企業側の人間が審査員の力量を知っておく要求はないが、知っておくことは無駄ではあるまい。いや、知って更に対応を考えておくべきかもしれない。
ということで本日はISOMS規格をはみ出して審査員の力量を考えてみよう。
審査員の力量といっても、特定の審査員とか一般論として力量が不足していて問題だというのではない。審査員の力量はどのように評価するのか? それは妥当か? どのような形で公開されるのか? なんてことを考えたい。
おっと、その先は審査員の力量は足……となりそうだが、そうは言ってない。
審査員の力量はなにか基準で定めているのか?
定めてあります。
ISO規格に「適合性評価−マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項−第1部:要求事項ISO17021-1:2015」というものがあります。
もちろんISO規格で決めているのはおおきなことだけで、詳細は下位文書というか、業界規格とか企業の規格で展開するのがふつうだ。
ISO規格 ⇒ IAF基準 ⇒ JAB基準 ⇒ 認証機関基準
*基準とはルールとか規則と解してください。
というふうに展開される。
ISO17021-1はIAF基準そしてJAB基準に展開されているかと眺めたが、特段下位規定に展開されていないようだ。
関連するJAB基準には
「JAB 200:2019 認定マニュアル」
「JAB MS200:2020 マネジメントシステム認証機関の認定の手順」
があるが、要員の力量については、上記いずれにもISO17021-1によると記述してある。
ということは下位文書に展開されておらず、ISO17021-1に定めてあることがすべてなのだろう。
読みたいって方はJIS検索でチェックしてね。無料で読めます。
ISO17021-1(JISQ17021-1)規格に「7.1要員の力量」という項目があり、そこで7.1.1一般考慮事項、7.1.2力量の判断基準の決定、7.1.3評価プロセス、7.1.4その他の考慮事項とあります。
ISOMS規格では「要求事項」とあり、認証機関の規格では「考慮事項」ってのは、なにがどう違うんでしょう? 新たな謎です。
一般の企業は嘘をつくから厳しく要求し、認証機関は善人だから考慮してね 💛 といえば安心できるのでしょうか?
さて、
7.1.1 一般考慮事項
認証機関は、要員が、マネジメントシステムの種類(例えば、環境マネジメントシステム、情報セキュリティマネジメントシステム)及びそれが運用される地域に該当する適切な知識及び技能を持つことを確実にするプロセスをもたなければならない。
考慮事項は考慮する必要なさそうです。
7.1.2 力量の判断基準の決定
認証機関は、審査及びその他の認証活動のマネジメント及び実施に関与する要員の力量の判断基準を定めるためのプロセスをもたなければならない。力量の判断基準は、専門分野ごとに、また、認証プロセスの機能別に、それぞれのマネジメントシステム規格または仕様の要求事項に関して定めなければならない。
そのプロセスからのアウトプットは、審査及び認証業務を効果的に実施するために必要な知識及び技能に関する、意図した結果を達成するために満足すべき文書化された基準でなければならない。
これを見ると要員の力量評価のプロセスと基準を決めることは、認証機関の責務ですが、中身は一任されているようです。認証機関の好き勝手ということでしょうか?
顧客の期待はどういうふうに反映されているのかな?
7.1.3 評価プロセス
認証機関は、定めた力量の判定基準を適用した、審査及びその他の認証活動のマネジメント及び実施に関与する全ての要員の、初回の力量評価並びに力量及びパフォーマンスの継続的な監視のための文書化したプロセスをもたなければならない。認証機関は、その評価方法が効果的であることを実証しなければならない。これらのプロセスからのアウトプットは、審査及び認証プロセスの種々の機能に要求された力量レベルを実証した要員を、識別するものでなければならない。力量については、認証機関内における各自の活動のパフォーマンスに対して個人が責任をもつ前に、実証しなければならない。
「実証しなければならない」素晴らしいことです。実証したものを公表していただきたい。買い手…審査を受ける企業…は商品の品質が良いのか悪いのか知りたいです。
7.1.4 その他の考慮事項
略
うーん、ここに書いてあることは無意味とは言わないが、具体的でなく方向を示すだけだ。すべては認証機関の闇の中か…
言ってることは間違いではなかろうが、あまりにも
さてダラダラと書いてきたが、結局審査員の力量は我々が知ることができないということが分かった。力量を評価する手順や基準は認証機関の手の内なのだ。力量が十分ですというのは、認証機関が決めればよく、金を払う顧客である一般企業のあずかり知らぬことらしい。
民百姓は由らしむべし。之を知らしむべからず。
もちろん認証機関において審査員の力量を評価する基準・手順はしっかりした根拠をもとに適正に決めていることだろうと推察する()。しかし残念ながら我々外部の者は知ることはできない。
しかし、審査員の力量を表すと認証機関が考えているもので、我々が入手できるものがただひとつある。
審査前に認証機関から「審査員許諾伺」あるいは類似の書類が送られてくる。そこに書いてあることをみて、審査員を受け入れるか否か回答しろというものだ。
私はその類を数多くの認証機関のものを見ていないが、数社は見ている。知る限りどれも、氏名、生年月日、身長・体重(クリーンスーツなどを用意するときのため)、学歴、業歴、保有資格くらいしか記載されていない。
正直言ってその情報だけで、審査員として受け入れて良いか悪いかなんて判断できない。
まあ、あまりにも大柄であれば、当社工場内は狭いから支障があるかもしれませんと言って断ることはあるだろう。
そんなフィジカルなことでなく、上記の情報だけで審査員の力量がわかり受け入れ可否を判断できるなら、その人は占い師として成功するだろう。
とはいえ依頼者つまりお金を払う顧客が、上記情報だけで審査員の良し悪しを判定できると認証機関が考えているはずだ。そうじゃないと言うなら、そんなものを提出されてもこちらは困る。
ということは裏返して言えば、ISO審査で審査員に見せる力量証明は、この程度で良いことになる。
そんな学歴、業歴、保有資格程度では、実際に仕事ができるかどうかわかるはずがない、審査員からイチャモンが付くだって?
おかしいなあ〜、それってダブルスタンダードじゃないか?
「この仕事をしているこの人の力量が十分だと確認した記録を見せてください」
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「ハイ、これです」
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「〇歳、身長・体重、〇大学〇学部卒、業務経験〇年、保有資格、こんなんじゃ力量の確認ができないし、当然力量証明になりませんよ。 そもそも身長・体重ってなんですか! 馬鹿にしているの?」 | |
「おかしいな……審査員つまりあなたの力量証明として頂いたのがこの書類で、身長・体重、年齢、学歴、業務経験、保有資格だけしか記載がありません。我々はこの情報であなたを審査員としてOKしました。 私どもの担当者の力量証明がこの情報でダメなら、あなたの審査員受諾を破棄します。改めて認証機関からあなたの力量証明を提出いただき、力量確認させてください」 |
この論理になにかおかしなところがありますか?
笑い話ではありません。自分たちの力量証明をせずに相手に力量証明を求めるってのはないでしょう。審査員受諾伺で分かるのは、力量が分からないということだけです。
えっ、審査員の力量を文章で表すのは困難ですって? ウチも担当者の力量を文章で表すのは困難です。お互い苦労しますね。
私が言うのはイチャモンだと言ってほしくない。我々は認証機関から審査というサービスを購入しているのだ。サービスの質が悪ければ買わないのは当たり前、売買の3要素ってQCDじゃないですか。
認証機関がこの審査員のサービスを購入していただけますかと顧客に提示したのが「審査員許諾伺」である。街の食堂の見本と同じだ。ショーウインドーのサンプルを見て、よし昼飯はこれにしようと決めて注文したら、出てきたのは衣が大きいだけでエビが小さかったら文句を言うのは当然だ。
しかもエビの大きさと審査員許諾伺は問題の質が違う。エビが小さくても食えることは食える。だが力量がなければ、期待したサービスが受けられないという根本的なことだ。
認証機関が審査員の年齢、身長・体重、学歴、業歴、保有資格で顧客が購入を判断できると考えているということは、企業において特定の職務に就く力量というか要件は、その人の身長・体重、学歴、業歴、保有資格で判断してよいということと同等であるとみなすしかない。
まず、ここまでのことに同意いただきたい。
しかし私は会社の仕事が、年齢、身長・体重、学歴、業歴、保有資格が一定要件を満たせば安心できるなんて思ってもいない。
ではどういうことなのかとなるが、二つ言いたい。
ひとつは、審査員許諾伺はもっと現実的に力量を示すものにしてほしいということ。
ひとつは、審査員の過去の実績を示してほしいということ。
審査員の力量を具体的に示すものとはなんだ? そう聞かれると私もわからない。
私が過去相まみえた審査員は100人ではきかない。そしてこの審査員ならお金を払ってもよいと私が考えた人は5人だった。
相まみえた審査員の中には、ドクターは何人もいたし、マスターはゴロゴロいた。職階では東証一部の工場長レベルもいたし、部長・課長はゴロゴロ、いや課長にならなかったという審査員はめったにいなかった。もっとも認証機関に出向直前に課長拝命したポツダム課長かもしれない。
某大手家電メーカーの元環境部長という経歴が書かれていた審査員が来たことがある。私はその家電メーカーの歴代環境部長を調べたが、その審査員のご芳名はなかった。あれはなんだったのだろう? 本社組織名だったから工場とか子会社の環境部長ということはない。それくらいは調べますよ、
でもってドクターなら素晴らしい審査をしたとか工場長ならくだらない質問をしなかったとか……まさかね、
学歴も業歴も審査能力とは無縁であったことは、神に誓って証言できる。
私が求めるふたつ、つまり力量を示すことと、実績を示すことが、同じことなのか違うのかは私もわからない。だがお金を払うほうからすれば、評価できる情報がなければ許諾の判断ができない。
いずれにしても現状の情報程度では判断しがたいこと、お金を払う気にならないことは事実である。
では、お前は今までどうしていたのかというご質問があろうかと思います。
なにもせずに、審査員許諾伺がくれば、すべてOKしていたわけではありません。
もちろんその判断は根拠に基づき行っておりました。
実はそれは簡単です。同じ会社の他の工場とか知り合いに問合せしました。
まあ、それだけ聞けば十分です。
おっと、過去に忌避されたからといってダメということではありません。企業側が勘違いとか感情的なものもあるでしょうから。
本日の主張
審査員許諾伺は有効な情報を提示しなければならないというISO規格を作ってほしい。
えっ、ISO審査員資格保有者なら全員力量があるはずって?
>「審査員許諾伺」 まぁ、何ともプアな内容ですね。「許諾」という事は否と言えるのでしょうか? これを見て、派遣社員の「面接禁止」と同じようなものだと感じました。 派遣社員との事前面接は法律で禁止されており、面接で拒絶する権利は派遣先にありません。なぜそれが法律で求められているかと言えば、派遣された人の力量は派遣会社が責任を負うからです。ですから派遣先は、力量が不足してれば、それを合理的な理由として他の人との交代を求められます。認証機関でも同じように、審査員への責任は負っているのでしょうね(エッ、建前だけ?) 建前と言えば、派遣でも面接は禁止されていますが、「顔合わせ」は可能です。 本来は派遣労働者が、業務を理解する為と諾否の為に設けられているはずでしたが、いつの間にか企業が採用/不採用の判断をするのが当たり前。 ネット検索しても、「顔合わせで不採用にならない為に」とか、実質的な面接となっております。 結局、派遣での面接禁止は労働者を守る為が実態は逆になっているのと同じように、「審査員許諾伺」も本来はサービスを受ける側に諾否権を保証するものが、拒否できないものになってしまったのでしょうか? |
外資社員様 毎度コメントありがとうございます。 まず拒否ですが、可能です。但し顔が気に食わないとか、能力不足なんて言いにくいので、たいていの場合は、何度も同じ人に審査を受けているので別の審査員にお願いするとか、異業種出身者なので当工場に詳しい審査員に変えてほしいという言い方をしてました。 問題があって絶対に拒否したいとき、私は認証機関を訪問して管理者に口頭でお願いしたことはあります。まあ一応サラリーマンやってましたので、喧嘩したことはありません。 審査員の力量保証は、昔というか20世紀は審査員登録機関の責任でしたが、21世紀は認証機関の責任になりました。派遣社員と同じですね。 とはいえ審査員の力量の責任を持つって言っても、具体的になにもしません。審査で誤判定があり認証機関に苦情を言っても暖簾に腕押し。顧客(我々)はどうしようもありません。不良品を売りつけられて返品もできず交換もできないなら最終的にそのお店(認証機関)から買わないという選択しかありません。とはいえ業界系認証機関となるとそれもできず(悶々) 広い意味で言えば審査員の拒否をしても現実は変わらないということですね。 ところでISO17025では審査員許諾伺なんてこないのでしょうか? |