環境目標と卵の話

19.10.31
2015年改定で「環境目的」という語はなくなったが、「環境目標」は生き残った。いやいや、実はそうではなく2015年版の「環境目標」が2004年版までの「環境目的」であり、それまでの「環境目標」がなくなったのである。
おっと、異議は認めない。だって2004年版の「環境目的」は「environmental objective」の訳であり、2015年版の「環境目標」は「environmental objective」の……

原文が「environmental objective」だから1996年版以来の「環境目的」と訳し、環境目標がなくなったことにもできただろう。しかしそれはISO9001との整合が取れないし、本来の意味からすればずれていると考えたのだろう。それは正解だったと思う。

とはいえ、定義3.2.5の注記3で「環境目標(objective)は目標(target)で表すことができる」とあり、ますますわけが分からない 
ともかく1996年から2014年まで独自の目的や目標の解釈を騙っていた人々は、今はそんなことを言ったことは知らんふりかな?

まあ、本日はそのように病的なまでにおかしなところを突っつくのではなく、もっと大きなというか基本的なことについて問題提起したい。

ISO14001の1996年版の序文には下記のような文言があった。

ISO14001:1996 序文 この規格に規定する環境マネジメントシステムの要求事項は、既存のマネジメントシステム要素と独立に設定される必要はない。場合によっては、既存のマネジメントシステム要素を当てはめることによって、要求事項を満たすことも可能である。

要するに、ISO規格要求事項を満たすために新たに仕組みや文書や記録を作るのでなく、今までのものでISO規格要求を満たしているなら、それで十分だというのだ。
世の多くの真逆のアプローチをしている人たちは、違和感があるというか意外と感じるだろう。もし違和感がないならばISOのための文書を作ったりしたはずがない。
でも私にとっては当たり前のことである。私に限らずISO9001からISO認証に関わってきた人にとっては当然のことだろう。ISO9001に関わって来ていて、この文章に違和感をもつなら異常というか未熟である。

ではその考えは2004年版では継承されたのか?
文章は若干変わっているがしっかりと継承されている。
ISO14001:2004 序文 組織がこの規格の要求事項に適合した環境マネジメントシステムを構築するに当たって、既存のマネジメントシステムの要素を適応させることも可能である。

訳文だけでなく英語原文も全く同じである。なぜ言い回しが変わったのかはわからない。
1996年版では「場合によっては(In some cases)」とあったのがなくなったことから、「いかなる場合でも」あるいは「当然であるが」というニュアンスにしたのかもしれない。

さて、2015年版はどうか?
見事にない
盛り込まなかったのはなぜか分からない。くだらないPDCAの解説に紙幅を費やし、大事なことを書く余地がなくなったのかもしれない。

ここで脇道に反れて少しマニュアルについて語る。
ISO9001の1987年版では「4.2品質システム」の備考において「a 規定要求事項に従った品質計画書及び品質マニュアルを作成すること」という記述はあったが、マニュアル作成は要求事項ではなく、かつ品質マニュアルの内容も要求事項としては記述していなかった。
ISO9001の1994年版は品質マニュアル作成が必須となり、更に「品質マニュアルには品質システムの手順を含めるか、又はその手順を引用し、品質システムで使用する文書の体系の概要を記述すること」と品質マニュアルの内容を明示している。
みなさんはこの1994年版の記述を読んで、何か感じることはないだろうか?
序文と本文の記述から私が受け取ったのは、ISOのために文書をつくるのではなく、元からある文書からISO規格要求に関係するものを選び出し、それを規格要求との対照を示したものが品質マニュアルであるということだ。
それはまさしくISO規格要求を満たすということは、新たに作ることではなく、過去からあるもの(しくみ・文書・活動・記録)で間に合えばそれで良いということだ。

さて、ではいよいよ本日のテーマである。
ISO14001:2015年版の環境目標に戻る。

定義によると
ISO14001:2015 3.3.6 環境目標
組織が設定する、環境方針と整合の取れた目標

そして要求事項は

ISO14001:2015 6.2.1 環境目標
組織は、組織の著しい環境側面及び関連する順守義務を考慮に入れ、かつ、リスク及び機会を考慮し、関連する機能及び階層において、環境目標を確立しなければならない。

とある。
ISO14001を認証するためには「環境目標を確立しなければならない」というのが要求事項だと書いてある。であれば環境方針に書いた改善テーマを展開した環境目標を立てて、それを達成するための計画を作ることになるのか?
なんて考えると、バカバカしくないですか?
ISOのために会社の仕事を作り出すという、信用創造ならぬ無駄創造・負債創造はいけません。
私なら考えることなく、環境配慮設計ありていにいえば環境性能の向上、環境影響の低減といった既にしていることを環境目標だとし、そのために作成されている年度計画書や個々の案件の実施計画を充てることにします。新たに作るなんて……アホらしい。

えっ、それが環境方針と整合するのかって?
当然でしょう。
仮にISO14001を認証しようとする前から環境方針が制定されているなら、環境方針のテーマが関わる部門において、方針の項目は具体的に展開され実現に向けて活動が行われているはずです。ならばそれらの活動テーマ、実行計画が環境方針と整合するどころか、環境方針と完璧に一致しているのは当然です。
もし方針が具体的施策に展開されていないなら、将来のないダメ会社ですからすぐに転職しましょう。

ISO認証しようとする前は環境方針がなかったとしましょう。でも新製品開発、施設や機械の設備投資、人材育成や教育などのデシジョンメーキングは、トップの判断で行われているはずです。
ちょっと待てよ、ということは環境方針がなかったというのは間違いですよね。環境方針が文書化されていなかっただけです。経営層の環境に対する意思は、過去より投資計画、開発計画、改善活動に具体的に展開されているはずです。

世の中の会社ではそういうことが当たり前であって、経営者の目指す方向(方針)が確固としてあり、それに基づいて経営判断がされます。
であればISO認証のために環境目標を立てるとか、実施計画を立てるということはありえないでしょう。現実にISOのため、認証のためという理由で行われていることは、実は多々あります。しかしそれは経営者・管理者が言いにくいからISOを出汁に使っていることが多い。
いや本当はISO担当者が、説得力がないとか自分が悪者になりたくないからそう言っているのが真実ではないでしょうか。昼休消灯はISO認証のためだから協力してくださいとか、ゴミの分別は、裏紙使用しようとかなんてね! そもそもそんなことはISOと関係ないです。費用削減のためなら費用削減のためと言いなさい。

私が訪問した会社で「当社ではISOのために裏紙を使用してます」とか「ISOのために照明を暗くしています」なんて言われたもんです。
それ、間違いですと何度も言った覚えがあります。裏紙がほんとうに費用削減になるのか、環境に良いのか私は判断付きません。照明を暗くして労安法大丈夫ですか?
でもそういう問題じゃない。ISO規格は何をしろなんて言ってません。何をするかを決めるのは会社であり、照明も裏紙もISOとは関係ないきっとその会社の理由があってのことでしょう。
そんな言い回しはISO規格を貶めるものだ。言い出しっぺを召喚して2時間ほど問い詰めたい。💢

ともかく会社というものは、経営者が目指すところを下々が実現する、そういうものです。

参考まで 上司の命令は違法とか支離滅裂でなければ従わなければならないと言ったら、社員の発言の自由はないのか? 奴隷と同じ社畜だ、そんなことは間違っていると返された。今どきの会社や学校はどんな教育をしているのか?
それが嫌なら自分で会社を興せばいいのだ。世の中のルールを知らずしてまっとうな人生を送れるはずがない。

そういう現実の会社が諸般の事情からISO認証することになったなら、過去よりしていることをながめて、ISO規格要求に見合ったものを取り出して説明すればオシマイのはず。
しかしやはり旧版にあった「従来からの仕組みを援用してもよい」という文言がなければ、ISOのために仕事を追加するという流れを否定できない。
これは2015年版が劣化したといえるのはなかろうか?
次期改定では1996/2004年版に戻す必要がある。次期改定があるならば……

卵が先か鶏が先かという謎というか問いがある。「ニワトリとタマゴのどちらが先にできたのか」ということである。 ニワトリ 「卵が先か鶏が先か?」と問われるとギョッとするかもしれないけど、同じ言い回しはいくらでもでき「大人が先か子供が先か」でもいいし、「鉄くずが先か製品が先か」でも同じこと。因果律というわけでもないが、原因と結果が循環するものをどこかで切るということがナンセンスである。

しかし環境方針、環境目標、実施計画は循環するものではない。企業というのは起業家がこの社会をどうしたい、どのように貢献したいというのがまずありきだ。その結果、事業を定款に定める。そしてそれをどんどんと展開して川上から川下に流れていくわけだ。川下から川上に流れることは絶対にない。だからこそISO認証のために環境目標があるとか実施計画を作るという発想は卑しくて悲しい。
当社はかような理念で企業を営んでいる。ISO規格が求めるものなんざとうの昔からやっているよ。うちの方法で文句あるまい、そう言いたい💗


うそ800 本日の愚痴
うそ800 日本規格協会の対訳本は製本が悪いのか、長年(というほどではないが)何度も読み返していると、ページがバラバラになってしまう。ISO14001:2004はもちろん、ISO14001:2015も既にひどい状態だ。
ISO14001:1996やISO9001:1994を今でも頻繁に見ているが、バラバラになっていない。ISO9001:2000頃からページの紙質が変わっているようだ。問題は紙の厚さか腰の強さではなかろうか?
ともかく早急な是正処置が必要だ。

ちょっと思ったのだが、日本規格協会はISO規格を読ませたくなくて、すぐにボロボロになるように対訳本を作っているわけはないだろうね……



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