18.10.25
論文名: | マネジメントシステムの普及と制度化 |
掲載誌: | 愛知学泉大学現代マネジメント学部紀要(2018.03) |
著 者 : | 水野 清(ミズノ キヨシ) 愛知学泉大学 准教授 |
何をするにも考えるにも、新しいインプットがないと始まらない。私はISOに関するニュース、書籍、ウェブサイトなどを日々チェックしているが、ここ数年、ISOに関する話題は減るばかりだ。ウェブにあるISOコンサルタントや認証代行業の宣伝も、これまた減るばかり。ISOコンサルから紙のダイレクトメールはもう5・6年来ていない。
論文検索として最もポピュラーなCINII(国立情報学研究所)も定期的に見ているが、ここ2・3年、ISOのキーワードで引っ掛かるものはISO22000、ISO/IEC27001、ISO45001、ISO55001、ISO/IEC17025、ISO22301、ISO20400などばかりで、ISOMS認証制度のオリジナルであるISO9001やISO14001はマイナーリーグ、J2に零落した。更にCINIIに採録されているISOに関する論文(?)も、9割方はアイソス誌などの雑誌の記事であり、研究者が書いた論文は本当に少なくなった。
今年(2018年)になって10月までに採録されたISO9001及びISO14001に関する学術論文は何件あるのかと数えたら、なんとわずか
1件であった。
それがこの論文である。紀要に掲載されたものでA4で7ページしかない。
希少な論文だから、本日はそれについて考察する。
この論文はISO規格そのものとか、その効用などについてではなく、なぜ日本の企業がISO14001を認証したのか、そして認証を返上するようになったのかという外的・内的な原動力・圧力についての考察である。
確かに今の時代、ISO14001規格が作られたいきさつとか、私が国内に広めましたという倉田健児のような切り口というか方向では、浮世離れしていると言われるに違いない。現状は問題である、それはなぜ起きたのか、どうすべきかということを論じなければならない。
しかしながら一読して感じたのは、調査が甘く考察も表面的であり、ISOMS認証の現実を把握していない。僭越であるがそれが私の本音である。
印象論はおいといて、じっくりと論文を読んでみよう。
この文章を読まれる方は対象の
論文のPDFを別のウインドウに開いて参照いただきたい。
若干の注記を示す。
- 文章はISO規格の読み方、すなわち下記の方法で解釈する。
- 規格で定義された言葉はその定義で解釈する、翻訳された文章の言葉は原文の単語の意味で解釈する、日本語の場合は広辞苑など一般的な意味で解釈する。
- この論文を読むに当たっては、論文で定義したもの及び他の論文から引用したことを明記してある用語はその定義で解釈する。原語が記載された文章の言葉は原語の意味で解釈する、日本語の場合は広辞苑などに記載されている一般的な意味で解釈する。
- 「組織」という語はISO規格で定義されているが、ここでは水野先生に合わせて一般語として使う。
- 使われている言葉に定義を代入しても、その意味は一切変わらないとする。
- 引用文の表示
- この論文に限らず他の論文や規格からの引用文は紫色の文字で示す。
- この論文からの引用には( )で紀要の掲載ページを示す。
以下疑問個所を個々に取り上げて論評する。
水野先生は制度派組織論という学説にISO14001の登録数の増減を当てはめて解説しようとしているようだが、ISO認証の実態を知らないとしか思えない。
私個人の見解を言えば、ISO14001の増減(栄枯盛衰)は企業がISO9001で乗り遅れた反省から、スターダッシュをかけてはみたものの、ISO9001やISO14001の認証が事業推進において必要でないことに気が付いたこと、そして熱が冷めてどんどんと認証を返上しつつあるということにすぎないように思う。認証は単なる流行であり、その推移を説明するにはアイドルの流行り廃りと同じとしか思えない。
また
「コンサルタントとか研修機関による間接的な取得圧力」(p.5)とあるが現実はどうだろう。そのような情報で軽々しく認証を決めるようでは経営できない。それこそ
「品質マネジメントシステムの採用は、組織の戦略上の決定に寄ること(2004年版序文)」ではないのか。
またこの論文では簡易EMSに言及していない。NPOや営利企業が設立した簡易EMSだけでなく、ほとんどの地方自治体は、独自の簡易EMSを設けて地域の中小企業に認証を勧めている。2017年末において、ISO14001認証が17,000件弱であるのに対し、簡易EMS大手のKES、エコアクション21、エコステージの3種だけで14,000件あり、地域EMSを加えるとISO14001と同等の認証件数がある。
それへの言及と分析がないのが残念である。
本日の問題点
まず使う言葉の定義をしっかりしてほしい。定義なき議論は議論にあらず、
次に、現実を正しく把握して分析してほしい。証拠裁判主義は学問も同じ、
注1 | |
ISO14001:1996は1996年9月1日発行であるが、1995年にISO14001認証を受けた企業は日立化成五井事業所など6件存在する。
|
うそ800の目次にもどる