も同様に変化はありません。
2000年に改定がありましたが、その影響があると思われるのは2001年から2003年の間におこなわれた移行審査です。グラフでは水色の網掛けをしましたが、その時期に赤線の増加が止まり減少に映っています。これはなにか関連がありそうな気がします。
2008年の規格改定はどうでしょうか? こちらも移行審査は2009年から2012年でした。グラフの水色の網掛け時に減少傾向が止まりました。増加まではいきませんが減少が非常に少なくなりました。これもまた規格改定と関係がありそうです。 2014年頃からまた減少が増加したようですが、これは動きも小さく時間もたっていないので何とも言えません。単なる揺らぎでしょうか。

ISO14001
上の右グラフになります。改定は2004年の1回で極めて小規模でした。しかしグラフをみると改定版で審査が始まったときから増加が止まりました。これを偶然と見るか、規格のハードルが高くなったとみるか?

ちょっと待ってください。個々に見て分からなくても見比べると分かることがあるかもしれません。
よく見ると増分が減ったのはISO9001もISO141001も2001年から2004年にかけてなのです。ということは当時の景気変動とかそれ以外の理由によってQMSもEMSも認証件数がガタット変化したのでしょうか?
二つのグラフを重ねてみましょう。

認証件数増加比較
注1:
水色の網掛けはISO9001改定の移行審査時期を、グリーンの網掛けはISO14001の移行審査時期を示す。

このグラフをみるとQMSもEMSも同じような変化をしていると思いませんか?
ただQMSの方が認証件数がほぼ倍なので変化が大きいだけのように見えます。それで縦軸のメモリを変えたものが下図になります。

認証件数増加比較

認証件数の増減は時期も変化の動きもほぼ同じだと思いませんか?
2008年から2010年あたりの落ち込みが少し違いますが、あとはほとんど同じです。となると認証件数の変化は規格改定に無縁であり、双方に共通するあるいは双方と全く無縁なことに起因するように思えてきます。

ところで、今まで見てきたのは認証件数の増分です。ですが常に母数が変化していますから、増分の数ではなく、増分の割合で見た方がよさそうな気もします。
割合で見るとどうでしょうか? それが下のグラフです。

QMS認証件数増分割合 EMS認証件数増分割合

注1:
当然であるが、認証件数がピークであった年は増加割合もゼロとなる。
注2:
増分の登録件数に対する割合であって、加速度(差分の差分)ではないことに留意

ISO9001
多少に凸凹はありますが、増分の変化は1995年から2007年まで一直線に減少してきたように見えます。そして2008年以降は一定でわずかな減少を維持しているようです。
ご注意願いたいが、減少率が直線的に減少しているので、元の増減は直線ではなく二次曲線になります。
つまりISO9001認証件数は認証開始時から上に凸の二次曲線で変化し、2007年以降はわずかな右下がりの直線で減少していることになります。この変化を説明できる理屈を考えようとするとなかなか難しい。
ただどう見ても、この割合のグラフからは規格改定はまったく認証件数の変化に影響を及ぼしていないようです。

ISO14001
認証開始時から増分割合は双曲線のようなカーブで減少しています。2009年以降の減少率は非常に低く時間的変化は少ない。まさに双曲線の片割れです。
規格改定と認証件数の関係は特になさそうです。

このグラフだけから想像すると、ISO14001の需要は一定数であって、その規模まで急速に立ち上がり、飽和した以降はほとんど変化しないという状況が想像されます。
となれば今後の変化は自然損耗を受けて毎年若干の減少があるもののこのカーブを継続するように思えます。私には

最後に確認のために、QMSとEMSの増加割合の比較をしておきます。

割合比較

この図を見ては二つのグラフに関係があるのか、類似のものかわかりません。
ここから私の恣意になります。次のように考えました。二つとも認証開始時は急速に立ち上がりピークに達した以降はなだらかに減少すると仮定します。もちろん諸条件によってスタートからピークまでの時間も、ピークの高さも異なります。
ピークの時期は9001が2006年、14001が2009年というのは明確です。またISO14001の認証開始は1997年というのははっきりしています。9001のスタート時期ははっきりしていませんが、日本における開始がEU統合であったことは間違いなく、1993年からと考えてよいでしょう。
とすれば上のグラフでQMSの1993年を1997年に合わせ、ピークを2006年から2009年に合わせたらどうなるか?
結論は二つのグラフはあいませんでした。ということは単純なライフサイクル的な発想ではないのかもしれません。
では外部の要因として経済成長率などを考えたらどうか?というのも単純な発想ですが・・
いえいえ、無関係ではないと思いますよ。景気が良ければ認証費用くらい出そうって会社もあるでしょうし、認証ビジネスが盛んになればその分はGDIが増えるわけですし・・
さて、

経済成長率
注:経済成長率は左目盛り(%)、認証増加割合は右目盛り(%)

うーん、どう見ても経済成長率とは関係なさそうです。
あてずっぽうではなく、認証はどのような影響を受けるのかを認証企業や認証機関の営業にヒアリングしないとわからない。いや分かっている人がいないのかもしれません。


上記からこれからの変化を推定するとどうなるのか?
2015年改定に対応せずに認証を辞退するつもりという話はよく聞きます。その本音は規格改定に対応することが面倒になったのか、あるいはもうISOも潮時(時代遅れ)と考えたのか、当事者にもわからないのではないでしょうか。

ともあれ、過去の改定時の変動からは改定と認証件数の関係はわかりません。
ただ2015年改定による変化はなさそうだと予測します。いずれにしても2020年になれば結果がわかります。そのときには規格改定が認証件数に影響するのか否か検討できるでしょう。

うそ800 本日とりあえずわかったこと
規格改定と認証の増減は関係なさそう、そして経済成長率とも無関係のようです。



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