19.11.25
ISO9001規格が発行されてから32年、ISO14001で23年、実に人間の一世代が過ぎた今、ISO認証はどんな塩梅だろう。「塩梅」とは「あんばい」と読み、ものごとの状況とか、体の健康状態あるいは機械の調子などの意味だ。
秋の夜長、暇つぶしに考えた。
まずは書籍、ISO認証関連で出版される本はドンドン減ってきた。少し前の2016年は2015年に行われた規格改定によって、百花繚乱といえるほどのISO解説本が出た。
だが、さすがそれから4年も経った2019年ともなると、もう出版社も出尽くしたのか買う方も満腹になったのだろう、出版される本はほんのわずか……今年初めから11月24日までで7冊である。それでも2018年は8冊だったからさほど変わらない。正直私は前年より大きく減ると思っていた。
書籍が減ってきたことはどうか? これは考える価値があるかもしれない。
私は本を買うのはほとんどがアマゾンだ。欲しい本が決まっているなら本屋に行って探すのは無駄だ。アマゾンならネットで注文して早ければ翌日、遅くても翌々日に入手できる。本屋に行くより速くて便利、それに尽きる。
しかし漠然と本を眺めるとか、面白い本はないかとなると、やはり本屋に行かないとならない。
私の良く行く大きな本屋は、八重洲ブックセンターと津田沼の丸善だ。いずれもISO本のコーナーというか棚があるのだが、年と共にドンドンと小さくなってきている。八重洲ブックセンターのほうはISO本だけでなくISO規格・JIS規格が一緒だからまだスペースがあるが、丸善の方は毎年棚が一段くらいずつ少なくなっている。
2018年6月に津田沼の丸善にあったISO本は17であった。ほとんどが2015年規格対応と銘打ってあり、1件だけ2015年発行であるが、いずれもISO9001/14001の2015年改定にあてこんだことが一目瞭然だ。
それはともかくそれらに価値があるかどうか、あなたどう思います?
私は全部ではないが、その17冊の半分は読んだ。そして読んで参考になったと思えたのは……2冊か3冊しかない。つまり6割はゴミだ。百花繚乱と言ったが、数多くのISO本が出たが、実際に価値ある本はその3分の1くらいしかなかったのだ。
おっとそれはすべての本に言えるのかもしれない。ミステリーでもSFでももう一度読みたいなんてのは1割もないかもしれない。売れ残りは資源の浪費、著者たちが嫌う環境破壊の原因だ(笑
いや、いまどきは書籍ではなくインターネットだよという声が聞こえそうだ。
ではネットの実際はどうだろう?
googleで「ISO+認証」でググって、上位約250のウェブサイトやブログの内訳を数えた。実際には250ピタリにならず247件になった。(2019/11/22実施)
分類 | 件数 | 割合 | 備考 |
一般企業 | 165 | 67% | 同じ会社が複数あり |
認定機関・認証機関・研修機関 | 35 | 14% | 同上 |
コンサル会社 | 31 | 13% | 同上 |
ISO本の広告 | 6 | 2% | |
情報サイト・Q&Aサイトなど | 5 | 2% | |
DVDの規格など | 2 | 1% | |
ニュース・新聞記事など | 2 | 1% | |
個人のウェブサイトやブログ | 1 | 0.5% | この「うそ800」である |
コンサル個人 | 0 | 0 | なんと1件もない! |
かってアクセス累計600万を誇ったISOワールドも、2018年1月に会社の登記を抹消、同時にウェブサイトを閉鎖している。確かにあれはガリバーだった。
たださすがのISOワールドも、2016年頃は平日の総アクセスが70件、休日は20件くらいまで落ちていた。そういうことは私は興味があって調べていた。累計を別とすれば、日々のアクセスは無名の個人のウェブサイトやブログと同じだった。
さて一番多かったのは一般企業だが、内容は「ISO認証しました」とか「2015年に対応しました」というものがほとんどだ。一部にはそれに関連してISO認証の説明もあった。
認証機関や研修機関のものは、ぜひ当社に審査依頼してくださいというものがほとんど。
コンサル会社は当社に依頼してくれれば後悔しませんというふうなものだ。驚いたことに個人でしているコンサルのウェブもブログも上位250には皆無だった。数年前までは、アイソス誌などに寄稿していた有名なコンサル本人のウェブサイトやブログが多数ヒットしたものだ。今は個人ではコンサルをやっていけないのだろうか。もちろん表記は株式会社でも実質は個人でしているものもあるだろうが、ウェブを見る限りいずれも大人数で切り盛りしているような記述である。
まあ認証件数が毎月減少し続けて早10年になるわけで、ビジネスとしてはシュリンクするマーケットでいかに生き残るかという状況なのだろう。元々体力が小さい個人のコンサル稼業では、商売の見通しがつかないと撤退したのか? 先見の明はコンサル稼業に必須の要素だから、それはそれで優れたコンサルであることを意味するのか。
コンサルも会社組織であれば体力があり、まだ事業を継続しているのだろうが、今は認証支援はもうビジネスにならず、認証維持サービスとか内部監査代行などで事業継続を図っているようだ。
認証機関やコンサルではなく、ISOに関わっている人が、己の考えを語っているウェブやブログはないのか?
2010年以前は、ISO認証に一家言ある企業担当者や審査員が「おれはISO認証に詳しいんだ」なんてネットで語っているのを多々見かけた。そういう人の中には環境雑誌に連載したり、本を書いたり、出版してくれる会社がなければ自費出版したりとがんばっていたものだ。
しかし今回調べた250件のうち審査員やコンサルでなく、個人で紡いでいるウェブサイト・ブログは唯1件しかなく、なんとそれは私が開設しているこの「うそ800」であった。
あの星の数ほどあったISO担当者や学生のウェブサイトやブログは、どうしてしまったのだ!
いきさつはわからないが、ネットでISO認証に自論を語る人は絶滅したようだ。
ぶらっくたいがぁさんも名古屋鶏さんも、その他十指に余る我が同志たちもISOと疎遠になり、それぞれの趣味や新しいお仕事に邁進し、そういうウェブサイトやネット小説で頑張っていらっしゃる。知り合いで未だにISOに縋り付いているのは私だけだ。
同志だけではない、あのたくさんあったISOのウェブサイトのほとんど……いや全部がISOに関心を失ったのか、訪問者が少なすぎて継続するファイトをなくしたのか、今は見かけない。唯一残った私の「うそ800」は貴重というか、頑固というか、希少であることは間違いない。
まさに夜の照明が明るくなったために、肉眼で見える星がどんどんと減っているという状況と同じである。
昔は人の目で6等星まで見えて日本の緯度で見えるのは4,300個と言われた。いや、正確にはその逆で、人の目で見える一番暗い星を6等星としたのだ。
今都会では2等星以上しか見えないという。たったの44個しかない。七夕も遠くなりにけりだね……
おっとISOの世界はもはや2等星どころか1等星も見えず、マイナス1.5等星のシリウスだけしか見えないのか。
すると私はシリウス? 私はヒーローなのか!
個人レベルでISOのウェブサイトやブログが大幅減少し、絶滅したのはどうしてなのか?
もうISOなど論じる価値もないのだろうか?
ネットにはまた別の種類の場もある。Q&Aといって、不特定多数が質問し、不特定多数が回答する。そんな仕組みだから回答が正鵠を得るということもないが、その活発さでそのカテゴリーの状況はわかるだろう。
まず
知恵袋という大手がある。ものすごく多種多様のカテゴリーがある。当然ISO9001やISO14001についてのQ&Aも多数あった(過去形である)。最近はどうかみれば、最新のQ&Aといっても2012年頃のものだ。要するにここ数年もの間、ISO認証は話題になってない。
もうひとつ大きなものとして
EICネットのQ&Aがある。
こちらはISO14001について最新のQ&Aは2019年7月だが、2019年のものは2件しかなく、その前は2018年はなく2017年である。
眺めていたら私が現役時代書き込んだA(アンサーなのかアドバイスなのか)もたくさんありました。しかし私が引退してからもう7年にもなる。当時のものが残っているとは、状況は推して知るべし。閑古鳥が鳴いているのはどこも同じだ。
企業担当者があるとき一斉に関心を失ったのか? いやネットで質問するほどわからないことがなくなったのか、ネットで質問するまでもなくなったのか?
ともかくISO認証など重要なことでなくなったというのは間違いない。重要でなくなったから、ISO認証を真面目に考える必要がなくなったのだろう。
さて、認証件数も減り、出版される書籍も減り、ウェブの露出も減るばかりでは、これからどうしていくのか?
認証ビジネスとしては最低限認証件数を確保しなければならない。ISO認証の本質はお金儲けであり、慈善事業とか某理事長が語ったような社会財ではないのです。某理事長読んでますか?
どんな商売でも固定費があるから、損益分岐点以上でなければビジネスは成り立たない。
減少しつつある認証件数は既に損益分岐点以下なのか、それとも余裕で利益が出ているのか、私は認証機関の財務諸表を見てないからわからない。しかし登録件数が今より4割も多かった時に比べれば相当状況は悪化しているのは間違いない。
認定機関や認証機関が一息つくにはとにかく認証件数を増やすことが必須だ。
ということは認証するように利益誘導をするか、義務あるいは義理として認証させなければならない。
どんなことを餌にしてどんな方法で誘導するのか、それが問題だ。
まあ、ビジネス拡大はそれで飯を食っている人に考えてもらうとして、なぜにこれほど減って来たのかを考えるのも無駄ではあるまい。
本日の仮説
ISO認証が世の中に浸透し、今更議論することでもなくなったのか? それとも意味がないと認識されて、まったく関心が失われてしまったのか?
実は私が思っていることが一つある。それはISO規格とか認証というのはそもそも大したことじゃないという仮説である。
ちなみに環境関係でもっとも複雑怪奇と言われている法律が廃棄物処理法である。法律そのものも膨大であり、それを引用している法律が200とか300本あると言われている。
注:調べたら11月24日時点で法律は152本、施行令と省令も含むと307本だった。
さて、その廃棄物処理法に関する書籍はどれくらい出版されているか?
2019年1月〜11月で6冊、2018年8冊、2017年3冊である。ところで廃棄物処理法の本文の文字数が86,000字であり、ISO14001の本文の文字数は9,128文字しかない。文字数が多ければ解説本が多く必要だとは言わない。しかしどうでもいい机上の議論ではなく、真剣な討議でもわからないことが多い廃棄物処理法は誰が見てもISO14001より複雑であり、しかも避けることのできない現実の問題である。実際に廃棄物処理の専門家や弁護士がいるし、分からないことも問題も多い。そのような廃棄物処理法の1割程度しか文字数のないISO14001に、廃棄物処理法の数倍の書籍、星の数ほどのウェブサイトやコンサルがいたこと自体が、アリエナイことではなかったのか?
ほんとのところは私には分からない。ただ時間と共に書籍も減り、ウェブでの情報も減っているのは事実だ。それは廃棄物処理法と比較すれば異常なことではなく、あるべきところに落ち着いてきたと言えないかなと思ったのだ。
ま、お正月になったらまた酒でも飲みながら考えてみよう。
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