内部監査の遍歴その5

20.11.12

本日はアイデアが浮かばなかったので、とりあえずお茶を濁そうと(スミマセン)お芝居を上演します。題しまして「仁義なき内部監査」、いや「下町人情監査」でございましょうか。
では開演です!

某会社の製造部門の打合せ場で、今まさに内部監査が始まろうとしているところです。
監査員を待ち受ける男女二人が座っているところに、監査員の男女二人がやって来ました。

河本課長
「北見さん、今日は環境監査をさせてもらいます。監査員は私とこちら総務の松山さんです」
北見課長
「営業と総務の方が監査に来るなんて初めてですよ。今までは環境部門とか会計課の人でした。ウチは今まで問題ないから営業と総務の方になったのかしら?」

監査側被監査側
営業部 河本課長 河本課長 北見課長 製造部 北見課長
総務部 松山 松山

吉本 製造部 吉本

松山
「まっ、北見課長、それじゃ私たちが初心者で力不足だから、お宅に回されたって言うんですか?」
河本課長
「まあまあ、正直いって私も監査なんてあまりしたことが……いやいや今回が初めてでした。まあ和やかに行きましょう。
そいじゃ始めますか…ええと、基本的に私たちが質問しますんで、それに回答していただければよいです。そいじゃいきますね、
ええと前回と変わったこととして、今年度リフロー(注1)を2台入れましたね。投資計画書によるとライン外に設置することにより、少量生産に柔軟に対応でき、また消費電力を削減するとあります。
しかしイントラネットにアップされてる電力使用量をみますと、導入以降の電力使用量は、生産高比でそれ以前より悪化してます。これってどうしてですか?」
北見課長
「まっ!初球からきついですね。吉本君、どうなの?」
吉本
「まず導入して立ち上がりに手間取りました」
河本課長
「立ち上がりが悪かったとは、導入時の作業標準などの準備が遅れたわけですか?」
吉本
「いや作業指示書などはしっかり準備しました。ただ在来の機械とは違うところもあり、作業指導も慣熟も予定よりかかりました。
それと少量に対応できるって話をうのみにした営業さんが、ほんとうに少量の仕事を取ってきたってこともありました」
北見課長
「そうそう、一因には営業の責任もありますね」
河本課長
「営業が原因ですか?」
北見課長
「うーん、ちょっと言い過ぎですね。導入したいために新規設備のメリットを大げさに言ったこともあり、まあ自業自得ですか」
河本課長
「そうですか、まあ過ぎたことはしかたがない。でも今に至っても電力使用量は改善されてません。それじゃこれから投資計画を達成するため、どのようにするのか伺いたいですね」
北見課長
「まあ、お題目としては設備更新で省エネってのはオヤクソクで当然書いたわけで……でも実際の稼働になると生産日程が変わるのが日常茶飯事で、備や運転状況よりも、生産計画とその変更によって左右されてしまうのが現実です。
生産高比、私たちは生産数比ですけど、それを管理するのはむずかしいというか」
河本課長
「なるほど、それでも設備が新しい分だけは省エネにならなければ…」
吉本
「いやいや、元からの設備はそのままあるわけで、旧設備を廃棄したわけじゃありません。設備が増えた分、使用電力は必然的に増えちゃいます」
松山
「ええと、今はISO規格のどの項目を質問しているのですか?」
河本課長
「環境目標の実施状況を確認しているところです」
松山
「それは、ええと6.2.2の環境目標の取組計画ですよね……となると北見課長さん、取組計画を見せてください」
北見課長
「はあ?」
河本課長
「ええとね松山さん、環境目標も取組計画もISO規格の言葉です。社内ではISOの用語を使っているわけではありません。
当社ではそれらは起業投資計画が該当するわけです。監査するときは当社の固有名詞を使わないと意思疎通ができません」
松山
「あ、そうですか。もう一つ教えてほしいのですが、起業投資計画をフォローするのが環境監査になるのですか?」
北見課長
「内部監査って経営者が、自分の会社が法律を守り会社規則通り運用しているかとか、年度計画が順調か知りたいから命じるわけよ。
もちろんその対象分野が広いでしょう。お金のこともあるし、セクハラなどの法規制やセキュリティーや知財のような企業防衛もある。
それで内部監査を会計と業務監査に分けることが多いけど、さらにその業務監査を品質とか環境とかに分割して行うこともある」
河本課長
「だから投資計画を会計監査でみるかもしれないし、環境監査で省エネの達成状況をチェックしてもおかしくない」
松山
「へぇ!となると私が今知ったことが二つあります。
ひとつはISO規格に書いてある名称と会社の計画や記録の名称は異なること、
ひとつは監査では会社の仕事がISO規格を満たしているかを見ること」
河本課長
「うーん、前者はあっていると思うけど、後者は違うな。この内部監査はISOのためではないんだ」
吉本
「えっ、内部監査ってISOのためにするんでしょう?」
河本課長
「おいおい吉本君もそう考えてたの! そりゃ大きく違うよ」
松山
「私も吉本さんと同じく思いましたが、違うんですか?」
河本課長
「まず内部監査というのはISO審査とは直接の関係はない」
吉本
「へえ? 当社がISO認証する前は環境の内部監査ってしてました?」
河本課長
「おいおい、会社の規則集なんて読んだことないのか?」
北見課長
「上司がアホですみませんね。あれほど規則集を頭に入れておけって言ってるのに」
松山
「総務の私は、会社規則集はもう完全丸暗記ですよ! 環境の内部監査はISO認証前に定めてありませんでした」
河本課長
「文章だけ丸暗記すればいいってもんでもないね。それ以前には業務監査規定の中に、環境管理という項番があったはずだ。それが独立して環境監査規定になった」
松山
「へえ!知りませんでした」
河本課長
「本当は業務監査の中で環境を行ってもよかったのだが、ISO審査の席で、業務監査の計画や記録を見せるのがまずいという判断で、環境だけ別にしたといういきさつがある。
ついでに言えば品質の内部監査もISO9001認証したとき別扱いにした」


河本課長
「えーとね、北見さんさ、本音を言わしてもらえばね……」
北見課長
「その口ぶりは怖いわね〜」
河本課長
「真面目な話、この目標と計画ではそもそもがおかしいよね。だってどうみても計画通り行ったとして目標に届かない。目標を達成するためには、この計画じゃダメって初めっから分かってるはず」
北見課長
「まあ、会社の投資計画って、そんなものって気もしますけど。ISO絡みだとダメってことですか?」
河本課長
「いやいや、その逆でしょう。ISO審査で見せるためならどうでもいいけど、経営がかかっているのですから、投資対効果をごまかしてもしょうがない」
松山
「河本課長、おっしゃることが良く分からないんですが」
吉本
「つまり計画のいろいろな施策による改善効果を合計すると目標に一致しないといけないってことですよね?」
河本課長
「当然です。そもそも少量生産に対応するという趣旨で、これほどの電力削減ができるのかと考えれば、できないって直感から分かります」
北見課長
「まー、そう言われればそうですけど……」
河本課長
「吉本さん、電力量ってどんな風に測定しているの?」
吉本
「正直言いますと個々のフロー、リフローには電力量計をつけてないんです。何をするにもお金がかかりますので。それで生産ラインごとに電力量計がありますので、ライン全体の量を個々の機械に案分しているのが現実です」
河本課長
「でも新規導入したのは、ラインじゃなく独立してますよね?」
吉本
「そうなんですが、実は電源は生産ラインから分岐して引いてるので、単独の使用量は測れないのです」
河本課長
「そいじゃ、新規導入したリフローなのか他の設備の消費電力か分からないじゃないか」
吉本
「実はそうなんですよ」
河本課長
「改善効果は省エネだけでなく、少量生産への対応も書いてある。その進捗はどうとらえるの? 計画策定時に何を指標にすれば妥当なのか検討したの?」
吉本
「うーん」
河本課長
「そういったことを検討したことと、取り決めた手順などはないのですか?」
吉本
「まあ……ないですね」
北見課長
「あら、そうだった?」
吉本
「そうなんですよ」
松山
「それって、進捗だけでナック導入計画で取り上げた効果が把握できないってこと。つまり何がどう変わったのか、わからないってことですか?」
吉本
「まあ、そういうことになりますか……」
河本課長
「この消費電力削減が計画通り進んでないということ、そしてそれ以外の改善効果もわからない。計画のフォローが不適切であったで良いですか?」
松山
「河本課長、質問です。そもそもの問題は目標の立て方だと思いますが、目標設定はどうあるべきだったのですか?」
河本課長
「そもそも論でいえば、この工場では毎年削減しなければならない電力量がある。それを工場の各部門でどういう風に負担するというか割り当てるかというのがある。そしてそれを製造部の目標が決まるということ
その関連、いってみれば方針展開がされていないってことかな」
吉本
「でもフローの導入は少量生産対応ということが重点でした」
河本課長
「あなたが言うのはおかしいが、それはもっともだ。そうなら目標は少量生産時の能率向上とか工期短縮になるんじゃないか? でも少量生産に対応することとその時の消費電力を削減するというのがテーマとなっている。となると……」
北見課長
「どう言いつくろっても逃げようがないわね。そうしますと今回の監査の不適合はどうなりますか?」
河本課長
「ISO規格要求のどれを当てはめるかなんて、どうでもよいと思います。でも、計画を立てるという方法論、目標を達成するという意識付け、それが問題じゃないかな、いや大問題でしょう」
北見課長
「おっしゃる通りですね。現時点もう半年が過ぎて、達成率以前に目標が適切なのか否か途方に暮れている状況です。どうしたもんでしょうねえ〜」
河本課長
「よく経営会議でこの投資計画が認許されたものですね」
北見課長
「そう責めないでくださいな。製造部は過去3年間新規投資がゼロだったので、順番から言ってしょうがないだろうということで……」
河本課長
「これは監査ですから、本来ならこの場で相談とか是正策の協議というのはすべきじゃないですが…雑談しましょう」
松山
「雑談ですか?」
河本課長
「北見さん、失礼ですが製造部って作業はすべて標準作業を決めて作業能率を管理し、仕事をしている割合を直接作業率で管理していると思いますが?」
北見課長
「はい、もちろんです。そしてもうひとつは入場率ですね。その三つかけたのが分子になって、これを大きくするのが管理者の仕事です」
河本課長
「管理職の仕事って突き詰めれば人件費管理ですからね」
吉本
「それはもっぱら人間のする仕事ですね。機械の場合は稼働率となります。無人ですし夜間もありますし」
河本課長
「人でも機械でも、Aという段取りを何時間削減、Bの加工時間で何時間削減というふうに数字で見積り、それを積み上げて目標を満たすようにしたのが計画です」
吉本
「おっしゃることはわかりますが、なかなかそうはいきません。それに本当は時間短縮でなく別の意図があったりする動機が不純ってのもありますし」
松山
「動機が不純ってどういうことですか?」
吉本
「いやそんな悪いことをしているわけではないです。機械の耐用年数が来ていてもなかなか更新は認めてもらえません。その場合、生産性改善とか品質改善のために更新するって理由付けとかはしますね、」
松山
「なるほど……」
河本課長
「まあ気持ちはわかるけど、ダメなものはダメでしょう。会社では表裏のない本音を言い、それを通すしかないです」
北見課長
「河本さん、質問ですが…営業は製造部門よりも更に人の管理とか売上の管理が難しいと思います。計画をどのように定量化しているのですか?」
河本課長
「おっしゃる通り。例えば取引先の巡回を月1回より2回にすれば売上が伸びるという気はします。でもそうかどうかわからない。それに訪問する時間もただじゃない。同じとこ行くより新規開拓が良いのかもしれない」
北見課長
「でしょう。だから勘と経験の管理になってしまうわよね」
河本課長
「いや、そうではない」
北見課長
「では、どんな?」
河本課長
「実際には取引先を巡回する回数が販売額にリンクするのか、リンクするとしても線形なのか非線形(注2)なのか、知る必要があるでしょう」
吉本
「それは面白そうですね。実験したのですか?」
河本課長
「実験をするまでもありません。成績の良い営業マン、そうでない営業マンの行動を比較すれば相当な情報は集まります。細かいことはともかく巡回回数が売上にリンクはしません」
吉本
「なるほど、じゃあ効果がないと……」
河本課長
「いや、売上と直接リンクはしていないけど、問題発生時の処理においての友好な関係の維持、それと情報交換などにおいて効果があるという結果がありました」
北見課長
「ほう!」
河本課長
「まあ常識で考えてもコミュニケーションが向上するわけです、実際に数値を見比べれば納得します」
北見課長
「それを全営業マンに展開したわけですね?」
河本課長
「もちろん回数だけでなく1回あたりの時間も訪問時の話題とか、検討すべき項目はあります。
それにものごとにはメリットデメリットがありますから、総合的に最大になるところを目指すわけです。
訪問回数は一例です。取引額にリンクすると思う品質、コスト、納期でしょう。しかしそれらが単独でどうこうではなく、総合的に顧客満足を向上させることが目的になります」
吉本
「我々もそういう考えを導入すべきですね、北見課長?」
北見課長
「そういう応用問題をする前に、投資計画を立てるときは辻褄が合わないことはしないことだわね」
吉本
「おっしゃる通りです」
河本課長
「それじゃ、そういうことで監査を終わりましょうか」
松山
「河本課長さん、これでは何も監査してませんよ! ただ新規導入したリフローの様子をお聞きしただけじゃないですか」
河本課長
「えっ、松山さんはそう思いましたか? 私は方針の展開、目標の設定、計画策定、資源、力量、認識、コミュニケーション、文書化した情報、運用、監視・測定・分析、不適合及び是正処置の10か11項目くらいヒアリングしたつもりですよ(注3)
松山
「へぇ〜! ほんとですか? 私はメモしていましたが、分かりませんでした」
北見課長
「河本さん、別途、仕事を定量化する方法というか考え方を教えてくださいな」
河本課長
「結構ですよ。ただ、どうでしょうかねえ〜、他人がしたことを教えてもらうと、どうしても自分の部署は条件が違うから適用できないと思いやすい。やはり自分たちの仕事を評価するにはどんな指標が良いのか、現実には直接的に指標を把握できないことが多いから代用特性はないだろうか、そんなことを試行錯誤することが必要かと思います」
北見課長
「その通りですね、ありがとうございます。チャレンジしてみます。
内部監査なんて毎年されていますけど、不適合を出されたのも、ためになったと思ったのも今回が初めてです。
しかし河本課長のような監査の方法は初めて拝見しました」
吉本
「監査の方法が今までと全く違いましたね。これがあるべき監査方法ですか?」
松山
「私が内部監査の講習で聞いたのと違いますね」
河本課長
「開始時に述べましたが、私が内部監査するのは今日が初めてです。でも営業ってのは、相手を説得して買ってもらうというお仕事ですから、内部監査より難しいのは間違いありません。なら自分にもできるはずと思ってお邪魔しました。
ところであるべき方法って、そもそもあるんでしょうかね? 私は収集すべき情報を、相手の協力を得て素早く正確に得るかが要点だと思います。それは監査員の過去の経験とか人柄とか被監査部門との親密さとか、いろいろ要素によって違うでしょう」
吉本
「いつも来る内部監査員は、こちらが質問の趣旨を理解できずに質問しても、ISO規格に決まっていると言うだけです。聞くご本人も、収集する目的も意味するところも知らないんじゃないですかね?
私も来週、資材部門に監査に行くのですが、河本課長さんのようなアプローチをしたいです」
河本課長
「まず監査とは何かですが、経営者に代わって現場、もちろん製造だけでなく事務所や営業も含んでですが、法律や会社のルールが守られているかを確認することです。その目的を忘れてはいけません。
そのためにはお客様とビジネスのお話しすると同じく、誠意をもって言いたいことを言い、知りたいことを聞くだけですよ」

お楽しみいただけましたでしょうか?
とりあえずお時間(文字数)が来たようで……
私のしていた監査ってこんなものです。目くじら クジラ を立ててするのも監査、和やかなのも監査、どっちがいいかはわかりませんが、私は楽しいのが好きです。


うそ800 本日の本音
私が現役のときはこんな風な内部監査、二者監査をしておりました。今はISO規格がバージョンアップしたり法律も変わったりしていますが、方法論は変わらないと思います。基本は和気あいあいのコミュニケーションでしょう。
しかしなんですね、この文章は7000字ありますが、書くのはアッという間、時間はかかりません。色々調べて書くのに比べいかに楽かと 💛



注1
自動はんだ付け機械の一種。大きく分けてフローとリフローがあり、溶けたはんだの上を通して基盤に部品をはんだ付けするのがフロー、はんだクリームをはんだ付けする部分に塗っておきそれを加熱してはんだを溶かして部品をつけるのがリフローという。

注2
線形とは入力と出力が比例関係にあるもの、非線形とは比例関係にないもの

注3
主なものを記する。
  • 5.2 環境方針…方針を認識しているのか?
  • 6.1.4 計画策定…リフロー導入の目的目標の考え方
  • 8.1 運用…リフロー導入時の準備不足
  • 6.2.2環境目標を達成するための計画
     …リフロー導入による改善計画の裏付け不足
  • 7.1 資源…計測方法
  • 7.2 力量…計画策定手段
  • 7.3 認識…目標及び達成手段が理解されていない
  • 7.4 コミュニケーション…目的の共有化
  • 7.5 文書化した情報…消費電力の取扱い
  • 8.1 運用の計画及び管理…設備の管理手順について
  • 9.1 監視、測定、分析及び評価…消費電力の測定方法、計画の進捗確認
  • 10.2 不適合及び是正処置…計画未達が見えているのに具体策がない


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