19.08.29
コンサルを書くと言いながら毎度 認証制度の批判で終わってしまうというのは私の恨みつらみがいかにひどいかということかな?
コンサル三部作として、本日もコンサルをお題にしていってみよう。
道と言っても剣道とか茶道という道ではなく、生き残る方法という意味である。
1990年代初頭、日本でISO9001認証が始まったのは、欧州統合にまつわり域内の自由な移動ができる前提として、ISO9001認証していることという規制ができたからだ。
だから欧州に輸出している企業はISO認証が必須となり、ISO9001の知識を持つ人、認証の手助けをしてくれる人を探し、それに応えて周りより少し知識がある人が指導を始めた。ISOコンサルの誕生である。
昔々の話である。1960年代末、当時の勤め先である家電品をアメリカに輸出しようとした。当然UL認定が必要となった。そのとき分厚いULの本を買ってきて、それをコピーして10人くらいで分担して翻訳した。高校を出たばかりの私も20ページくらいを受け持って辞書を引き引き翻訳した。
あのときコンサルを頼んだかとなると、はるかかなたで忘れてしまったが、特段社外の人を頼んだ記憶はない。
今ネットでググるとULコンサルタントと称しているのはなかったが、UL取得のコンサルをしますという団体は多数みつかる。
それともうひとつ面白いことに気が付いた。UL認定のコンサルをしますというのは多々あっても、UL維持の代行をしますというのは見当たらない。2019年現在ISO維持サービスとかISO代行という業が目立つのとは大いに異なる。
20世紀末から今世紀初めにかけてISOコンサルと称する業が多数存在したということは、ISO認証はUL認定よりも困難で社外の人の支援が必要なのか?
ちょっと待てよ、UL認定工場とISO認証工場でやるべきことはなにが違うのか?
違いはたくさんある。
| UL認定 | ISO認証 |
サーベイランス 内容 | 管理と現物 | 管理 |
サーベイランス 時期 | 年4回 抜き打ち | 年1回又は2回・選択可 事前に日程を調整 |
管理項目 | 規格で具体的に指定 | 会社が決める |
品質改善 | 義務なし | あり・但し会社が決める |
規格解釈 | 明確 疑問があればULが回答 | 認証機関により幅あり |
エンジニア・審査員 | 審査範囲は明確 余計なことは言わない | さてね? |
対応者 | 担当者 | 経営層から現場まで |
接待 | なし タクシー券は渡していた | 20世紀はあり 21世紀はみかけない |
不適合 | 明確 | 不明確(注) |
注: | ISO17021で不適合は具体的証拠と該当要求事項を明記すると
定めているが、これを満たしている審査報告書は少ない。 |
こう見てみると、私はISO認証よりUL認定のほうが難しいと思える。
まずULのエンジニアがいつ来るか分からないということは、事前準備ができないということ。ISO審査では何カ月も前からいつしますか? どなたが来ますか? スケジュールは? なんて交渉するし、巡回ルートも会社側が決めるし、会社によっては現場で対応する人を決め事前に台本を書いていたりする。
それから保管とか識別だって、ULは具体的にがんじがらめに決まっている。ISOは自分たちが決めた方法であればOK。それにどこを見せるかは工場側が決めている。危ないところは見せないことも可である。
工事中とか客先立会中なんて表示して、審査員に見せなかったなんてありませんか?
私? 私はそんなことしたことありませんよ(キリッ
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もし不適合があったとき、ULの場合は出荷できなくなる。ISOの場合はいつまでに是正してね♪となり、製造も販売も止めることなどない。いや是正せずに認証やめてもなんの支障もない。
そもそも1990年代のようにISO認証していなければ欧州に輸出できないということを除けば、ISO認証は飾り、アクセサリー、付録であり、なくて困るものではない。他方UL認定はアメリカやカナダに輸出しようとするなら必須だ。自社が輸出していなくても部品や材料であれば、顧客企業がアメリカなどに輸出する品物に使う場合、ねずみ講か幸福の手紙のように玉突きが連鎖する。
このようにUL認定の方がISO認証に比べて必要性が明確で認定を得るのははるかに難しいし維持も難しいにもかかわらず、ISOコンサルは売るほどいるのにULコンサルがいないのはなぜか?
それを不思議に思いませんか?
もちろんビジネスとしてのうまみは、単なる必要性とか困難さではない。情報が足りないなら情報提供が金になるだろうし、手間がかかるなら手間を省いてやれば金になる。必要でも困難でも、ジェトロとか発注元から情報提供や指導があるならビジネスにはなりにくい。
そういうことではなかろうか?
ましてISO認証が必須ではないということ、ゆえに認証できなくても、あるいは維持審査で問題が起きても、ULコンサルよりは責任を負わないで済む、これですよ、これ!
突っ込まれる前に記述して起きます。
ISO認証にもメリットがありました。国土交通省が建設工事発注においてISO認証していると加算点を与えるという制度を設けたから、そりゃ認証しますよね。
もっとも大手ゼネコンとかしっかりした会社は、そんなわずかばかりの加算は関係ないでしょうね。
建設業のISO9001認証件数は2000年頃から駆け上りましたが、2005年ピークになり、それ以降は全体の認証件数減少以上の傾きで減少しています。
私は建設業界のことはまったく存じませんが、これも情報を集めて分析すればおもしろそうです。修士論文くらいにはなりますよ。
これ以外でISO認証すればメリットがあるというのは思い当たりません。
グリーン調達で「ISO認証必須」とやれば独禁法違反、ほとんどは「ISO14001、エコ○○、○○アクションなどを認証していること」のような表記になっています。
さて、コンサルのことです。
ISOコンサルの資格なんてありません。まあ箔をつけるなら○社の認証を指導しました、審査員(補)の資格があります、口は達者ですなんてことで必要十分ですよ(笑)。
そもそもISO認証しても製品が良くなるわけでなし、会社が良くなることもなし、要するに意味がないのですから。
意味がないことでお金を儲けるのだから、素晴らしい。誰でもコンサルになれます。
それどころか20世紀では、コンサルが指導したところを自分が審査するなんて、最上級のインチキもありましたが、今は禁止されました。まあ抜け道はどこにでもあるでしょうけど、
でもそんなコンサル意味があるのか?
ありました。ISO認証そのものがすばらしいと信じられていた時は……。1990年代半ばはISO認証企業はエクセレントカンパニーと思われていた、もとい、思わせていたのでしょう。誰が思わせた? 認証機関であり審査員でありコンサルだった。
でもどの企業もISO認証したらどの企業もエクセレントカンパニーになるのか? もしそうだとしたらエクセレントカンパニーの大安売りですよ。少し考えれば「ISO認証すればエクセレントカンパニーになる」という発想は破綻しているのはミエミエだ。
日本でISO14001とISO9001の認証合わせて
45,000件(2018末)ありますが、エクセレントカンパニーがそれほどあるはずはありません。
そういったことを考えると、ISOコンサルとはISO認証の現実が知られず、その虚像というか蜃気楼を見て素晴らしい思われているときだけ存在できるのだと思う。
一旦ISO認証の現実を目にすれば、皆 認証は不要と知るし、付き合いのために最低限だけというところは認証代行業を頼むことになるのだろう。
それは2010年代に現実となり、2020年代には認証そのものが絶滅の危機に瀕するだろう。
さて、そうなるとISOコンサルの道と題しているこの小文は、どういう結論に持っていけば良いのか?
私は、そんな方法はないよとか、消滅するしかないとは思わない。私は生きる道はあると考えている。
それはISO規格の序文のヒントがある。
つまり、認証ではない本来の狙いである序文「0.2 環境マネジメントシステムの狙い」である。
結局、この一文がISO14001の本質だ。
ISO9001の場合は表現が違うが類似の記述がやはり序文0.2にある。
ハッキリ言って、この序文0.2を実現することは認証することの何倍も難しい。まして組織に代わって審査代行とか1年に一度まとめてなんてことで達成できるわけがない。
しかし0.2を実現する価値は十分ある。それを指導しましょうというISOコンサルなら仕事は間違いなくあるだろうと思う。
とはいえ、本当にそれを実現するのは会社の人でなければならない。いくら優れたコンサルでも、その会社の文化、風土に見合った最善の仕組みとか事業活動に沿った環境目的がどうあるべきかなどは判断つかないと思う。
しかしISOコンサルとして生きていくと決断したからには、この道以外はないと私は考える。
だがこの仕事を請けたとして、果たして何を目的に、達成目標をどうするのかというのは難しいだろう。それは前述したように社内の人でないと分からないことが多いからというだけでなく、ものすごい知識と知恵が必要だから。
序文0.2には前述の次に具体的に次が重要であるという。
- 有害な環境影響を防止又は緩和する
- 環境の状態からの有害な影響を緩和する
- 順守義務を果たす
- 環境パフォーマンスを向上する
- ライフサイクル全体における環境影響を管理する
- 企業の社会的評価を上げる
- 環境情報のコミュニケーションを推進
これを実現しようとすると、へたをするとISO規格と同じことを語り、それから先は会社の皆さんが考えてくださいとなってしまうかもしれない。それではコンサルの存在意義はない。
ともかく考えてみよう。
- 有害な環境影響を防止又は緩和する
これは仕組みもあるだろうが、具体的な処方を知らないとあまり効果はないだろう。そのためには環境側面の把握が最重要なのは当然だ。「環境側面は点数化して……」というレベルではどうしようもない。
その分野における過去の事故状況、危険性、防止方法、などを十分に知り尽くしてアドバイスや具体策を提示できなければ存在意義はない。となるとすべてに詳しい人などいないから、業種別とか環境側面ごとの専門家が必要だ。それはISOコンサルというよりも業種対応のコンサルではなかろうか?
- 環境の状態からの有害な影響を緩和する
前項と同じ。
- 順守義務を果たす
まず環境法規制というものは概念であり、境界が明確なわけではない。そして環境法だけ守ればいいということはない。つまりすべての法律を守らなければならないのである。
廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)を守らなければならないのは当然だが、運搬に当たっては道路交通法も関わるし運転手には労働基準法もあり委託契約には民法も印紙税法も下請法も関わる。印紙税法はどう考えても環境法じゃないから破って良いわけではない。それは環境法でないですといっても違法ではいけない。
となると遵法義務を果たすための助言となると、最終的には弁護士でないとできない業務だ。
英語でコンサルは弁護士という意味もあるらしいからおかしくないか?
だけど廃棄物専門の弁護士もいるけど、公害とか製品対応などすべてを担える弁護士がいるとは思えない。
- 環境パフォーマンスを向上する
環境パフォーマンスといっても、製品、サービス、事業活動、付帯することと多方面に渡り、それを実現する前にそれら環境側面すべてを把握・理解しているコンサルがいるとは思えない。
特に製品となると同業者しか分からないことが多いだろう。それに製品と言ってもライフサイクルやサプライチェーンを考慮すると通常専門家と言われてもそのほんの一部しか知識や経験がないだろう。
はたして?
- ライフサイクル全体における環境影響を管理する
同上
- 企業の社会的評価を上げる
- 環境情報のコミュニケーションを推進
考えれば考えるほど、序文0.2 のコンサルをするのは非常に高度であり困難であることが分かる。
最近たまたま「内部監査のさらなる充実に向けて」なんてセミナーの広告を見たが、企業の内部監査とはなにかと考えれば、ISOのための内部監査など存在しない。
でもさ、助言や指導をしてお金をもらうというのはまっとうなビジネスであるが、だからこそ少しばかりの助言や指導ではお金がもらえないというのも当たり前ではないだろうか。ISOコンサルという看板を揚げるならそうとう高度なお仕事をしなければならないだろう。
しかし振り返るとISOとこれら業務は関係なさそうだ。つまり事故の予防や事故時の対策、あるいは法規制についての相談受け、パフォーマンス向上というものはISOなどと関係なく企業として推進していかねばならないことだ。
となると序文0.2 で述べているすべてができるISOコンサルは存在しないし、その一項目だけでもコンサルできるなら世の中でコンサルとして十二分に商売していける。
ISOコンサルが生きる道を考えると、ISOコンサルでなく企業が普遍的に具備する機能においてのコンサルを行えば決して仕事はなくならない。もちろんISO規格が要求する文書を作成してあげます、審査の代行をしましょう、定期的に法規制のリストを見直しますなんてのよりは高い知識と力量が求められる。だけどそれは当たり前のことだ。単に他社より早くISO認証したからと言って、そのタイムラグでお金を稼ぐというのも悪くはないが、皆がそのレベルになったら仕事がなくなるのは当然だ。

本日の結論
ISOコンサルの生き残る道は、どんな分野でもいいから一流になることである。
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